クッキーベースからIDベース、人ベースのデータを活用したマーケティングへの移行については、昨年から業界では大きな話題になってきました。各大手グローバルプラットフォーマーが着々と準備を進める中、リターゲティング広告で急成長し、大手の一角を担う CRITEO も、昨年末に今後の方向性を示す新構想を打ち出してきました。CRITEO株式会社の小野良一さん、アレクサンダー・キベッツさんのお二人に、詳しくお話を伺いました。
話し手:
CRITEO株式会社
Commercial Director, Japan 小野良一さん
Solution Specialist アレクサンダー・キベッツさん
聞き手:
アタラ合同会社 CEO 杉原剛
※このインタビューは2017年12月14日に実施されました
背景は消費行動の変化
杉原:11月に発表された Criteo Commerce Marketing Ecosystem (以下、Commerce Marketing Ecosystem )について、教えてください。
2017年11月16日発表のプレスリリース
小野:まず、Commerce Marketing Ecosystem のビジョンを掲げた背景について説明します。米国において2017年に閉店するリテーラーは5000店舗以上に上りますが、これはユーザーの消費行動の変化によるものです。もはや、車に乗って時間をかけて郊外まで買い物に出かけるという状況ではなくなってきているのは周知の事実です。
一方でオンラインショッピングにおいては一部の大手企業がとても成長しており、Amazon がアメリカのEC市場のシェアの実に40%を超えています。実際に、ユーザーが物を買おうとする時、まずは Amazon を想起し、Amazon で検索する人が52%という調査結果が出ています。この数字は2年前の倍近くにのぼります。Amazon がここまで成功したのは、やはりデータがキーであろうというのが我々の見解です。
リテーラーがデジタルマーケティングで大きなパフォーマンスを上げるために一番重要なことは、ユーザーの理解を深め、ユーザーに対して一人ひとりきちんとパーソナライズされたメッセージを出し分けていき、最高の顧客体験を与えることだと思います。つまり「ユーザーの行動データをどう得るのか」がとても重要なポイントになるわけです。しかし、一口に行動データといってもデータの収集方法、量やクオリティ、集めたデータの使用方法など、課題はたくさんあります。それらを一つの会社が自力で解決していくのは難しい。こうした現状の中でリテーラー単独では解決できないことをお手伝いしたいというのが、Commerce Marketing Ecosystem のメッセージです。
弊社では、リテーラーのサイトにできるだけ多くのタグを埋めて、行動履歴を分析し、ユーザーが何を見て、何と比較して、何を悩み、そして最終的に購買に至ったのか否かのデータをすべて収集しています。今後はオフラインの店舗が保有するデータも活用できる仕組みになっていくと思われ、オンライン上・オフライン上のデータを統合できれば、顧客理解はより深まります。ユーザーの興味関心を知り、購買に至るまでのプロセスにどういう変化があったのかについてのデータを蓄積していくことで、ユーザー一人ひとりにパーソナライズされたダイナミックなクリエイティブを打ち出すことが可能になります。それを皆で共有しましょうというのが、Commerce Marketing Ecosystem の根幹の考え方です。
巨大な保有データを活用したDB「Criteo Shopper Graph」とフィードデータの横串化
杉原:では実際にどのくらいの量と質のデータが収集できるのでしょうか?
小野:我々にはマンスリーアクティブユーザーがグローバルで12億人おり、17000社以上の広告主と取引があります。そのリテーラーから生み出されるオンラインの取引高が5500億ドル(約55兆円)。これだけのデータセットを使うことで、各ブランドやEC事業者が、大手ECサイトにも十分対抗できるパフォーマンスマーケティングができるのではないかと考えています。
ちなみにコマースマーケティングとはリテーラーの売上や利益向上を目的としたマーケティング、テクノロジーだと我々は捉えており、例えばリーチを広げるといったアウェアネスを目的としたマーケティングだとは考えていません。
杉原:とても面白い着想だと思いますが、スタートさせるにあたっての問題などはなかったのでしょうか?
小野:行動履歴とIDが紐づかないと、なかなか良いマーケティングはできません。しかし我々はユーザーを特定するIDを持っていないことが問題でした。そこで、解決策として Criteo Shopper Graph という Criteo オリジナルのユーザーデータベースを作ろうとしています。Criteo Shopper Graph の中には Identity、Interest、Measurement の3つの要素があります。
まず Identity について。いわゆる Cookie 単位の identity ではユーザー一人を複数人とカウントされてしまう問題があります。そこで暗号化されたEメールアドレスをお客様から弊社に送っていただくことで、複数ある Cookie を統合し、シームレスなカスタマージャーニーを把握できるようにします。過去にお話したのはそれを補完するものです。
過去対談参照
杉原:以前にもお話いただきましたが、Universal Match についても簡単にご説明いただけますか?
アレックス:現在、ユーザーは複数のデバイスを使って情報を探し、買い物をしています。Criteo のデータで見ると、1人が最大15人くらいに見えてしまうこともあります。そこで我々はウェブの世界、アプリの世界そしてデバイスで分かれているユーザーの行動履歴を一貫して見ることが重要となります。つまり Cookie 単位でのデジタルマーケティングの最適化ではなく、人単位での最適化を行う必要があると考えています。その手段としてメールアドレスをハッシュ関数を使って、匿名加工情報にハッシュ化した識別子(以下識別子)に Cookie とアプリの広告IDを紐づけることによって実現するというのが、Universal Match です。
小野:次に、Interest はユーザーの興味関心に関することです。これまではリテーラーがそれぞれのサイトにおいてユーザーが何を見たのか、何と比較したのか、結果的に何を買ったのかなどのデータをそのサイトでしか見られませんでした。かつ、それぞれのリテーラーのサイトによって商品IDが異なるため、横串で紐づけることができなかった。そこで我々がやろうとしているのが Criteo Performance Product Feed(以下CPPF)です。
フィードの仕様をこれまでの10フィールドから20以上に増やし、プロダクトのカテゴリや商品コードをデフォルトにし、共通化します。すると、ユーザーがどのサイトでどの商品を見ていたのかがわかるため、「商品Aを見ている人は、商品Bも一緒に検討している場合が多い」ということが明らかになります。これで興味関心がわかります。
最後に Measurement は、アトリビューションのためのコンバージョンの把握です。
この3つが Criteo Shopper Graph のキーとなる要素です。つまり、ユーザーの購買前のプロセスと購買データをアセットとして持っているのです。
アレックス:CPPFの導入は、Criteo Customer Acquisition という新規ユーザーの獲得や休眠ユーザーの復活施策で使える商品にも貢献します。これまでは広告主単位でのみ、ユーザー(Cookie)がどの商品に興味があるのかがわかっていたのですが、CPPF によりユニバーサル化することで、その Cookie が例えばシューズに興味があるのか、セーターに興味があるのかを広告主横断で理解できるようになります。
杉原:広告主に限らずユーザーの興味がどこにあるのかがわかる、誰もが一部になり、誰もが使えるエコシステムを作ろうとしているのですね。とても興味深いですね。
小野:我々はとても優秀なリターゲティングのエンジンを持っていると、これまでご評価いただいてきました。さらにCPPFを取り入れることでどのようになるのか、クライアント様からの期待も非常に高まっていると感じています。
小野:次に、次にフルファネルに対応するプロダクトライン拡大について説明します。これまでのリターゲティングはカバーできなかった、たとえば休眠顧客の活性化には、Audience Match というサービスを使い、お客様からデータをいただき、セグメントされたユーザーに対して配信していくというものです。
杉原:これもEメールアドレスを使いますか?
小野:はい、先ほどご説明したメールアドレスを元に生成された識別子を使います。そしてアップセル・クロスセルに対応するような形です。
アレックス:実は日本でも現在ウェブとアプリでテストしている段階で、アプリでは識別子ではなく広告IDベースでも可能です。具体例としては、ウェブはショッピングのお客様で「11月に来訪したが購入に至らなかったユーザー」を抽出し、当該ユーザーに11月の行動履歴に基づいたリコメンドをしてコンバージョンに繋げるという施策を行っています。アプリのお客様はウェブもオンラインもやっているアパレルブランドで、オフラインで購入しているお客様にオンラインでも買ってもらいたいというニーズをもとに施策を行っています。現在はテストの結果待ち段階ですが、初速は悪くないといった感触です。
杉原:データの共有について、自社のデータを使うことに対して慎重に考えるお客様もいるのではないでしょうか?
アレックス:そうですね。しかし我々としては、ユーザーに対して特定の広告主の配信をするというようなやり方はしません。そうではなく、純粋にユーザーの興味関心という軸に対して、広告主横断でデータを取ってくるというものなので、まったく異なります。
小野:Criteo Shopper Graph という巨大なユーザーデータベースと、Criteo Product Graph というプロダクトに関わる興味関心を図るデータベースの2つを、皆さんで共有することで作っていきましょうというのがエコシステムのメッセージです。
Criteo らしいアプローチでIDベースのマーケティングに攻勢
杉原:商品データフィードについては、カテゴリ、ブランドが必須項目になり、それで各リテーラーを横断的に繋げられるという認識ですね。発表はいつ頃になりますか?
小野:Criteo Customer Acquisition が2018年の上半期以降にリリース予定で、Audience Match はベータ版としてテストが始まっています。Audience Match に必要なのが Universal Match なので、まずは Universal Match を実装いただき、お客様のユーザー群を区切っていただき識別子で突合していくという流れです。Universal Match は Criteo のワンタグにユーザーのメールアドレスをハッシュ化した値を返していただければ、タグを通して Criteo のデータベースに Cookieとハッシュ値が紐づいて入ってきます。
杉原:導入は広告主に委ねられているのでしょうか?
アレックス:そうですね、代理店さんや広告主さんに実装していただきます。もちろん我々もサポートはいたします。
杉原:導入についてのハードルは高いですか?
アレックス:日本では法律上、匿名加工情報をサードパーティに渡すのは問題がないので、提供することを意思決定すれば、後は簡単な実装をするだけという意味では、特にハードルは高くないです。だた、一部のお客様は、匿名加工情報であっても提供することに対して、意思決定ができていないケースがあるので、この部分に関しては、市場の理解を促進していくエバンジェリスト的な動きを継続していきます。
小野:Universal Match は Audience Match という新商品だけでなく、既存のダイナミックリターゲティングのパフォーマンス向上にも効いてきます。
杉原:2017年は「IDベース・人ベース」という言葉をよく耳にした1年でした。人ベースの考え方自体は浸透してきていますが、具体的な実装の部分が各社で課題になっていて、お客様側からしても広告とCRMはまだまだ遠いと思います。そこをうまく繋げられるかが、日本においては今後のチャレンジになるのではないかと思っています。御社において2018年は、どのようなことにチャレンジする1年にされるのでしょうか?
アレックス:Commerce Marketing Ecosystem は、Criteo らしい切り口だと思っています。リターゲティングから、アッパーファネルに事業ドメインを広げていくことにおいて、Criteo がどういう価値をはっきしていくかが肝になってきます。その点に関して、Criteo は、55兆円を創出している膨大な購買データを横断的に、そしてユーザの行動履歴をヒト軸で活用することで、新たなる価値を提供していこうとしています。2018年は、アッパーファネル向けのソリューションを市場に投入して、スケールさせていく年になります。。
杉原:最後に、広告運用者視点からすると、何か留意する点や変わる点はありますか?
アレックス:マーケティングの戦略上何をやっていきたいのかをしっかり考えていただく必要があると思います。極論を言えば、これまではユーザーが来たらリタゲをしますので、KPIを教えてください、というシンプルなやりとりでよかった。しかし今後はどのセグメントに対してどういうアプローチをするのか、お客様ごとに話し合っていく必要があります。それにはCriteo の購買履歴を使ってもいいし、広告主がもっとも推したい商品を出していただいたり、休眠ユーザーを復活させるのもひとつの考え方です。お客様の戦略に対して、我々も一緒にマーケティング施策の設計をしていく必要が出てきます。
小野:そのために必要な購買前のプロセスデータ、購買データの我々の保有量は、本当に多いと思います。
杉原:データが多様・大量にになる中、私たちは最近、それらをまとめ、意味のあるものにする「データの正規化」がいかに重要でありつつ、難しいかに直面することが多くなってきました。商品データについても様々な形がある中で、統一したものを作りたい気持ちはあるものの、やはり一社でやるのは大変ですよね。だからこうして大手プラットフォーマーが、広告主の力を借りつつも統一化できるのは、業界的にもとても素晴らしいことだと思います。
小野:こうしたサービスを使うことで少しでもお客様の負担を減らしていただき、よりハイレベルな戦略立案の方にリソースを割いていただければ幸いです。
杉原:単なるデータの共有ではなく、お客様の生産性をサポートするためのものなのだなと、お話しをお伺いしていて思いました。意外と見落とされがちな部分だと思いますが、実はとても重要なことですね。本日は貴重なお話、ありがとうございました!