今や、運用ができる広告はWeb上の広告だけではありません。テレビCMもそのひとつです。自社で行ってきたテレビCMの運用ノウハウをもとに、運用型テレビCMのサービスを提供するノバセル株式会社。「3rd AGENCY」のコンセプトのもと、広告主と広告会社の間に入ることで、広告主が事業に集中できる環境づくりを支援しています。この運用型テレビCMとは、どういうものか。ノバセルが提供するサービスとともに、サービスを通してノバセルが目指す「マーケティングの民主化」とは何か。ノバセル株式会社の網野雄太さんと柿谷隆太さんに、お話を伺いました。
話し手:
ノバセル株式会社
執行役員
網野雄太さん
ノバセル株式会社
事業開発部
柿谷隆太さん
聞き手:
アタラ合同会社
執行役員 Strategic Business Director
中川雄大
目次
- 1 自社のテレビCM運用をサービス化。ビジネスサイドとエンジニアサイドが一体となって価値を提供
- 2 運用型テレビCMを第三者の立ち位置から支援
- 3 指名検索のデータを使って効果を最大化する
- 4 運用型テレビCMにおける三つの壁の解決を目指す
- 5 テレビCMの効果を可視化する二つのサービス
- 6 自社・他社のテレビCM効果を評価するトレンド。自社データを精緻に素早く分析するアナリティクス
- 7 反響につながりやすいテレビCMは検索行動喚起を目的に設計
- 8 テレビの領域でもテレビ以外の領域でも「マーケティングの民主化」を目指す
- 9 マーケティングの民主化の実現のためにMMMに着手
- 10 テレビCMの取引の透明性を高めたい
- 11 マーケターが本来の仕事に取り組める仕組みづくりを目指す
自社のテレビCM運用をサービス化。ビジネスサイドとエンジニアサイドが一体となって価値を提供
中川:では、まず、お二人の自己紹介をお願いします。
網野:新卒で株式会社博報堂に入社し、8年間ストラテジックプランナーをやっていました。その後、コンサルティングファームの株式会社ドリームインキュベータに3年在籍し、大企業の新規事業開発の案件を担当しました。ラクスル株式会社に転職して以来、ノバセルの事業を担当しています。現在はグループ会社、ノバセル株式会社のMarketing DX事業の統括をしています。
中川:ありがとうございます。では、柿谷さん、お願いします。
柿谷:新卒で株式会社セプテーニに入社しました。広告運用のコンサルタントの後、事業企画として運用改善プロダクトなどの開発ディレクションをしていました。今は、ノバセル株式会社の事業開発部で、ノバセルトレンドのPMM(Product Marketing Manager:プロダクトマーケティングマネージャー)や新規サービスを担当するほか「ノバセル オープンラボ」というオウンドメディアの立ち上げを行っています。
中川:ありがとうございます。では早速、ノバセルがどのような経緯で運用型テレビCMをローンチしたのかを聞かせてください。
網野:ノバセル株式会社の母体であるラクスル株式会社は、2013年に印刷・集客のプラットフォーム「ラクスル」のサービスを立ち上げました。2015年ごろからテレビCMをはじめ50億円以上の投資を行ってきました。テレビCMで得たマーケティングデータを自分たちで分析し、インハウスでプランニングを行っていたんです。
一般的なプランニングのほか、複数の素材を作って、どちらが効果的かを見極め、最適化するデジタル広告の発想で、テレビCM運用を実践していました。せっかくなので、このノウハウを他社にも提供しよう、ということで、ノバセルの前身となるラクスルアドプラットフォーム事業部を立ち上げ、2018年ごろからサービスとして提供を開始しました。当初は、広告会社としてテレビCMの放送や制作を受託していましたが、2020年にノバセル事業本部を立ち上げ、2022年にラクスルの完全子会社になりました。
ブランド名の由来は、印刷サービスを提供するラクスルが「楽に刷れる」で、ノバセルは「事業を伸ばせる」という意味からです。
その後、サービス立ち上げ当初から使っていた分析や、プランニングのツールだけをSaaSとして切り出し提供するため、2021年ごろにMarketingDX事業部(旧SaaS事業部)が立ち上がりました。現在、ノバセルは、広告代理店事業を行うGrowth Partner(GP)事業部と、Marketing DX事業部に分かれています。
中川:GP事業部は、運用代行を行っていらっしゃるんですか。
網野:そうですね。社内にはストラテジックプランナー、クリエイティブ、制作進行、メディアプランニング、バイイングのチームなど、いわゆる広告会社としての体制が整っています。最近は、デジタル広告のチームも徐々に立ち上がってきている状態ですね。
中川:事業の立ち上げ当初からテレビCMを運用されていて、そのノウハウを他の企業にも提供しよう、ということでノバセルができたんですね。ノバセルの組織としての特徴は、どのようなところでしょうか。
網野:ノバセルは広告会社としてスタートしているため、広告会社をはじめ、制作会社、テレビ局出身者が集まった広告会社カルチャーな組織だったんですが、Marketing DX事業をやっていくためにエンジニアやデータサイエンティストなどが加わり、今は一つの組織にそれまで交わってこなかった人たちが共存している状態です。
これはなかなか面白い環境で、例えば総合代理店の場合、データサイエンティストやエンジニアも一定数いますが、あまりビジネスサイドの社員と交わる機会がないんです。ノバセルのように同じフロアに集まって働いている組織は、日本には、まだ少ないんじゃないかと思います。
中川:国内では、なかなか見られないユニークな環境ですね。
網野:はい。ビジネスとエンジニアリングの距離が近いことで、エンジニアやデータサイエンティストのチームが代理店事業部のメディアやWebの施策について「効率化や価値向上のためには、こういうデータの使い方があるんじゃないか」と介入していけるんです。
柿谷:ラクスル全体で顧客解像度を重視しているので、エンジニアの方もテックの方も、レビューやオンボーディングなど結構積極的にフロントに出ていますね。
中川:貴社ならではですね。通常はバックエンドで社内用のツールを担当しているイメージです。
運用型テレビCMを第三者の立ち位置から支援
中川:ノバセルはGP事業部とMarketing DX事業部に分かれているそうですが、Marketing DX事業部の運用型テレビCMが現在、事業の主軸という認識なのですが。
網野:Marketing DX事業部は、第三者としてAuditor(監査役)のような立ち位置で、広告主と広告会社の間に入ることで客観性を担保し、広告主が事業に集中できる環境づくりを支援しています。広告主から見ると、広告会社やテレビ局って結構ブラックボックスなんです。そこに第三者として入っていき、きちんとプランニングできているか、ツールやデータを使いながら見ていくんです。一方で、GPはいわゆる広告会社なので、実は立ち位置が違うんですよね。
中川:それが、サービスコンセプトに掲げていらっしゃる「3rd AGENCY」ですね。3rd AGENCYとして、効果的なCM出稿のプランニングなどの提案をメインにされているということですね。では、今回のテーマである「運用型テレビCM」について、ご紹介いただけますか。
柿谷:今までテレビCMって、放送した後の、効果の振り返りなどをしっかり行っていないケースが多かったと思うんです。それに対して、ノバセルの提供しているサービスでは、テレビCM1本1本がお客さまの事業に貢献しているかを数値で可視化します。例えば、どのクリエイティブが効果的だったのか、どの局や時間帯、番組がよかったのか、といったさまざまな軸でCMの効果を可視化します。その結果を見ることによって、今まで効果も分からずに、ただ放送していたテレビCMにてこ入れし、事業にしっかり貢献できるようにするサービスです。
指名検索のデータを使って効果を最大化する
中川:なぜ、ノバセルで運用型テレビCMが実現できるのか、その仕組みをお聞かせいただけますか。
網野:まず、投資を最適化していく指標としてあるのが「指名検索」です。何時何分何秒に、どのテレビ局で、どのテレビCMのクリエイティブが流れたのかを特定して、事前事後の指名検索数の差からテレビCM1本1本の効果を可視化しています。この分析方法は特許を取っています。
基本的には、この発想をコアとしてテレビCMの効果分析を行っています。某検索エンジンと提携し、競合他社の指名検索のデータを取得できるため、競合他社と自社のテレビCMの指名検索に対する効果を比較することも可能です。
中川:デジタルの広告に慣れているUnyoo.jpの読者の方々に向けて言い換えると、サーチリフト(認知施策を行った場合に、キーワードの検索数がどれくらい上昇しているのかを測定する指標)ですね。
網野:はい。テレビCMのサーチリフトです。
柿谷:プロダクトによって違いますが、指名検索の場合もあれば、GA(Google Analytics)やSDK(Software Development Kit)と連携しているため、セッションやインストールなどの数値も見られます。
運用型テレビCMにおける三つの壁の解決を目指す
中川:ありがとうございます。先ほどの3rd AGENCYのほかに、サービスで大事にされていることはありますか。
網野:よくお話しさせていただくのが、テレビCMの三つの壁です。
まず、データの壁です。テレビCMのデータは、だいたい視聴率関連なんですね。どれだけの人にリーチしたかが今までは基本だったんですが、事業の成果指標からすると、やはり距離が遠い。事業に距離が近いセッションや検索のデータを、実はクライアントは分析できていないケースが多いです。たまにファーストパーティデータやGA、BigQueryなどのデータを全て使って、放送の時点からどのくらいスパイク(瞬間的な認知増加、Webサイトへの流入増加、ブランドリフトの上昇)しているか計測している企業もありますが、かなり労力が必要で、ほとんどの企業では難しいという壁です。
次に、ノウハウの壁です。広告主が広告会社に評価を依存することで、施策の実行主体である広告会社自身が「認知度が上がりましたよ」というように自分でやったことを評価している矛盾です。広告主側ドリブンで効果測定し、場合によっては広告会社に施策の是非を問う、といったことがしにくい構造にあります。
テレビ業界において、テレビ局や広告会社は寡占状態で、テレビのことをずっとやっている人たちがいます。一方、広告主はジョブローテーションで担当者が結構変わるんです。だからテレビCMの取り引きに関してのノウハウが全然たまらず、情報の非対称性が激しいため、広告会社に対して弱い。本来であれば、他のプレーヤーが入ってくるんですけど、テレビ業界は寡占状態だから、そうしたことがあまり起きない構造にあります。
三つ目は、リソースの壁です。取り引きのプロセスが、かなりアナログで、いまだにPDFでやりとりしているところがあったりします。アナログな取り引きがあるからこそ、きちんとデータに基づいてプランニングやバイイングが必要なんですが、かなり工数がかかります。そのために必要なリソースの壁という問題が、テレビCMにはあるんです。
これはデジタル広告と比較すると違いがよく分かるんですが、デジタル広告であればユーザーのWeb上の行動が自動的にデータ化されていますよね。ノウハウについても、デジタル広告会社の出身者やデジタルマーケティングの経験者って、結構労働市場に増えているなと感じます。
中川:もう本当に、ここ何年かで一気に増えましたよね。
網野:増えましたよね。副業でマーケティングのコンサルタントをされている個人の方もたくさんいますし。データが自動的に生成され、そのデータに基づいて自動最適化する環境も整っているため、リソースの壁もそんなにありません。クリエイティブの自動生成も、やろうと思えばできてしまう。テレビCMと比べると、壁のありなしが明確に分かります。私たちは、この三つの壁を全部解決したいと思っています。
テレビCMの効果を可視化する二つのサービス
中川:では、運用型テレビCMのサービスについて紹介をお願いします。
網野:まず、データに対しては、ノバセルData Platform(データプラットフォーム)というサービスの中に「ノバセル トレンド」と「ノバセル アナリティクス」というツールがあります。これは、先ほどお伝えしたサーチリフトやセッションリフトで効果を可視化するデータプラットフォームです。
あわせて、ノバセル オーディット(Audit)というリソースやノウハウを提供するプロフェッショナルサービスがあります。ノバセル オーディットは、プロセスコンサルティングとオペレーションの二つに分かれています。
プロセスコンサルティングでは、メディアプランニングや評価の仕組みづくりを支援します。ノバセル Data Platformのデータのほか、アクチュアル(実際にCMが放送された際の視聴率)データや、ターゲットの視聴率であるターゲット含有率、私たちのデータも使いながら、どういうルールでプランニングしていくのか、といった上流のプロセスコンサルティングも行います。プロセスコンサルティングは3カ月から半年程度と短期間で完了します。
オペレーションは、プロセスが固まり、実行に移す段階で必要となる広告会社やテレビ局との交渉や、実行のための作業リソースやノウハウを提供します。BPO(Busuiness Process Outsourcing)のような感じですね。
ノバセル Data Platformとノバセル オーディットの二つを組み合わせながら、クライアントのニーズに合わせてサービスを提供しています。
中川:広告主がテレビCMというエリアでもオーナーシップを発揮できるような環境整備から、実行部分まで、フルスタックでお手伝いします、というスタンスですね。
網野:そうですね。インハウスの定義を、全て社内のリソースでやりきること、とするならば、私たちが業務を引き受けるので、インハウスではないですよね。なんて言うんですかね。主導権を広告主側に持たせる意味でのインハウス化支援というような感じですね。
中川:ありがとうございます。アタラの言い方だと、ライトインハウス、あるいはミドルインハウスですね。2013年にアタラのメンバーが共著者の『実践 インハウス・リスティング広告』(インプレス)という本を出版したのですが、そこでは「インハウスには大きく分けてライト、ミドル、ヘビーの三つがある」と定義しています。
ライトはプランニングや評価、戦略は自社で考え、作業を広告会社にお任せする。これは、広告主としてガバナンスが効いているし、外注先を適切に選べていればライトだけれどもインハウスと呼べます。
対して、ヘビーは完遂型で、戦略立案から実行までフルで広告主自らで完結できる場合です。
ミドルはその中間、上流工程から外部の協力を仰ぎつつ、“主体的に”広告主がリードし、その企業にとって重要な広告プラットフォームの管理は自社で対応しながら、外注先にも一部作業を賄ってもらうなど、状況に合わせて外部パートナーと協業する場合です。実態としては、このミドルに位置する広告主が多いと思います。
現実としては、広告会社を介さないと出稿できないメディアなどもありますし、リソースの問題もあるため、ヘビーインハウスは難しいですよね。出稿額が大きければプラットフォーム側からサポートを受けられて、いろいろな情報を提供してくれますけど、中規模程度だと情報が遮断されてしまい閉鎖的な空間になるので、一年前と同じようなことを結果的に続けてしまうことも少なくないのかなと。
網野:確かに進化しないですよね。
中川:はい。“運用”が保守管理のほうの意味になりがちなので、状況を見て、このインハウスのグラデーションを行ったり来たりするのがいいんじゃないか、とクライアントワークの中で感じました。
網野:確かに、ここはちゃんと自社で設計できているけど、こっちは外注しますよ、というのはライトだと思いますね。
中川:でも、ノバセルのサービスもある種のインハウスと呼べるのではないのかと。広告主に対して、あなたたちが主導権を持つ立場なんです、と分かっていただく。
網野:そうですね。
中川:あなたたちがプロジェクト全体に対してオーナーシップを発揮するのであって、広告会社とのミーティングは提案されるままで終わるものじゃないよ、と。そのためにあるのが、運用型テレビCM全体をサポートするノバセルのサービスということですね。
網野:そのとおりです。
中川:分かりました。ありがとうございます。
自社・他社のテレビCM効果を評価するトレンド。自社データを精緻に素早く分析するアナリティクス
中川:CM分析ツール「ノバセル トレンド」と「ノバセル アナリティクス」について、それぞれご紹介いただけますか。
柿谷:ノバセル トレンドと、ノバセル アナリティクスの大きな違いとしては、ノバセル トレンドは競合のテレビCMまで広く可視化でき、ノバセル アナリティクスは自社のテレビCMを深く可視化する、という点ですね。ノバセル トレンドは、自社や競合をはじめ世にある、ほぼ全てのテレビCMの効果が見られます。ノバセル アナリティクスは、自社のテレビCMの効果に限りますが、GAやSDKと連携するため、セッション数やインストール数をはじめとした、さまざまな指標で効果を見ることができます。また、リアルタイム性が強く、ノバセル トレンドでは放送から1週間後に効果を確認できますが、ノバセル アナリティクスでは放送から最速3時間後に効果を確認することができます。
中川:テレビCMとGAなどのデータをシンクさせて、数時間後にデータがリフレッシュされていくサービスですね。
柿谷:コンバージョンポイントを登録することで、指標として効果を見られます。
網野:ノバセル アナリティクスは、自社のテレビCMの分析ですが効果を確認できるスピードが速いため、デジタル広告のように素材のABテストなどがしやすく、PDCAが回しやすいんです。テレビCMは、デジタル広告のように年間を通して出すというより、1カ月放送して、2カ月休んで、1カ月放送して、といったスポットで山をつくっていくんですね。そうしたときに、1カ月の間に最適化しようと思うと、最初の3日ぐらいで効果を判断する、ということが結構重要なんです。だから、最短3時間で効果を確認できるノバセル アナリティクスであれば、最初の3日分のデータだけを見てAB判断をし、Aの比率を少し上げましょう、といった運用が1カ月の間に可能です。
中川:データの反映のスピードは、テレビCM運用にとって重要ということですね。ノバセルのクライアントの場合、ノバセル Data Platformの導入が、そもそも前提にあるのですか。
網野:はい。基本的には土台になっています。これを使って、オーディットのサービスまで提供します。また、この他に、クライアントが契約しているツールのデータや、クライアントが持っているデータも組み合わせ、ルール設計や実行が可能です。指標は、クライアントによりさまざまですが、指名検索一本と決めていらっしゃる場合もありますし、リーチとのバランスも取りたいクライアントには関連するデータも組み合わせて対応します。
中川:そうですよね。CMを見た直後に、いきなり検索行動には寄与しなかったけれども、例えばWebサイトに埋め込んである動画の視聴数が増えたとか、どこかでページビューがどっと増えたのであれば、それは立派なCMの貢献であると言える、ということですよね。
網野:そうです。そういうバランスですね。あとは、テレビ局の評価をする場合、単純に検索のレスポンス効率の良しあしだけではなく、デジタルの世界でもあると思うんですが、予算全体の一定量以上発注するとGRP(延べ視聴率。一定の期間に流したCMの1本ごとの視聴率の合計のこと)が付くサービスGRPや、テレビCM枠以外に番組内で、その商品を取り上げてくれる枠がセットで提供されるパブ枠なども加味して、テレビ局の評価やシェアリングをどうしていくのか、といったルール設計も含めて支援しています。
中川:このコンサルティングを一度受ければ、そのあとも継続してノウハウを活用できる、ということですよね。
網野:はい。それから、テレビCMの素材をいくつも作るって大変そうじゃないですか。例えば15秒のテレビCMで全く違うものを作った場合、撮影コストや制作コストもそれなりにかかります。でも、15秒のうち、最後の2秒が違うだけで効果にかなり差が出てくるんですよ。
中川:そうなんですか。
網野:はい。デジタル広告では、バナー1枚でも効果が違ってきますよね。テレビCMでも15秒のうち2秒違うだけで、効果が倍になったりします。そういうABテストを繰り返しながら最適化していくクライアントは、すごく多いです。その他にも、ナレーションや、うたっている内容をちょっと変えることで、コストを抑えて複数の訴求軸が作れるので、2本作ったら2倍のコストがかかる、というものではないんです。
柿谷:素材の掛け合わせで100種類以上のクリエイティブを作成、検証している場合もありますね。
中川:なるほど。ありがとうございます。
反響につながりやすいテレビCMは検索行動喚起を目的に設計
中川:それでは、ノバセルの事例について聞かせていただけますか。
網野:気象情報会社ウェザーニュースの事例をご紹介しましょう。地域ごとに素材の掛け合わせを変えてCMを作成しました。訴求を変えて雨雲、気温など複数のパターンを掛け合わせて、約100パターン作り、運用しました。その結果、効率的にアプリのダウンロード数を伸ばすことに成功しました。
中川:そうしたテレビCM、最近ちょっとずつ増えてきましたよね。私は札幌出身なんですが、帰省したらテレビCMで「北海道の皆さん」と地域最適化されていました。はいはい、なるほど、と思いましたね。では、ノバセルを導入すべき広告主というのは、どのような層になるんでしょうか。
網野:ノバセル Data Platformとノバセルオーディットをサービスとして提供していますが、基本的にはテレビCMを出稿されている皆さんにご導入いただけます。
ノバセル Data Platformは、レスポンス、検索、行動指標で効果が見られるため対象もかなり広く、行動喚起するようなテレビCM、例えば、ECサイトのようにWebで完結する事業との相性は非常によいです。
次に、最終的な購買行動はオフラインで起きるものの、検索行動をともなう場合や、Webでのコンバージョンがあるような商材にも適しています。例えば、自動車メーカーだと試乗予約など、さまざまなWeb上のコンバージョンポイントが明確にあるため相性がよいといえるでしょう。Web上で資料請求のようなコンバージョンがなかったとしても、医薬品のような高関与商材であれば検索行動が期待できます。
柿谷:消費財も新商品などのテレビCMは、結構検索されますよね。
網野:そうですね。食品でいうと、あるインスタントラーメンのテレビCMが放送された後の検索は、すごかったですね。半年間ランキング1位でした。
網野:47都道府県のインスタントラーメンのレシピを公開するキャンペーンを行ったときは、Web上に載っているレシピを見るために、Webサイトへの流入がかなりありました。
市場調査会社の株式会社インテージと共同で分析させていただいたんですが、検索だけじゃなく購買も伸びているんですよ。特に新規の購買が伸びている。CMの役割は既存のリテンションというよりも、新規の購買数を増やせるかどうかにかかっているんですが、その新規の購買数がキャンペーン以前の直近1年間と比較して2倍に増えているんです。検索させることを目的としてテレビCMを使う場合は、非常に相性がよいですね。
中川:ありがとうございます。基本的にはアッパーファネル、 広くアテンションを取れるのがテレビCMですからね。ありがとうございます。
テレビの領域でもテレビ以外の領域でも「マーケティングの民主化」を目指す
中川:ノバセル オーディットについて詳しく聞かせていただけますか。
網野:ノバセル オーディットには、クリエイティブオーディットとメディアオーディットというサービスがあります。クリエイティブオーディットは、ノバセル トレンドのデータを使って業界のクリエイティブの動向を分析し、そのレポートをもとに「御社は検索が他社さんより低いですね、それはなぜなのか、こうなんじゃないですか」といった仮説出しや、定量調査を行い、検証していくサービスです。
メディアオーディットは、テレビCMのメディアの効果分析と、そのデータを使った次回放映のプランニング、さらには代理店への発注プロセスの支援に、弊社のプロフェッショナル人材をご提供して並走するサービスです。
あとは、ノビシロという調査サービスがあるんですが、通常、時間とお金のかかる調査を、広告主がWebブラウザ上でツールを使って、サンプル数によっては最短30分で結果が返ってくる調査サービスです。
中川:それは引きがありそうですね。従来のサーベイは結果が得られるまで時間がかかりますよね。
網野:そうですよね。ノバセルでは「マーケティングの民主化」を掲げているんですが、ノビシロは調査も民主化できる、という発想で作られました。これまでの話やテレビCMの文脈とは違うのですが、テレビ以外の領域でも民主化に向けて事業をつくっていこう、と開発したサービスです。
中川:民主化というのはよいキーワードですね。
マーケティングの民主化の実現のためにMMMに着手
中川:今後の展望について聞かせてください。
柿谷:今まではテレビCMの運用や効果の可視化にフォーカスしてきましたが、TVerやコネクテッドTV、YouTubeなどのテレビCM以外の認知系のメディアでもニーズが高まっています。ノバセルとしては、まず、認知系のメディアの中ではテレビに次いで大きいYouTubeから、運用と効果の可視化にフォーカスする形で最近「ノバセル 運用型YouTube広告サービス」をリリースしました。
また、これまでテレビCMやデジタルメディアの運用提案などを通して「マーケティングの民主化」を進める中で、オフライン広告やテレビCMが事業にどれだけ貢献したかを評価したい、というニーズが高まっています。そこで注目されているのがMMM(Marketing Mix Modelingの略。マーケティング活動の、どの部分が売上や利益に貢献したかを統計学的に分析する手法)ですが、従来、ちょっと小難しい、とっつきにくいものを、誰でも簡単に使えるように、とノバセルでもMMMに着手しはじめました。
中川:MMMを使った全体最適でしょうか。
柿谷:そうですね。より上流のところから手がける形です。
網野:MMMは昔からある手法ですが、なぜ今かというと、10年前は、メディア投資予算全体におけるテレビCMの割合が非常に高かったために全体最適という論点がなかったんです。その後、デジタル広告が増えてきたんですけど、リスティング広告とディスプレイ広告などがメインでした。データでコンバージョンの数字が見えるので許容CPAを設定しやすかったんです。そのためテレビCMとデジタル広告のアロケーションが、あんまり論点になっていませんでした。
それが最近では、TVer、YouTube、ABEMAのほか、コネクテッドTVなど、テレビと並列の指標に効いてくるデジタルメディアが出てきたことで、MMMによる全体最適が大きな論点となるようになりました。また、技術的にも、オープンソースが出てきたことも重なり、MMMが注目されています。
柿谷:サードパーティクッキーの規制の影響で、デジタルであっても計測が難しくなる、という点も要因の一つです。一方で、デジタル以外のPR施策も増えていて、それらも含めたさまざまな影響を可視化できる、という点で注目されはじめているのだと思います。
テレビCMの取引の透明性を高めたい
中川:今後、御社としてフォーカスしていきたいエリアなどはありますか。
網野:やはりテレビCMは引き続き、軸足として行っていきますが、テレビCMを使う目的は行動喚起や事業貢献です。その事業貢献という目線で考えたときに、クライアントが何を求めているのかを探り、それをつくり続けたいです。指名検索に対し貢献できるようなソリューションをつくっていくことも大きな方針です。
中川:アッパーファネル、ミドルファネルが基本ということですね。
網野:そうですね。そこがメインの主戦場だと思っています。
私たちがやっていることってMOps(マーケティングオペレーション)のレイヤーなんです。コンバージョン以降のレイヤーには、もうコンサルタントがいるし、ツールもたくさんあるじゃないですか。コンバージョンより手前のMOpsのレイヤーをやっているプレイヤーって、デジタル広告に閉じたところを除くといないな、と思って。
中川:ちょっと思いつかないですね。
網野:そうですよね。そこをわれわれがやっている、という認識です。
中川:ありがとうございます。今後、どのような方にノバセルを使ってもらいたいですか。
柿谷:そうですね。やはり、テレビCMの効果を可視化したい、改善したい方が前提なんですが、最近では大手のクライアントも増えています。おそらく、これまでお付き合いのある広告会社に業務を任せきりで、本当にきちんと運用できているのか不安を感じていらっしゃるお客さまが多いんだと思います。一度成果を明らかにすることで、広告会社とよりよく付き合っていきたいと考える方は、このタイミングで、声をかけていただけたらなと思います。
網野:そうですね。効果を出すことは大前提なんですけど、テレビCM取り引きの透明性を上げたい。
中川:透明性、トランスペアレンシーということですね。
網野:一言で言うとそうですね。広告会社との取り引きの透明性もそうだし、もっと言えば、事業部と宣伝部との関係性しかり、テレビCM取り引きや効果に関する透明性を上げていくことが重要ですね。
中川:広告主をしっかりと支援している広告会社にとっても、ノバセルさんのサービスが導入されることで、不透明さから生まれていた広告主の疑念を解消することができるんですね。
網野:広告主に対しても、広告会社に対しても、透明性を高めることで貢献していけると思います。
マーケターが本来の仕事に取り組める仕組みづくりを目指す
中川:では最後に、お二人から読者の皆さんへのメッセージや今後の目標などをお聞かせください。
柿谷:ノバセルは、サービスとしてようやく認知されはじめてきましたが、まだまだテレビCMの可視化やベンチャー企業のサポート中心といったイメージを持たれています。
最近では、テレビCM以外にもサービスのラインナップが増え、ベンチャーだけでなく大手企業にも扱っていただいています。そうしたノバセルのまだ知られてないサービスの紹介や、指名検索の重要性や考え方、テレビCMの運用ノウハウなどを、ノバセル オープンラボというポータルサイトで紹介しています。
オウンドメディアでこうした情報発信を行っているのは、業界でノバセルだけじゃないかと思います。いろいろな業界のテレビCMの効果を丸裸にしていますし、どのようなテレビCMを作れば高い効果が得られる、といった通常あまりお見せしないレベルのノウハウまで公開しているので、ぜひご覧いただきたいです。
ノバセルオープンラボ:https://openlab.novasell.com/
中川:ありがとうございます。
網野:ノバセルでは、マーケターの仕事は「確率の管理」と「価値の創造」だと考えています。確率の管理とは、データドリブンの意思決定と、その仕組み化によってマーケティング投資の勝率を向上させることです。MOpsの話ですね。価値の創造というのは、誰も気付いていないお客さまの課題やニーズを見つけ、答えを提供することです。答えの提供の方法は商品だったり広告だったりなんですが、この誰も気付いていない課題やニーズを見つけることが価値の創造だと思うんです。
昨今、データや取り扱うメディアが非常に増えていて、そこにマーケターが時間を割かれ過ぎている問題があります。それを私たちが意思決定に必要なデータと分析システムを使い、できる限り自動化・効率化することで、本来マーケターがやるべき価値の創造に時間を割いてもらうんです。これが、ノバセルが言う「マーケティングの民主化」の意味だと思っていますし、引き続き取り組んでいきたいです。
私自身も、ストラテジックプランナーをやっていた頃に、どんどんデータ分析の仕事が増え、大事だとは理解しているんですけど、これを手動でやり続けるのはかなり不毛だな、とずっと思っていたんです。広告主にとっても、広告会社にとっても、確率の管理の仕組み化は必要で、価値の創造のための時間をつくりたい、と思ったことがノバセルに入った理由でもあり、今後やりたいことでもあります。
中川:ありがとうございます。確率の管理っていうのは確かに、おっしゃるとおりですね。アタラの運用型広告レポート作成支援システムの「glu」も、レポーティングで疲弊していく人間を少なくしたい、という開発思想から生まれました。
一日中Excelを触っているような仕事をしている人が2、3年で辞めてしまうのを山ほど見てきて、この人たちがもっと華々しい、楽しくて、わくわくする仕事ができるように、とgluの前身のアプリケーションをつくったという感じでしたね。
柿谷:広告会社の場合、ずっとレポートを作っていますからね。
中川:だから面白くなくて辞めちゃうという。
柿谷:そうですね。
網野:アタラさんとノバセルは基本的に同じ思想なんでしょうね。
中川:はい。大変シンパシーを感じています。たくさんお話しいただいて、ありがとうございました。
網野:ありがとうございました。