日本テレビに聞く:番組内容の文脈を読み取って動画広告を配信する「コンテクスチュアル広告」とは

日本テレビインタビュー

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地上波の民間放送同様、途中で広告が流れるものの無料で番組を見られる「AVOD(Advertising Video On Demand)」サービスの利用が拡大しています。民間放送各局による見逃し無料配信動画サービス「TVer」などが代表的です。このAVODに配信される広告を、動画コンテンツの内容の文脈に合わせて自動で配信するのが、日本テレビの「コンテクスチュアル広告」です。今回は、日本テレビ放送網株式会社(以下、日本テレビ)の大驛貴士さんに、コンテクスチュアル広告登場の背景、サービスの内容、どうやって文脈を読み取るのかといった機能などについて、お話を伺いました。

話し手:
日本テレビ放送網株式会社
DX推進局データ戦略部
主任 大驛貴士さん

聞き手:
アタラ合同会社
CEO 杉原剛

動画コンテンツを所有するテレビ局ならではのサービスとして誕生

杉原:会社とご自身の自己紹介をお願いします。

大驛:日本テレビ放送網株式会社のDX推進局データ戦略部の大驛(おおえき)と申します。広告会社に8年間勤めた後、2年前に日本テレビに入社しました。私の担当は、日本テレビの営業担当者が、地上波でもデジタルでも広告を販促しやすい環境を、データをもってサポートすること、つまり、データを使った営業の後方支援をミッションとしています。

杉原:前職でもデータを使った後方支援のようなことをされていたのですか。

大驛:前職では、運用型広告から始まり、広告会社独自かつ優位性のあるツールの開発をしたりしていました。

杉原:大驛さんの、まさに専門分野ですよね。では、コンテクスチュアル広告の開発の背景や目的を教えていただけますか。

大驛:この「コンテクスチュアル広告」は、見逃し無料配信動画サービスの「TVer」など、AVOD(Advertising Video On Demand)で流れるコンテンツの文脈で広告を配信することができる、ターゲティング手法です。日本テレビ独自の広告商品になります。

例えば、仕事終わりにビールを飲むシーンがあるドラマの広告に、ビール会社様の広告を出稿することができます。

私が入社したタイミングで、すでに、このコンテクスチュアル広告の発想はありました。事前に画像を解析して物体を認識したり、発言、発話を認識したりして、それぞれをキーワード化して、それに沿ったコンテクスチュアルな(コンテンツの文脈に合った)広告を配信したい、という構想はもともとあったわけです。

テレビ局として優位なのは、番組のコンテンツを持っている、というところです。しかも、そのコンテンツをTVerに配信する前に持っているので、その優位性を活用できる機能というのはなんだろう、というところでコンテクスチュアル広告に行き着いています。目的は、この優位性を生かしてAVOD広告配信在庫を有効活用すること、そして、広告単価を向上させること、つまり、日本テレビとして広告の価値を最大化することになります。

杉原:実際のサービス内容について教えてください。

大驛:私が所属するデータ戦略部は「FACTly」というDMP(Data Management Platform)を持っています。FACTlyの由来は「データ(fact)を元に判断をする環境」の提供と「データを生産する工場(factory)」という二つの意味が込められています。

コンテクスチュアル広告は、このFACTlyをデータ開発利用基盤として、AVODでの配信コンテンツの内容を配信前に分析します。そこからラベルを付与して、コンテンツに応じた広告配信を行っています。

杉原:内製ですか?

大驛:内製です。

杉原:すごいですね。

大驛:内製しているので、自分たちでデータ分析して、それを広告として配信に載せられることが強みです。

杉原:なぜ内製に踏み切ったのですか。

大驛:理由は大きく二つあります。開発を業者に丸投げする方法もありますが、自分たちで可視化したい、粒度や内容も自分たちで決めたい、というのがまずはあります。

もう1点は、地上波の視聴データにおいては物理的に自局外に出してはいけない、という決まりがあります。また、個人情報の問題もあります。DMPだけでなく、同時にCDP(Customer Data Platform)も保有していて、そこには個人情報が格納してあります。これらを外に出して開発を丸投げする、というわけにはいかなかったのも大きな理由です。

杉原:それではどうしても内製志向になりますね。

大驛:そうですね。ただ、DMPの環境の中ではアドID、個人関連情報まででとどめている一方で、CDPに関しては個人情報を含んでいるので、そこを完全に分離して、オーナーも変えて、ということが発生するのが大変なところではあります。

杉原:なるほど、よく分かりました。今はもう販売開始しているのですか。

大驛:はい、販売開始しています。広告会社経由です。

杉原:直販もしているんですか。

大驛:直販は想定していません。広告会社を通じて購入していただく必要があります。地上波だと、テレビ視聴データをもとに「15秒CMを1本単位」で購入できるSAS(Smart Ad Sales)という広告商品があります。広告会社が直接購入できるもので、最近TVerでも対応してきていますが、そこにはコンテクスチュアル広告は載せていません。

前提として、TVerの広告には予約型と運用型の2種類があります。運用型広告はTVer自身が販売していて、日本テレビとして販売するのは予約型のほうです。AVOD広告の需要が増加していることから、予約型の販売で売上を拡大することが重要なミッションになっています。

杉原:今、配信面はTVerのみですか。

大驛:TVerと「日テレ無料!(TADA)」という日本テレビのAVODの二つです。

番組に登場する物体、話の内容、番組情報などから文脈を検知

杉原:どのようにしてコンテンツ文脈を検知しているのですか。

大驛:検知手法は、こちらの図にあるとおり大きく三つあります。

コンテクスチュアル広告の検知方法

一つ目が物体認識。これは動画コンテンツに含まれる物体を検知するものです。字幕は、実際に動画コンテンツでの発話や字幕を検知する。三つ目の番組データとは、日本テレビが持っているテレビ欄に載せるような詳細な番組データを単語レベルに分解して検知するものです。この番組データは検知手法の中でもキーになっていると思います。

なお、字幕による検知については、2種類のデータを使っています。一つは、実際に動画コンテンツ内で話されている言葉をGoogle CloudのSpeech-to-Textで取ってきています。もう一つは、ドラマだとすでに話す内容がテキスト化されているので、より精緻な文字データを引っ張ってくることができます。一言一句ほぼそのテキストのまま話されているので、もし「ビール」「乾杯」という台詞があれば、そこを読み取ってくる形になっています。

13カテゴリに分類して配信。番組内容によって配信しない選択も可能

杉原:他にはどんな機能がありますか。

大驛:「カテゴリ分類機能」があります。物体認識、字幕データ、番組データから得たキーワードから、日本テレビが定義するカテゴリに自動的に分類されて、広告主や広告会社がカテゴリ軸からコンテクスチュアル広告を購入することができる、というものです。ここの開発には、かなり力を入れました。

杉原:カテゴリ分類、難しいところですもんね。

大驛:はい。ものすごく難しくて。

杉原:すごく分かります。細かくしすぎても駄目だし。ざっくりしすぎていても使えない。

大驛:そもそも、なぜカテゴリ分類が必要なのかというと、例えば「ビール」に対しては、ビール瓶もあるし、アルコールでもくくれないし、アルコールなら焼酎は入るのか入らないのか…など、いちいち設定しないといけなくて大変です。そこに関しては、なるべく包括したカテゴリが欲しかったのが一つあります。

もう一つは、カテゴリを細かくしすぎると、広告在庫が足りなくなることです。コンテクスチュアル広告の一番ややこしいこととして、未来に何のラベルが付与されるのかが分かるのが、前日や直前なんですよね。なので、どれくらいボリュームが出るかが見えない中で、かつ予約型なので、ある程度インプレッションを保証しなければならないので、まとめたいっていう気持ちが強くあり、カテゴリ分類機能を設けています。どちらかというと、二つ目の理由のほうが大きいかなと思っています。

現在のカテゴリは、この図のとおり13個あります。

新カテゴリ分類の仕組み

このカテゴリ分類は、インターネット広告業界団体のIAB(Interactive Advertising Bureau)による海外のインターネット広告の分類を参考に、日本テレビが持っているコンテンツ、既存でいる広告主の皆さまのジャンルと、これから売っていきたいジャンルをまとめて抜粋した形になっています。

杉原:僕も同じような経験があって。オーバーチュアにいたときにも、カテゴライゼーションをどこまで細かくするか、というのが課題でした。米国のものを、そのまま持ってきても駄目ですし。例えば、この12番の「クルマ・交通」の中には、自動車という分類が第1カテゴリとしてあったとすると、メーカーの自動車もあれば中古車販売の自動車もある、これどう分けるの?みたいなことが出てきますよね。そこはあんまり御社としては、細かく分けなくてもいい、という考え方なのでしょうか。

大驛:もうそこも自動化してしまえ、と思っていまして。その部分を正しく分類できるような処理はしています。

杉原:新しいビジネスモデルは次々出てくるし、永遠のテーマですよね。

大驛:カテゴリ機能で一番良かったな、と思うのが「除外」です。文脈にそぐわないコンテンツには広告を配信しない、ということができます。(※)

例えば、事件などを扱う番組で「飲酒運転」を扱っている場合、そこではアルコール飲料に関する広告を配信したくないクライアントは当然いらっしゃいます。人気番組だったとしてもです。そういったときに「飲酒運転」と登録しておけば、自動的にそこには配信されないようになっています。こうした機能で、少しでもクライアントの心理的負荷を減らしたいと思っています。

※通常配信で除外は行っていません

杉原:すごく気が利いていると思います。日本では特にやったほうがいいかもしれないですよね。

アタラの杉原と日テレの大驛氏

動画コンテンツを「FACTly」が読み込み、広告配信されるまでを完全自動化

杉原:では、広告配信の流れを教えてください。

大驛:流れとしては、公開前の動画コンテンツをFACTlyが読み込んで、それぞれの手段で検知をして、カテゴリに振り分けをして、リストを生成します。そして、SSPのGAMに送信します。GAM側からすれば、カテゴリ分類で選択できるようになっているので、データ戦略部として手を動かすことはなく完全自動化されている形になっています。

動画検知から配信までの流れ

杉原:広告は、動画コンテンツ中のどのタイミングで配信されるのですか。

大驛:通常、動画コンテンツが始まる前、途中、動画コンテンツの後に配信されます。

Tableauで配信ボリュームを可視化。適切な配信量を見越した提案が可能に

大驛:あと、Tableauを利用して、コンテクスチュアル広告の広告配信ボリュームの可視化に努めています。

例えば、こちらの画面では2023年5月の「フード・外食」カテゴリにひも付くキーワードが一覧で表示されています。それを頻出キーワードごとに可視化(下図、左上)して「鶏肉や豚肉って意外とインプレッションが多いんだな」といった形で、それぞれのキーワードでどれくらい表示されているかを見ることができます。それにひも付いて、番組ごとに、どのようなキーワードが付与されているのかも見ることができます。

カテゴリ・キーワード検索

杉原:これは社内用ですか。

大驛:そうですね。当初、社内用に作っていました。先ほどもお話ししたとおり、未来の配信量を予測することは難しいのですが、過去の傾向値を探ることで適切な配信量に応じた金額でのご提案が可能になるように、という目的でです。

社内用だったのですが、広告会社の皆さんに説明するときに使うと「ぜひ見たい」と言われ、これをきっかけに広告の購入につながった、という例もあります。

杉原:これは欲しいでしょうね。

大驛:そうなんですよね。イメージがつきやすいのと、まったく違うところにひも付いていない、ということが分かると安心されるのかなと思います。

杉原:実数では見せづらいかもしれないけど、スコアリングして見せるというのは、ありかもしれませんね。僕だったら見たいかな。

大驛:他にも、カテゴリごとの推移を見ることもできます。例えば、フード・外食系のカテゴリが2023年5月増えているとか、インプレッション数も増えているといったことが見られます。かつ、それぞれの番組が何のキーワードにひも付いているのかも見られます。

杉原:番組にひも付いているのは面白いですね。

大驛:例えば、通常だとお笑いやバラエティのカテゴリに分類される番組で、ある放送回では館山の地魚料理とか、ご当地カレーなどが入ってくる。そこを見過ごさずに広告を配信するといったことが重要になります。

杉原:だからコンテクスチュアルなんですね。

大驛:今まで、おそらく一つ一つ提案していたんです。「この放送回は、ご当地グルメ特集で浅草のコーヒー屋さんに行くので、フード・外食として出しましょう」といった形で提案していたのを、自動化した形ですね。

杉原:効率化になりますね、確かに。レポーティングはどうされているのですか。

大驛:レポーティングはこちらでやります。

杉原:月に1回くらいの頻度ですか。

大驛:広告掲載が2週間だったら2週間で終わりますが、配信終了後にもレポートを出しています。コンテクスチュアル広告だから何か新しいレポートを出しているというわけではなく、ブランドリフト調査などを併せて行っています。広告接触者(ランダム配信/コンテクスチュアル広告配信)、非接触者、の3セグメントで調査を実施しています。

これまで実際に何回か調査を行いましたが、感覚値としては、好意や情報欲求よりも、どちらかというと、より深い「興味・関心」や「購買意向」のほうが高くなる傾向はあります。まだまだ研究中ですね。

日テレの大驛氏

地上波放送とライブ配信のコンテクスチュアル広告を模索したい

杉原:ありがとうございます。今後の展望を教えてもらえますか。

大驛:はい。リアルタイムでもコンテンツ内容に応じた広告配信をしてみたいですね。

現在はAVODの予約型ですが、本当はもっとTVerの広告在庫があったら、ビールが出現したタイミングの次のタイミングだけ広告を出したい、という需要もあると思うんです。技術的にも可能だとは思うのですが、それをやってしまうと、どうしてもボリュームが足りなくなってしまいますので、なかなか踏み切れません。

だからこそ、リアルタイムでも配信してみたいです。リアルタイムというのは、TVerも今はライブ配信があるので、そこで配信するイメージです。地上波放送でもやってみたいですが、なかなかハードルが高いです。

杉原:難しそうですね。何がいちばん難しいポイントになるでしょうか。

大驛:そうですね。まずは地上波広告が、運用型に対応する必要がありますよね。ぎりぎりの配信、ぎりぎりの放送に対応していく広告商品として仕組み作りが必要です。

いち部署でできるレベルではないので、他部署とも話しながら模索していきたいと思っています。

杉原:ものすごく面白い世界ですね。

大驛:実現できると、すごいですよね。ただ、既存のルールや仕組みをたくさん変えなければいけないという大きな課題がありますね。

杉原:確かに。

大驛:デジタル広告だと本当に自由に自動で入札できるからよいのですが、どういう仕組みにするかは、とても大事だと思います。

杉原:地上波運用型広告、とても楽しみにしています。実現したら、ぜひ取材させてください。今日はありがとうございました。

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