※本記事は、株式会社フォーエムより寄稿していただきました
モバイルアプリを収益化する方法の中で、一番ポピュラーなのが「広告マネタイズ」です。ニュースやゲーム、ツール、ポイ活など、さまざまなアプリが広告で収益を得ています。「アプリのマネタイズ方法」「代理店の必要性」「アプリ内広告の一般化」などについて、アプリ内広告のパイオニアの坂本達夫様と、広告マネタイズ支援数国内トップクラスの株式会社フォーエムが解説します。
スピーカー
Moloco inc.
Business Development Director, Supply
坂本達夫
AnyMind Japan/株式会社フォーエム
Senior Manager of App Growth
佐藤立
インタビュアー
AnyMind Japan/株式会社フォーエム
Business Development Executive
萩原千賀
目次
日本のモバイルアプリの広告ビジネスを発展させてきた両社
萩原:自己紹介をお願いします
坂本:新卒で楽天に入社し、その後Google、Applovin、Smartly.ioを経て、現在はMolocoで日本のサプライサイドを統括しています。アプリのマネタイズに関わり始めたのは、GoogleでAdMobの日本担当になってからです。当時はまだバナー広告が主流で、全画面のインタースティシャル広告を普及させるため腐心していました。AppLovinでも動画リワード広告を日本に頑張って広めていましたね。
Molocoに移ってからは、自分が開拓を行ってきた広告枠の買い付けをDSP(Demand Side Platform)※1として行っていて…感慨深いですね(笑)
また、Google以降はずっとアプリのマネタイズやマーケティングを専門としているので、アプリ事業者様の入門書となればとの思いから『アプリマーケティングの教科書』(日本実業出版社)という本を2023年に出版しました。多くの方に手に取っていただいており、台湾での販売も決定しました。
佐藤:私は現在、株式会社フォーエムにてアプリ支援事業の統括を行っています。前職は人材のベンチャー企業で営業として働いていました。その後、AnyMind Japan株式会社(以下、AnyMind)に2021年に転職し、グループ会社であるフォーエムに出向しています。
フォーエムはWeb媒体の収益性の改善をご支援させていただいているのですが、新規事業として立ち上げたアプリ支援事業の責任者をしています。アプリの広告収益最大化を支援しており、立ち上げ当初は支援アプリ数が五つほどだったのですが、現在では「あすけん」さん、「トリマ」さんなどの有名アプリを含め、国内250以上のアプリの収益支援をさせていただいております。特にマネタイズ領域においては日本で多くの実績を残せていると自負しています。
※1 広告枠の買い付けや配信、クリエイティブ分析までを自動で行い、最適化を行うプラットフォーム
広告運用の自社工数最小化でマーケ施策に時間をかけられるかどうかがアプリ成長への鍵!? 最新のアプリのマネタイズ手法について
萩原:そもそもアプリのマネタイズって、どうやって行うのでしょうか?
坂本:アプリのマネタイズ方法はいろいろあります。有料ダウンロードもありますが、主流は無料でダウンロードできるもの。それらはアプリ内課金、サブスク、そして広告で収入を得るのが一般的です。これらの中から一つだけ選ばなければならないということもなく、組み合わせて展開することも可能です。ユーザーに課金をさせることはなかなか簡単ではないため、手軽かつ幅広いユーザーから収益を発生させることができるという観点で、広告モデルは最も取り組みやすい収益化手法ではないかと思います。
佐藤:ありがとうございます。広告の収益化を実施する際は、SSP(Supply Side Platform)と呼ばれる、自動で広告案件を表示するプラットフォームを活用することが一般的ですよね。これにより、複数のアドネットワークを競合させることで収益向上が見込めます。このようにアプリで複数のアドネットワークを実装し競合させる仕組みを「メディエーション」と呼びます。「AdMob」「Applovin MAX」「Unity LevelPlay」「アドフリくん」などがあり、われわれも上記のプラットフォームの運用を基本として、広告のマネタイズをサポートすることが多いです。
坂本:昔はメディエーションを使わずに一つのアドネットワークだけを使うアプリも散見されたのですが、徐々にメディエーションを使うのがスタンダードになってきているなと感じます。ですが、中にはまだメディエーションを知らない方や、うまく使いこなせていない方がいらっしゃるのも現状かなと。
また最近では、従来の手動でメディエーションの運用を行う方法ではなく「Bidding」※2と呼ばれる仕組みが誕生したので、運用面での難易度も下がってきたと感じています。
われわれMolocoも含め、多くのアドネットワークが自動運用可能なBiddingへの対応が進んできています。業界全体として、手間がかかって無駄のある従来の手動運用を縮小させ、Biddingをメインストリームにしていきたい、という意図を感じています。
佐藤:おっしゃる通り、Bidding対応の動きが加速していると感じています。これはすごくポジティブな動きだと個人的には思っています。
アプリマーケティングの手法はたくさんあります。例えば、TikTokなどSNSを利用したバイラルプロモーション※3や、分析ツールを使って詳細なユーザー行動を追跡する手法など、ユーザー行動の変化やプロダクトのアップデートにより、日々新しいマーケティング手法が増えています。広告マネタイズにおいて、今までは手動対応が必要だった部分が自動化することで、他のマーケティング施策に時間をかけることができるようになり、これは非常に良い流れだと感じています。
広告マネタイズ領域において代理店は不要か!?
萩原:自動運用可能なBidding対応のアドネットワークやSSPが増える中で、代理店不要論も上がるようになりましたが、どのように考えていますか?
佐藤:運用代行をするだけの代理店の価値は下がっていると思います。先ほどの会話でもあった通り、自動対応のSSPが増えたため、細かく設定を変更することによる収益の上昇幅が、以前ほど大きくないためです。
※2 「Bidding」では自動で広告枠の単価が最適化される運用が行われ、「WaterFall」では手動で広告枠の単価を最適化する運用を行わなければならない。当時はWaterFallとして接続できるSSPがほとんどであったが、アプリパブリッシャーの運用の手間を削減するべくBidding対応するSSPが年々増えてきている
※3 コンテンツや製品がSNSやインターネット上でユーザーによって広く共有され、口コミのように急速に広がるマーケティング手法
一方で、上昇幅が下がったとはいえ、数十%の向上は見込めることは多いので依然として運用は必須だと思いますし、効果的な運用をするためには「他アプリでの運用のケーススタディ」や「各ネットワーク・SSPの動向」などの情報収集が重要です。しかし、行うべきマーケティング施策がたくさんある中で、アプリの開発者様がこれらに時間を費やすことが適切かどうかは、私はNoだと思っています。
また、運用以外の側面においても、例えば新しい広告フォーマット導入時のABテスト設計、収益性が高くUXを阻害しない導入方法といった幅広い視点での検討が必要です。こうした「外部の広告スペシャリスト」としての提案は、代理店ならではの価値を発揮できると考えます。
自分たちの話で恐縮ですが、単なる運用代行ではなく、広告マネタイズ全体の方向性や戦略を一緒に考えることで、収益を数倍まで伸ばしているお客様もいらっしゃるので、ここは自信を持っている領域でもあります。
【参考記事】
ONE(ワン) お金がもらえるレシート買取&お買い物アプリ / WED株式会社 | 広告収益4倍以上達成の秘訣
坂本:WED社は僕のエンジェル投資先なので、収益を伸ばしていただいて本当にありがたいです(笑)
代理店の存在意義については、僕も佐藤さんに同意です。何がサービスの価値なのか、アプリ事業者様が何に対価を払っているのか、が大事ですよね。『作業』に対して対価を払っているというイメージを持つ方が多いかもしれませんが、その裏側には『ノウハウ』や『ナレッジ』がありますよね。その価値は今後も変わらない部分だと思います。
少し話が逸れるのですが、日本では『情報』のような無形商材に対してお金を払うことにネガティブな印象を持っている人が多い気がします。実際に手を動かす『作業』に対してお金を払うほうが違和感がない人が多い。
ですが現代は『情報』がより価値を持つ時代に変わってきています。フォーエムさんのお客様である250のアプリ事業者が、全員同じ情報収集するのは効率的ではありません。また、月間売り上げが小さいアプリ事業者様に対して、大手広告ネットワークの担当者が最新情報を懇切丁寧に教えてくれるかというと、残念ながら現実的ではありません。
それが例えば、250社が集まって月間$30,000稼ぐような存在になれば、トップクライアントにしか本来届かなかった貴重な情報を得られるようになるかもしれません。情報を収集して、シェアしてくれる存在は、中小規模のアプリ事業者様にとっては特に有益であると思います。
佐藤:情報に価値があるという点でいえば、われわれがご支援しているアプリ事業者様の中で「ここに価値を感じていただけてる」と思うポイントがあります。それは「今後のアプリ事業の『意思決定』に必要な情報を提供できている」点です。例えば、今より広告収益を伸ばすことはできるのか?それを考慮して、ユーザーに還元するポイント還元率は適切か?広告出稿金額を増やせるのか?などの意思決定に役立っているという自負はありますね。
坂本:実際に経験がある人に聞ける、という感覚ですよね。フォーエムさんは幅広いジャンルで多くのアプリ事業者様を支援しているので、これを読んでいる方が知りたいであろう『競合アプリの情報』なんかも持っているかもしれませんね(笑)
「広告見られない」がユーザークレームに!?アプリの広告マネタイズの広がりと変化について
萩原:最近ではIPを活用したゲームアプリや従来広告を入れていなかったアプリでも広告マネタイズに踏み出しているとの話がありますね
佐藤:最近、広告を取り入れるアプリが増えましたよね。以前は、広告マネタイズがメインのアプリ『だけ』に広告が入っていましたが、最近では課金中心のゲームや実店舗を持つお店のアプリにも広告が入るケースが増えています。リテールメディアも日本で少しずつ盛り上がってきていますし。
特にゲームの領域では、日本自体の景気があまり良くないこともあって、広告で追加のキャッシュを作り、それをユーザー獲得や新たなチャレンジに投資する流れが、理にかなっているかなと思います。日本にもどんどん進出してきている海外のゲームアプリだと、日本ほどは世界観を気にせずに広告を入れていることが多いので、ユーザーの広告慣れという影響もありそうですね。
坂本:確かに、今の経済環境的には広告ビジネスを行ったほうが良いと思います。広告ビジネスを行いたくない人の中には、データよりも感情や印象を重視される方や、アーティスト的感覚がネックとなっている方も少なくない気がします。ですが、果たして広告を入れることってマイナスなのか?とも考えることは多いです。
例えば、お金払って映画館で映画を見ているときに、本編の途中で広告が挟まれるとイラっとしますが、金曜ロードショーで途中で流れるCMには皆さん文句言わないじゃないですか(笑)。CMが流れたから上映映画の価値が薄れるかというと、そんなことないと思うんです。個人的にはそれと同じ程度のことだと思っています。本来、ユーザーに対して必ずしもマイナスでないものをマイナスであると決めつけているところがあると思います。
実際にユーザーとしてアプリを使う中で広告が嫌だなと思うポイントは、頻度や、広告の品質だと思います。広告が表示されること自体が嫌なユーザーはどれだけいるのでしょうか。僕も息子の影響で最近ツムツムをやっていますが、課金をせずに動画リワードを見るだけでハートがもらえるのは超ありがたい!逆に通信が悪くて広告が表示されないとイラっとすることもあります(笑)。
佐藤:坂本さんのユーザーとしての意見はすごく参考になりました(笑)。ゲームアプリの広告マネタイズで多い広告へのクレームは主に二つあります。一つは「閉じる」ボタンが出てこない、広告の内容が悪いなど、品質に対するクレームです。二つ目は、通信の影響で広告が表示されず、アイテムがゲットできない、といった「広告が見たいのに見られない」というクレームです。
”広告を見て対価を得る”という行動自体が当たり前になっていると思いますし、これはゲーム以外でも応用できそうですよね。例えば、店舗アプリなんかで来店時にもらえるポイントを貯める機能がある場合、動画広告を見ることによってポイントがより多くもらえる、ポイントがもらえることでユーザーはエンゲージメントが高まる。そしてポイントの原資は動画広告で賄う、といった活用も良いかもしれないですね。
日本から世界に!?アプリ成長支援を加速する両社の今後の展望について
萩原:今後アプリ広告にどう関わっていきたいですか?
坂本:私が所属するMolocoでは現在プロモーション側とマネタイズ側の両方の事業を行っていますが、われわれがマネタイズ側をやる意義は二つあると考えています。
一つ目が広告主により価値貢献をしていくため、質の高いインベントリー(広告枠)にMolocoが直接アクセスできるようになることです。二つ目は、機械学習を強みとする会社として、今までと同じ在庫からでも、より高い価値を広告主に提供することです。この意義を果たし、業界に貢献していきたいと考えています。
後者に関しては広告主への価値貢献だけでなく、パブリッシャーにとっても、今までよりも高い価格で自分のメディアが買い付けられるようになることなので、良いことだ思います。昨今はCPMが下がっていて市況的には、つらい状況だとよく聞くので、少しでも高い価格で買い付けられるようにしたいなと思っています。
佐藤:われわれがやらなければならないことは、二つあると思っています。一つ目は、アプリ運営者様がより広く深くアプリ運営に向き合えるように、われわれのサポートの範囲を広げていくことです。現在、われわれの業務自体も自動化を進めて行っておりますので、新しいサポート領域を作っていきたいです。
二つ目は、現在提供しているサービスである「広告収益最大化」をより多くのアプリ事業者様に届けたいです。同じことを実直に行っていくという意味にはなりますが、これまでの実績から、まだお会いできていない方々の広告収益の向上にもコミットできる自信がありますので、引き続き向き合っていきたいです。
坂本:広告収益最大化の観点では、日本という国の特色なのか、お金儲けに対してアグレッシブではない面がありますので、もったいなく思っています。広告を活用して収益最大化ができるのに、二の足を踏んでいる方には「騙されたと思って収益倍増させてみるか」という感覚で一度真剣に向き合ってほしいなと、ずっと思っています。
佐藤:おっしゃる通りですね。AnyMindの海外メンバーと話していますが、日本と海外のアプリ事業者のお金に対するアグレッシブさは違うなと感じています。海外展開をするという文脈においても、なかなか日本からグローバルへの展開はハードルが高いように見えますね。
坂本:本当に難しいですよね。個人的な話にはなりますが、僕は今後ヨーロッパに移住するので、海外のパブリッシャーが何を考えているのか、実際にこの目で見てみたいなと思っています。
佐藤:ぜひ、海外展開に関するトピックスについては第二弾という形でオンラインでインタビューさせてください!
萩原:お二方、本日はありがとうございました!