キー局が赤字になるなんて
「フジテレビが1959年の開局以来、初の赤字に転落した。 」
これは、日刊ゲンダイの記事「カトパンも脱出か? フジテレビ「初の赤字転落」で社内に激震」の出だしだ。
YOMIURI ONLINEによれば、「一方、視聴率が好調な日本テレビHDは、増収増益となるなど明暗が分かれた。」とのこと。なので、テレビ業界全体の収益が悪化している訳ではないようだ。
しかしながら、このフジテレビの開局以来の赤字転落が今後のテレビ業界の行く末を暗示しているような気がしてならない。なぜなら、地方にある、いわゆる、ローカル局が赤字になったのではないからだ。かつて「視聴率3冠王」「民放の雄」ともいわれた、あのフジテレビが赤字になったのだ。
止まらない「テレビ離れ」
2015年現在、テレビの未来について明るい見通しを持っている人は少数派だろう。視聴率の低下傾向やテレビ離れに歯止めがかからない。しかも、最近は家にテレビを持たない若者も増えているらしい。ちょっとネットで検索しただけでも、以下のような記事や資料が出てくる。
「主要テレビ局の複数年に渡る視聴率推移をグラフ化してみる(2015年)(最新)」
「「テレビはこの15年間で800万人もの視聴者を失った」との話を耳にして」
「「テレビ離れ」は明確。今後5年、動画配信は急速に普及する」
「【家にテレビがない人を調査】最多は20代の14.0%!理由はネットで事足りるから」
この中で2つに注目したい。
まず一つは、視聴率は低下傾向なのに、在京キー局のテレビCM(タイム・スポットの収入合計)収入は、この6年ぐらい増加傾向になっていることだ。
これは、「「テレビ離れ」は明確。今後5年、動画配信は急速に普及する」で紹介されている。
このナゾについても、記事中で解説されているが、「テレビ広告費の値段(視聴率1%当りのタイム+スポット収入)は景気動向ときれいに連動している。」とのことだ。じつは、2008年秋にリーマンショックが発生し、2009年には景気が急激に悪化した。2010年以降に少しずつ持ち直し、2012年末に安倍内閣の誕生と同時に「アベノミクス」が始まり、その後は現在まで景気は比較的順調に推移している。
(*「「テレビ離れ」は明確。今後5年、動画配信は急速に普及する」から)
ということは、誰もが考えつくはずである。「テレビはいま、バブルなのではないか?」と。
視聴率という実態が伴わないのにテレビ広告費の単価が上がり、テレビ局の売上が増加傾向になっている。今後も、実態がついて来ない状況が続けば、いつかハジケルのではないか?つまり、次のリーマンショックが、次の不況が危ないということだ。実態が伴わない限り、ある日、突然、売上がガクッと落ちるかもしれないのだ。
次に注目したいのは、NHK放送文化研究所の「「日本人とテレビ 2015」調査」(PDF)だ。
この中に「20?50代の幅広い年層で「ほとんど、まったく見ない」人が増加」と書かれている。
(*NHK放送文化研究所「日本人とテレビ 2015」調査から)
とくに、20代と30代は顕著だ。20代では、2010年に「ほとんど、まったく見ない」と回答したのは8%だったのが、2015年には16%に増加。30代では、2010年が8%で2015年では13%に増加している。
(*NHK放送文化研究所「日本人とテレビ 2015」調査から)
そして、「しらべぇ」の記事「【家にテレビがない人を調査】最多は20代の14%!理由はネットで事足りるから」によると、「家にテレビがない」人が20代〜60代の全体で7.8%も存在し、かつ、20代ではそれが14%にもなっている。
NHK放送文化研究所の調査でテレビを「ほとんど、まったく見ない」20代は16%、「しらべぇ」の調査で「家にテレビがない」20代が14%。
この2つの数字を見ると、「しらべぇ」の調査もそれなりに実態を反映しているのではないか、つまり、そこそこ信用できそうだな、と感じる。
さらに、NHK放送文化研究所の調査でテレビを「ほとんど、まったく見ない」と回答した20代の中には、「家にテレビがないから見ない」という人もいるだろうと推察される。
そうなってくると、いまのビデオリサーチの視聴率の数字は、テレビが家にあることを前提にした数字、あるいは、テレビが家にある600世帯の視聴率だから、本当はもっと低いのかもしれないということが分かる。テレビが家にある世帯をベースに視聴率が10%だったとしても、全世帯で考えると10%には及ばない可能性があるのではないか?
つまり、テレビの視聴率の低下傾向は、現実はもっと悪いのかもしれないのだ。
ところで、少し話は変わるが、ウィキペディアの項目として「テレビ離れ」が設けられていて、それによると、「テレビ離れ」は、日本だけではなくて、世界的な傾向らしい。
世界的な傾向である流れを食い止めるのは、かなり難しいだろう。でも、そんな逆風の中でも、テレビ産業は未来を見据えて、活路を見出していかなければなるまい。
そんな気持ちで、先日私は、放送業界の批評誌「GALAC(ギャラック)」2015年9月号にコラムを寄稿した。そこでは、私なりのテレビ局復活策のヒントを提示した。きょうは、この後、その寄稿したコラムの一部を抜粋したいと思う。
また、これは、以前に書いた「2023年テレビCM崩壊 ー 博報堂生活総合研究所の暗示」の続編にもなっている。
それでは、以下の「GALAC(ギャラック)」コラムからの一部抜粋を読んでもらえればありがたい。
このままでは、テレビ産業は突然死する
テレビ局の人に聞きたい。「生まれ変わったら、同じ仕事をしますか?」
もし、答えが「No」なら、転職を考えた方がいい。なぜなら、今後10年、テレビ局の前途は多難だからだ。また、テレビ局の役員で改革の意思のない人も速やかに退任すべきだ。未来のテレビをゼロから創っていくという気概のない役員は、もはや要らない。
もし、答えが「Yes」なら、テレビの未来に目を向けるべきだ。過去と同じビジネスモデルや制作手法はゼロベースで考え直す時だ。斜陽産業といわれるテレビだが、復活策は必ずある。みんなで、テレビの未来を創ろうじゃないか。
私はネット広告業界で約20年働いてきた。テレビは素人だ。ただ、テレビで育った世代であり、学生時代は早稲田大学アナウンス研究会というサークルで委員長を務めていた。学園祭では、サークルOBでフジテレビアナウンサーからフリーになった逸見政孝さん(故人)をゲストに呼んで番組を作ったりした。テレビが好きなのは否定できない。
社会人になってからは、テレビCMに検索キーワードを挿入することを思い付き提案した。日本で最初に採用してくれたのは、トヨタ自動車「イスト」CMで2004年。その後、広告業界では、マス連動という名前で定着した。私がこの手法を思いついたのは、テレビの圧倒的なパワーを信じていたからだ。「テレビを観てヒトは検索する」という信念があった。
その後、テレビとデジタルの連動広告企画を総合代理店と一緒にたくさんやってきた。ただ、最近、顕著に感じるのは、残念ながら、テレビのパワーが落ちてきたということだ。
若者のテレビ離れは様々な調査であきらかだ。なので、ここでは触れない。私が指摘したいのは、広告業界の中には「テレビ産業は突然死する」と懸念する声があることだ。そのぐらい現場の危機感は大きい。
「産業の突然死」は、大前研一氏の言葉のようだ。簡単にいうと、アナログカメラがデジタルカメラにとって代わられた現象だ。ある時を境にして、アナログカメラは急激に姿を消した。富士フイルムは2005年頃から写真フィルム事業を縮小し、医療・化粧品・健康食品などの事業に進出した。
そんな例は枚挙に暇がない。ただ、テレビがなくなってしまうとは誰も思っていない。「おそらく、ラジオみたいになる」という意見が多い。
私はこのコラムで、テレビ局の復活策のヒントを提示するつもりだ。
テレビ局はテレビを捨てろ! 「デジタル総合メディアテクノロジー企業」になれ!
まず考えなければならないのは、テレビを観なくなった10代・20代若者の奪還だ。
私は最近、20代の人に会うとテレビについて質問している。まだ数は少ないが15人ぐらいに質問した。すべて広告業界で働く20代だ。質問は「テレビのイメージは?」「テレビを観ているか?」「なぜ観なくなったのか?」「今後テレビに戻ることはあるのか?」などだ。
テレビのイメージに対する20代の回答はこうだ。テレビは「たるい」「うすい」「飽きる」「ウザイ」「彼氏がテレビ持ってて嫌だ」。でも、「観ると意外と面白い」「ネットの情報パクってる」「ネットもテレビの情報パクってる」「見逃し視聴とか、傲慢だよね。最初から観てない(笑)」「ファーストスクリーンがテレビ? 私のファーストスクリーンはスマホだよ」。
テレビは観るのか?全員ほぼ例外なく「観ない」と回答。なぜ観なくなったのか?「高校時代は翌日の学校の話題に合わせるために観てたけど」「中学で塾と部活が忙しくて観なくなった」「高校時代に自分のパソコン買ってから観なくなった」「ドラマとか後から観られる」「テレビ局の決めた時間で観せられても生活に合わない」「家族がいるので一人で観られない、スマホの方がいい」「面白い番組もあるけどテレビの前に座る習慣がなくなった」。
今後テレビに戻ることはあるのか?全員が「たぶん、いまのテレビに戻ることはない」と回答。
私が印象に残ったのは、「たるい」と回答した人が「単位時間当たりの情報量が少ない」と論理的に説明したことだ。ネットは自分の判断で自由にコンテンツを閲覧できるのに対して、一方的に番組を流されるテレビは「たるい」と感じて「情報量が少ない」と思うようだ。
この調査対象は広告業界20代に偏っている。ただし、広告業界は情報感度が高く、流行に敏感だ。その中でも20代はITリテラシーも高く時代の先端をいく。
この時代をリードする若者が観ていないのだ。これでは、未来を切り開けない。昔はテレビが時代を作っていた。若者に刺さっていた。
テレビ局は今後、スマホをファーストスクリーンと考えて若者にコンテンツを提供すべきだ。つまり、テレビ局はテレビを捨てるのだ。捨てるとは、セカンドスクリーン以下に置くということだ。20代と話してわかった。「テレビ画面には簡単には戻ってこない」。
テレビを捨てて、テレビ局は「デジタル総合メディアテクノロジー企業」になるべきだ。でなければ、ラジオみたいになる。それでは、メディアの王者を奪還できない。
よくデジタル対応とかデジタル戦略とかいうが、それでは足りない。自社でエンジニアを抱えてサーバーを持って、自社のテクノロジーで時代に即したサービスを臨機応変に繰り出していく。対応とか戦略構築ではなく、事業を変えるのだ。
PC、スマホ、タブレット、スマートテレビ、スマート自動車、スマート家電、ウェアラブルデバイス、IoT(Internet of Things)関連機器など、すべてを対象にしたメディアテクノロジー企業だ。その中では、地上波テジタルテレビは one of them だ。別にGoogleやAppleになれと言っているのではない。彼らの作ったプラットフォーム(スマホなど)上でもメディアビジネスを展開するのだ。
たとえば、Netflixは昔、レンタルDVD事業者だった。いまは、映像ストリーミング配信事業者だ。富士フイルムは写真フィルム事業を縮小し、医療・化粧品・健康食品事業に進出している。テレビ局も今後、事業内容を戦略的に変更していくべきだ。
「デジタル総合メディアテクノロジー企業」になるには、まず、サーバーが必要だ。過去に放送した番組、今後放送する番組をすべてサーバーにアップして、すべてのデバイスで視聴可能にする。権利関係で難しい?しかし、時間はあまりない。理想はすべてだが、権利処理ができたコンテンツから順にビジネス化してもいい。前に進むしかない。
このサーバーの容量は膨大になる。維持コストだけでも相当だ。そこで、放送法など関連法を改定して、テレビ局の電気代を格安にする。暴論か?そうは思わない。
調べればわかるが、日本の法人電気代はアメリカの約3倍だ。これでは、日本企業はGoogleやAmazonのように巨大なサーバーを用意してビジネスができない。これは、日本企業の国際競争力を損ねている。
テレビは公共性が高いサービスだ。なので、電気代を格段に安くして世界で競争できるようにするのだ。
そして、有望なテクノロジーベンダーと事業提携、あるいは、買収をして技術を取り込む。そのためには、ITに強いCTOを外部から招く。
さらに、CMOも必要だ。視聴率で一喜一憂して番組を作るのは馬鹿げている。600世帯の集計値だ。テレビを観ない若者の動向は反映されていない。個別オーディエンスデータでもなく、デモグラフィックもサイコグラフィックも精緻じゃない。
視聴率依存から脱却し、もっと普通のマーケティングを実施する。10代・20代の若者にも受け入れられるビジネスもするのだ。高齢者はいまのままでもいい。
たとえば、MixChannel(https://mixch.tv/)という動画コミュニティがある。女子中高生を中心に約400万人会員がいる。そこが採用したFiveという会社は5秒動画のアドテクノロジーを提供している。なぜ彼らのサービスが女子中高生に受けているのか? 彼らとの事業提携や買収を考えてもいい。
スマートテレビが普及しネット接続が当たり前になると、ネット技術を活用したテレビCMが出現してくる。私が知るだけでも、いくつかの新しい技術が業界内で胎動しつつある。
たとえば、グレースノートという会社がある。音声認識技術で有名な会社だが、ここが「インターネット広告の世界では既に常識となっているターゲティング広告をテレビCMにも応用すること」を目論んでいる。
また、ネット広告で主流となりつつある Programmatic Buying がテレビCMにも応用された。今年のSuper Bowl では、OreoのCMが Programmatic Buyingで取引されている。
紙幅の関係でこれ以上議論できないが、そのほかにも、未来のテレビを考える上で考慮すべきことはたくさんある。以下に箇条書きにして終わりにしたい。
<有料会員制の導入(もちろん、無料コンテンツもある)>
<TカードやPontaカードとテレビ端末連携/購買データ証明による効果測定>
<リアルタイムのサイマルネット配信(スマホ、タブレット、PCなど)>
<過去の全番組のアーカイブネット配信>
<プライベートマーケットプレイスの構築>
<ソーシャルメディアとの有機的連携>
<CM電子送稿/Programmatic TVシステムの導入>
<DMP(Data Management Platform)の導入/デモグラフィック・サイコグラフィックターゲティング、リターゲティング、エリアターゲティングなどの実現>
<短尺動画/CMのABテスト/CM制作のクラウドソーシング>
<世界展開/海外へのネット配信と販売>
<テレビメタデータの活用/動画認識技術/検索機能/レコメンデーション機能/EC連携>
<「House of Cards」のようにコンテンツを解析してヒット番組を制作>
など。