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メディアクオリティの現状とプログラマティック広告のこれからを聞く
2019年11月に公表された日本アドバタイザーズ協会(JAA)による「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を皮切りに、JAA、日本広告業協会(JAAA)、日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の3団体によるJICDAQ宣言と一般社団法人デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の設立、さらにはJICDAQの認証評価の本格開始と、アドフラウドやブランドセーフティといったデジタル広告の品質課題に対する関心が日本においても急速に高まっています。
※参考リンク:
一方で、Integral Ad Science(IAS)の2021年上半期版「メディアクオリティ レポート」によれば、調査対象国別において日本はアドフラウドでワースト2位(デスクトップディスプレイ)、ビューアビリティでワースト1位(デスクトップならびにモバイルウェブディスプレイ)という結果となっています。
今回の話し手:IAS日本支社の山口武さん
そこで今回は、IAS日本支社 カントリーマネージャーの山口武さんに、日本におけるメディアクオリティの現状とプログラマティック広告のこれからについてお聞きしました。
話し手:
IAS日本支社
カントリーマネージャー 山口武さん
聞き手:
アタラ合同会社
マネージャー/コンサルタント 高瀬優
日本で関心の高いブランドセーフティとビューアビリティの改善の兆し
高瀬:まず、2021年上半期の「メディアクオリティ レポート」のポイントを簡単に教えてください。
山口:フォーカスすべき点は「アドフラウド」と「ブランドセーフティ」「ビューアビリティ」の三つで、最も注目すべき点は「アドフラウド」です。数字全体で見ていくと、まずビューアビリティについて、他の国と比較して日本国内は54.8%でワースト1位になってしまっています。われわれが計測している各国のビューアビリティと比較して一番低い数字というのは懸念すべき点だと思っています。グローバル平均では現状14.7ポイントも差が開いてきています。
アドフラウドに関しては、今までワースト1位が続いていたのですが、今回はワースト2位です(※デスクトップディスプレイ)。かつ、グローバルで唯一、年々アドフラウド率が上がっている国というのが2020年の下半期までの動向でしたが、ワースト1位からワースト2位に初めて回復したという意味では良くなってきている兆しはあります。ただ、まだまだワースト2位、グローバル平均の2.6倍という状況は変わらないので、安心できる状況ではありません。
一方、ブランドセーフティに関しては、ブランドセーフティに加え、ブランドスータビリティ(適合性)を新たな数値として見始めておりますが、メディアクオリティ レポートではまだブランドリスクだけで平均値を出しています。ブランドセーフティとブランドスータビリティは概念的にかぶるところも多く出てくるので、ブランドセーフティ一つで判断できない状況なのですが、適正・不適正なもの、あとブランド毀損につながりそうなものを丸ごと集めると、2021年の上半期における日本のブランドリスクは3.7%という状況になっています。ですので、ブランドセーフティに限って言えば状況はかなり良くなってきています。
グローバル平均だとまだまだトップレベルで問題があるという状況は変わりませんが、大幅な改善が見られている点は、おそらくJICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)や業界全体の動きに起因していると考えられます。
高瀬:アドベリフィケーションの主要な項目となる「アドフラウド」「ビューアビリティ」「ブランドセーフティ」といった三つの指標のうち、日本においてはJICDAQ(一般社団法人デジタル広告品質認証機構)の影響もあってブランドセーフティヘの関心が最も高く、その結果として三つの指標の中でブランドセーフティが最も改善ができているといえるのではないでしょうか。
山口:そうですね、ブランドセーフティは改善し始めていると思います。まだまだ安心できない状況が続いていますが、日本ではブランドリスクが一時期がくんと下がった時期がありました。ちょうど、東洋経済やNHKの『ネット広告の闇』特集などがあった時期です。ブランドセーフティは広告が掲載される「面」を精査することでどうにか改善できる部分があるので、比較的効果が出やすいところではあります。
どちらかというと、アドフラウドは商流自体の健全化などいろいろと複合的な要素により広告詐欺が入ってきてしまうことが起きるので、すぐに改善するのは難しいといえます。
高瀬:ブランドセーフティは、これまでテレビCMを代表とするマスメディアを中心に広告予算を組んでいた広告主からしても分かりやすい指標なので、アドフラウド、ビューアビリティと比べると理解がしやすいといった意味でも、やはり進んでいるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
山口:そうですね。
高瀬:「メディアクオリティ レポート」を拝見していても、日本のビューアビリティは欧米と比較してかなり低いですよね。かつ、2020年の下半期と比較しても下がっています。日本におけるビューアビリティの改善の兆しについては、どうお考えですか。
山口:今ちょうど見えてきたというか、見え始めているフェーズです。ブランド毀損やアドフラウドなど、いわゆる避けたい問題に対する対策として皆さん捉えていたと思うのですが、どこに出すべきなのかというのが考え方として徐々に浸透し始めています。さらに、Cookieレスの話になってくると「どこでもいいからターゲットオーディエンスに当てていればいいんだよ」という考えは通用しなくなってくるので、広告主の皆さんがあらためて広告配信面と向き合い始めていると思います。どういう媒体に広告を出すべきなのか、もう少しコントロールしていかないといけないというところに意識が傾いてきています。
ですので、われわれの立場としても先ほどのブランドスータビリティにおいては「コンテキストを全体的に見ていきましょう」という方針です。もちろんブランドスータビリティにおけるブロッキングは不適正なものをブロックすることができるのですが、より親和性の高いところをターゲティングしていくこともできるので、そういったデータで活用していただけるケースが海外でも日本でも徐々に出てきています。
高瀬:Cookieレスの話もあって広告配信面に関心が向くようになったという意味では、当然ブランドセーフティの観点もそうですし、あとは実際に広告がきちんと見える場所に配信されているのかという観点からも、ビューアビリティにも関心が高まっているのではないでしょうか。
山口:そうですね。全体的にどういう媒体にどのように広告配信されているのかという部分に関心が向いてくると、やはり広告配信面をしっかり見るようになります。広告配信面を見始めれば広告の出方も気になってくると思います。あとは全体的にメディアに対する考え方が変わってくると、今まで過小評価されていた有料メディアや、良い広告枠・広告面を保持しているメディアの皆さんの価値評価が上がってきます。そうなってくると、どういう場所に広告が出ることがより良い形になるのかという話になります。広告配信面だけではなく広告枠という考えにもつながっていくので、そうなってきてやっとビューアビリティが改善していくのではないかと思います。今だとCookieに当ててクリックさえ出ればいいという感じになってしまっているので、そこから変わるいいチャンスだと考えています。
適合性を重視したブランドセーフティ
高瀬:ちなみに、今やかなり大きなSNSに成長したTikTokについても伺います。御社はTikTok向けのブランド・セーフティ・ソリューションに関しても提供を開始されていますよね。いわゆるSNSのインフィード型の広告におけるブランド・セーフティ・ソリューションは、どのように機能してどういう効果があるのか、簡単に教えていただけますか。
山口:TikTokに関しては、動画解析もすることによって関連性のあるコンテンツの前後に広告が出ているのかどうかを意識しています。
やはり多くの消費者、視聴者が見ているSNSなので、広告主の皆さんとしては、そういった人が集まるメディアに広告を出したいという気持ちがあると思うのです。ただし、ユーザーが作ったコンテンツなので何が起こるかは分かりません。そこに対する恐怖、懐疑心というのも、もちろんあるでしょう。なので、それをできるだけ払拭して、本当に他のテレビや従来の広告を掲載する面と同じように安心・安全な場所を提供しますよという取り組みが、こういったSNS周りのブランドセーフティになってきます。結果的に、安心・安全な場所に広告が配信できることで、広告の効果は上がっていくと思います。
広告を配信した場所がその広告主のブランドを批判しているユーザーのコンテンツの前後の可能性もあるので、そういったリスクを避けたり、もちろん差別的な要素やバイオレンス、アダルトといったものも避けることができると思います。それを避けることへのニーズももちろんあるので、こうした健全化を図る取り組みによって広告効果を上げていきます。こうした流れからTikTokなどSNSもメディアとして、媒体としての価値も広告主にとって高まっていくでしょう。ここの媒体(SNS)で広告を出稿してもブランド毀損リスクの少ない安心できる広告枠で出せるんだ、という感覚に変化していくので。そういった両サイドにいいメリットがあると考えています。
高瀬:TikTokはインフィードかつ全画面専有になりますが、広告主の広告が出る直前の動画にスクリーニングをかけているということでしょうか。
山口:そうです。
高瀬:YouTubeのインストリーム広告の場合、YouTubeチャンネルのスポンサーと見られてしまう傾向がありますが、TikTokはその特性上、ユーザーからするとスポンサーだという見え方をしづらいと感じます。
山口:しづらいですね。ただしスポンサーとして見られなかったとしても、例えば交通事故の現場を見たあとに焼き肉に行きますかというような問題があるじゃないですか。気分的にコンテキストが合わないことはどうしてもあるので、それを避ける必要性があると思います。もちろんそこに「なんでこんなのスポンサーしてるんですか、あなたたち」という怒りを避けないといけない面もありますが、コンテキストの部分のブランドセーフティになってくると、親和性が高くない、適合性の高くないものを避けていく方向になります。その観点からのブランドセーフティです。
高瀬:TikTokを見ていると、かなり過激な動画を上げているユーザーもいて、確かにそのあとに食べ物やレストランの広告が出てくると、やはりそれはコンテキストに合わないですよね。ブランドセーフティというか、単純に関心を持ってもらえる可能性が低くなるでしょう。
山口:そうです。ですので、ブランドリスクの考え方自体、そういうものの結果がこういうところだと思うのです。要するに、ユーザーのお問い合わせセンターにこういうクレームが来るから避けたい、というだけではなく、広告主としてもちゃんとしたところに広告を出したい、広告効果があるところに出したい、というためにブランドセーフティを見るというのは大いにあると思います。
高瀬:今のお話だと、バイサイドとセルサイドの両側からの関心が高まっているということですか。
山口:はい。コンテキストターゲティングに関しては、両サイドからお声掛けいただいたり、パートナーさせていただいたりすることが増えています。日本国内で初のコンテキストターゲティングの機能を兼ね備えたメディアとして、朝日新聞デジタルもリリースを出していただいているので、かなり関心が高まってきています。
高瀬:裏側では御社のソリューションを使っているのですね。
山口:はい。結局、売るほうも買うほうも今はあまりうれしくない状況が続いているじゃないですか。世の中にある取引の場所、マーケットで考えると、広告以外も全て考えると、売るほうも買うほうも不満足な状況というのは大変珍しいと思うのですが、結局それは面との向き合い方や見方がまだまだCookieで持っていかれてしまっているというところがあるのではないかと思うのです。
モバイルでのメディア消費の時間の増加とbot感染のリスク
高瀬:先ほどのお話はデスクトップのアドフラウドについてでしたが、モバイルのアドフラウド率で見たときに、日本はディスプレイも動画も他の国と比較して群を抜いて見えます。
山口:モバイルに関しては、モバイル専門でやっている方たちからも問題が多そうだという話を聞いています。何が起こってクリックになるのかというのはレポートによって異なるので、全体的なインフラの整備やルール決め、指標の決め方というのがデスクトップと比べるとまだ定まっていないという問題があります。
あと、おそらくコロナ禍もあって日本国内でモバイルで視聴する人がかなり増えていると思います。コンピューターが家にないという方たちがメディアを消費するとなると、モバイル、タブレット、電話、モバイルの電話が考えられますが、そういったところでのアドフラウドが増えてくるのは必然です。
高瀬:要は単純にモバイルでのメディア消費時間が増えたということですね。
山口:はい。インプレッションが増えたので、そこに混ざってくるフラウドも増えてきます。あと、出す場所としてどんどんモバイルへの配信が増えてくると、単価はモバイルのほうが安いということもあり、より詐欺に遭いやすいといえるのです。
ただ、なぜ今までと比べて急激に上がってくるかというと、モバイルはデスクトップに比べて単価がない時期もあったのですね。理由としては、パソコンやデバイスにbotを感染させて不正なインプレッションやクリックを発生させるIVT(Invalid Traffic)の場合、パソコンだとそこそこスペックがあるので、botが感染していても気付きにくいのです。
一昔前の携帯電話だとパソコンと比べてスペックが下がり「なんだかちょっと遅いな、重いな」というのは皆さん感じられるでしょう。しかしながら、昨今は携帯電話のスペックも上がってきて、携帯電話にbotが感染していても分からない状況が増えてきていると思います。
あと、5Gになることによってデータのやりとりが体感的に軽くなってくると、botの情報もそこに入ってきます。必然的にテクノロジーのインフラ周りが改善されるとbotなどが紛れてくるというのはあると思います。
高瀬:結構、知らぬ間に入ってきてしまうものなのですね。
山口:いつの間にか感染していて、気付いたら知らないところで、そういったインプレッションやクリックが発生しているというのは大いにあります。
高瀬:それはユーザーとしては気付きようがないですよね。
山口:そうですね。夜中など自分が使っていない時間に使われているので、ほぼ気付きようがありません。良くも悪くもそれ以外の害がないのですが。データを引っ張られたとか取られたとか、それだと気付くと思うのですが、単にインプレッションやクリックを発生させるだけだと、消費者、つまりデバイスの所有者としては実害がほぼないので、気付かれないのです。
高瀬:根本的な解決は難しそうですね。
山口:もうそうなってくると、全体的な広告取引を考え直さないといけません。結局クリックはbotで簡単にできてしまうので、安いクリックを買おうとするとフラウドが増えてしまうのは仕方がないでしょう。偽装できてしまう指標を買っているので。そのため、例えばお客さまがライフ・タイム・バリューを見た結果、ライフ・タイム・バリューはこのメディアからだと上がってくるよと。それによってプランニングされているお客さまは必然的に引っ掛かりにくくなると思うのですね。ライフ・タイム・バリューがどうこうというのはbotでは偽装できないので。
アドベリフィケーションの最初に、KPIはなんですかというお話をさせていただきます。「KPIはCPCです」とおっしゃったとしても「この広告を出すのはクリック集めるためにやられているのですか」というと、そうではなく顧客を増やすためや売り上げを上げるため、という話になってくる。そこの乖離がなくなればなくなるほど、フラウドが入り込む隙がなくなってくると思います。
広告主にとって本当にメリットがあるサービスの追求
高瀬:「メディアクオリティ レポート」の中で、アメリカ地域でのブランドセーフティの取り組みが進んでいるという記載がありましたね。
山口:ブランドセーフティ、コンテキストへの再評価というのはグローバル全体で始まっています。Cookieレスにつながってくるところでもあるのですが、コンテクスチュアルターゲティングも含めてきちんとした場所に出す。海外だと皆さんDSPを使われるケースが多いので、DSPとのコンテキストターゲティングの連携やブランドセーフティの連携はもともとやっていたのですが、そういった意味でどういう面に出すのかという意識は過熱しているといえます。
全体的にそういったきれいな面、コンテキストがあった面に出すとなってくると、必然的にブランドセーフティは確保されます。要するにブランドセーフティー・ブランドリスクへの関心が高まったというよりも、皆さんの意識はその上位概念であるコンテキストの部分にいっているので、必然的にここの部分は確保された状態の面に配信されるわけじゃないですか。ですので、全体的にブランドリスクは下がっていくのです。
高瀬:もともと欧米は日本と比較してアドベリフィケーションに対する関心が高かったと思うのですが、さらに今のCookieレスがそのトレンドを引き上げているといえるのでしょうか。
山口:Cookieレスに伴って面の考え方が変わってきて、コンテクスチュアルターゲティングの概念が浸透し始めると、全体的により良い面を目指すコンテクスチュアルターゲティングになります。例えば、以前は生活習慣病に対して、お医者さんから処方された糖尿や痛風の薬で対処をしていたとします。しかし、全体的に健康を意識して運動も食事改善もするとなると、べつに薬を飲んでいなくても必然的にそういった問題は減っていくじゃないですか。欧米はそこにいるというイメージです。つまり、問題への対処ではなく、全体的に健康的なより良い面を目指すので、生活習慣病は当たり前のように減ってくるのです。
高瀬:ある意味ブランドセーフティを高めている要因がコンテキストへの関心というのは意外でした。コンテクスチュアルターゲティングという観点でいくと、今、Cookieに代わる代替技術としてUID2やプライバシーサンドボックスなどが出てきています。オーディエンスターゲティングはオーディエンスターゲティングである程度機能していたからという面があると思うのですが、そこの考え方も今トレンドとしてはコンテキスト寄りになっているようなイメージでしょうか。
山口:そうですね。オーディエンス一辺倒だったじゃないですか。もともとあったライトパーソン、ライトタイム、ライトモーメントといったところが、ライトパーソンだけではないよねという話になってきていると思います。規制もそうですが、その規制の手前で、要するに消費者のほうからも「気持ち悪い、不快」というのがあったので、そもそもどういった場所に出す必要があるのかというのは皆さん考えられていました。そこから、われわれも含めていろいろなベンダーからコンテクスチュアルターゲティングというのが出ているので、全体的に考え方が変わっていったのではないかと思います。
例えば海外だとそういった風刺画があるのですよ。男性客が集まるバーのトイレにピザのポスターが張ってある、みたいな。確かにライトパーソンでもトイレに食べ物の広告を出すのはどうなの? といったことがあると思うのです。でもそれはCookieターゲティングだけの考え方だと「いや、当たったじゃん」という話になってしまうと思うので、皆さんそこの考え方を意識し始めているのと、ある意味、今までのマス広告の考え方に近づいてきているのではと思っています。
高瀬:お話を聞いていて面白いと思ったのは、DSPで大量の安価な広告枠をCookieのターゲティングで購入してきた結果、アドフラウドやビューアビリティ、ブランドリスクの問題が出てきてアドベリフィケーションしましょうという流れだったかと思うのですが、今は逆にCookieレスの話もあって、面が重視されていくと必然的にブランドセーフティやビューアビリティが改善されていくと感じたので、御社のようなアドベリフィケーションベンダーの立ち位置が変わってくるのではないかと思いました。
山口:そうですね。変わってくるというか、たぶん変わらないといけないのです。手前みそで恐縮ですが、今ベリフィケーションの先にというお話をさせていただいていますが、われわれは数年さかのぼると現CEOのLisaの前のScottの時代からも、マイナスをゼロにするだけではなく、ゼロからプラスを生み出すためにデータを使いましょうという話をさせていただいていました。そのころはコンバージョンとひも付けた分析もやっていました。それもCookieでできなくなってしまうのですが、それと同じベクトルでの考え方だと思います。
ただ単に広告主の皆さんに、こんな問題があるので対処法としてこんなプロダクトがありますというと、問題をゼロにしただけでお金をくださいという、皆さんにとっても不満足な状況が続いてしまいます。そうではなく、データを使って見られることによって広告の認知を上げたり、コンテキストを上げることによって親和性を高めて記憶に残りやすくしたりする、そういったデータも出てるので、そこをお手伝いする。もちろんアドフラウドを避けるというのは当たり前のことですが、結局、結果的に広告効率を上げていくというところへの考え方、シフトの必要性というのは、われわれを含めたアドベリフィケーションベンダーは必要だと思います。「こんなところに出ているのでアドベリフィケーションを使いましょう」というだけの商売だと、火事場泥棒のような感じになってきてしまいます。おそらくIAS独特の考え方は何ですかと問われたら、何を提供すると広告主の皆さんにとって本当にメリットがあることなのかを考える、というところだと思います。
今SPOと呼ばれている、Supply Path Optimization、要するに商流の透明性アップ、健全化というところになると思うのですが、どの商流で買うと一番効率的にクオリティーの高いインプレッションが買えるのか、それがどこかということ。やはり広告主さまにとってもそうですが、メディアにとっても有益な情報になってきているので、マーケット全体の健全化に引き続き役に立てればと思っています。
Supply Path Optimizationとは
高瀬:ありがとうございます。SPO、Supply Path Optimizationは、まだ日本だとそこまで浸透していない言葉なので、簡単にSPOとは一体何で、いつごろから米国で注目を集め始めたか、お聞きしてもよいですか。
山口:SPO、文字どおりSupply Path(商流)のOptimization(効率化)ということになるのですが、米国だと確か2020年の前半ぐらいから話が始まったと思います。
何ができるかというと、もちろん広告主の皆さんがお金を出して購入されたインプレッションは最終的にはあるメディアに配信されて、そこの面に広告が出てお金が支払われると思うのですが、一対一の関係ではないですよね。その間にはDSP、SSPだったり、アドネットワークだったり、もちろん代理店の皆さんなどがいろいろ入ってきて、個々でデータ利用料やマージンといったものが発生しています。かつ、アドフラウドやブランドセーフティやビューアビリティも、同じ広告主、同じメディアのキャンペーンでも経由したSSP、DSPによって高いところもあれば低いところもあります。もちろんビューアビリティやブランドセーフティも変わってきます。
そうなってくると、どの経路をたどっていくと広告主の皆さんにとって一番コストパフォーマンスが高くて、媒体にとっては一番価値表明ができるところなのだろう? という話になります。それを可視化していくのがSupply Path Optimization。つまり、商流の中の無駄を明確化して改善していきましょうという話になってきます。
ただ、日本はマージン文化なので気を付けないといけません。マージンが悪いというわけではなく、マージンも含めた上で効率的にインプレッションが買えてるのであれば、それは正しい選択になってきます。あくまでも最終的なインプレッションの価値を高めるための効率化に役に立っていないコストがどこにあるのか。簡単に言ってしまうとアドフラウドやビューアビリティの問題、ブランド毀損の問題、そういったことに対するお金の無駄がどうやって、いくら、どこで発生していくのかを可視化するツールです。国内では、できる環境も含めて設定が難しいのでまだ事例はないのですが、いろいろな方に興味を持っていただいています。
高瀬:アドベリフィケーションをさらに一歩進める形がSPOということですね。
山口:皆さんがもともと最適化をやっている中で、例えばブランドリスクが10%ありましたというと、1,000万のキャンペーンで10%ブランドリスクがあると100万円無駄になっていたのかという計算になります。今までだと10%なので100万円ですという話なのですが、インプレッションは一つ一つ値段が違うので、インプレッションが高いか安いかによって、100万以上かもしれないし100万以下かもしれません。そこをもっと明確に分かったほうが、もっと適所適所で正確なオプティマイゼーションができるのではないかという考えの下に出てきたのが、このSupply Path Optimizationです。
実際、海外の事例にはなるのですがネスレに使っていただいた例で、確か3.6%ぐらいのブランド毀損があったのが、インプレッションにひも付いた予算で見てみると7%とか8%でした。そうなってくると、3%のために工数をかけて改善するか、10%近くの問題のために工数をかけて改善するかというと判断基準が変わってくるので、そこがSupply Path Optimizationの肝になってくるところです。
あと商流によって変わってくるところについて、先ほどお話ししましたが、同じクオリティーのインプレッションを同じメディアから買っているのであれば、一番効果的に買えるところから買ったほうがいいよねということになります。同じ商品であれば、価格比較サイトで見て、一番安いところで買いますよね、というのと同じです。もちろん、いいものを買おうとしているのですが、その中で一番安い商流はどこなのだろうというのがSupply Path Optimizationです。
プログラマティック広告のアクティビティの責任の所在は?
高瀬:分かりやすい説明ありがとうございます。Supply Pathに関する御社が出された「サプライパスを完璧なものにする 〜プログラマティックにおけるSPOの拡大」というレポートを拝見して、非常に興味深かったので、その内容についていくつか質問させていただければと思います。プログラマティック広告を購入する米国の200社を調査したレポートの中で「プログラマティック広告のアクティビティはどこに責任があるのか」というアンケート結果がありました。日本からすると意外なのですが、多くの広告主が「自身に責任がある」と答えていらっしゃいました。日本だとエージェンシー主体だと思うのですが、米国だと広告主主体でプログラマティック広告を実施しているのですか。
山口:そうですね、あとは、自分たちの予算でしょうというところだと思います。海外の広告主の方たちは他の人たちが予算に対してどうこうするのを待っているのではなく、自分たちで主体となってやっていかないと何も変わらないのではないかという考え方が強いのです。海外だともっと初歩的なアドフラウドについても「アドフラウドは何%以上にしない」とか「アドフラウドを下げていく努力をする」とかというのが契約書にもう書き込まれているケースが多いのですよ。
あと、おそらく広告主の皆さんと代理店の間での商流というかお支払い方法が異なり、日本と違ってマージンではなくフィーが支払われています。何に対してのフィーなのかというと、メディアを買ったことによるマージンとは違い、アディショナルで何を提供しているのかという考え方になってくるので、それだけ強く言える、かつ、強く言うべきという自負が広告主の皆さんにもあると思うのです。
高瀬:個人的には、日本で同じアンケートをしたら、どんな結果が出るのか気になります。
山口:気になりますね。ただ、日本国内でも徐々に変わってきていると思います。JICDAQの前段となったJAAの「アドバタイザーズ宣言」もそうだと思いますが、日本もまったくその意識がないというわけではないはずです。
SPOでROIも改善
高瀬:同じレポートの中で「96%のアドバイヤーがSPOに満足している」というアンケート結果を紹介されていてますが、やはりSPOはそれだけROIにポジティブな影響をもたらすものなのでしょうか。
山口:はい。欲しい商品を価格比較サイトでいろいろ見た結果、ビックカメラやAmazonが並んでいる中で一番安かったとか、総合的に一番効率的な買い方で皆さん買われると思うのですよね。それがSupply Path Optimizationです。なので、もともと商品のスペックとしては、メディアクオリティという概念でアドベリフィケーションで分かってるインプレッションだったら、10、20ある商流のうち一番安いところから買う。となってくると、同じものを買っているので必然的にROIは絶対に良くなります。
われわれが今までやっていた、安いものばかり買うのは落とし穴がありますよというのは、メディアクオリティを無視した上でただ単に安いCPCにすると問題が発生しますよということです。それは価格比較サイトの例で言うと、一番安い洗濯機を買えばいいじゃないかという話になってきます。そうではなく、レビューなどでちゃんといいものやスペックが高くて欲しいものだと分かった洗濯機をあえて一番安いところから買うというのがSupply Path Optimizationなので、ROIに直結します。
高瀬:今の例は分かりやすいと思う反面、それこそインプレッション単位でSupply pathを精査していって、一番欲しいインプレッションを適正な額で買うということだと思うのですが、それを進めていくのは結構大変だなという印象があります。ただ、96%のアドバイヤーが満足しているということは、大変さに勝るそれだけポジティブな影響があるという裏付けなのでしょうか。
山口:大変さはほとんどありません。このキャンペーンのDSPの中でSSPが10個並んできて、そのSSPの先にあるリセラーなども細かく全部見えてくるので、ほぼ一発で分かります。裏返しの逆算もできるので、ではこのキャンペーンで買ったメディアを軸に見て、同じメディアで商流が10個あってメディアクオリティとひも付けしたときに、eCPMが一番良かったのはどこかというのも一発で分かってしまいます。あとは、もうブロックしていけばいいとか、そこにお金を投入していけばいいというところなので、もちろん予算繰りのところでいろいろやっていただく必要はありますが、どこに出すかは一目瞭然です。
高瀬:それは御社がそういったソリューションを提供されているということですね。
山口:はい。なので、これはデータを見たことがある観点からいうと、そうだろうなとは思います。
高瀬:おそらく、そういったツールがないと非常に大変な作業になってくると思うのですが、御社は日本でも提供しているのですよね。
山口:日本でも提供可能です。いちいち価格比較サイトの例に戻ってしまいますが、同じ情報がなくても、ものは手に入ると思うのですよ。この洗濯機が欲しいとなったときに、ではどこが一番安いのか、どこが一番送料や設置費用が安いのかというのは、価格比較サイトを使わなくても一件一件電話していけば分かるのと同じです。ただ、その電話する工数は、さっきおっしゃっていたROI的にどうなのかという話ですが、価格比較サイトでずらっと並んでいたらROIもものすごく良いじゃないですか。工数がまったくかからないですよね。それが「Total Visibility」という弊社のレポートになります。
日本におけるプログラマティック広告の可能性
高瀬:ちなみに日本におけるSPOの可能性に関して、御社はどのように捉えていらっしゃいますか。
山口:SPOは、概念的にはとても刺さると思います。ただし、そもそもこれはテクノロジー自体がDSP基準なのですよ。なのでDSPの利用頻度がもう少し増えないことにはどうにもなりません。国内ではやはりDSPメインでやられているお客さまが少ないので「一部で見れてもね」という話になってしまうと思います。日本国内のDSP対アドネットワークのランドスケープによってくるでしょう。そこは弊社側は影響できないところです。
高瀬:それはプログラマティックの普及度合いの問題がありますし、やはり広告主が「自分たちの予算なんだ」という意識で、インハウス化がもう少し進まないと難しいところがありますよね。
山口:難しいですね。結局、ブランディング広告でも予算の使い方がまだCPC戦略というのが変わらないので、そうなってくると結果的にはGDNが一番いいでしょうということになっていきます。今のところはその悪循環ですよね。変え方が変わらないと、なかなか買う場所も変わりません。
高瀬:一方、これまでデジタルではなかったメディアなどが、デジタルでプログラマティックで購入できるようになっています。分かりやすい例でいうと、タクシー広告やTVerなどの見逃し配信です。こういった新しいメディアをプログラマティックにバイイングするという目的で、DSPのニーズは上がってくるような気がするのです。それに伴ってプログラマティック自体も普及していくと、状況が変わってくるかもしれないですよね。
山口:おっしゃるとおりです。どんどんプログラマティックで買うものが増えてきているので、徐々に変化はしてくるでしょう。Cookieレスがどう影響していくのかというところも、もちろんクリックだけでどうこうという話ではないので、変わってくると思います。
あとは概念的にどんどんプログラマティックで買えるものが増えてきて、ディスプレイ広告だけではなく屋外の広告やタクシー広告になってくると、全体的なマーケティングの思想、考え方というのがまたデジタルに入ってくるのではないかと思います。デジタルだからクリック、CPC、多くリーチとかではなく、従来のマーケティングの考え方でどこに出すのかという思考にシフトしていくのではないでしょうか。そうなってくると、コンテキストだったりSupply Pathだったりというのも再評価が必要になってきて、全体的にDSPの量も増えてくると思っています。
高瀬:あとはコネクテッドTV(以下CTV)は大きいと思っていますね。見られるデバイスがテレビ画面になると、画面専有や視聴態度でテレビCMに近い体験になってくるので、今までテレビCM中心に出稿してきた広告主も、CTVは入りやすい領域かと思います。
山口:そうなるといいですね。
高瀬:それに伴い、予算も広告主の予算だという認識も上がってくるかもしれません。結果的にインハウス化を押し上げるきっかけになり得るのではないかと思っています。われわれも伴走型インハウス支援のコンサルティングを提供していますが、御社視点で日本におけるインハウス化、広告主の意識変革の可能性については、どう見ていらっしゃいますか。
山口:そこはおっしゃるとおり、CTVとひも付いていると思います。どこまでCTV・OTTがテレビという感覚になるかどうかだと思うのですよ。その感覚は社会全体での感覚というわけではなく、消費者の感覚として、もうそこにいっているのではないでしょうか。消費者の人に「OTT何見た? CTVで何が好き?」といっても分からないと思うのですよね。もうテレビはいろいろなところで見るものですし、携帯で見ても当たり前のものになっていると思うのですが、その感覚がまた国内だと、これで見るものはテレビではなくてCTV・OTTという考えです。海外と日本のマーケターの皆さんの一番大きなCTV周りの感覚の違いというのは、CTVというメディアについての考え方だと思います。媒体自体がCTVというか。
海外では、どちらかというとCTVなので、テレビの配信方法が違うだけという考えのようです。ケーブルなのかインターネットなのかという違いだけです。その感覚の違いが追い付いて初めてもう少しCTVに関する感覚、かつマーケターとしてインハウスでデジタルもやっていくのは、そのタイミングだと思うのですよね。まだ「デジタルというもの」「CTVというもの」になっていると思うので。
高瀬:やはりデバイスとしての意識が日本は強いのかもしれませんね。モバイルで見ていてもテレビコンテンツじゃないですか。
山口:はい。なので、その意識が日本だとあんまりないのかなと思います。
高瀬:テレビと同等の扱いがされないという意味合いですよね。
山口:おそらくプランニングだと、TVerを使うかどうかというのは、テレビの広告予算を持っている人ではなくデジタル予算を持っている人たちじゃないですか。そうなってくるとYouTubeに出す、TVerに出すという考えだと思うのですが、海外だとマーケティングをCMOが見ていて、同じ予算内でケーブルテレビに出すのかCTV・OTTに出すのかという考え方をします。そのため、日本は出島の感覚がまだ続いてるような気がします。CTVがその出島に今「僕はあっち側なんだけどな」と思いながらぽつんといる感じでしょうかね。
高瀬:なるほど、日本はまだ出島状態なのですね。質問は以上になります。本日はありがとうございました。
山口:ありがとうございました。