急伸する韓国インバウンドへの対応策を考える:ワイダープラネット鳥井武志さんに聞く

急伸する韓国インバウンドへの対応策を考える:ワイダープラネット鳥井武志さんに聞く

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韓国での強みを活かし韓国・日本両国においてサービスを展開

年々大きくその数を伸ばしているインバウンド客(訪日外客)。その中でも韓国からの訪日客が2017年6月現在までの総数では各国トップ(2017年6月JNTO調べ)であることはあまり知られていないかもしれません。

 

そういった背景の中、正式な日本進出を果たした韓国最大手のDSPワイダープラネット。日本法人の代表取締役社長である鳥井武志さんに、サービスの強み、インバウンドの状況などについて伺って参りました。

 

話し手:
株式会社ワイダープラネット
代表取締役社長 鳥井 武志さん

 

聞き手: アタラ合同会社 杉原 剛

 

※このインタビューは2017年7月中旬に行われました。

 

杉原:まずは会社の紹介をお願いします。

 

ワイダープラネット鳥井氏

 

鳥井: 韓国が本社の会社です。創業は2010年7月17日で、今年で8年目を迎えました。創業者はCEOのEdward KooとCTOのSudong Chungの2人。私自身はオーバーチュア株式会社からインターネット広告の世界に入りましたが、彼らもまた同社韓国法人出身であり、理想のDSP像や日本と韓国のマーケットについて意気投合し、今に至ります。

 

ワイダープラネットは今年の3月に日本オフィスができたばかりですが、実は2015年より、早稲田大学基幹理工学部の酒井哲也教授とビッグデータの解析と広告配信アルゴリズムの研究開発を共同で行っており、日本においてまったくゼロからのスタートというわけではありません。早稲田大学とは、主に拡張モデルについての研究に取り組んでいます。DSP各社さんでもよく拡張配信をされると思いますが、我々も早稲田大学とともにずっと研究しており、主にクリック拡張とコンバーション拡張のモデルを共同で作成しています。一緒にやりはじめた頃は、「これくらいの拡張法でこんなパフォーマンスがでるかな」と思っていて、いざデータで見ると実績が出ていなかったのですが、それがようやく2年間経ちますと、結果がちゃんと伴っていると感じますし、そこで得たものが弊社のプロダクト開発にも活きていると感じます。

 

サービスについては、我々の配信プラットフォーム「TargetingGates」をリリースしたのが5年前。オフィスは、韓国にある本社のほかに、中国、日本の3拠点で活動しています。

 

韓国で最大手のDSP

杉原: なぜ今、このタイミングで日本進出なのか、ということについてとても興味があります。

 

鳥井: そうですよね(笑)。私も入社前に色々な方とお話をしていて、日本にDSPがたくさん存在しているという状況の中で、当然「なぜ?」と言われました。当初はEdwardやSudongと話をしていて、最終的なゴールは日本の広告主に対して日本で広告サービスを提供するという、「日本to日本」を志して現在まで業務を行っています。例えばサーバーの準備やTargetingGatesのユーザー・インターフェースの日本語化は完了しています。サプライサイドの方や、データ提供していただく企業との交渉も進めているものの、我々は調理器具がそろっていても、データがないと何もできないので、まだまだ準備段階といったところです。ただ、4月にローンチをして2か月を経た頃、よくよく話を聞いていくと、我々は韓国で最大手のDSPですので、むしろ日本の広告主さんが韓国で配信したいという、いわゆる訪日インバウンドやクロスボーダー配信の話を非常に多く頂戴することが多いため、6月からは韓国への広告配信に少しシフトしているところです。

 

杉原:TargetingGatesのサービス・技術・強みについて教えていただけますか。

 

鳥井: 我々はDSP、配信側からスタートしております。そのためデータをサプライサイドであるエクスチェンジさんやSSPさんからいただくだけでなく、データの濃さから言ってもやはり媒体さんと直接繋がりたいという思いもあり、従来から直接媒体社と接続はしておりました。それに加えて昨年、SSPの会社を買収しました。アドパイ(ADPIE)というプロダクトネームで、主にモバイルに強いサプライサイドです。これによりDSPからSSPサイドないしはDMPまでカバーできるようになりました。

 

韓国のカオスマップも掲載されているのですが、人口が日本の約半分ということもあり日本ほどカオスはしていません。DSPはおよそ7~8個あると言われていて、その中でも弊社が最大のシェアを持たせてもらっています。
その大きな要因は3つです。まず一つ目は、DMPベースのDSPであるという点でして、これは韓国唯一なんです。二つ目は、柔軟性に優れた配信機能です。もし出来ないことがあれば作ってしまう、そんな会社です。そして三つ目は、地元企業、という点です。商慣習としては、日本以上に人とのつながりを重視する文化ですので、業界に精通したメンバーばかりが経営層にいることも強みとなっていますね。

 

杉原:大手プラットフォームを含め、トップでいる理由はなんだと思われますか。

 

鳥井: 韓国は、広告主が直接DSPを運用するのではなく、広告主が代理店にしっかりと相談をし、代理店がそれをきちんとかみ砕き、どういう風な広告・キャンペーンの設計をするかまでを細かく設計してから、我々のようなプラットフォームに依頼されるということが非常に多いです。「ここがやっぱり嫌だ」、「こんな設定がしたい」、「ホワイトリストで配信したい」といったさまざまな要望がうまく集約され、ご意見をいただきます。弊社は社員数100名弱の会社なのですが、6割強がエンジニアなのでそういったご要望をすべてプラットフォーム上に反映させ、結果的に細かな運用が可能です。そうしたところが強みなのではないかと思っています。

 

杉原:技術力もさることながら、サービス力も兼ねていらっしゃるということですね。TargetingGatesはDSPのサービス名称ですか?

 

鳥井: 総合的なサービス名称として展開しています。TargetingGatesのDMPの機能を顧客に提供しているかと言うとそうではなく、あくまで社内でデータをさばくためのプラットフォームとして使っている状態です。データの量も一日250ギガバイト、トータル3ペタバイトを保有しており、もちろん日々情報が更新されるのですが、およそ2分単位、遅くとも5分単位で情報を更新しています。これは一事業者として見た場合、かなり大きなデータではないかと思います。

 

杉原:日本市場における展開についてお伺いできますか。

 

鳥井: 日本の人員は、年内で10名にしたいと思っています。シンプルに「日本to韓国」のインバウンドだけならばそこまでいらないかもしれませんが、 我々は最終的には「日本to日本」を狙っていますので、日本のマーケットにおいては大手メディアとの交渉も進めていますし、最終的には日本の広告主さんに対して日本での広告配信を提供したいと思っています。ただ我々の強みである運用、Targeting GatesのUIは非常に細かな設定ができますので、最初から代理店さんに公開してもすぐにできるものではないと思います。そのため社内で運用したいと思っているので、それも含めて人員を準備していきたいと思っています。代理店さんが管理画面を使うこともあるかとは思いますが、おもに我々がメインとなって運用していきたいと思っています。あくまで代理店さんがうまく使えるようにサポートするということです。

 

杉原: ということは、韓国での戦略と同じで、直接というよりは代理店さん経由での販売をお考えですか?

 

鳥井: はい。日本のマーケットに即した、レバレッジ効果のある販売戦略をとりたいと考えています。

 

意外と知られていないインバウンド事情

杉原:インバウンドの部分に非常に興味があるのですが、広告運用をする上でのベストプラクティスやコツはあるのでしょうか。

 

鳥井: ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、韓国から日本に来られる方の人数が、いま一番多いんです。中国が一番かと思いきや、今年に入ってからは韓国が第一位になりました。ただ地理的にとても近いので、日本に来るとしても週末を含めて平均3〜4泊だけ、などとても短期間の場合が多いです。そのため、「旅前」と「旅中」と「旅後」に対して適切にアプローチできますか、ということが通常のインバウンドキャンペーンのコツとしてよく言われますが、韓国に関して言えば滞在時間がとても短いため、「旅中」にアプローチをしても商品によっては間に合わないことが多いです。韓国からの旅行者の場合、短い滞在時間のあいだに何をするといった旅行の計画は全部事前に分単位で決めてきてしまいます。そのため旅行の計画を決める段階である「旅前」、つまり韓国国内でメッセージを出すというのが非常に大事です。

 

また数字で見ると、韓国の皆さんは高額商品を大量に購入するといった、いわゆる爆買いはさほどしていません。例えば中国の方が日本にこられた場合、家電製品なんかを一時期たくさん買って帰られましたが、韓国の方の場合は自国にLGエレクトロニクスやサムスンがありますから、わざわざ日本で単価の高い家電製品を買う必要がないんですね。むしろ日本にきたら、何かをやる「こと消費」とか、買うにしても比較的単価の安い消費財をたくさん買っていくというのが特徴です。先日も弊社CEOのEdwardが来日した際、娘さんからお土産のリクエストがあったのですが、蒟蒻畑だったのです。そういったものをマツモトキヨシやドン・キホーテなどでどさっと買って帰るみたいですね。

 

ワイダープラネット対談

 

杉原: 私も先日テレビで、そういうお店が大人気だというのを見ました。

 

鳥井: 皆さん頻繁に来られるので、マツモトキヨシやドン・キホーテの存在やデパートがどこにあるのかなどよくご存じですね。むしろ、「その中のこの店でこの商品を買いたい」という消費行動なので、「福岡のデパートなら〇〇」といった広告では刺さりません。「このデパート内のこのお店でこんな新商品を売っているから、福岡に行こう」というふうに、細かなバナー表現のほうが刺さりますね。

 

杉原:旅行以外の業種・業界ではいかがですか?

 

鳥井: 消費財メーカー様からのお話を多数いただきます。日本のお菓子はとても人気ですし、他には、日本の目薬もよく買われています。意外なところでは、女性が酎ハイを韓国に持ち帰られているのも印象的です。

 

もう一つは、スマホアプリゲームです。韓国の地下鉄に乗っていると、Wi‒Fiの整備が早かったこともあり、乗客は日本以上にスマホをいじっています。内容としては、圧倒的にゲーム、次いでブラウジングです。アンドロイドのマーケットにおいても、世界で4位のシェアを持っています。そのため、日本のゲームメーカーが韓国でユーザーを捕まえたいといったような、ある種の越境ECのようなお問い合わせもいただいております。

 

杉原:データーパートナーのところで、韓国国内最大級のクレジットカード会社のデータが使えるようになったということですが、これは大きいですよね。

 

鳥井: 韓国政府が昔からクレジットカードの使用を推奨していたこともあり、韓国の方はクレジットカードを使うのが大好きですし、カードを使う文化がかなり浸透しています。コンビニで100円の買い物をするのもクレジットカードで支払われています。こうしたこともあり、クレジットカード会社と提携することで結果的にたくさんのデータが見えるようになっています。例えば年齢・性別・居住地・勤務地もわかりますし、すべての消費の90%以上をク レジットカードで払うような文化なのでおおよその年収は推測できてしまいます。加えて、どういった店舗カテゴリで消費したかというのもわかります。現地の旅行会社で決済した、日本に来てレンタカーを決済した、などもわかります。カード決済の履歴に我々の持っているオーディエンスのデータを掛け合わせることで、かなり詳細にターゲティングできます。現地でクレジットカードデータを持っているオンライン広告会社は弊社が唯一なので、唯一のDMPベースのDSPと、しかもクレジットカードデータを持つ会社ということになります。

 

杉原:大手メディアの上位30サイト90%以上と提携完了とのことですが、プレミアム媒体はもう満遍なくといった感じですか?

 

鳥井: そうですね。NAVERさんとカカオトークに出せないんですか?というお問い合わせをよくいただきますが、これは事実でして、Yahoo! JAPANさんがまだ外にださないという数年前の日本のような状況で、現地でもNAVERさんは外には開放していません。ただポータルサイトの状況でいくと第2位のDaumさんがかなりシェアを伸ばしていて、Daumさんがカカオと一緒になっていますので、カカオトークのユーザーがそのままDaumを使うという状況です。ですので、1位、2位の差は3倍程度、日本ほど差はないというのが現状です。

杉原:中国でも配信できるということでしたよね?

 

鳥井: アリババさんとバイドゥさんのエクスチェンジに連携をしていますので、配信は可能です。ただデータの濃さでいうとまだまだ韓国に比べて薄いですので、今のところリターゲティングだけの対応をしています。

 

韓国というマーケットは、距離的にみて日本から一番近いのですが、これまで日本のオンライン広告業界はなぜかあまり対応できていなかったというところがあります。「アジア向けに広告配信しよう」という話になっても、まず思い浮かぶのは中国、台湾、香港で、韓国については手薄でした。とりあえずGDN、NAVERのリスティング広告を出しておく程度で終わってしまっていました。しかし我々は3ペタバイトのデータを準備し、さらにクレジットカードの情報も持っているため、しっかりセグメントを作って、それをベースに配信できます。これに対して結構驚かれることが多いですね。「ここまでできるんだったら、しっかり仕込まないと」という雰囲気を感じます。日本から韓国へのマーケティングってこんなことができる、ということを我々が少しエデュケーションしていくようなフェーズに来ているのかなと感じます。

 

杉原:インバウンド・クロスボーダーキャンペーンは言語の壁もあり、これまでなかなか踏み切れていなかった印象がありますが、昨今のインバウンド人気もあり、取り組むタイミングとしては最適かもしれませんね。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

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