ブランドセーフティーへの関心の高まり
2017年1月にIAB のカンファレンスでP&G が「広告価値毀損」に関するスピーチを行ったことをきっかけに「ブランドセーフティー」への関心が高まり、2017年3月には「ブランド毀損リスクの高さ」を理由に、フランスの広告代理店アバスが Google や YouTube への広告出稿をイギリスでは全面的に取りやめました。
これらの一連の動きを受け、2017年4月にはGoogle のChief Business Officer のPhilipp Schindler が、「ブランドセーフティー」への対策に取り組むことをInside AdWords 上で表明し、後に米Integral Ad Science 社と共同で調査を行なうなどしており、Unyoo.jp でも過去にIntegral Ad Science 社に取材を行っています。
高まる「アドフラウド」への対策
こうした「ブランドセーフティー」に関する関心の高まりの中で、不正なクリックやコンバージョンなどに代表される「アドフラウド」に関する関心も高まりつつありますが、広告代理店や広告プラットフォーマーに積極的に「アドフラウド」に取り組むインセンティブがないこともあり、メディアで取り上げられているほどには一般の広告運用者の間で関心があるとは言えないのも現実です。
人工知能を活用したアドフラウド対策
このような状況の中、2017年10月17日(火)、人工知能を活用したサービスを提供するAppier の最高技術責任者兼共同創業者であるジョー・スー氏は、自社の持つ機械学習を最大限に活用したアドフラウド対策に関する取り組みを発表しました。
Appier によれば、2017年のアドフラウドによる損失の予想額は約65億ドルにものぼり、モバイルアプリのトラフィックの13%にアドフラウドのリスクがあり、アプリインストールの5.3%が不正の可能性があると指摘しています。
Appier の調査によれば、「アドフラウド」の手法には、人の手を介して行う「ヒューマンリソース」型と、ボットなどのコンピュータープログラムを介して行う「ノン・ヒューマンリソース」型の2種類があり、「アドフラウド」経由のモバイルアプリのインストールは正常なインストールに比べて2.6倍リテンションレートが高いという結果が出ており、また、クリックからインストールまでの時間が10秒未満の場合に不正なトラフィックである割合が高いとしています。
下記が「ヒューマンリソース」型と「ノン・ヒューマン」型の具体例となります。
「アドフラウド」の手法は年々進化が進んで検出が難しくなっており、下記の例での検出が特に難しいようです。
従来、「アドフラウド」の検出手法としては「ルールベース」によるものが一般的でしたが、Appier ではニューラルネットワーク的な手法を採用して「AIベース」の検出方法を確立しており、これまでよりも多くのシグナルから総合的に「アドフラウド」を判断できるとともに、新しいパターンの「アドフラウド」をいち早く学習して検知システムに反映させることができます。
典型的な「アドフラウド」の例として、単一デバイスから短い間隔でクリックが発生する「クリックスパミング」などがあげられますが、不正なサイト運営者が、初めは正しいサイトを装っていて後から不正なインストールを発生させる「カメレオン」型や、不正が疑われるパブリッシャーが、予測不能なタイミングでアプリ内登録が非常に少ないインベントリーを大量に発生させる「インベントリーバースト」などの複雑な手法の「アドフラウド」を検知することができるようになっています。
筆者の個人的な意見として、ここまで高度な「アドフラウド」が行われているということをいち運用者として知っておく必要がありますし、人工知能を活用した「アドフラウド」対策によって、デジタル広告の世界がより健全に発展していくことを期待しています。今後の取組みが楽しみです。