※本記事は、2014年2月に公開されたAttribution.jpからの転載記事です。
有園:今回は、株式会社ALBERTの代表取締役社長である上村崇さんと、執行役員でありデータ分析部部長の安達章浩さんを迎え、アトリビューションとDMPについて伺います。
上村崇さんの経歴
上村:ALBERTは2005年7月に設立しました。前身は、代表取締役会長の山川義介が2000年に創業したインタースコープという、マーケティングリサーチやデータマイニングを手がけていた会社です。私はそこで2001年から学生インターンとして、データマイニングやマーケティングレポートの作成、テキストマイニングシステムの開発などをしていました。
有園:そうだったんですね。
上村:当時は、データを集計・分析したレポートのパワーポイントが納品物でした。しかし当時から、レポーティングに留まらず、分析技術を活用したマーケティングソリューションを提供することで、クライアントの企業価値を直接的に向上するビジネスができるのではないかという思いがあり、2005年にインタースコープからも出資を受け設立したのが、ALBERTです。創業当初は、レコメンデーションの専門企業という事業コンセプトで、レコメンドエンジンを搭載したメディア運営とレコメンドエンジンの提供を、主たる事業としていました。
有園:最初から山川さんが会長で、上村さんが社長だったんですか?
上村:はい。当時、山川はインタースコープとALBERTの会長を兼務していましたので。
有園:2005年にALBERTを創業されたとき、上村さんはおいくつでしたか?
上村:25歳です。
有園:創業当初の従業員は何名でしたか?
上村:3人です。創業後1ヶ月くらいは、インタースコープのオフィスを間借りしていました。
有園:今は何名ですか?
上村:50名くらいです。
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムとの関係
有園:デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社とは、どのような関係になるのですか?
上村:デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムとは、2011年に資本業務提携を締結しました。これまで、弊社はCRM領域を得意としてきましたが、ビッグデータを扱う以上はアド領域の最適化エンジンも取り組む必要があると考え、実は一度もお会いしたことがなかったのですが、同社CTOの徳久さんにツイッターで話しかけたんですよ。
有園:ツイッターで?
上村:日曜日の午前中って、タイムラインが静かになるんです。そのタイミングで話しかければ目に留まるのではないかと思って(笑)「うちの最適化ソリューションで、アド領域でこういうことがやりたいんです」って話しかけたのがきっかけです。
有園:上村さんは、結構したたかなんですね(笑)
上村:いやいや、したたかって(笑)
有園:仕掛けたわけですね。
上村:(笑)
有園:御社を知ったのは、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムさんのリリースで「どこか分析の会社と提携したんだな」と思ったのが2011年でした。ALBERT、山川さん、上村さんという名前をリリースで目にして以来「何をやっているんだろう」と注目していました。御社は2011年以降、CRM領域から広告領域まで手掛けるようになったわけですが、現在、アトリビューション分析はオフラインと呼ばれるマス広告まで入ってきていますか?
上村:ほとんどの場合、マス広告まで含めて分析しています。ずっとCRM領域の、今で言うところのデータマネジメント領域をやってきました。大量データを解析して、マルチチャネルにおけるパーソナライゼーションを実現する、システムの提供をビジネスにしてきました。さらに2009年には、アフィリエイト領域でレコメンデーションバナーをパーソナライズドして出す「アフィレコ」というサービスを開始しました。
いまでこそ、リターゲティングレコメンデーションバナーのCriteo(クリテオ)さんが参入されてメジャーな考え方になっていますが、当時はまだ、そのようなサービスはありませんでした。サービスを始めた直後から「アフィレコ」は、通常のバナーに比べるとクリック率が5倍から10倍出ていました。リターゲティングした上でのレコメンデーションバナーは効果が高いことに気付き、広く世に出すために、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムさんに声をかけたという経緯です。
「ADreco」と「アフィレコ」の違い
有園:そうでしたか。御社には「ADreco」というサービスもありますが、それと「アフィレコ」の違いを教えてください。
上村:「アフィレコ」スタート当時のビジネスモデルは、アフィリエイトだったので「アフィレコ」でしたが、CPMまたはCPC課金へのモデル転換で「ADreco」になりました。アフィリエイトはメディアに大量に貼ってもらえないと収益化が難しいので、今はモデルチェンジして「ADreco」を提供しています。
有園:「ADreco」は御社のレコメンド型DSPでしょうか?
上村:配信面も自動最適化する仕組みであるため、レコメンドバナー専用のDSPと呼んでいます。「ADreco」にしてもプライベートDMPにしても、最近「ビッグデータ」がトレンドワードになったことで、急にスポットライトを浴びるようになりました。現在のメインビジネスとしては、CRMと広告の両方の領域を含めたプライベート・DMPとして「smarticA!DMP」を展開しています。
smarticA!DMP
有園:事業の柱は「smarticA!DMP」領域と他にはありますか?
上村:弊社のたいていのビジネスが「smarticA!DMP」領域に入っていて、データマイニングエンジンだったりキャンペーンマネジメントシステムであったり、広告配信の最適化だったりします。付随して安達の部署は、各ソリューションを提供するにあたり、あるいは分析単体で依頼をいただき、クライアントのデータを預かって分析する専門の部署です。
有園:「smarticA!DMP」の各ソリューションで分析が必要なので、分析業務が発生し、広告の最適化でアトリビューションの業務が発生しているわけですね。
上村:そうです。
ベイジアンネットワークとは?
有園:会社概要をおおむね理解したところで、アトリビューションの話を伺います。ALBERTさんでは主にベイジアンネットワークを使って分析しているそうですが、私自身はグーグルに勤めていた頃から「ベイジアン」という言葉を耳にしていました。「グーグルの検索エンジンは最適化の部分でベイジアンが走っているらしい」とか、いろいろなところで「ベイジアン」という名前は聞くものの、アトリビューションに関してベイジアンネットワークのどんなところが良いのか、実はよく分かっていません。対談という名を借りて勉強させていただこうと思ってやってきました(笑)
安達章浩さんの経歴
安達:私がALBERTに参加したのは、2013年2月です。前職では20年以上、分析業務の会社を経営していました。主に広告代理店がクライアントで、分析業務を委託されていました。広告の分析業務だけでなく、ERPが流行っていた時代は全社的なリソース配分の分析業務なども行なっていました。その前は、日本国内のコンサルティングファームに勤めていました。そこはIBMと近い関係にあったのですが、当時のIBMは、汎用機と言われる巨大コンピュータの製造・販売が主流でした。
有園:メインフレームと呼ばれる、企業の基幹業務などに利用される、大規模なコンピュータのことですね。
安達:例えば3090とか。
有園:COBOL(コボル)やFORTRAN(フォートラン)とか。
安達:そこのリソースをクライントに使ってもらうために、汎用機で動かす統計解析パッケージが米国のIBMで開発されました。SASの前身ともいうべき言語で、ASという統計解析パッケージです。CPUをたくさん食うので、たくさん3090が売れるのではないかというIBMの戦略があり、このパッケージをIBMと共同で販売していたのですが、その際「ASという仕組みを使うと、こういう分析ができますよ」とクライアントに提案するための分析業務を請け負うという、特殊なコンサルティングをやっていました。そこに6年以上在籍しましたが、その前は日産自動車のマーケティング担当として、商品開発をしていました。主にスカイラインを担当していました。
有園:日産自動車が、新卒で入った会社ということですか?
安達:そうです。
有園:そこでマーケティングと商品開発、しかもスカイラインって、メインどころですね。
安達:市場調査をして、次期型の仕様や価格を決めるといったことを6年くらいやっていました。統計解析などに日産自動車勤務時代から関わり、コンサルティング会社では、統計解析パッケージを売りつつバージョンアップといったことにも携わった後に独立し、長らく広告業務の分析などをやっていました。「そろそろ仕事を辞めようかな」と思っていたときにALBERTを知り「面白そうな会社だな」と思って参画するに至りました。
有園:重厚な経歴ですね。マーケティング寄りの分析畑で、長く活躍されてきたわけですね。30年以上になりますか?
安達:そのくらいになりますね。
有園:新卒で入った頃は、日産自動車といえども一人に一台パソコンがない時代ですよね?
安達:部署に一台でした。
有園:おそらく、その後のコンサルティング会社の時代も、クライアント-サーバ型のマシンで分析していて、サーバから分析結果の返事が戻ってくるのに……。
安達:一昼夜かかった時代ですね。
有園:そのような状態だから、分析にもすごく時間がかかったと思います。僕も大学院で、IBMの統計解析ソフトウェアのSPSSとかをかじっていました。クライアントマシーンにSPSSを入れていて、パチッとやるとガーッと回っていましたが、それでもすごい時間がかかっていました。
安達:SPSSの日本国内での初利用者は、勤めていたコンサルティング会社でした。
共分散構造分析、構造方程式モデリング、ベイジアンネットワーク
有園:本日は、統計解析の歴史とともにいろいろ伺っておりますが、オフライン、オンラインとアトリビューション分析をするなかで、オフラインの分析では主に、共分散構造分析(covariance structural analysis)や構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling、通称SEM)というものを使って構造の分析をするわけですが、ベイジアンネットワークとは何が違うのでしょうか?
安達:仰るようにマス広告の分析をする場合は、もちろんSEM(構造方程式モデリング)を使ったりもします。必ずしもどれかの手法が最適ということではなく、案件によって使い分けています。さらにALBERTには、独自に開発した状態空間モデルのようなものがあり、それを使うことのほうが多いです。クライアントにとって、そちらのほうが分かりやすいので。のちほど詳しく説明しますね。
有園:お願いします。
安達:話を戻します。ベイジアンネットワークを導入した経緯は、ALBERTに入ったときに上村から「これをやりたいんです」と1枚の企画書を見せられまして。そこには4大マス広告が書いてありました。さらにリスティング広告があり、DSPがあり、そこから何らかのブラックボックスを通ってコンバージョンしている。「このブラックボックスの中身を解明する手法を、すぐに開発してほしい」といきなりオーダーをもらいました。
有園:なるほど。
安達:方法論として、一つは重回帰分析があります。マス広告を含め、全ての広告を全部パラレルに評価する、構造ではなく足し算で評価していく方法です。もう一つはSEM(構造方程式モデリング)です。SEMは、重回帰分析の発展形であるという考えがあります。ただ、SEMは、自分である程度、構造を特定しなければならない。これは、分析者のノウハウにかかる部分が非常に大きいわけです。さらに、広告のことをよく知っていたり、広告を出している企業の業種業態にも詳しかったりする必要もあります。つまり「この業界では、こういう風にモノやサービスが売れている」ということをよく理解している人であれば、その構造を作ることができるのですが、全ての業種に精通できるわけではない。
そこで、SEMを使うのは厳しいと思い、人のノウハウに頼らずに解析できる方法があれば、クライアントにとってもメリットがあると考えて、マルコフモデルかベイジアンネットワークを使うことを考えました。有園さんが執筆されたアトリビューション本を拝読し、アトリビューションスコアの付け方を勉強させていただきましたよ。
有園:原始的な(笑)
安達:いえいえ。有園さんの提唱されるモデル、つまり、均等配分モデルは、ある意味非常に優れています。ファーストとラストを重視するとか、U字型に評価するとか、均等に評価するとかありますが、最終的には、均等配分モデルに落ち着くんだと思います。あるいは、U字型ですね。
有園:最終的にはですね。
マルコフモデルとは?
安達:マルコフモデルを研究したときに思ったのは、最終的には均等配分モデルにどうしても近づくという結論でした。マルコフモデルは、パスを全部切り出して、パスに出てくるアトリビューションポイントを全部足しあげて、頻度計算をして確率に落とすというものです。そこに人間の思いを入れない限り、全部同じウェイトで計算されます。そうなると、最終的に収束するのは均等配分モデルかU字型に近い。
有園:U字型なんだ。
安達:ラストのクリックが若干ウェイトは高く、真ん中が落ちていくパターンに最近は落ち着くことが多く、だったら最初から均等配分モデルでやればよいではないかということになるわけです。
有園:私が「均等配分モデルでやればよい」と書いていますからね(笑)あんまり悩む必要はないよと。
安達:有園さんが仰っている均等配分モデルが良いというのは、パスに全部均等にウェイトをかける点だと思います。人によってパスの長さが違うので、2回でコンバージョンした人には2回のタッチポイントに、合計1だとしたら0.5ずつ割り当てて高く評価する。5回でコンバージョンした人には0.2ずつ割り当てる。これは合理的な考え方ですね。
有園:私が考えたわけではないんですけどね(笑)
安達:アメリカの方では、そのように考えられていたんでしょうか(笑)なので、マルコフで面倒くさい分析をしなくても、均等配分でやるという手もあります。
有園:一般のマーケターがマルコフとかはできないので、そういう人たちがやるレベルであれば十分だろうという発想です。
安達:こういう研究を経て、より良いモデルはないかということで、ベイジアンネットワークでいこうと思ったのです。過去に、ベイジアンネットワークを使って、意思決定の構造がどうなっているかを考えたことがあります。ある会社が役員会で、今後の経営戦略上、何を最大のポイントにするかをまとめることになり、人それぞれ意見が違うし、時間を経るごとに構造は変わっていくので、これを上手く分析して欲しいという依頼がありました。そこで、経営課題として挙げていることを取締役全員にアンケートをとって、それぞれに点数をつけ、その行列を作っていただいたんです。
有園:よく、コンサルティングファームがやることですね(笑)
安達:そうです(笑)それを単純集計しただけでは面白くないので、1回目は「みなさんの考え方はこうでした」と構造図にして、何か月かアクションプランを試し、その後どうなったかを見てみましょうということになりました。
有園:まず、役員にアンケートをとって、そのときに何の要素が何に影響を与えているか、それぞれ10個ぐらい挙げて点数をつけてもらったわけですね。
安達:そうです。関係性に点数をつけてもらいました。
有園:「営業の数が足りないのではないか」、そうではなく「営業は知識が足りないんだ」、あるいは「商品がマーケットにあってない」といったポイントですね。
安達:「宣伝広告費が足りない」とか「研究開発費が足りない」とか。
有園:例えば、10人の役員が出してきたスコアに応じて構造化していく。
安達:それぞれの関係を得点化していきます。広告宣伝費が足りないことが、どこに影響を及ぼすのか。マス目が縦と横に同じ課題を並べておいて、ここからここにどういう影響を与えているのかを得点化します。
事前確率、事後確率
有園:ここは僕も勉強が足りないところですが、その時点で、そのアンケートをもとに、構造化したものの出てくるスコアを事前確率って呼んでいますよね?
安達:はい。
有園:そのあと何かしらアクションがあって、営業の人数を増やすとか、そのあとに同じアンケートをとって変わったかどうかをスコアで図る。それを事後確率と呼んでいますよね。
安達:はい、そうです。そうすると、事後確率に至るまでのアクションが、どこでどれだけ効いたかを数量化できます。「あなたの会社では、ここをいじると、こういう風に結果が変わります」という予測モデルができます。これによって、どこにウェイトを置くべきかという最適配分ができるようになります。この考え方は、広告にも適用できます。さきほどの経営課題は、広告で言えば各媒体、もっと細かく言えば各クリエイティブに相当します。
有園:そういう意味では、変数と言ってもよいんでしょうか?経営課題の要素が全部変数だし、それは広告のクリエイティブだったり投下量だったり媒体だったりという変数に値する。
安達:同じように考えれば、広告においても、人間の目では見えないブラックボックスになっている部分が、構造として見えてきます。相互間の影響まで解析できるのであれば、そのウェイトに応じてアトリビューションすることができるということです。数社とテストトライアル的な取り組みを行なってみたところ、ベイジアンネットワークで綺麗に分析できることが分かりました。
有園:見えてきたわけですね。
安達:そこで商品化しようということになって始めたのが弊社のアトリビューション分析です。
有園:そうすると、安達さんが入社されたのは2013年の2月ですから、2013年からの取り組みなんですね。
ALBERTのアトリビューション分析サービス
上村:アトリビューションに応用して商品化したのは2013年からです。リリースを発表したのが2013年6月ですね。
2013年6月25日
ベイジアンネットワークを用いたアトリビューション分析サービス開始
~アトリビューションスコアを数理モデルで定量化、
広告予算の最適配分も把握可能~
ベイジアンネットワークは、「構造が分からないものの構造を明らかにしよう」というトライなので、そこが非常に良いと思っています。もちろん世の中にはいろいろな手法がありますが、例えば、ボルツマンウェイトを使って物理法則に準じるとか、金融工学でもブラック-ショールズとかがあります。
有園:ノーベル経済学賞をとったブラック-ショールズですね。
上村:あれも、金融の動きが物理運動と同じである、幾何ブラウン運動と同じ動きをするはずだという仮説によるものです。
有園:はい。
上村:自然物理の中で起こる現象が、金融にも広告にも当てはまるといったアプローチが、これまであったと思うのですが、実はそうではなくて、そもそも構造が分からないものは構造を明らかにした上で、その構造間の確率をはかるというアプローチのほうが、外れは少ないと考えています。もし、ターゲットがその運動と同じ行動をとっていなかったら大きく外れてしまうけれど、構造自体を探りに行くのがベイジアンネットワークなので、そこが弊社のポリシーというか方針にマッチしている手法だなと思うんです。
ロング・ターム・キャピタル・マネジメントの破綻
有園:なるほど。ちょっと余談ですが、ブラック-ショールズは、ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(Long Term Capital Management)という会社をつくって、1990年代後半に破綻したじゃないですか。
安達:それは、モデルのせいだと我々は読んでいますが(笑)
有園:そうですか(笑)それでいうと、ある意味、当たらなかったわけですよね。ノーベル経済学賞をとったものの、マーケットの動きは読めなかった。そこが読めていたら儲かっていたと思いますが、最後は破綻してしまった。
上村:幾何ブラウン運動という運動法則と、金融の動きは同じではなかったということですね。
有園:まぁそういうことですね(笑)
ベイジアンネットワークだったらブラックマンデーは避けられた?
上村:当時いろいろ批判や擁護もあったそうですが、そこをベイジアンネットワークでやっていたら、ブラックマンデーは避けられたのではないかという説もあります。
有園:あるんですか?
上村:あります。避けられたとは明言できないかもしれませんが、ベイジアンネットワークであれば、少なくとも金融マーケットは冷静に株価の動きを見ていただろうという学者さんもいます。
有園:それは知りませんでした。面白いですね。リーマンショック以降、金融業界のエンジニアが広告業界に入ってきて、DSPをやったり仕組みを作ったりしてきました。金融と広告の取引市場の類似性とかもあると思っているので、いまの話は僕の中でヒットしています。もともと、リスティング広告の入札制も株価の入札と変わらないんじゃないかと実は思っていて、類似性を強く感じています。その中で、ベイジアンネットワークだったら、ロング・ターム・キャピタル・マネジメントも破綻しなかったのではないかということですね。
上村:例えば、統計学で著名な元東大教授(その後上智、現聖学院大学大学院教授)の松原望先生が、まさに「ロング・ターム・キャピタル・マネジメント破綻」というテーマで、そのように書かれていらっしゃいます。金融の動きは物理行動とマッチしなかった。構造自体を探りにいくベイジアンネットワークだったら、結果は違っていたのではないかと言われています。
ベイジアンネットワークって何?
有園:ベイジアンネットワークの理解を深めたいのですが、因果関係の構造を知らなくても使えるという点で、ベイジアンネットワークが優れているとのことですが、今の広告分析では、最初に誰かが数字を与えなければなりませんよね?
安達:ベイジアンネットワークは、2種類に大きく分かれます。動的なベイジアンネットワーク、つまり機械学習的なモデルのベイジアンネットワークと、現状の構造を解析させる静的なベイジアンネットワークです。今はどちらかというと「広告をこういう風に出しました」という結果系データをいただき、その中の構造を解析していく静的なベイジアンネットワークです。当然、今後は動的なものも考えています。スタティックな分析では、現状あるデータそのものから構造をダイレクトに書きだすことができます。
有園:いわゆる、確率推論というものですか?
安達:イメージとしては。
有園:例えば、AからBまたはCに行きますという話で、100人いて、AからBに行った人が50人いた場合、そこに2分の1の確率が入ってくるということですか?
安達:2分の1という確率は用いず、情報量規準に基づいて、その関係性を決めているのが特徴です。普通は、AからBに50人行くと2分の1と格付けしますが、情報量規準は、単純に確率を割り振るわけではありません。AとBの起こりやすさは、本当に他のものに対して優位なのかというところを規準にしています。純粋に確率ではなく、他のものも同じように起こるけれど、その中でこの関係は特別なものなのかを計る。
有園:それって、サイコロを振ったら1の目が出る確率は6分の1ですよね。大数の法則で、200回くらい振れば6分の1に限りなく近づくという話があります。10回振ってみたら、1が5回出たとします。もしかすると、このサイコロは1が出やすいのではないか、1が出る確率は6分の1より高いのではないかと考える発想だと思いますが、AからBへの行きやすさを、100人だったら単純に50人ずつにするのではないとしたら、行きやすさみたいなものを何で判断するんですか?
情報量規準はログを使う
安達:情報量規準はログを使います。
有園:何のログですか?
安達:数学でいうロガリズムです。従いまして、線形の関係ではありません。非線形の関係です。あるところで急激に落ちて漸近線に近づくというモデルです。例えば、ここの間は非常に有意で、こっちに行くと有意ではないという判定の仕方をします。線形に物がつながっていると仮定するのではなく、非線形でかつ複雑な形につながっていると仮定します。
図1. 情報量の価値変化イメージ
起こりやすいものにはペナルティをつけます。起こりにくいものが起こっているかを判定する。100人中98人がするようなことよりは、100人中1人がしていることの方が非常に価値のあることだと判断します。
有園:現時点では、オンラインのコンバージョンパスデータの話となると、第三者配信エンジンのi-EffectやMediaMind(メディアマインド)などから経路のデータを持ってきて、その経路と媒体費といったデータで分析していくのでしょうか?
安達:CPAを出すことは最後に行ないます。ベイジアンネットワークはそのためのスコアを出すためのものです。
有園:経路のデータ上で、このような考え方を使ってやっていると思って間違いありませんか?
安達:これは、有園さんが仰っているアトリビューションスコアの決め方と同じだと思います。
図2.アトリビューション分析におけるベイジアンネットワーク
ベイジアンネットワークでウェイトを出した上で全体の数値として用いて、それぞれに値を割り振り、最終的にアトリビューションスコアを出しています。
有園:腑に落ちました。
安達:ここに均等モデルとの違いがあります。ある人は「絶対にファーストクリックが有効だ」と言い、ある人は「絶対にラストクリックでしょう」と言うこともあり、意見もぶつかってしまうので、スコアを数理的に決めるために使っています。
有園:ベイジアンネットワークを使ってアトリビューションスコアを付与していく、算出していく際に、複数のモデルを試すという発想はありますか?
データの切り方は何度もトライアル
安達:そうですね。データの切り方は何度もトライアルします。
有園:データの切り方とは?
安達:例えば、コンバージョンに時間が影響を与えていることがあります。インプレッションが、何日前に出ているかを一つの変数にすると、この何日前をどういう切り方にするかということです。
有園:データの変数としての持たせ方というか、そういう意味での切り方ですね。
安達:そうです。ある企業では、時間よりは回数、つまりバナー広告のフリークエンシーを見ていて、そういう風にデータを持たせた方が良いという結論に至っています。この場合は、回数を変数にしています。他の業種では先ほどのように「何日前に見せたものが効果はあった」といった持たせ方をしていたりします。
有園:データの切り方を考える際、バックテストは入ってくるのでしょうか?過去のデータを参照して、付けたスコアと媒体費で計算してみると合っている、合っていないが分かり、合っていなければ切り方を変えていくということをやっているわけですね。
安達:最終的には、全ログデータを使って計算するわけですが、最初にデータの持たせ方を決めるときは、サンプリングして、モデルを作って、適合性を計って、良いものを選んでいきます。
有園:だいぶ腑に落ちてきました。オフラインのアトリビューションについても伺えますか。
オフラインのアトリビューション
上村:テレビ、新聞、雑誌、ラジオにネットが加わり、一体どのアプローチがどれだけ企業価値を高めているのかを知りたいという要望が最近非常に多く、広告代理店経由であったり、クライアントから直接であったり、4マスも含めたアトリビューション分析の相談は、とても増えています。
有園:増えていますね。
安達:4マスも含めて、広告費のアロケーションを最適化していきましょうという話ですが、特に我々は、販売量が何によって決まっているのかという、要因分解の方法論についてノウハウがあります。マス広告の場合、ネット広告と違って、どこのエリアに何日にどれくらい露出したかという限られたデータしかありません。ですから、構造自体を特定することが非常に難しくなります。ここの特定に、データ自体を要因とする時系列解析の手法を用いているのが特徴です。
季節効果や曜日効果といった、販売に与えるいろいろな効果を把握する技術があり、シミュレーションモデルがあります。どんなモデルを使っているかというと、状態空間モデルに近いのですが、Y軸の販売量を時系列解析することによって得られる長期トレンドや季節指数に加えて、広告効果、その他の効果と誤差などに分解して把握しています。さらに広告効果は、マスとWebとプロモーションなどに分解されるはずです。仮にクライアントが店舗とECサイトの2つのチャネルを持っている場合、販売量は実店舗の販売量プラスECサイトの販売量になります。それぞれを先ほどのモデルで分解するといったやり方です。
図3.販売データの分解例と広告残存効果期間
広告を打つ前、打った後
安達:ベイジアンネットワークを使っている場合もあります。マスとWebとプロモーションが単純に分かれていない場合も多くあります。単純に結合されているわけではないので、マス広告を打つと店頭に来る人が増えてプロモーション効果が変わってきたり、手元にチラシがあると、それを見てネットで買ったりする人もいるでしょう。このように、それぞれの相互間の影響を解明するときに、ベイジアンネットワークを使って予測モデルを作っていきます。
例えば、ある業界は商品が土日に集中して売れることが分かったとします。この曜日効果を抜いてスムージングをかけたものが、この青い線です。スムージングをかけた販売量と実際の販売量の差が、広告効果と商品力によるだろうと推定できます。次に、商品力をここから差し引きます。商品力の推定の仕方は、広告を打たなくなった時期は、商品力だけで売れているはずですし、発売した直後は、商品力が圧倒的に高いはずですから、その2点をポイントとして曲線を推定していきます。
広告の残存効果
有園:広告の残存効果は加味していくのですか?
安達:次のところです。ここが、先ほどの商品力を抜いたところです。この場合、テレビだけで見ていますが、どれだけ広告を打ったかというGRPと差の部分との関係を見ていきます。広告を打ったり打たなかったりしていますが、最後の一番右の部分、ここまでが広告は効いていたことが分かります。あとは効かなくなっています。このような形で広告効果を判定していきます。
図4.限界GRPの推定
有園:ここでいう限界GRPというのは、どこから出ているんですか?
安達:一番広告を少なく打って、かつ一番売れている日が上限ポイントになります。逆に下限は、ここらへんまで広告を出さないと、この販売量は確保できませんよという最低販売量です。
広告弾力性
有園:GRPの投下に対して、販売量がどれだけ変化するかという形での限界という意味ですね。広告弾力性のことですよね?
安達:まさしく、日別の広告弾力性です。
有園:それをGRPなので、限界GRPと呼んでいるわけですね。
安達:そうです。下限と上限を決める曲線を式に入れています。
有園:そういうことでしたか。僕は経済学をやっていたので、価格弾力性、広告弾力性の方が分かりやすいので。
安達:確かに、弾力性の方が言葉としては合っています。
有園:分かりました。
安達:ここに、Webとチラシそれぞれを加えたモデルもあります。こんな形で、状態空間モデルとベイジアンネットワークを組み合わせたモデルを、マス広告のアトリビューション分析には使っています。
有園:先ほどの状態空間モデルで、線形ではないだろうと思われるものに対してベイジアンネットワークをあてて式を作っていくということですね。いまは何社くらい、ベイジアンネットワークで分析したり、アトリビューション分析をオンライン、オフラインでやっていたりするんですか?
上村:マスまで含めてやっているのは5社くらいですかね。マス広告の分析をやっていて、かつ、アトリビューション分析までというと、かなり先進的な企業ですね。
安達:先進的というか、広告費を大量に投下している企業ですね。現状、我々がデータを預かって分析すると、ある程度人的コストがかかってしまうので、データをDMPに取り込んで、人手をかけずに分析する準備をしています。
有園:なるほど。そういったソフトウェアか何かをお持ちなんですか?
上村:弊社には、smarticA!データマイニングエンジンという製品があり、クラスタリングやアソシエーション分析、時系列予測などを自動計算できます。その中に、新しいモデルをどんどん取り込んでいっています。
有園:オンラインもオフラインも、アトリビューション分析がデータマイニングエンジンの中でできてしまうわけですね。理想的な世界に近づいていきますね。アトリビューションのある程度のモデルや手法が確立したところで、データマイニングエンジンに組み込んでいかれるわけですが、御社の主力商品である「smarticA!DMP」について最後に伺います。
smarticA!DMPについて
上村:smarticA!DMPは、データの蓄積から、データマイニングエンジンによる自動分析、キャンペーンマネジメントを通じてマルチチャネルで情報をパーソナライズして出しわけるところまでを対応しています。最近、こうしたサービスに「データマネジメントプラットフォーム」という一般名称が付きました。いわゆるプライベート・データマネジメントプラットフォームを、弊社では「smarticA!DMP」という名前で提供しています。弊社が提供しているプラットフォームでは、顧客の行動履歴であったり、広告の投下量であったり、コンタクトセンターのコンタクト履歴であったりと、自社で蓄積されるあらゆる大量データを溜めこんで活用していきます。どんなデータ溜めるべきかはクライアントによって異なり、目的によっても溜めるべきデータは変わります。
有園:なるほど。
図5.ALBERTが提供するプライベートDMP「smarticA!DMP」
上村:各社各様のデータが必要になるため、どんなデータを溜めるかのコンサルティングから携わっています。そうしてデータを溜められる環境ができると、次はデータマイニングエンジンの出番です。溜まったデータを自動解析するためのエンジンは、これまではSASなどの海外製品が主力でしたが、中身がブラックボックスで、なぜその答えが出てきたのかクライアントには分からないという問題がありました。また、例えば新たなアルゴリズムとしてベイジアンネットワークを使いたいと思っても、簡単にはできません。アルゴリズムの追加やシステムのカスタマイズは、開発国依存で直ぐには対応してもらえないといった問題がありました。そこで私たちは、いち早く必要なアルゴリズムをどんどん入れられるように、データマイニングエンジンを自社開発することにしたのです。
時系列予測などもそうです。例えば、ある飲食チェーンで、調布店に来週どれだけの顧客が来るかを予測して、商品の必要在庫を予測したい。そういうニーズに対して考案したアルゴリズムをすぐに取り込めるわけです。
有園:ツイッターか何かで、千葉のコンビニが、ポッキーの日にグリコがキャンペーンをやっていて、大量にポッキーを仕入れたけれど、全然売れなかったというつぶやきを見ました。何をどれだけ仕入れるかって重要ですね。それが、できるわけですね。
上村:例えば飲食店では、明日は雨である、且つ金曜日である、といった場合に、材料をどれだけ仕入れるかを正確に予測しないと廃棄が出てしまいます。ファーストフードチェーンなどの全国の全店舗で考えると、大量の廃棄コストになります。そういう在庫を最適化したいときは時系列予測で計算します。
また、smarticA!キャンペーンマネジメントは、マルチチャネルに対応していることが強みです。キャンペーンマネジメント=「メール配信ソリューション」のような説明をする方もいますが、本来はそうではないはずです。Web、メール、コンタクトセンターやDMなど、あらゆる顧客接点で一貫したストーリー性をもって接客できることが重要だと思います。
有園:マルチチャネルキャンペーンマネジメントのソリューションであり、この図に書いてあるように、メール配信用のシステムとか、コンタクトセンターのオペレーターさんの画面とかとつながっているわけですね。
上村:「オペレーターさんに、今日、この顧客には○○を喋ってもらう」ということまで指示ができます。ただし、最後のところは既存のシステムと連係します。メールは既存のメール配信システムに連係、Webでの表示はCMSに連係するなどです。DMや同梱チラシなどの印刷物なら、オンデマンドプリンティングシステムとつなぎます。既存システムと疎結合できる作りにすることによって、システム投資を少なく、無駄なくすることができるわけです。
有園:御社では、これらをレコメンド特化型DSP「ADreco」や、第三者配信「i-Effect」につなげるわけですね。「ADreco」以外のDSPともつなげられるんですか?
上村:はい。逆に、一般的なDMPは広告領域に偏っていることが多いと思います。
有園:ちょっと違うよねと?
上村:本当にクライアントがやりたいのは、CRMも広告も含めたマーケティング全体の最適化です。広告で人を集めても、そこに接客の仕組みがなければ仕方がありません。広告だけでなく、自社のCRMを最適化するプライベートDMPが必要だという話になります。そこまでカバーできているのが「smarticA!DMP」で、こうしたサービスは極めて少ないと思います。
有園:広告業界的にはAudienceOne(オーディエンスワン)などをDMPと呼んでいますが、AudienceOneを入れてCRMと連携することもできますよね?どちらかというと御社は立ち位置として、CRM領域からスタートしていて、それにAudienceOneみたいなDMP、あるいはインターネット上でのユーザーの閲覧履歴、行動履歴がデータとして溜まっているDMPと連携することができるわけですか?
「smarticA!DMP」と「AudienceOne」のシステム連携を開始
上村:そうですね。2013年12月11日に「smarticA!DMP」と「AudienceOne」のシステム連携を開始しました。トリプルメディア全体の接客を最適化できるようになりました。それができて初めて、DMPの意味があると思います。広告だけ、自社メディアだけでは片手落ちなので。
DMPとアトリビューションはセット
有園:2013年12月10日に「CNET Japan Live」に登壇したのですが、そこでDMPとアトリビューションはセットで使わないとダメですよという話をしました。なぜかと言うと、いろいろ連携して施策が出ていきす。セグメントをきってストーリー性とかシナリオとかを組んでいますが、打たれたものが良かったのか、悪かったのかを検証しないといけません。一連のストーリー性がある施策になる訳なので、ラストだけ見ても意味がありません。
これにマス広告も含めていくと、相互の影響を加味しないと、スイムレーンみたいなテレビの効果だけ見ていても、仕方がないです。DMPでやった施策をきちんと効果検証して、次に活かすためにPDCAを回すためには、アトリビューションは必須ですね。御社のツールには今後、データマイニングやアトリビューション機能がついて、検証しながらDMPのマネジメントというか、PDCAを回していけるようになるのでしょうか?
上村:PDACの仕組みは既にできていて、それはマストですね。ちょっと表現が古いかもしれませんが、「ダッシュボード2.0」の時代がきていると思っています。いままでは、いわゆる「管理画面」といわれるもので、クリック率がどう、コンバージョンどう、それを広告キャンペーン別にみたらどうか、という固定的なものでした。他にも、メール配信の管理画面はというと、何通配信して、何通開封され、何通クリックされたかを見てきました。
それぞれのチャネルでバラバラに管理画面があって、かつ非常に固定的なKPIだけで見ていたのが「ダッシュボード1.0」の時代だとすると、DMP時代には、オフラインも含めた、あらゆるチャネルの施策を統合的に見ていく必要があり、かつ施策と共に変わっていくKPIを動的に追加していかなければいけません。もはや、固定的なダッシュボードだとモニタリングできません。ダッシュボードは必要に応じて常に追加したり、取捨選択できる動的なものでないと、アトリビューションを加味したマーケティング全体の最適化はできないはずです。固定的な管理画面ではなく、その時々に必要なKPIを見い出してモニタリングし、改善できる仕組みが必要だと思っています。「ダッシュボード2.0」の時代に入ったといえるのではないかと。
有園:御社のサービスは柔軟に変更できるんですね。
上村:Web上でどんどん作っていけます。
現状の課題
有園:現状の課題は、どんなことがありますか?広告主側が理想的なことをやる上での課題や、御社側の課題などを伺えますか?
上村:プライベートDMPの導入プロジェクトでは、クライアントの窓口はマーケティング部門である場合が多いです。日々、施策を設計して、施策を打ち、最適化していく責任部門がマーケティング部門だからです。ただ、導入に関しては、情報システム部と極めて密接に関わります。従って、企業の経営レベルで導入のコンセンサスがとれていて、プライベートDMPが重要だという認識を共有し、マーケティング部門と情報システム部門が一緒になって作る状態になっていないと、非常に難しいと感じます。
有園:そうですね。
マーケティング部門と情報システム部門の連携
上村:仮に、プライベートDMPを導入しても、ダッシュボードを一個作るのに情報システム部門に頼まなくてはならないと、タイムリーなモニタリングはできません。システムによっては、新たな仮説をもってキャンペーンを1つ追加するだけでも、エンジニアや情報システム部門に依頼しなければいけないということがあります。プライベートDMPは、マーケティング部門が単体でも使いこなせるものでなければ機能しません。
有園:御社の「smarticA!DMP」を導入すると、管理画面のクリックとドラッグ・アンド・ドロップで簡単に使えるわけですね。
上村:はい。そうでなければ機能しないと考えて、サービスを設計しています。
全てを統一して見られる人が不在
有園:私がコンサルティングをしていて感じるのは、メールを打って、バナーを打って、ランディングページはこうしてといったシナリオを構築したとき、オペレーションの全てを統一して見ている人が不在である点です。御社では、その点のサポートもしているのでしょうか?
上村:もちろん、すべて連携していなければならないのでサポートしています。弊社にはデジタルコミュニケーション部という部署がありまして、上流の戦略から広告のクリエイティブの最適化も含めてサポートしています。
有園:私のイメージでは、御社は広告クリエイティブやLPOの最適化なども、CRM領域から出ている経験値などもあるだろうなって思っていました。メールマーケティングもサポートしているのでしょうか?
上村:一般的に「メールマーケティング」という言葉で連想されるのは、どんな文章で書こうかといったことだと思いますが、そこはあまり深くやっていません。弊社では、誰に、いつ、どの情報をどんなクリエイティブで送るかを特定するところを支援しています。
条件分岐
有園:条件分岐も手掛けていらっしゃいますよね?誰に、いつ、どの情報を送ったら、どういう反応をしたか、Aの反応、Bの反応の場合に、どう出し分けるかといったことなど。
上村:はい。シナリオ設計と呼んでいます。ロイヤリティのステップアップを実現するために、全体のキャンペーンシナリオを設計します。メールだけでなくWeb、オフラインも含めて設計しています。ただし、メールの具体的な文章として何を書くか、例えば挨拶文が「おはようございます」なのか「こんにちは」なのかといった文章まで作ることはしていません。
有園:大量なパターンが出てきますね。それらは、企業の担当者もしくは外注のメルマガを制作する会社が作っていくわけですね。
上村:そうです。一方、メールに挿入されるレコメンド商品であったり、バナーであったりは、キャンペーンマネジメントシステムから指示が出て自動的に挿入されるので、ヘッダーの導入文や締めくくりの文章だけを作っていただいて、コンテンツを差し込むのは弊社のシステムで自動的に行なわれるわけです。
有園:メールのシナリオに合せた、バナーのシナリオ、LPOのシナリオなどを、統合的に見てマネージしていく人が企業側にも必要ですね。そうしたことのできる人が、企業側には少ないという印象はありませんか?
上村:少ないかもしれません。国内企業のマーケティング部門は、任されている仕事の内容や責任の重さに比べて、人数が少ないと思います。忙しくて、見きれていないところはありますね。
有園:導入前の課題は、マーケティング部門と情報システム部門の連携が上手くいっていないことが挙げられましたが、導入後だと他に何かありますか?
きちんとPDCAを回せているか
上村:プラットフォームは、導入すれば勝手に上手く回りだすというものではないので、PDCAをきちんと回していくことが課題になります。PDCAを回して、自社のマーケティングの最適化をし続けることです。プライベートDMPを導入した後に、いかにPDCAを回していくかは課題になるのではないでしょうか。
有園:広告もCRMも連係して考えてねって話ですね。マス広告でコンペやって、三か月間キャンペーンをやるときは、特定のコピーを露出してアテンションをとることが主な目的なので、代理店任せでもよいかもしれません。しかし、CRM領域に関わってくると、自社のことを十分理解して、ケアしなければならないコミュニケーションがたくさん発生してきます。実際に、コールセンターに電話がかかってくるわけですから、関連した施策が必要になります。その場合、自社の持っている商品やメリットを十分把握していないといけないので、代理店に任せっきりにはできないという話になります。マーケティング領域で全体を見てまとめられる人を育て、自社で考え実行できなければならなくなってきている。それが課題なのかもしれませんね。
また、効果測定する際も「これはベイジアンネットワークで分析した結果です」といわれても理解できない人が多い。経営層にプレゼンすると、理解できる人、できない人が大きく分かれます。「なんでこういう予算配分にしなければならないの?」と質問が出ると進まなくなります。マーケティングに関わる人と経営層には、できれば統計の知識を持ってほしいと思っています。
マーケターに統計の知識は必須
上村:そうだと思います。弊社では、企業に向けて講師を派遣し「データサイエンティスト養成講座」を開講しています。クライアントがプライベートDMPを使って、マルチチャネルのマーケティングを最適化するためには、統計に対する理解がある程度必要になります。実際、統計の分かる人やデータサイエンティストを内部に育てていきたいという企業が増えています。そういう教育機関が世の中にないので、弊社が提供しています。
有園:教育まで含めてやっていただけるわけですね。オペレーションのサポート、クリエイティブの最適化、それらを理解できる人材の育成まで。
上村:ビッグデータ領域で必要なものは、一通り揃うかと思います(笑)
有園:困ったときはALBERTさんへですね。本日は、ありがとうございました。
【アトリ君の視点】先端プラットフォームを率いる上村さんと重厚な経験をもった分析エキスパート安達さんの経験やノウハウを融合。強いですね!ベイジアンネットワークを少し理解できた気がします。「ベイジアンネットワークでやっていたら、ブラックマンデーは避けられたのではないかという説」は個人(鳥)的には興味深かったです。SmarticA!データマイニングエンジンはとてもすばらしい取り組みですね。新しいアルゴリズムやモデルは自社開発環境でないと追加し続けるのは厳しい面もあると思うので、現在のマーケティングが置かれている状況に応じたアプローチですね。そういう意味では初の国産アトリビューション分析プラットフォームと言ってもいいかもしれません。さまざまな外部のシステムとも「粗結合」できる点も非常に納得ですし、日本のアトリビューションマネジメント環境をどんどん変えていってほしいと思います。上村さん、安達さん、大変勉強になりました。ありがとうございました!