アトリビューション特別対談 博報堂DYメディアパートナーズ柴田貞規さん、篠田裕之さんに聞く

アトリビューション特別対談 博報堂DYメディアパートナーズ柴田貞規さん、篠田裕之さんに聞く

運用型広告レポート作成支援システムglu
※本記事は、2011年7月に公開されたAttribution.jpからの転載記事です。

データマネジメントプラットフォーム部を有する広告会社

 

有園:株式会社博報堂DYメディアパートナーズのデータマネジメントプラットフォーム部部長の柴田貞規さんと篠田裕之さんを迎え、お話を伺います。日本全国を見ても、データマネジメントプラットフォーム部という名前の部署を有する広告会社は珍しいように思います。博報堂DYメディアパートナーズの中で、データマネジメントプラットフォーム部が立ち上がったのは、いつ頃ですか?

 

柴田:2013年4月1日付で立ち上がりました。

 

有園:部署名からDMP(Data Management Platform)をやっていることは想像できますが、具体的な業務範囲を教えてください。

 

柴田:業務としてはDMPを使ってのサービス開発、DMPの運用がコアにあります。その他に、ディスプレイ、サーチといったパフォーマンス広告の設計・運用も行っています。また、オンラインのアトリビューション分析といった業務も担当しています。

 

有園:2013年頃から電通さんが「運用型広告」という表現をつかっていますが、「運用型広告」とは「リスティング広告」「DSP」「アフィリエイト」などが主なものだと思います。柴田さんたちの部署では、DMPやアトリビューションもやっていると。それらを一貫してやるために立ち上がった部署ということですか?

 

柴田:経緯はいろいろありますが、結果的には、それらを一か所でマネージしている状況です。広告主様のゴールの達成には、広告のプランニングから出稿、分析が必要になるので、ワンストップであることは必然的な結果かと思います。

 

有園:2013年後半あたりから私自身も、アトリビューションとDMPは相性が良く、一緒にやることに意義があるのではないかと言ってきました。そういう意味でも、博報堂DYグループの中に、データマネジメントプラットフォーム部があって、アトリビューションも一緒にやっているというのは感動的です。今後の方向性を伺えますか?

 

 

生活者の行動を明らかにするためのアトリビューション分析

 

柴田:私たちの用語で言う「生活者」が、どのような行動をとるか考える。これは、アトリビューションやDMPの共通の考え方かなと思っています。アトリビューションとは、カスタマージャーニーを明らかにすること。今話題のDMPも、生活者がどういう行動をとっているか、生活者の趣味、嗜好がどこにあるのか、それらを明らかにすることが肝になってきます。

生活者が、何を考え、好み、行動するのか。それらを知ることは、私たちのグループにとっても重要になってきます。そのためのソリューションは、アトリビューションマネジメントもあればDMPもあります(切り口や方法は異なりますが)。それぞれがバラバラにあるというよりは、生活者のインサイトが中心にあって、そこを取り巻くように、いろいろな商品や手法が配置されます。生活者のインサイトにメッセージを届けるための手段として、広告があります。メッセージが適切に届いたか、その効果はどうだったのか?を知るためにアトリビューション分析やDMPがある。生活者のデータが真ん中にあることが重要ですね。

 

有園:スッキリしました。確かに、生活者の行動を明らかにするために、アトリビューション分析をしているんですね。

 

 

マスメディアのバイイングにDMPデータを応用

 

有園:柴田さんのところでは、運用型広告、DMP、アトリビューションを扱っていますが、御社は総合広告会社なので、今後はマスメディアへの影響なども考えていかれるのでしょうか?

 

柴田:そうですね。現状、ここ1年くらいは、オンラインのメディアに特化してプラニングしてきました。しかし、すでにいくつかの広告主様では、オンラインのデータを使い、他のメディアのプラニングを開始しています。オンラインのデータの使いどころはオンラインメディアに閉じず、他のメディアへの展開を考えており、実際にその動きがもう始まっています。

 

有園:実際に動きがあるんですね。私自身はインターネット広告を主にやっているので、マス広告側のバイイングがどのようなロジックで行われているのか、実体験として、あまりよく分かりません。いま伺った話ですと、マスメディアのバイイングにもDMPのデータが応用されているということですが、具体的にはどのような内容ですか?

 

 

歴史と旅行好きは秋葉原のアイドルが好き?!

 

柴田:例えば、これはあくまでモデルですが、ある広告主様が新商品を発売するとします。その新商品は、歴史が好きで、旅行が好きな人を対象にしているとします。そのときに、今までだったら、歴史好きが集まってくるウェブサイトや旅行好きが集まってくるウェブサイトに広告を出稿しようということで、オンラインは完結していました。

それが、DMPを使い、第3者データと掛けあわせて訪問者データを分析することによって、サイトに集まっている人たちが歴史や旅行以外に、他にどんなことに興味をもっているのかがわかってきます。たとえば、歴史と旅行が好きな人たちは、あるアイドルが好きだという共通項が見えるといったことがあるかもしれません。その場合、アイドルに関するサイトにオンライン広告を出しても良いですが、そのアイドルがよくライブをする駅にアウトドア広告を掲載したら、その人たちが認知するのではないか、そのアイドルが載っている雑誌に広告を出してみようかということになるのではと考えています。

 

DMPのタグを入れユーザーの行動履歴をとる

 

有園:広告主が取り扱う、歴史や旅といった商品に関するウェブサイトのページ内にDMPのタグを入れると、DMP側ではインターネット上でのユーザーの行動履歴がとれ、その中で、歴史好きの人はある地域を頻繁に訪問していることが分かってくるというわけですね。こうした取り組みは引き合いも多いですか?

 

柴田:多いです。いままでの発想とは違うターゲットの見つけ方なので、新しいターゲットを見つけたいという広告主様の欲求を満たす取り組みとして、非常に引き合いが多いです。

 

有園:それじゃあ柴田さん、お忙しいですね(笑)

 

柴田:いや、僕よりも若手が忙しいです(笑)

 

有園:忙しい若手の話は後程、伺うとして、今後ますますDMP、アトリビューションは、御社の中でマス広告も含めた、さまざまな業務のバイイングやプラニングに関わってきそうですね。

 

 

DMP、アトリビューションがマーケティングを変える

 

柴田:マーケティングの仕方に影響を与えていきますね。

 

有園:引き合いが多くて現場は大変だという話が出ましたが、現場の篠田さんは、どのような感想をお持ちですか?

 

篠田:引き合いは、2012年はアトリビューション、2013年はDMPが多かったです。

 

有園:DMPの部署を作ったからでしょうか?

 

篠田:そうだと思います。いままでは、DMPみたいなことがやりたいと思っても、誰に何を相談したらよいか、相談する先が分かりませんでした。でもいまは、明確にDMPというソリューションができて、データマネジメントプラットフォーム部という組織ができたことで「ここに相談したらいいんだ」と分かりやすくなったんだと思います。

 

有園:御社の中で「データマネジメントプラットフォーム部に相談すればいいんだな」という流れができたわけですね。

 

篠田:そうです。

 

 

広告主に「DMP」を理解してもらうために

 

有園:おそらくですが、2013年の一年間で、大手の広告主がDMPを理解したように思います。ただ、最初は必ず「DMPとは何か」を説明して回らなければなりません。御社でも結構な数の企業へ説明に行かれましたか?

 

篠田:企業様のニーズ、状況に応じて、ご提案している状況です。まずは「DMPとは何か。御社がデータを活用すると、こういうことができる」というご説明から始めております。

 

有園:説明に使う資料も篠田さんがご自分で?

 

篠田:私含め、部署全員で協議の上、作成しております。

 

有園:御社のグループの中にDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社)があり、DACグループの子会社である株式会社モデューロでは「AudienceOne®」を持っていますね。御社では、基本は「AudienceOne®」を提案するスタンスですか?

 

柴田:いえ。基本はオープンで、DMPはどこでも対応しています。とはいえ、データ量が多くて結果的に「AudienceOne®」を選ばれることが多いですね。

 

有園:ということは、いろいろなDMPに詳しくならなければなりませんね。

 

柴田:そうですね。研究はしています。

 

 

DMPのタグ発行からセグメントまで

 

有園:DMPの説明をした後、実際に案件がとれたとして、DMPの管理画面に入ってタグの発行や設定、セグメントといった業務は、篠田さんたちが自らやっていらっしゃるのですか?

 

篠田:はい。いまはデータマネジメントプラットフォーム部のメンバーがタグを発行し、管理画面に登録、運用するところまで自分たちでやっています。

 

有園:アトリビューション業務と絡むと思いますが、いろいろなデータがとれるようになると、その分析も自分でやっているのでしょうか?

 

篠田:以前は、データ分析専門のパートナーに協力してもらっていました。自分たちはレポートの設計をして、データの集計はパートナーに頼むことが多かったのですが、それだと仮説を立てて結果を見て検証する、というサイクルが遅くなってしまうのが難点でした。そこで今は、部署内でできるデータ分析の領域を広げております。
実際に私たちの部署では、統計ソフトやデータベース言語の「SQL」なども使用しています。ロケットサイエンスが必要な巨大なデータとまではいかなくても、ある程度の規模のデータは、出来るだけ自分たちで分析できるようにしようとしています。

 

有園:統計ソフトやSQLも使うんですか?

 

篠田:使います。

 

柴田:僕ですらインストールしています。まだまだ、使い方がわからないところたくさんありますが、超楽しいですよ。

 

有園:楽しいですか(笑)なるほど。

 

柴田:データを整形するのが大変ですが。

 

有園:最初にデータセットを作るのが大変ですね。

 

柴田:コマンドをたたくのは苦ではないので。

 

有園:もともと、バックグラウンドはエンジニア系ですか?

 

柴田:エンジニアではないですが、新人の頃いろいろやらせてもらったので。だから、まったく苦ではない。面白いですね。

 

篠田:僕はもともと理系で、コンピューターサイエンス専攻でした。

 

 

データを分析する業務に携わる者に必要なスキルとは?

 

有園:そうなんですね。いまの話を伺い、これまで総合広告会社の中で必要とされていたスキルとは違うものを要求される時代になりつつあるのかなと思ったのですが、御社のデータマネジメントプラットフォーム部として、またはデータを分析する業務に携わる者として、必要なスキルはどのようなものだと考えていますか?

 

篠田:基本的には、メディアや生活者の変化にあわせて、広告主様の要求がますます高度になっているので、それを正しく理解できるスキルだと思います。具体的には、タグマネジメントやデータ分析のスキルがあると思います。データ分析スキルには統計知識も含まれます。ツールとして、「R」や「SQL」が使えることも望ましいと思います。

また、アウトプットとして、レポートだけでなくメディアのバイイングに活かすことも求められます。僕らは研究部門ではなくメディアのプラニング部門なので、最後にメディアのプラニングまで落とし込むことがデータマネジメントプラットフォーム部に求められているスキルだと思っています。

 

有園:けっこう広いですね。

 

篠田:冒頭で柴田が申したとおり、私たちの部署は、最初はリスティング広告やDSPの運用から始まっていて、アトリビューションが盛り上がってきた頃にアトリビューションをやり始め、2013年からDMPを本格的に取り組み始めました。

 

私たちの部署のメンバーは、もともとリスティング広告やDSP広告の運用から関わっているので、タグマネジメントへの理解がありました。一から覚える状態ではないことは幸運だったかなと思います。

 

有園:ということは、篠田さんはずっと柴田さんと仕事をしているんですね?

 

柴田:パフォーマンス系の仕事を一緒にしてきました。

 

 

統計学の身に付け方

 

有園:自分の経験からも、統計学の知識を社会人になってから身に付けるのは、ハードルが高いと感じているのですが、篠田さんはバックグラウンドに統計学がおありでしたか?

 

篠田:僕は、たまたまそうでしたが、データマネジメントプラットフォーム部には文系出身もいます。そうした者には、統計の知識を身に付ける場が用意されています。博報堂DYグループは学びの場が多いと思います。

 

有園:「R」を使って統計を覚える研修があるのですか?

 

篠田:「R」を使うまではいきませんが「クラスター分析とは」「主成分分析とは」といった、統計についての知識を学ぶ場は広く用意されています。統計に限らず、いろいろな学びの場が用意されています。

 

有園:回帰分析や重回帰分析も、ご自身でやっているのですか?

 

篠田:はい。周りに得意な人がいますし。もともと、弊社のマーケッターがアンケートデータを中心にやっていたことが、いまはPOSデータやメディアのバイイングデータ、アクセス解析データに変わっただけで、もとからかなり統計を使っている会社だと思います。

 

有園:いわゆるマス広告の分野で、伝統的にマーケティングの部署が統計はやっていますよと。

 

篠田:データの粒度と量が変わっただけで、クラスター分析の鬼みたいな人がいるなど、環境には恵まれています。

 

 

実行スピードを速くするために、やらないことを決める

 

柴田:僕らの仕事はメディアのプラニングをすることで、研究開発が目的ではありません。広告主様を含め「ここまでで良い」という線を引ければ、統計をすべて理解できてなくても、最低限のことさえ分かればプラニングできるケースは増えます。

実行スピードを速くするために、やらないことを決める作業は、今後ますます重要だと思います。できるだけ、分析作業自体は出来る人にやってもらいます。僕らは現場の最前線にいて、広告主様のマーケティングゴールと常に向き合っているので、広告主様のスピードに遅れることが許されません。常に早く答えを出し続けるために、どのような分析のスキルが必要なのかを考えていかなければなりません。単純に統計だけ勉強すれば良いという話ではなく、なんのために分析するのか。その理由を考え続けなければなりません。できるだけシンプルに、広告主様のマーケティングゴールからボリュームダウンしていくアプローチをしています。篠田のようなアプローチもあれば、いろいろなアプロ―チ方法があって、いろんな人がいて良いと思っています。

 

有園:PDCAの中で回している印象を受けました。ぜひ、具体的な事例を伺えますか?

 

篠田:僕たちはアトリビューションとDMPをやっている部署なので、アトリビューションの事例、DMPの事例、それから、アトリビューションからDMPにつながった事例を紹介します。

 

 

アトリビューション事例

 

篠田:まずは、アトリビューションの事例です。今回ご紹介するのは、ビュー効果の持続時間を分析した事例です。
もともとは、ビュー効果は、バナーが表示されてから時間が経つごとに減少していくのではないかと考えたところからスタートしました。

バナー広告を表示させたとき、どれくらいの人がサイトに来訪したかというビュースルー流入率を、広告を出稿していないときのサイト流入率をベースラインとして、バナー広告表示後の時間経過ごとに有意差検定をしていきます。すると、バナーのビュースルー流入率とベースラインのサイト流入率の差は、時間を経るごとに減っていって、やがて有意差がなくなります。結果、最後にバナーが表示されてから何時間までは、バナーのビュー効果として考えて良い、ということをベーシックな考え方としてやっています。

 

有園:有意差とは、統計的に有意な差があるかどうかということですね。

 

篠田:そうです。その結果を用いて、このクリエイティブで、このメディアで出した時の有意差が出る範囲はここで、ビュースルーでの流入がこれくらいあって、ビュースルーでの資料請求数はこれくらいある、といった算出ができます。

 

有園:ちなみに、こちらの画面の中の、とある広告主様に関する結果で、その有意差は何日間くらいまで続いているのでしょうか?

 

篠田:せいぜい何時間です。

 

有園:何時間なんですね。

 

篠田:最後にバナーが見られてからのバナーのビュースルー流入率とベースラインとしての流入率との差は、もちろん1日以上あります。でも、有意差が出るのは、バナーを最後に見られてから何時間というところでした。

 

有園:逆に言うと、最後にバナーが見られてから何時間というは、5時間から6時間でしょうか。

 

篠田:そうですね。ただ業種などにもよると思います。

 

 

DMPの事例

 

有園:では、DMPに関してはいかがですか?

 

篠田:DMPを用いた案件では、想定しているターゲットに、ちゃんとバナー広告が届いているかどうか、もともと想定していなかったターゲットがウェブサイトに来ているかの2点を分析しました。

DMPのデータを用いて、ある広告主様サイトにおけるサイト流入者を分類したとき、この事例では大きく4つのクラスターにまとめることができました。もともと想定していた、ビジネスマンのボリュームは大きく、きちんと広告を届けられていました。しかし、他にも健康興味シニア層や地方育児ファミリー層、そして都会派高所得者層など、これまで狙って出していたわけではないけれど、確かに広告主様サイトにはきていたボリュームが見つかりました。

 

有園:クラスター1がビジネスマン。これが想定するターゲット。クラスター2、3、4は想定外の人たちだったわけですね。

 

篠田:そうです。クラスター2、3、4は、そのように狙ってはいなかったけれど、そのような人たちがいるということは、こういう人たちに対して適したメッセージを出していくべきではないかということが分かりました。

 

有園:バナー広告経由でサイトに流入してきた人たちに限らず、全流入に対して分析したわけですね。クラスター別にバナー広告のメッセージを変えたり、クラスター別にサイト内で動的にコンテンツを差し替えたりするようなことをイメージしていますか?

 

篠田:どちらもあると思っています。サイトにきている人たちに対して、メッセージを変えることはもちろんですし、狙ったクラスターとは違う人たちも来る可能性があるならば、こちらから積極的にそのような人たちにメッセージを届ければ、そのような人たちをもっと呼び込めるかもしれません。

 

 

アトリビューションからDMPにつながった事例

 

篠田:最後が、有園さんもおっしゃっていた、アトリビューションとDMPは相性が良いのではないのかという話につながる、コンテンツアトリビューションからDMPの提案につながったという事例です。

 

有園:まず、コンテンツアトリビューションとは、具体的にどのようなことをやっていらっしゃるのか教えてもらえますか?

 

篠田:もともと、僕らの部のミッションはメディアの再価値化です。さまざまなポータルサイトや専門サイトを対象に、広告以外に、広告主様にどのような価値が考えられるかを検証しています。

 

柴田:そこに貼った広告以外に、その広告を見た人たちが直接広告主様サイトには行かないけれど、広告主様の商品を買いたくなったり、実際に買ったりするかをきちんと証明することです。これまで、媒体ではサイトに貼られた広告が、何インプレッション出たか、どれだけクリックされたかしか効果測定されてきませんでした。

でも、今回僕らがアトリビューション分析することで、直接ではないけれどコンバージョンするにあたって、この媒体に接触し、記事を読んだからこそコンバージョンしたのではないかということを、きちんと数値化していこうではないかと。このアクションをとったのが2011年の終わり頃からです。

 

有園:広告が出ている、出ていないに関わらず、仮に広告が出ていないとして、某ポータルサイトに訪れた人が、広告主様サイトでコンバージョンするということが起こっているかどうかを見ていくわけですね。

 

柴田:いま、いくつかの媒体で実験的に取り組んでいます。

 

有園:自動車の記事とか、Q&Aとか、いろいろなコンテンツがあります。そこを見た人が、結果的に自動車のメーカーサイトに行って試乗予約などをしているとすると、自動車メーカーの広告を自動車の記事とか、Q&Aが載っているサイトに出したほうが、より効果は高まるのではないのかということですね。

 

篠田:広告と比較して、コンテンツ経由のユーザーがどれくらいモチベーションは高く、CVRが高いかが分かりました。

2012年までは僕らの提案としてのアウトプットは「ここに広告を出しましょう」「ここに広告を増やしていきましょう」というものでしたが、DMPが出てきて広告を出すこと以外に「この媒体のデータをDMPに取り込みましょう」という提案ができます。

具体的には媒体との取り決めになりますが、媒体から、その媒体を訪れているユーザーのデータをもらい、広告主様のDMPに入れます。そうすると、広告主様がもともと持っていたデータとDMPがもっているデータと、広告主様媒体のデータを組み合わせて、新たなセグメントが作れます。コンテンツアトリビューションをやって、それをDMPに取り入れるデータの選定に使い、最後はDMP経由でのアウトプットに活かす。このような流れを作るのが2014年の取り組みです。

 

有園:DMP経由でのアウトプットとは、DSPで買い付けを行うってことになるわけですね。それは、もうやっているのですか?

 

篠田:はい、出稿中です。

 

 

革命的な取り組み

 

有園:そのような分析結果に基づいて、広告主様が出稿するというのは、革命的なことだと思います。

 

柴田:たぶん、そうですね。他ではやっていないと思います。

 

有園:2012年のコンテンツアトリビューションでは、バナー広告経由よりも、記事経由の方がコンバージョンする率が高かったとおっしゃいましたが、そのようなことを言って、広告会社として、大丈夫ですか?

 

篠田:役割が違うと思っています。記事は、もともと興味のある人を熟成させるためにあり、広告はターゲティングするにしても、もっと広く潜在者も含めて振り向かせるためにある。そのとき、クリックしてくれるくらいモチベーションの高いユーザーでなくても、広告はあてると思うので。

 

有園:いまの話でいくと、記事やQ&Aといった、何らかのコンテンツをクリックして読んでいる人のクッキーを媒体社からもらって、例えば広告主のDMPと連携させ、プライベートDMPと連携させてDSPで出稿するというのは、リターゲティングするってことですよね?

 

篠田:そうですね。

 

有園:記事を読んでいる人の方が広告経由よりCVRが高いのであれば、それは御社の出稿でそのように仕組みを作り、記事で読んだ人にリターゲティングみたいなことをしていくわけですね。

 

篠田:この広告主様事例の場合、ユーザーの検討期間は長いです。記事の内容に応じて、購買の半年から一年くらい前であると思われる人たちには、こういった広告を出そう、購買直前の人たちには別のメッセージを出していこうということになります。

 

有園:検討期間の初期段階にあるのか、最終段階にあるのかみたいなことを行動パターンから読み取るのでしょうか?

 

篠田:そうですが、それは今後の課題として試行錯誤中です。

 

 

行動から分析してユーザーのフェーズを知る

 

有園:とある広告主が、オーディエンスターゲティングとリターゲティングをやっています。そこに、どのようなクリエイティブのバナーをあてれば効果が高まるかを検証しているのですが、リターゲティングは一度サイトを訪問した人に出しているので、一回来てすぐにコンバージョンしなかった人ということになります。

一回来てすぐにコンバージョンしなかった人は、何かしら理由があって悩んでいる可能性があるのではないかという仮説を立て、競合他社もいる業界なので、おそらく他の競合他社の商品と比較検討している可能性があるということになり、リターゲティングで出すバナー広告のクリエイティブを、比較検討している人に刺さるようなクリエイティブに変えたんです。すると、CTRが上がってCVRも少し上がりました。

ユーザーがどのフェーズにあるかを行動から分析し、クリエイティブを差し替えることは、次のアトリビューションやDMPである程度見えてくるところではあります。ただ、課題でもあると私も感じているところです。まさに、そのようなことが業界でもどんどん出てきそうですね。

 

篠田:たとえば、「車が好き」となってから車の広告をあてるというよりは、もう少し遡ると、引っ越しや結婚や出産など、車が欲しくなるタイミングの予兆みたいなものがあるはずです。そういったユーザーのモチベーションの変化を、いろいろなメディアと協力しながらデータを集めて、DMPの分析を通して上手くターゲティングできれば、より早くユーザーをターゲティングできるのではないか。そのような取り組みをしています。

 

コンテンツアトリビューションの事例

 

有園:コンテンツアトリビューションの話に戻します。とある広告主では、媒体社と話をして、いわゆる記事の中に戦略PRという形で記事化してもよいとされたものを、広告ではなく純粋な記事にしてもらったのですが、その記事を読んだ人が広告主のウェブサイトに飛んでくるかを調べました。結果的に、バナー広告経由の方が出稿量も多いのでアクセス数、コンバージョン数といった数字は大きいのですが、コンバージョン率は記事経由の方が二倍くらい高かったんです。

そういう現象って、他の広告主でも十分ありえると思います。そのとき「記事を読んだ人にリターゲティングで広告を出そうよ」という話が出てきます。とある媒体の記事を読んだという情報を分析するのは構わないけれど、記事を読んだ人にリターゲティングの広告を出すとなると、読者であるユーザーに対して広告を出すわけなので、これはいわゆるプライバシーの問題としてどうなのかという話になります。御社としてはどうされていますか?

 

柴田:媒体社様と広告主様の両方に、プライバシーポリシーをきちんと記載していただくとか、ユーザーに許諾をとってもらうことは大前提です。それがクリアできた段階で、実施できます。

 

有園:媒体の方で、そのような記事を読んだユーザーの興味関心に基づいて、アドネットワークやDSPから広告が出る可能性があることの許諾をとる旨、明記することが重要ですね。そういう風な許諾をとる方法の取り組みも、御社は一緒にやっていらっしゃるのですね。

 

柴田:そうですね。

 

 

データに対する感覚をもつということ

 

篠田:話が戻りますが、データマネジメントプラットフォーム部で必要なスキルセットとしてもう一つ、僕の中で持っておいたほうが良いと考えているものが「データに対する感覚」です。具体的には、メディアやサービスが、どういうデータを提供していて、そのデータを使うと、どういうことができるのかということを考えるスキルです。

僕は個人サイトで自分のデータを可視化することを趣味でやっています。自分のデータとは、自分のフェイスブックのデータであったり、自分のLINEのチャット履歴などです。それらを可視化しています。

 

篠田:これは自分のLINEの履歴です。自分の最頻出ワードを24個、自動的に抽出し、何時に、どんなことを言っているかを可視化しています。この過程で、LINEのローデータにはどんなことがあるんだろうかとか、フェイスブックのローデータにはどんなことがあるかなど、あくまでも自分のデータを通じてですが、どのようなアウトプットができそうかを考えています。

 

有園:どういうアプトプットになるんでしょうか?

 

篠田:これからです(笑)

 

有園:なるほど(笑)

 

柴田:いま、ソーシャルグラフを分析している会社が増えていますが、それを広告領域に落とし込めているケースはあまりなくて。

そこで、人様のデータを使って分析することは難しいので、まずはn=1の本人が実験台となって、自分のデータを分析してみようということになりました。データを分析した後に、篠田に広告を打つとしたらどういう広告主様が、どういうタイミングで、どういうクリエイティブで、どういう基準で打つのが良いのかを考えるきっかけになればと思っています。

ツイッターのつぶやきを使って、広告モデルを考えてみたりもできるかなと。効果分析でツイッターを使うことはありますが、広告領域では適用されていないので。そういうのも「本人がやりたいならいいんじゃない」ってことでやってもらっています。完全に趣味ですが、いずれ仕事にすることも可能かもしれない。

 

有園:さすが、懐が深いですね。これが「データに対する感覚」ということですね。

 

 

DMPで、「見ることができなかったものを、見えるように」

 

篠田:これまで見ることができなかったものを、見えるようにするのがDMPです。同じメディアに同じクリエイティブを出して、同じターゲティング方法をとったはずなのに、CPAが全く違うとき、その理由を季節変動で片付けるのではなく、いままで考慮してこなかったデータを考えるということです。実は、同じに見えた広告配信も、世帯年収や家族構成が全く違う人に出していた等、いろいろな原因が考えられます。

どういうデータを扱うべきなのか、いま見えていないデータは何かを考えられることが、データに対する感覚かなって思っています。

 

 

データサイエンティストに求められること

 

柴田:データ自体はファクトです。縦軸、横軸に都道府県や購買件数などが並んだ表があるとして、それだけ見ていても面白くない。都道府県をGDPの多い順に並べ替えたとき、購買行動に何か違いが出るのではないかとか、一つのファクトに対して、僕らが思っている「東京都ってこういう都市だよね」「千葉県にはこういう人が多いよね」といった数値にない情報と組み合わせて数字を読めることが、総合広告会社としての強みだし、データのセンスかなって思います。ファクトだけ見て「東京都が多いですね」「千葉県がどうですね」と言うのは誰でもできる。「東京都はGDPがこうで、都知事選挙があるから、こういう数字になっていると思われます」みたいな、風が吹けば桶屋が儲かるではないですが、データの裏にある情報をどれだけ深ぼって、いけるか。それができるかどうかが、データサイエンティストとして非常に重要な要素だという気がしています。

 

有園:篠田さんはデータサイエンティストということですか?

 

篠田:違います。

 

柴田:それっぽい動きはしていますね。

 

篠田:僕は現場の人間だと思っています。広告主様と相談させていただきながら、一緒にいろいろな提案をしています。

 

有園:つまり、それがデータサイエンティストってことですね。

 

柴田:どう定義するかですね。データサイエンティストはフロントにいて、裏にはいないかもしれません。

 

有園:分析のみしているのではなく、広告主のニーズを伺いながら、ときに「お前は分かっていない」と言われながら、フロントに立つ。それは大事ですね。

 

柴田:弊社は媒体社様のパートナーでもあるので、媒体社様に寄り添って、メディアの価値を高めていきたいと思っています。それには広告主様側の強いニーズを知らないと価値を高めることはできません。広告主様と媒体社様の両方の声を聞くために、現場の最前線にいるべきだと思っています。

 

有園:媒体社と広告主の現場を理解して、媒体の価値を上げる提案をしていくということでしょうか?

 

柴田:それが僕らの仕事です。

 

 

媒体社、広告主、そしてユーザー

 

有園:広告主と話していて感じることがあります。アトリビューションやDMPを媒体社と広告主の両方にとって意味のある使い方をしていく際、ここにユーザーという視点を入れなければならないと思います。媒体社と広告主がハッピーになる使い方をしたとして、そこから発信される情報がユーザーに届いたとき、ユーザーの役に立ち、喜ばれないと意味がありません。「CMはトイレタイムです」みたいに「広告としての情報を届けられてもウザイです」になってはいけない。媒体社と広告主、そしてユーザーの三者がハッピーになる使い方を考えていかないと、業界としてはいけないんだろうなって思います。

僕はグーグルにいたので、グーグルの広告の「ユーザーの役に立つものを出す」というスタンスが染みついているのかもしれません。理想かもしれませんが。ユーザーの役に立つ広告が出て、その媒体も役に立つものであり、広告主も広告をクリックされてハッピーになるという関係性って、DMPやアトリビューションでも意識すべきことです。その思いで仕事をしたほうがハッピーだし、広告主も喜ぶなって思ったんです。

 

柴田:生活者にとって気持ちの良いタイミングで、気持ちの良いクリエイティブを出せるかどうか。さらに、飛んだ先のコンテンツがどのような形で作られているかも重要です。良いタイミングでクリックしたけれど、飛んだ先のコンテンツが思っていたものと違ったら、みんないなくなってしまう。生活者のいまのモチベーションをいかに理解し、それに合せたコンテンツ作りを広告主様とともにできるか。その方向とセットじゃないと上手くいかなと思います。

 

有園:そうですね。

 

柴田:幅広いターゲットへのアプローチが増える、ユーザーのニーズもぼやけてしまいます。そのときに用意するコンテンツって、やっぱりぼやけているというか。迷っている人と、買うと決めた人では接客方法が全く異なるのと一緒で、広告もそこは変えていかなければならないなと思います。DMPをやっていると、それがますます重要だと感じます。

 

有園:先日、ある広告主から言われた「結局、うちの社長は、顧客満足度を高めたいって言うんです」という一言が印象的でした。アトリビューションとDMPで、いろいろなことができるのは多くの広告主が分かってきています。それがブランドの価値としてユーザーに届いたとき、ブランドのファンを増やしたいし、顧客を増やしたい、顧客満足度を高めたいし、嫌われたくない。DMPとDSPを使ってリターゲティングがいっぱい出ていってユーザーから嫌われては意味がない。そこをきちんとケアしていきたい。それが広告主の声です。そのための施策やクリエイティブを考えていかなければならないと思いました。ありがとうございました。

 

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■対談者プロフィール
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株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
データマネジメントプラットフォーム部
部長
柴田貞規(Sadanori Shibata)

1996年からネットビジネスに関わり、現在まで、制作、開発、コンテンツ編成、オンライン広告領域を幅広く経験。2007年に博報堂DYメディアパートナーズに入社。運用型広告(リスティング広告、アフィリエイト広告、DSP)の領域の責任者として、運用体制の構築・販売推進を行う。13年4月から現職。

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株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
データマネジメントプラットフォーム部 兼 メディア環境研究所
篠田裕之(Hiroyuki Shinoda)

リスティング、アドネットワーク、DSPなどの運用型広告のプランニングに携わるほか、特に2013年度データマネジメントプラットフォーム部発足後は、アトリビューション分析やDMP業務を担当。また、メディア環境研究所研究員として、生活者の様々なメディア接触データのヴィジュアライズを行う。
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【アトリ君の視点】数年前のad:tech Tokyoでコンテンツアトリビューションの取り組みをプレゼンしておられたのを拝見しましたが、あの頃から取り組みが早かったですね。「データに対する感覚」を持つ人の話はインパクトがありました。最近データサイエンティストと言われる人の守備範囲はケースバイケースで、いずれにしても篠田さんのような現場寄りでデータ感覚を持った人がクライアントとデータ寄りの人とのブリッジになることは必要ですね。そういう人が増えてくると総合代理店としてもソリューションの広がりが出てくるように思いました。柴田さん、篠田さん、大変勉強になりました。ありがとうございました!

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