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Cookie をベースに効果測定を行う全ての広告主に警鐘
2017年は流行語大賞を受賞するほど大きなトレンドとなった Instagram の勢いもあり、今や Google と肩を並べて2大プレイヤーとして語られることも多い Facebook ですが、続々とローンチされる広告製品の開発もさることながら、Cookie ベースのマーケティング活動でのイシューを提唱するイメージが強くなりました。
そこで、今回の Unyoo.jp 特別対談では、フェイスブック ジャパンの中村さん、高沢さんに”人”ベースが実現する効果測定とターゲティング、またニュースリリース等ではあまり目にすることのないオークションアルゴリズムの仕組みについてインタビューしました。
話し手:フェイスブック ジャパン
Head of Marketing Science 執行役員
中村淳一さん
Regional Product Marketing Manager
高沢数樹さん
聞き手:アタラ合同会社 中川雄大
※このインタビューは2018年1月15日に行われました。
中川:中村さん、高沢さんの自己紹介をお願いします。
中村:フェイスブック ジャパンマーケティングサイエンス日本統括、執行役員の中村と申します。現在私が所属している部署名はマーケティングサイエンスと言うのですが、あまり聞きなれない言葉だと思います。マーケティングとデータサイエンスがくっついた言葉で、Facebook にはデータサイエンスグループが別にあります。
私たちが行っているのは、クライアントもしくは代理店のマーケターが行っているマーケティングの方法を、Facebook および Instagram プラットフォームのデータや脳科学等を使いながら変革するお手伝いです。逆に言うと、必ずしも売り上げ向上を目的とするのではなく、あくまでクライアントサイドに立ち、クライアント様のやり方をどうやって一緒に変えていくか、を考えている部署と言えます。
中川:セールスのチームとは完全に別の部隊ということでしょうか。
中村:クライアント様の所に行く際は、プラットフォームを使っていただく関係上営業とコラボレーションする事もありますが、別組織です。
中川:具体的に、マーケティングサイエンスではどのような事を行うのでしょうか?
中村:マーケティングサイエンスは大きくリサーチチーム、クライアントチーム、R&Dチームの3つに分かれています。リサーチチームは、利用者がどのように Facebook・Instagram を使っているか、それ以前に利用者がどのように携帯・PCから情報を取得しているかを調べるチームです。脳科学的な発想で実際にどれくらいの利用者が見た広告を認知し、反応するのかを調べたりもします。クライアントチームは、プラットフォームを使ってクライアントのビジネス課題やマーケティング課題を解決していくコンサルティングの面が強いチームです。
R&Dチームはソリューションパートナーシップのチームで、新しい商品の開発を担当しています。プロダクトのニーズと言うよりはクライアントのニーズが大きく、例えば「リーチ計測を横串で見たい」というクライアントのニーズがあった時に、それをサプライヤーで作るのか自分たちで開発するのかは別として、いずれにせよR&Dチームが動く、というイメージです。
加えて、オークション&デリバリーチーム、ナレッジマネジメントチームがあります。各プラットフォームによってオークションアルゴリズムは異なりますが、実際にどのようなオークションの方法でシステムが働き、結果的にどう変わったのかという知見を溜めていき、最終的にクライアントに戻すための研究を行っているのがオークション&デリバリーチーム。ナレッジマネジメントチームは、様々なマーケットで色々な事象が起きている中でスケールで見ていき、例えば「車業界だとこういう広告が効く」といった事を研究します。
高沢:私はリージョナルプロダクトマーケティングというチームに所属しています。Facebook のプロダクトは本社のプロダクトチームとエンジニアリングチームが企画、開発を行い、テスト期間を経てローンチします。
私のチームでは実際に本ローンチした際に、プロダクトのバリューや、どういうお客様に使っていただきたいか、プロダクトがきちんとマーケットに根付くまでを見守る組織です。
機能をフル活用することでITPの影響も軽微に
中川:続いて、Facebook の効果測定ついて聞かせてください。Cookie ベースでマーケティングを進める危険性についてはこれまでにも Unyoo.jp の記事で触れているのですが、「人ベースの効果測定」や、KPIの設定にあたり、御社ではどのような動きをされているのでしょうか。
御社では Facebook ID がトラッキングの全ての基盤になっており、取得できる Cookie はシンクさせるというトラッキングシステムを採用されている、という認識でよろしいでしょうか?
高沢:元々Facebookは人ベースのマーケティングを推進していますが、それをさらに効果的にするため、「高度なマッチング(※)」という機能を採用しています。コードに変更を加えていただき、広告主のサイト上で取得されているメールアドレスや姓名などのユーザー情報を Facebook に送っていただきます。そして Facebook 側のデータとマッチングしてトラックバックできる仕組みです。基本的にユーザーが Facebook
のアカウントをお持ちの場合は、データが繋がり、人ベースのデータとして蓄積されていきます。
※参考:
中川:昨今話題となっている ITP の問題についてはいかがでしょうか?
高沢:クライアントのサイト側に利用者が行った後の事は、私たちとしてもデータをいただかないとわからないので、クライアントによって状況は異なると思います。ですので、クライアントからどれだけ Facebook 側にデータを送っていただけるのかが重要になると思います。通常のピクセル SDK のトラッキングだけでなく高度なマッチング等を使って「よりリッチなデータ」を送っていただく事で、エコシステムがきれいに回っていくのではないか、と考えます。
中川:高度なマッチング機能の日本での導入率はそこまで高くないのではないかと思っていますが、いかがでしょうか?
高沢:おっしゃる通り、日本ではまだそんなに多くはない印象です。
中川:使った方が、トラッキングがより精緻になり、リマーケティングの活用幅も広がりますよね?
高沢:そうです。よりリッチなデータをいただけた方が、Facebook としても特定がしやすいですね。
中村:Facebook の強みの一つに、「ターゲティングの精度」が挙げられると思います。 人ベースで見ているので、クロスデバイスの場合でも別アカウントとして認識せずに1人として認識されます 。また人ベースで1人を認識する精度が高いため、おのずと似た人を探す精度も高いという点です。それを応用していくと、例えばいわゆるアプリを取り扱うクライアントの場合、課金していただけるような人たちを見つけ、そこをシードオーディエンスにすることで、その後の拡張配信の際のターゲティング等に活かすことができます。ブランド目的やビジネス目的に近ければ近い領域ほど、Facebook は広告効果がより良くなります。それは、ターゲティング精度の高さに支えられている部分だと思います。
中川:御社の類似機能の精度はとても優れていますよね。
中村:あるデータによればFacebook のターゲティング精度が95%に対して、他媒体は60数%という結果が出ています。これだけを見ると6割あれば十分ではないかと思いそうですが、この後類似オーディエンスを作っていく際に、この精度に対して二倍三倍と掛けていくことで、ギャップはどんどん広がっていきます。
60数%からのスタートでは二回目で既に40%になり、さらに掛けることで25%と精度が下がり、最終的には4人に3人はターゲット外になることになります。その辺を踏まえると、最初のターゲティング精度の高さは重要になるかと思います。日本のブランド系クライアントは類似オーディエンスをまだあまり使われていないので、マーケットではまだまだ Facebook が認知されていないということなのでしょう。本当に Facebook は他プラットフォームとは異なる使い方ができるので、もっと認知向上を目指して様々な提案をさせていただいている所です。
中川:人ベースの効果測定においても、Facebook の機能をフルで使いこなすことで、目的の実現性も使い方の幅も広がるという事ですね。
中村:最終的には Facebook プラットフォームをフルで使っていただくのが一番なのですが、短期的な運用よりは、機械学習が学ぶ期間も含め長期的な視点で運用していただくのがオススメです。長期的に運用する事でアルゴリズムがどんどん良くなっていくので、その中でクライアントのマーケティング課題を見つけ、整理し、一緒に解決していきたいと思っています。
加えて、調査手法だけでなく広告配信の方法を一緒に決めていく事も大切です。例えば Facebook はCCCマーケティングとデータパートナーシップを持っていますので、CCCマーケティングのセグメントをベースにした広告配信も可能です。広告を配信した結果効果はどうだったのか、実は新たに開拓すべき利用者がいるのではないかなど、クライアントの課題に対して、広告配信手法と、人を起点にした効果測定、パートナーシップのデータ等をうまく織り交ぜながら、課題解決をしていきたいと考えています。
第三者機関との協業でフェアなレポーティングを実現
中川:KPIの設定についてはいかがでしょうか。
中村:3つほど原則があり、1つは人ベースの効果測定です。1人あたり2台、3台のデバイスを持っているのが当たり前の時代なので、クロスチャネル、クロスデバイス、クロスメディアで計測していくことが大切です。マーケティングはそもそも人をインフルエンスするものなので、「人ベース」であるというのは本当に重要な点です。
2つ目に、これまで「いいね!」の多い広告が良い広告だという意識があったかと思われますが、本当にクライアントのビジネスを考え、ビジネス向上のための正しいKPI設定のためには、広告接触、ターゲティングをKPIに取り入れていく必要があります。
3つ目が、パートナーシップを使っていただくことです。クライアントによりますが、Facebook が広告を測定することに対して抵抗がある方もいらっしゃいます。このあたりを原則として見ながら、それぞれのマーケティング課題に合わせてKPIを少しずつ変えていきます。
中川:アトリビューション分析にしても、音頭を取るプレイヤー次第では広告主側からすると「本当に?」と感じるアウトプットがあるのではないかと思います。ゆえに、第三者機関に言っていただくというのは、とてもフェアな感じがしますね。
中村:アトリビューションについては Facebook の中でもよくディスカッションテーマになっていて、Facebook 内でアトリビューションモデルを作ろうという動きもあります。Facebook が作る、あるいは第三者が作るにしても、今のラストクリックベースや Cookie べースのアトリビューションは、クライアントの観点から言うと一見正しそうであっても実際は間違った答えになっているのではないかという事を懸念しています。そこを人ベースのマルチタッチアトリビューションに変えていきたいなという思いがあります。
中川:Cookie ベースでは間違ったアウトプットが出てくるかもしれない。1人あたり7.0の Cookie を持っているという現状では、同一人物かもしれないし異なる可能性も多分にある、という部分が問題なのかと思います。
中村:概念的な話ですが、アトリビューションモデルやマーケティングミックスモデルなど様々なモデルにおいて、Garbage in, Garbage out(ガベージイン・ガベージアウト)という発想がとても大切だと思います。どんな素晴らしいモデルがあり、機械学習がどれだけ優秀であっても、そもそも入れるデータが良くなければ出てくるアウトプットも良くないものになります。ことアトリビューションモデルについてはインプットするデータがとても大事なので、そういった事象が起こり得る危険性をはらんでいると思います。
少し話がそれるのですが、戦略論の一つの考え方にマンシュタインのマトリックスというものがあります。
例えば有能で勤勉な人を参謀に、有能で怠惰な人を指揮官に、無能で勤勉な者はクビにして、無能で怠惰な者を兵士にするというものです。「何故無能で勤勉な人をクビに?」と思われるかもしれませんが、無能で勤勉な人は間違った方向に突っ走っていき、組織を混乱させるからです。
個人的にこの図式は分析にも当てはまると考えており、勤勉/怠惰はモデリングの質、有能/無能はデータの質に置き換えらえます。そうすると、インプットが無能で勤勉なモデルの場合、前述の通り変な方向に走っていきます。特に機械学習が優秀であればあるほど、正しい答えに向かって分析を進めていくので、結果的にはビジネス事象的に間違った答えになる可能性があります。
現在のアトリビューションモデルは、今あるデータで答えを出す事がベースにあります。本当は適切でないデータをベースに分析を進めた場合、間違った方向に答えを出している可能性がすごく高い。この部分は、日本でもっとディスカッションしていかなければならない課題だと思っています。要は、最初にインプットするデータの重要性をもっと考えなければならない。
中川:ガベージイン・ガベージアウトの例としてデータフィードの設計が挙げられると思います。どんな情報をインプットして、何をリコメンドさせるかについてよく理解せず、必須カラムだけ作ってしまえば広告は出せるしとりあえずOKということで完成形を迎えたデータフィードも経験上見てきましたが、そうではないという事ですね。
「入札単価」、「アクション率」、「利用者評価」がオークションのスコアリング材料
中川:次に、オークションアルゴリズムについてお伺いします。各プラットフォームの特性が出やすい部分かと思うのですが、どのような計算式で算出しているのでしょうか?
高沢:最終的なオークションにおける計算式があり、ランキングは計算式に基づいて総合的な価値で決まります。総合的な価値の要素は大きく3つあり、まずは入札単価です。達成したい目的はクライアントごとに様々ですが、それに対してどの程度の価格を設定していただいているかという部分です。次が、アクション率です。ターゲットになっている利用者がその広告に対してどのくらいの割合でアクションしそうかという率です。これも目的によって異なり、例えばコンバージョンに最適化されたキャンペーンの場合は、推定コンバージョン率、クリックに最適化された場合は推定CTRが変数になります。
中川:「アクション」の内訳として、Facebook ページのいいね!や投稿(=広告)に対するエンゲージメントも含まれるのでしょうか?
高沢:推定のアクション率で、ページの投稿に対するエンゲージメントが最適化対象の場合はそれらもアクション率に含まれます。加えて、3つ目の要素として利用者の評価があり、そちらの要素においての方が、エンゲージメントを重視しています。好意的な意見や、ネガティブフィードバック、ランディングページでの利用者の行動、また利用者に対して行うアンケートの結果などを考慮に入れています。
中川:推定アクション率はキャンペーンの目的に紐づくアクションなので、しっかり目的を見据えて、設定しなければならないという事ですね。
高沢:本来の目的とは別の所に目的を設定されている方も多いのではないかと思います。後は、配信の最適化を選択していただきたいですね。
中村:最適化についても、コンバージョンをベースに最適化していくと、それをベースに機械学習が学んでしまいます。そこから類似を探し、似たような人に配信してしまう事になるので、目的が異なる結果的に全然類似していない人にリーチしてしまうことになり、とてももったいないと思います。
中川:関連度スコアはどの程度シグナルに含まれるのでしょうか?
高沢:関連度スコアは Facebook 側で設定されているターゲットと広告の内容を指標として表示されているだけなので、あれだけが全てではなく、複数ある要素のひとつとして捉えていただきたいです。
中川:そうですよね。よく「関連度スコアが低いのだがどうしたらいいか」というご相談が寄せられるのですが、それは単にユーザーにとってどれだけ関連した情報か、という話であって、情報の一貫性等の話ではないから、ターゲットや広告表現を変えない限り関連度スコアが上がる事はない、という認識でいます。
高沢:おっしゃる通りで、関連度スコアを高めるために何をするのかという事ではなく、ターゲットを見直すか、そもそもターゲットを変えた方がいいのではないかという話です。例えば広告の表示内容の微調整や、ターゲットを絞ったり広めたりという事が必要だと思います。そして、それによってスコアがどう変わったかではなく、結果がどう変わったのかを重要視していただく必要があると思います。
中川:関連度スコアは低いが意外と購買にはつながっているというケースもあります。だから、関連度スコアだけに固執するのは良くないということですね。
「人ベース」で計測・分析を可能にする次世代のアトリビューション分析ツール
中川:最後に、先ほどお話しにあった Facebook のアトリビューションモデルについてお伺いできますか。
中村:Facebook では現在、新たなアトリビューションを自社で開発しています。クロススクリーン、クロスデバイスでの情報が取れないという現状の中で強化している取組として、どのようにしていこうかと模索している段階です。 もちろん、サードパーティとの連携もさらに深めていきたいと考えております。人ベースのマーケティングを推進していき、改めて Facebook の価値を見出していただくきっかけになればと考えています。
中川:貴重なお話をありがとうございました!Facebook のアトリビューションモデルについては絶賛開発中ということで詳しくお聞きすることが難しかったですが、正式にローンチされた際は改めて詳細をお聞きしたいと思います。革新的なソリューションになることと思いますので、今後がますます楽しみです!