C1Xに聞く:CDPのその先へ ――「顧客体験」を創造するCDMPとは

CDPのその先へ「顧客体験」を創造するCDMPとは

運用型広告レポート作成支援システム glu グルー

米Yahoo!の元エンジニアが中心となって創業したC1X Inc.は、アドテクノロジーとデータテクノロジー、マーケティングテクノロジーの3本を融合させるサービスを提供しています。同社が適用するCDPとMAツールを一体化した「CDMP」は、データのサイロ化を解消し、AI時代における真のパーソナライズを実現するソリューションです。本記事では、Co-Founderの長山大介さんにCDMPの開発背景、機能、そして今後の展望について伺いました。

話し手
C1X, Inc.
共同代表 COO
長山大介さん

聞き手
アタラ株式会社
代表取締役CEO
杉原剛

米Yahoo!を成功に導いたエンジニアが目指す、プレミアム広告在庫の効率的な流通

杉原:まずは長山さんの自己紹介をお願いします。

長山:C1X.incのCo-Founderです。C1Xは、米Yahoo!出身のムクンドゥ(Co-Founder、CEOのMukundu Kumaranさん)とラージ(Co-Founder、CTOのRaj Madhuramさん)と一緒に2014年に設立しました。

プレミアムなハイクオリティの在庫をちゃんと効率的に流通させようという精神のもとで作った会社です。設立当時、RTBが急速に伸びてきている中で、これからのデジタル広告の世界において「従来の質の高いメディアがその価値を保っていくこと」を一番のミッションとして掲げました。故に、Yahoo!でよく使われていた用語である「Class 1」のプレミアムな広告在庫に、あえてExchangeという言葉をくっつけて「Class 1 Exchange (C1X)」と名付けました。

ただ、そこからRTBの変化するスピードは想定以上に速いものでした。故に、プレミアムな予約型の世界観とRTB的な世界観が共存するプロダクトを作って、それらを一体として使える仕組みを作ってきたというのが、元々の成り立ちです。

データ活用という点では、2018年ごろ、米国の世界的アパレルメーカーのデータを弊社システムで扱うようになったことをきっかけに、今でいうCDP(Customer Data Platform)でファーストパーティデータを扱うようになりました。また、2017年からすでにリーテルメディアプラットフォームも持っていました。

現在は、アドテクノロジーとデータテクノロジー、マーケティングテクノロジーの3本を融合させる活動をしている会社です。

杉原:現在はどのような体制ですか。

長山:シリコンバレーを本社として、インドにテックおよびデータの主力部隊がいるという体制です。私は普段日本にいます。なのでお客さまは、米国と日本の企業の他、インドなど他のリージョンの企業さんもいらっしゃいます。

杉原:CTOのラージさんは、マリッサ・メイヤーCEO時代のYahoo!を支えたメンバーですよね。

長山:はい、マリッサ・メイヤーさんがYahoo!のCEOだったとき(2012年〜2017年)に一番成功したプロジェクト「マネーボール(現在のYahoo Gemini)」のチーフアーキテクトの一人が弊社のCTOのラージでした。

杉原:御社は腕利き技術者の集まりだと以前から認識していましたが、イメージどおりです。

長山:エンジニアだらけの会社で、私は数少ない非エンジニアです。

Co-Founder 長山氏

CDMPが解決する「分断」 – 部署間連携、データ活用を促進

杉原:C1Xが提供しているCDMPについて伺います。そもそもCDPは何が違うのでしょうか。

長山:当たり前かもしれませんが、最大の違いは「M」という文字が挟まっているということです。

そこには問題意識があります。米国でCDPが100種類以上あるといわれていた時代、どこの企業と話をしても、CDPの導入が今重要であるという話になりました。ただ、その半年後に会うと、例えば一つの部署で導入して一部のデータをつないだけれども、そこから何ができるかというところで止まっていることが多いと感じました。

CDPはデータが1カ所に集まってきそうな雰囲気のあるプロダクトですが、そこからどんな目的を持って、どんな方向にデータが使われるかが規定されていないので、リテラシーや問題意識によっては結局何にも使えなかった、ということが米国でも非常に多く見られたのです。それが一つの問題でした。

カスタマーデータなので、もちろんその分析をします、というのでもかまいませんが、結局カスタマーにとっての体験や、カスタマーをより深く理解してその人たちに何かアクションを起こして働きかけないと、そのデータは生きてきません。CDP単体だと、その先の機能が途切れてしまうので、CDPにマーケティングの「M」を入れて、CDPとMAツールを完全に一体化させました。データをつなげた時点で、さまざまなマーケティングオートメーションと広告、つまりアドテクにもそのまま使えるような仕組みに一体化していることが、このCDMPのMの大きな意味合いです。

CDMP

杉原:なるほど。通常多くのCDPだと、データを溜めて、統合してセグメントを作って、広告やメールなどのアクティベーション先にAPI連携接続でCDPのデータをパスすることができますが、あとはそれぞれのアプリケーションにおまかせという感じですものね。

長山:そうですね。

杉原:そのデータがきちんと戻ってくる形にはなっていないですしね。そういう意味でのサイロ化もありますし、先ほどのお話のとおり、部署ごとで使っていると、お互いにどういうことをやっているのかよく分からないという状況が発生しがちです。CDMPの場合、全部統合できて、アクティベーションを全部内部で設計できるというイメージを持っているのですが、合っていますか。

長山:まさに、おっしゃるとおりです。ワーストケースですと「部署AはCDP1を使っています。部署BはCDP2を使っています。それぞれで、これをつなぐために膨大な作業が発生しています。あるいは、アクティベーションをする先として部署AではCを使っています。こっちの部署ではまた違ったアクティベーション先が二つ、同じ先が一つあり、その先ではBIツールを使ってデータをグラフにしています。そのグラフを見ながら、次に施策を実施するときには手作業でキャンペーンを調整しています……」なんてことが起こっていることもあります。

こうなると何回も分断が起こっているので、結局誰が何をやっているか分からないまま、どんどんコストがかさんでしまい、差し引きで言うとROIマイナスでした、ということが往々にして起こってしまいます。

CDMPでは、いわばそのCDP部分、アドテク部分、MA、BIを一つのサイクル内でクローズなループとして回すことができ、改善もすぐに次のキャンペーンのアクションや設定などに応用していくことができます。なおかつ使えるチャネルを増やしていくことで、広告を出稿しながら、オンサイトもやりながら、メールを送りながら……といった本当のクロスチャネルの事例も、日本を含めて出てきました。

杉原:本当の意味でのクロスチャネルキャンペーンがようやくできるようになった、ということですね。

アタラ 杉原

長山:おっしゃるとおりです。

事例:瞬時にセグメント作成。10万人規模のオーディエンスも即座に抽出

長山:とある日本の大手Eコマース企業の例では、従来、メールを自社内で自社のレコメンデーションシステムと合わせてパーソナライズして送っていました。その他の例えばオンサイトのEコマース上のバナーなどは別のシステムで管理していて、広告も別のシステムで運用していて、アプリのプッシュ通知も別のシステムで行っていました。それがCDMPを導入することで、全部1カ所でできるようになりました。BI的な意味合いも含めた仕組みとしては、例えば「過去に○○に関心を持っていて、××の地域に住んでいる10万人」というオーディエンスが、CDMPならば瞬時に計算ができ、作ることができます。

それを例えば、ABCテストのような形で、グループAにはこの施策、グループBにはこの施策、グループCには少しメールの文案を変えた施策、グループDはコントロール群として、オーディエンスの全10万人を2万5000人ずつに割って当てた結果を1カ所で比較してみることで、本当に次に何をすべきかが全て、BI的にも分かるようになります。文字通りビジネスのインテリジェンスが、本当に1カ所で完結し、ループが閉じた状態にすることができるのが、代表的な一例です。

長年の蓄積ある仕組みも生かしたカスタマイズが可能

杉原:BIのダッシュボードやレポートを新しく追加してもらうことは可能なのですか。

長山:可能です。C1Xの動き方の特徴としては、基本機能のCDMPも含めて全てを自分たちでスクラッチで作ってきているので、カスタマイズの余地や柔軟性が非常に高いのです。

それなりの規模の企業だと、自社のデータサイエンスモデルを持っていたり、自社のレコメンデーションエンジンを持っていたり、何らかの形で長年の蓄積のある自社の仕組みを持っているものです。他社のSaaS型プラットフォームだと、この自社独自の仕組みが取り込めないということが少なくありません。本当はBI的な分析をしたり、やってみたいことがあったりしても、出来上がってしまっているものには入れられないことが多いのです。

C1Xでは、例えばレコメンデーションエンジンを組み込んで、そこからレコメンドを引っ張ってきて、10万人に10万通りの異なる商品のレコメンデーションのメールを送れるようにすることができます。LTVをどうしても見たいという場合には、独自のLTVダッシュボードをお作りして、元々ある基本機能プラス、このLTVのカスタマイズダッシュボードを併せてご提供することもできます。これは、非常に喜んでいただいています。

レコメンデーションエンジン

LTVダッシュボードの例

LTVダッシュボードの例

杉原:今はメディア断片化の時代なので、おそらくアクティベーション先にこういうところを追加したいとなって実装しても、次々と新しいプラットフォームも出てくるじゃないですか。そういうのも、少なくともAPIがあれば実装ができるということですか。

長山:そうですね。かなり自信を持っているところです。

クロスチャネルキャンペーンを効率的に実施するために必要なこと

杉原:クロスチャネルキャンペーンという言葉はずっと言われてきていますが、実現するためのプラットフォームがないから難しかったと思うのですよ。ものすごい力技でやっていたというケースは非常にたくさんあります。効率的にやることは難しかったけれど、C1XのCDMPのようなものがあればできるようになるのですよね。クロスファンクショナル、クロスチームでのクロスチャンネルキャンペーンの進め方などが変わるのではないか、という印象があります。クライアントでもそういった兆しはありますか。

長山:何社かあります。実際に起こっていることとしては、横断のクロスチャネル担当のマーケティングチームができた、という例があります。これまでは部署や担当が分かれていることで、メールを送付したその後の活用が難しくそのことに問題意識があったものが、横断のチームができることでメール送付後にアプリでプッシュするといった設計ができるようになり、マーケティングに対する空気感が変わってきたということがありました。

杉原:広告担当やメール担当など、どうしてもファンクション別に分ける必要がありますが、プラットフォームを導入してから、横断的な役割の方がコーディネーションやオーケストレーションをできるようになったのですね。

長山:そうだと思います。今まさにおっしゃったオーケストレーションもキーワードですね。

データの質とリアルタイム性が重要に – 賢いAIには賢いバックエンドを

杉原:最後に今後の展望を教えてください。

長山:CDMPはこのAI時代において、より重要性を増していくだろうと思っております。

大きな理由としては、変なターゲティングや質の低い広告を当てられても、受け取る側のユーザーがその仕組みを「賢くない」と思っている間は、ある程度無視できました。例えばテレビで自分とは全然関係ないCMが流れても、この仕組みは「皆さんこんなものどうですか、と言っているにすぎない」ということを理解しているので、さほど不快感なく受け流せるものです。

しかし、AIはあたかも自分のことを分かっているかのように接してくる「賢い」仕組みです。その「賢い」はずの仕組みが「賢くない」ことをやってくると、不快に感じるようになるでしょう。例えばAIが急にファーストパーティデータをもとにして、名指しで私に「長山さん、この商品いかがですか」と聞いてきたものが、自分に全く無関係な不愉快な商品だった場合、非常に気味の悪さを感じるはずです。

ターゲティングの精度がさほど高くないという意味で“賢くない”テレビと、“賢い”AI。賢くないテレビが外すのは当たり前ですが、賢いAIがよく分からないことをしてくると、本当に気持ち悪いはずです。その賢さと連動してデータの質やリアルタイム性を高めていかないと、逆効果になる時代がくると考えています。

つまりAIが発達して、フロントエンドがAI的になっていけばなっていくほど、それに比例してバックエンドのデータをいかに統合的にクロスチャネルで、リアルタイムで賢く、正しく理解するかということがより重要になっていくということです。C1Xとしても、フロントエンドでAIを使ったチャット型の広告などを開発しつつ、その賢いフロントエンドとリアルタイムで統合的で賢いバックエンドが連動することで、ユーザーにとって本当に便利なコンシェルジュのような仕組みを作る。これこそが、これからの広告マーケティングの進化した姿ではないでしょうか。それを両面からやっていきたいと思っているところです。

杉原:今お話を聞きながら思ったのは、僕はTikTokも含めてリールやショート動画をよく見るのですが、結構長く滞在したり、2回見たりするものがあると、もう次からどんどんレコメントで類似の動画が出てくるのですよね。今のユーザーは無意識のうちにそれに慣れています。学習されているから類似のものがどんどん出てくるというのを一般ユーザーでも理解していると思うので、期待値を裏切ることのデメリットが以前よりも大きい感じはしますね。

長山:おっしゃるとおりです。その体験を崩すようなものに対するネガティブな反応は非常に大きくなると思います。

杉原:かつ、AIに対する対応もそうだし、クロスチャネルで、広告で見たのと同じようなLook & Feel?のメッセージがメールでもきて、それがよい情報であれば体験としてすごくいいですよね。同じ会社の同じ世代の同じキャンペーン施策のはずなのに、Look & Feelが違うといったら気になっちゃうじゃないですか。

長山:そうですね。はい。

杉原:そういったものもきちんと統合管理ができるという意味では、CDMPは今このAI時代には本当に必要な基盤なのかもしれないと思っています。

長山氏 杉原

既存のものを生かしながらクロスチャネルを実現するために進めるべきことは

杉原:デジタルを中心にしたマーケティングも変化が激しいですし「こういうシステムがあればいいのに」というとき、誰に相談すれば分からないこともよくあると思います。僕はC1Xさんは「こんなことできるか気楽に声をかけてもらえれば」という困ったときに頼れる存在なのではないかと思っています。

長山:そう思っていただけると、一番ありがたいですね。

いつも思うことの一つが、今SaaSのMAツールやCDPがある程度流行っていますが、もし今日誰かが新たに会社を作り、ネットショップを作ってマーケティングをやっていくなら、そういうツールを使ってある程度できることはあると思うのです。ただ、今まで既にさまざまな施策をやり、貴重な顧客データを溜めてきていて、ある程度レガシーなものがある企業にとっては、最新のSaaS系のツールはぱっと見で便利そうなのですが、今やっていることをそこに当てはめるのは、膨大なコストがかかります。今までやってきたことを崩さずに、それでいて理想的な形に近づけるというのが、弊社でお手伝いしている企業で多いケースです。

そのためには、サイロとサイロをちゃんとつないでいくとか、クロスチャネルの基盤を作っていくとか、一歩ずつであっても理想型に近づけられるような動きがC1Xにはフィットしています。そういった悩みを教えていただければ、一つずつ解決して、結果的には今の最先端のプラットフォームと同等ないしは、蓄積を活用したそれを超えるようなクロスチャネルの施策ができるプラットフォームを一緒に作り上げていくことが得意なところです。そういったお悩みは、ぜひご相談いただきたいなと思っております。

杉原:いろいろなものを部品的に作っているから、それらを組み合わせて迅速にローンチでき活用もできるというメリットもあれば、個々の企業でやってきた崩したくないプロセスなどを変更せずに、ある程度カスタマイズが効くという両方の要素を持っているのですね。

長山:おっしゃるとおりです。

杉原:それがないと膨大なリソースもかかる一方で、結局使えないものになるというケースを見てきているので、とてもよいバランスを持ったプラットフォームとサービスだなと思っています。

長山:ありがとうございます。

杉原:日本市場での発展、これから期待しています。本日はありがとうございました。

※本記事の内容、所属、肩書きは公開当時(2025年3月)のものです。

 

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