Google/Adometryのアトリビューション資料
2015年10月23日、Google はアトリビューションの実施プロセスに関する資料「The definitive guide to data-driven attribution」を公開しました。
リリース:
Introducing the Definitive Guide to Data-Driven Attribution – Analytics Blog
ダウンロードは以下のページから可能です(無料):
The definitive guide to data-driven attribution | Adometry | Google Analytics
この45ページにわたる重厚なガイダンスには “Definitve” と冠が付けられているとおり、アトリビューションに実施について書かれた資料の決定版のような位置付けです。
アトリビューション周りでは、2012年に IAB が発表した「The IAB Digital Attribution Primer」がありますが、それ以来の大きめの資料になります。Googleに買収されたAdometryチームの知見が活かされていることが伺えますね。
このガイドは、2015年10月時点で、アトリビューション分析やアトリビューションマネジメントの概要を記した指南書として貴重です。以下で、資料のハイライトをいくつか切り出して紹介したいと思います。
アトリビューションの意味づけと方法
資料の冒頭で、アトリビューションを行う(アトリビューション分析を行う/アトリビューションマネジメントを実施する)意味が提示されています。
「業績のよい組織/団体は、そうでない組織と比べてアトリビューションを実施している可能性が約5倍高いにも関わらず、54%の企業は未だにラストクリックに偏重している」
「チャネルを跨いで評価することによって20%〜40%のパフォーマンスを向上させる余地がある」
といったデータを、IBMが2013年に行なった調査をもとに提示しています。
もちろんアトリビューションは魔法の杖ではありませんが、実際の現場でも、ラストクリックのみをクレジットしたことにより、リターゲティングの過大評価や新規率の高い施策の過小評価などが起こり、結果として縮小均衡に陥ったり、投資の配分を見誤ったりする例をよく見ますので、この認識は改めて心に留めておきたいところです。
このガイドにおけるアトリビューションの定義は極めてシンプルで、以下のようなものです。
「アトリビューションとは、トラッキングの実践であり、成果に関わるあらゆるタッチポイントに価値を付ける作業である」
そして、←の図のように、タッチポイントへの価値付けをするために、アトリビューションの代表的なモデルが提示されています。大きく分けて、?特定のタッチポイントに100%のクレジットを与えるシングルタッチモデル、?均等配分モデル、?それぞれのタッチポイントの役割に合わせて配分を変えるカスタムモデル の3つがありますが、近年では、こういったあらかじめモデルを決めて計算するルールベースの考え方から、アルゴリズムを用いたより科学的なアプローチが求められてきています。
本ガイドで使われる「データドリブンアトリビューション」も、あらかじめモデルが先立つトップダウン型のルールベースから、事実を積み上げていって最適解を導き出すボトムアップ型のアプローチを提示しています。
デバイスやチャネルが増えれば増えるほど、横断したデータの量は増えていきますので、確かにシンプルなモデルだけでは、価値を測りにくいタイミングに来ているのかもしれません。
それは言い換えれば、データ量が多い企業ほど、データドリブンアトリビューションの必要性が高いということでもあります。
実際このガイドでも、品質が高くデータ量が多い場合に、データドリブンアトリビューションが有効であると書かれています。逆に、上記の四象限で右上以外の組織、例えば下2つのようにデータ品質に問題があったり、左上のようにデータ量が足りない場合には、ボトムアップ的なアプローチは適切ではないということだと言えます。
データドリブンアトリビューションの実際
データ量が多く、利用可能なかたちに整理された組織において、実際の分析の現場ではどのような流れで実務が行われているのかを表した図が以下です。
?マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)
?リアルタイム・ビディング(RTB)
?アドサーバーと検索マネジメント
?ウェブサイト分析
?カスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)
?クロスチャネルキャンペーンマネジメント(CCCM)
?データマネジメントプラットフォーム(DMP)
ちょっとこれだけ見るとややこしそうで身構えますが、上図の左にある?〜?までの分析ツールごとの説明を順に追っていくと、理解がしやすいです。本ガイドではそれぞれのポイントについて要点がまとまっています。※とはいえややこしいことに変わりありませんが…
また、アトリビューションの文脈でよく陥りがちな罠に、データ分析のあとのアクションプランがなく、「So What(それで?)」という状況になってしまうことが挙げられます。そのため、データドリブンアトリビューションは、企業のどのような課題に回答でき、どのようなメリットをもたらすのかも詳細に説明されています。
ざっくり言えば、アトリビューションの意味は→にある
「予算設計(Budget Planning)」
「最適化(Optimization)」
の2つに凝縮されます。
チャネル間の関係を考慮した予算配分や、各チャネルや要素の貢献度を分析することで、データに基づいた意思決定をすることが可能になり、結果的にキャンペーンのROIや成果指標を最大化することに繋がる、ということですね。
最後に、本ガイドで一番多くのページ数を割いて説明しているのが、データドリブンアトリビューションの導入ステップです。具体的には→の5つのステップになっており、どれも重要なのですが、最も丁寧に言葉を尽くされているのが、?Get Prepared、つまり準備の部分ではないかと思います。
準備は「データ」だけではなく、「人」の準備も当てはまります。むしろ「人」にこそ重点が置かれていると言ってもいいかもしれません。アトリビューション分析のために、「責任者」「チャネル担当/アナリスト」「トラフィック担当」「IT担当チーム」といったかたちで、縦割り(Silo)ではなく、チームを編成して連携することの重要性が説かれています。もちろん「コストデータが紐付いているか」といった、最も重要な(でも漏れやすい)データの落とし穴についてもちゃんと言及されています。
キャンペーンを成功に導くのも失敗に陥れるのも最終的には人ですし、ここで示されているような、プロジェクトを推進するリーダーシップの設定や、データに強みを持つ組織を編成することは、アトリビューション如何に関わらず、多くの組織にとってデジタルマーケティングを行う上で有効なアプローチではないかと思います!
ガイドの最後には用語集もあり、入門書としても実践の座右の書としてもこの資料は有効だと思います。今後ますますデータの種類が増えていく中で、アトリビューションの概念を適用しないキャンペーン運用は現実的ではなくなってくると思います。このガイドは現場ですぐに使えるような個別具体的なTipsが溢れているわけではありませんが、データを活用したマーケティングを進める上で、改めて心構えを伝えてくれる資料だと思います。(日本語化が待たれますね!)