impact.comに聞く:パートナーシップマネジメント・プラットフォームが生み出す新しい価値とは

impact.comインタビューアイキャッチ

アタラ 伴走型インハウス化支援サービス

2022年4月、パートナーシップマネジメント・プラットフォーム「impact.com」が日本市場に本格参入しました。先日公開した対談記事では、日本市場への参入について、Impact Tech Japan合同会社 日本担当カントリーマネージャーの松崎亮さんにお話を伺いました。

今回は、impact.comのアジア・太平洋地域のManaging Directorであるアダム・ファーネスさんに、パートナーシップマネジメントが生み出す価値、そしてその世界とはどのようなものか、日本市場での今後の展望などについてお話を伺いました。

話し手:
impact.com
Managing Director, APAC
アダム・ファーネスさん

Impact Tech Japan合同会社
日本担当カントリーマネージャー
松崎亮さん

聞き手:
アタラ合同会社
CEO 杉原剛

企業と個人・団体を結ぶパートナーシップマネジメント・プラットフォーム

杉原:自己紹介および事業紹介をお願いできますか。

アダム:アダム・ファーネスと申します。impact.comでアジア太平洋地域のマネージング・ディレクターを務めています。impact.comに入社して5年ですが、この間に、シドニーに4人しかいなかったメンバーが、シドニー、メルボルン、シンガポール、上海、そして東京に至るまで、約90人の組織に成長しました。私自身の主たるキャリアは、デジタル・テクノロジー、セールス、経営管理、統合戦略などでした。デジタルが中心でしたがテレビとラジオにも長期間従事し、ここ10年間はプログラマティック広告とSaaSテクノロジーが中心です。

impact.comは、自分たちのことを「パートナーシップマネジメント・プラットフォーム」と呼んでいます。私たちは、あらゆる個人や企業が利用できるリファラル型のパートナーシップのテクノロジーを提供しています。

リファラル型のパートナーシップでは、パートナーは通常、何らかのビジネス成果や売上に基づいて報酬を得ます。impact.comのプラットフォームでは、キャンペーンを実施し、パートナーとの契約などの合意形成もできます。そして、どのパートナーがうまくいき、どこがうまくいかなかったか、どれくらいの売上を上げたか、といったレポートを作成することができます。また、最適化も可能です。あるパートナーグループが本当にうまくいっているのであれば、そのパートナーグループにもっと投資して、より大きなビジネス成果を得ることができますし、プラットフォーム経由でのインセンティブ(報酬)の支払いも可能です。

私たちは、このテクノロジーをSaaSでライセンス供与しています。Salesforce、HubSpot、Marketoがセールスやマーケティングのバックエンドを自動化したのと同じことを、パートナーシップの領域で行っています。

なぜ今、パートナーシップマネジメントが重要なのか

杉原:なぜ今、パートナーシップマネジメントが重要なのでしょうか。

アダム:いい質問ですね。消費者は今、広告に不信感を持っています。特にデジタル空間では、広告に追いかけ回され、ポップアップが目の前に表れ、私たちに関するデータを活用した過剰な情報提供が行われるようになりました。私たちの中には実際に「広告が嫌いだ」と言い切る人もいます。

それは何を意味するかというと、あなたがブランドなら、どうやって自分のブランドが今のモダンな消費者の目に触れるようにすればよいのか、ということです。私たちは「何か製品がほしい」もしくは「サービスを利用したい」と思うと、まず関連する情報を調べます。信頼するパッブリシャーの記事を読んだり、ベストだと思う人をフォローしたりします。

また、KOL(※Key Opinion Leaderの略。世の中に影響力のある人物)いわゆるインフルエンサーやコンテンツクリエイターなどを信頼し、フォローする傾向にあり、自分たちが関わりたいと思うブランドを探し、そのブランドが好きになっていきます。そして、ロイヤリティプログラムや会員制のクラブにディスカウントを求めて加入するかもしれません。消費者として、私たちはそういう行動をとっています。ですから、ブランドは、もし認知や売上を伸ばしたいのならば、消費者がいるところに入り込まなければなりません。その点で、パートナーシップというのは非常に興味深い役割を担っています。

身近な例で、あるアフィリエイターやインフルエンサーの持つWebサイト上で、ブランドや製品について書かれた記事があり、その記事には消費者を購入へと導くリンクが張られているケースがあります。つまり、消費者がコンテンツとして読むようなプロモーションを、個人でもインフルエンサーになって提供できるわけですね。企業は、従来型のメディアだけでなく、アフィリエイターやインフルエンサー、コンテンツパブリッシャーと一対一の関係をより築くことができるようになりました。

しかし、それを大きな規模で独自のエコシステムと強力なパートナーチャネルを構築するには、可能にするテクノロジーが必要です。そこで、パートナーシップマネジメント・プラットフォームが登場します。パートナーシップマネジメント・プラットフォームは、ブランドに対して、大規模なパートナーシップマネジメントを実現することができます。

現在、Google、Facebookの二強が広告収入の90%を占めています。その状況の中でブランドは、自分たちのエコシステムとビジネスの運命を自分たちでコントロールする必要がある、と考えるようになってきました。そのため、私たちが提供するようなパートナーシップには、非常に強い追い風となっています。

impact.comアダム氏

杉原:広告視点で言うと、今はさまざまな環境変化が起きていて、ブランドは混乱し、どこにどのようにお金を使い、どのように顧客を獲得すべきかを再考している状況ですよね。なので、業界のそういった状況に加え、一部のプラットフォーマーが業界を寡占している状況がパートナーシップに好影響をもたらしている、というのは納得できます。

アダム:はい、まったくそのとおりです。ポストクッキーをはじめ、課題がたくさんある中でブランドが考えているのは「どうすればビジネスの未来を確保できるか」ということです。もし、ウォールドガーデン(※膨大なユーザー数を持ち、IDにひも付く形で閉じた世界でデータが使われる巨大プラットフォームのこと)を相手にするだけなら、自分自身のビジネスをコントロールすることはできません。そこで、自分のビジネスを共に推進してくれる企業や個人と一緒に仕事をすることで、自分自身のエコシステムを構築し、コントロールを取り戻します。そして、そのエコシステムを追求し、コミュニティのパートナーを拡大していきます。そうすることで、自分がコントロールできる、持続可能な組織を構築することができるのです。

企業同士や企業と多くの個人の連携が価値を高め合い成長につながる

杉原:パートナーシップにもさまざまな形がありますが、御社ではどの分野が最も成長しているのでしょうか。

アダム:まずはアフィリエイトです。アフィリエイトはビジネスの成果に対して報酬を支払う仕組みですが、従来のアフィリエイトに加え、キャッシュバッククーポン、リワードスタイルなど多様化していることがあります。また、企業と企業、企業と個人のさまざまな関係性を、例えば成果報酬型のモデルに落とし込んで相互送客などの共同マーケティングを行うこともできます。

私たちが成長を実感しているのは、企業間におけるビジネスです。同じような考えを持つブランド同士が協力し、オーディエンスを共有し、互いに価値を高める方法を模索しています。パートナー間のビジネスフローやユーザーエクスペリエンスの簡素化、割引やオファーの提供、それ以外の何らかの付加価値の付与などさまざまな形が考えられますが、これは本当に強力な取り組みです。このような取り組みが生まれ、確実に成長を続けていることを私たちは実感しています。

杉原:TikTok、Instagram、Pinterestなどのプラットフォームは、そのプラットフォームでコンテンツを発信してくれるクリエイターを獲得しようと躍起になっています。プラットフォームはクリエイターの収益化を支援するプログラムを立ち上げていますが、これらとはどう関係があるのでしょうか。

アダム:答えは簡単です。私たちは、プラットフォームを限定せずに、ブランドとインフルエンサーやコンテンツクリエイターなどが直接関係を持てるようなインフラを提供するわけです。例えばですが、ユーチューバーが、あるブランドや製品に関する動画コンテンツをあげ、掲載可能な場所に購入できる場所へのリンクが張られています。このリンクをimpact.comを利用しているブランドが、われわれの管理ツールから生成していたりします。すると、例えばYouTubeを視聴し、詳細欄のリンクをクリックして購入した人に対しては、impact.comの管理上でトラッキングできるので、インフルエンサーマーケティングを行ったブランドは、実際に販売した商品に基づいてインフルエンサーに報酬を支払うことができるようになっています。

インフルエンサーの側も、私たちのプラットフォームにサインアップして、パブリッシャーパートナーとして登録することができます。そうすると、プラットフォームから自分のSNSチャネルなどでプロモートするブランドキャンペーンのトラッキングリンクを入手して載せたり、QRコードやプロモーションコードを発行したりなど、さまざまなことができるようになります。つまり、インフルエンサーやコンテンツクリエイターはプラットフォームの一方に位置し、ブランドはプラットフォームのもう一方に位置し、両者は連携しているのです。こういったことから、私たちは、クリエイター市場が成長することを確信しています。セレブリティほどではなく小規模でも、親密な、より忠実で熱心なファンを持つ人たちは、今後も成長し続けるでしょう。

そして、ブランド側は、その流れから多数のパートナーとのやりとり全般を管理できるテクノロジーが必要です。ここが私たちが付加価値を提供できる領域です。

プレイヤー同士が生み出すエコシステムに信頼と透明性を

杉原:ブランドとインフルエンサーの間に広告代理店が介入するケースが多いのでしょうか、それとも多くの企業が自社でプラットフォームを運用しているのでしょうか。

アダム:両方ですね。つまり、impact.comが運用サービスを提供するわけではないので、impact.comから認定されたエージェンシー、コンサルタント、あるいはブランドの社内リソースが必要です。PXA(Parnterships EXperience Academy)と呼ばれる社内外で利用されているトレーニングアカデミーと認定資格があり、パートナーエージェンシーの多くは認定エージェンシーです。PXAは、どなたでも無料でパートナーシップについて学び、テクノロジーの使い方を学ぶことができるので、興味ある方がいらっしゃれば、ぜひ試してみてください。

話を戻しますが、私たちにとって重要なプレイヤーは、ブランド、エージェンシーおよびコンサルタント、そしてパブリッシャーおよびパートナーの三者です。私たちが目指すのは、このエコシステムの中で生産性を高めることだと考えています。このエコシステムからできる限り摩擦をなくし、信頼と透明性を確保することで、自信を持って企業やパブリッシャーがよりパートナーシップを持った上でビジネスを伸ばすことができるようにしたいと考えています。

ソリューション

また、弊社が運用サービスをするわけではない、とお伝えしましたが、それでもカスタマーサクセスマネージャーが全てのアカウントにアサインされ、クライアントやエージェンシーへのサポートも行っています。インハウス運用をされるクライアントであっても、運用代行をされているエージェンシーであっても、弊社の大切なクライアントでありますので、プラットフォームの立ち位置としてできるサポートを行うことが、エコシステムの継続的な発展につながると考えています。

impact.comの活用で「企業×企業×個人」のWin-Win-Winを実現できる

Canva、HubSpotの場合

杉原:impact.comの活用事例を教えてください。

アダム:CanvaとHubSpotのパートナーシップはimpact.comが担っています。Canvaはグローバルで人気のあるデザインプラットフォームです。世界中に4万以上のパートナーがいて、その中には実際にインセンティブを提供しているCanvaのクリエイティブ・コミュニティも含まれています。

Canvaのクリエイティブ・コミュニティに参加しているのは、Canvaのプラットフォームのエキスパート・ユーザーです。彼らのオーディエンスの中には、アフィリエイトモデルで、Canvaのプラットフォームを紹介販売することで報酬を得ているメンバーも多くいます。また、彼らはいろんな形で、世界中のコミュニティを活性化させています。

そんな中、CanvaとHubSpotの両社は私たちのテクノロジーを導入していますが、実はCanvaとHubSpotの間も連携されています。HubSpotはマーケティングプラットフォーム、Canvasはデザインプラットフォームですが、例えば、HubSpotであるマーケターがニュースレターをデザインする際に、優れたデザインテンプレートがあるとより良いクリエイティブになりますよね。そのようなモーメントでHubSpotユーザーにCanvaプラットフォームが紹介され、優れたデザインを簡単に利用してHubSpotから送信することができます。この流れで、ユーザーがどこかのタイミングでCanvaの有料購読者に転換すると、HubSpotはCanvaからユーザー送客に対する報酬を受け取るスキームです。ユーザー視点から考えると、簡単で優れたデザインプラットフォームを使い、それを利用しているマーケティングツールで発信できる、という点に大きな価値があります。こういったモデルのパートナーシップマーケティングにおいて、impact.comプラットフォームがトラッキングや成果報酬にまつわる契約、自動決済などワンストップで行っており、これまでになかった企業間の関係を築くことができています。

SpotifyとTicketmasterの場合

アダム:別の例としては、音楽ストリーミングサービスのSpotifyと、イベントのチケットを購入できるTicketmasterのパートナーシップビジネスがあります。Spotifyのアプリでお気に入りのアーティストの音楽を聴いていると、そのアーティストが自分の住んでいる地域で開催するコンサート情報が表示され、Ticketmasterのサービスへリダイレクトされ、チケットを購入することができる仕組みです。

こちらはアプリ同士のネイティブな連携であり、チケットの販売が成立するごとにTicketmasterからSpotifyにやはり報酬を支払っています。Spotifyとしてはメディアとして報酬を得られること、TicketmasterのWinは新規顧客の獲得、ユーザーのWinは、自分の好きなアーティストが出演するコンサート情報やチケットそのものを入手したいタイミングでできるという体験にあります。エコシステム全体にとってのWin-Win-Winを実現できますし、その実現のためにはこうした連携が必要なのです。このような事例は数多くあり、実に興味深いものだと思います。

アフィリエイトの世界へのプログラマティック導入で全員の繁栄を目指す

杉原:これまでになかったような企業間のパートナーシップのアイデアは、誰が思いつくのでしょうか。

アダム:これもいろいろなケースがありますが、多くのケースではエージェンシーや事業社内の担当者であることが多いです。impact.comにもパブリッシャーチームがあり、そうしたアイデアを考えるだけでなく、グローバルで生まれているベストプラクティスを引き出し、紹介することもできます。例えば、クライアントやエージェンシーとのQBR(※Quarterly Business Reviewの略。四半期ごとのビジネスレビュー)やロードマップミーティングで、そういったプレゼンテーションも数多く行っています。

杉原:日本においてもアフィリエイトは歴史も長く、ASP(※Affiliate Service Providerの略。アフィリエイト広告において広告主と媒体、アフィリエイターを仲介する)を中心に、大きな市場になっていますが、課題もあります。一方で、Spotifyのような企業間のビジネス連携は、日本の多くの企業にとって、かなり新しい概念だと思います。やはり、どうやったらアイデアが創出できるのかが興味のあるところですし、御社のビジネス成長の鍵を握るようにも思います。

アダム:はい、伝統的なアフィリエイトの世界はなくなってはいませんが、われわれのテクノロジーは何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのかを見ることができる機能など、透明性、運営のコントロール、そして効率性を提供できます。日本は、アフィリエイト市場の歴史も長く、また巨大であるにも関わらず、ブラックボックスである要素が昔から多く、ブランドからは好意的に思われていない部分も多いと認識しています。ブランドやパブリッシャーサイドのパートナーが、よりコントロールできるようになることで、収益性の高い、有益なビジネス成果を得ることができるのです。これはとても重要な要素です。

次に、企業間のビジネス連携のアイデアですが、これはどこから出てきてもおかしくないものです。業界のリーダー的な存在の企業がいて、その企業が新しいことを始めると、他のブランドも追随することも多いと思います。そして、そのような企業が新しい取り組みを試行錯誤しながら時間をかけて、ケースが蓄積していくのです。

私たちは日本市場を長い目で見ており、ただ参入してみてどうなるかを見ているわけではないのです。綿密なデューデリジェンスを1年以上にわたって行い、多くのフィードバックを得た結果、今が私たちにとって参入すべき時期であると考えました。まずは時間をかけてチームを構築していくつもりです。

アドネットワークの時代を経て、DSPが登場したとき、DSPが広告ネットワークにどんな影響を及ぼしたか。DSPは広告主に対して、より効率的に広告配信ができるようにしてくれました。DSPは、エコシステムに信頼性と透明性をもたらしました。10年前にプログラマティック広告で起きたようなことが、アフィリエイトの世界でも再び起きているのです。

アフィリエイトの世界は、テクノロジーやプログラマティック(※データに基づき、プラットフォームを通して自動で取引されること)を渇望しているマーケットだと思います。日本でもマーケットが変革するために、われわれだけでなく競合とみられるような各プレイヤー含め「何が正しいか」という軸でコミュニティを構築し、私たち全員がどのように繁栄していくか。このようなことを、私たちは目指しています。

グローバルに考えローカルに行動。日本市場で求められていることを実現していく

杉原:面白いですね。最後に日本市場に対する戦略を教えてください。

アダム:グローバルに考え、ローカルに行動する。時にはハイパーローカルに行動することも大切だと考えています。日本では、現地支社とチームを一から構築し、クライアントやパートナーのフィードバックを受けながら、必要なローカライゼーションをすでに行っています。どうすればローカルのコミュニティにとってより良いものになるのか。そして、ローカルのマーケットで得た知見をどう生かすか。欧米の情報をうのみにするのではなく、各マーケットのチームの意見に耳を傾けることが大事です。欧米でうまくいっていることを他マーケットでそのまま展開して、完全に失敗している例もたくさん見てきました。グローバルに考え、ローカルに行動し、そして必要なときにはハイパーローカルに行動することが、戦略の基本です。

組織面では、セールスと技術的なソリューション・アーキテクト分野は人材含めすでに整っており、クライアントへサービスをさせていただいています。また、カスタマーサクセスおよびパブリッシャー向き合いのチーム編成のために、まさに絶賛人員を採用中です。ご興味ある方は、ぜひホームページやLinkedInからご連絡ください。2023年後半には、さらにいくつかの職種を採用開始する予定です。

日本でのビジネスが成功するように、APACやグローバルからも引き続きサポートを行ってまいります。そしてタイミングを見計らい、必要な投資を行い、成長を継続させていければと思っています。私たちは長期的な目線で日本マーケットを見ているので、必要とされることや求められることを、きちんと行っていきたいと思っています。

杉原:私は、impact.comのプラットフォームはアフィリエイトやパートナーシップの取り組みをインハウス化するものでもあると思っていて、そういった観点でも注目しております。本日はありがとうございました。

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