さまよえるサードパーティCookieとオープンインターネットは何処へ

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ChromeのサードパーティCookieサポート廃止のスケジュールは延期

Googleは、2024年4月23日、ChromeのサードパーティCookieサポート廃止のスケジュールを延期することを発表しました。

延期にあたり、Googleからのコメントは以下の通りです。「私たちは、業界、規制当局、開発者からのさまざまなフィードバックの調整に関する継続的な課題があることを認識しており、エコシステム全体と密接に関わり続けていきます。また、CMAが市場参加者に6月末までに提出するよう求めている業界テストの結果を含むすべての証拠を検討するための十分な時間を確保することも重要です。これら2つの重要な考慮事項を考慮し、私たちは第4四半期下半期中にサードパーティCookieの非推奨化を完了させるつもりはありません。私たちは引き続きCMAおよびICOと緊密に関わり、今年中にそのプロセスを完了させたいと考えています。合意に達することができれば、来年初めからサードパーティCookieの非推奨化を進める予定です。」

※参考リンク:

 

ChromeのサードパーティCookieは結局どうなる?

ChromeのサードパーティCookieのサポート廃止は、代替策として考案されたGoogleのアドレッサビリティテクノロジーであるプライバシーサンドボックスがCMA(イギリスの競争・市場庁)の審査を経て、仕様確定するかどうかに影響されます。

今回で3度目の延期となりますが、過去2回と比べると、Googleはもちろんのこと、CriteoやRTB Houseなどの技術協力パートナー、IABのプライバシーサンドボックスのタスクフォース(60社強のアドテク企業が参加)、CMA、ICO、そしてアドテク業界各社など、エコシステムの多くの関係者の努力もあり、プライバシーサンドボックスの技術仕様に関してはかなりのところまで進んでいます。

延期の背景としてはざっくりと以下のような状況になります:

  • Google Ad Manager、GCPなどを中心に、GoogleがSelf-preferencing(自己優遇)していると思われる点を再検討する必要がある
  • ユーザープライバシーが担保されていない点をクリアにする必要がある
  • プライバシーサンドボックスの公平性などガバナンスが長期に渡って維持されるかを証明する必要がある
  • CMAはGoogleのファーストパーティデータの利用を制限したいと考えている
  • CMA自身にも評価検討のための十分な時間が足りない
  • プライバシーサンドボックスAPIを実装するアドテク企業にも開発に十分な告知時間が足りていない

 

Googleのファーストパーティデータの利用を制限に関しては、広告のターゲティングと計測のために、Googleがファーストパーティデータを使用することで、広告主の広告費がオープンインターネットからからグーグルのO&O(Owned & Operated = 所有・運営される。つまりウォールドガーデン内の検索やYouTubeなどのことを言っている)インベントリに移動するリスクをCMAが懸念しているためですが、プライバシーサンドボックスの仕様とは直接関係はないことに加え、どこまでGoogleが譲歩できるかは不明です。

ただ、それ以外の点については技術的に回避する方法を見つける、またはGoogleが自己優遇と指摘されている点に関してオープン化するといった方針を決めることで解決する可能性は大いにあると考えています。ガバナンスは意外と大きな課題で、CMAも2028年まではモニタリングを継続しますが、今回のプロセスにおいても多大なリソースを使って評価をしているとされているので、単独でなく、他の規制当局と共同で行なっていくよう調整が入る可能性はあります。

いずれにしても推測の域を出ないですし、実際、ChromeのサードパーティCookieサポート廃止のスケジュールが2025年初頭になるのか、その先になるのかは正直わかりません。

ただ、一つ言えることはChromeのサードパーティCookieサポート廃止自体がなくなり、サードパーティCookieがChromeにおいて先々も使い続けられるというシナリオは、非常に考えづらいという点です。そもそも第一義であるユーザーのプライバシーを保護するという観点では、すでに他のブラウザに大きく遅れを取っており、リスクを内在したまま現在も運用されているような状態を放置するというのはGoogleもCMAも念頭にはないと思います。そういう意味ではステークホルダー全体で、一旦の落とし所を模索しているようなステータスではないでしょうか。

 

「ビルディングブロック」だからこそオープンインターネットを変革するチャンスも

Googleはプライバシーサンドボックスを「ビルディングブロック」であると主張しています。この「ビルディングブロック」という表現は日本人には馴染みがないものなのでわかりづらいのですが、本来はおもちゃの積み木、ブロックの意味です。IT業界では構成要素、要素技術という意味で使うことが多いでしょう。

プライバシーサンドボックスの構想が出てきた際は、多くの人が「サードパーティCookieの代わりにリターゲティング広告を可能にするソリューションをGoogleが考えてくれている」と思っていたと思います。現在もそのような考えを持った人は多いのではないでしょうか?そのため、技術仕様が理解され、実際に実装したり利用してみると、「あれ、できないことが多いぞ」と思い、抱いていた期待値を下回る形になってしまったのだと思います。

今一度「ビルディングブロック」であるということを再認識する必要があると思います。要素技術さえ正しく使えば、その上のレイヤーにはイノベーションを起こすこともできますし、Googleもそれを期待しているのです。例えばですが、リターゲティング広告と同様のことを実現するProtected Audience APIにおいて、広告運用のキモとなるのはInterest Groupの作り方や使い方となる見込みです。Interest Groupはリマーケティングリストに似たようなものと考えてもらうとよいかと思います。これは2024年5月時点でのプライバシーサンドボックスの仕様上は広告主が作ることもDSPやパブリッシャーでも作ることができます。米国のデータソリューション企業のAudigentは、ここに目をつけて、50億のChromeブラウザと1,100以上の視聴者セグメントを含むスケーラブルなInterest Groupを提供可能とすでに謳っています。プライバシーサンドボックス上で新しいビジネスが生まれているのです。本当に早いですよね。

※参考リンク:

一方、MicrosoftはEdgeでプライバシーサンドボックスと同様のAd Selection APIを発表しています。EdgeはChromeと同じChromiumをベースにしていることもあり、プライバシーサンドボックスへのサポートも表明しています。大手プラットフォーマー2社が歩調を合わせることも考えられます。また、プライバシーサンドボックスは現在はChromeを中心とした議論が進んでいますが、SafariやMozillaをはじめとするほかのブラウザのベンダーが採用できるWeb標準技術として昇華させることを目指しており、多くのブラウザで使われ、要素技術として成長しながら、多くの新しいイノベーションを生んでいく可能性が今後出てきてもおかしくありません。

代替IDやデータクリーンルームの議論も活発化しています。さまざまな選択肢はありますし、今後も新しいものが生まれていくでしょう。

今年3月にニューヨークで開催されたIAB Tech Labs主催のカンファレンス「As the Cookie Crumbles(クッキーが砕けるように)」に参加した際に、IAB Tech Labの所長が使った印象的なフレーズがあります。それは、今現在の業界の状況を「The Great Reset(大いなるリセット)」と表現していました。業界の作り直しという意味に近いかもしれません。The Great Reset時代は業界にとって破壊的で、オープンインターネット、特に中小メディアは短期的に収益面で、広告主は広告効果で影響を受けるのは残念ながら不可避であるというのが大方の予想です。ただ、それを乗り越えることができる革新的な取り組みを作り上げたり、新たなビジネスチャンスはある、と主催側もカンファレンス参加者も先行きの不安感を抱きつつ、ちょっとした熱気にも包まれた会場だったのが印象的でした。

 

スケジュールの延期は新しい取り組みのための時間確保に

ChromeのサードパーティCookieサポート廃止のスケジュールは延期になったことで、Cookieを使い続けることはできます。それ自体に問題はありません。ただ、来るべき日に備え、プライバシーサンドボックスのみならず、代替ソリューションの評価や、バイサイドはマーケティング施策全体の再考、セルサイドは収益の多角化を再考をするための追加の時間が確保できたと考えるべきだと思います。

私自身、来るべき時期を想定し、早めの準備を行うこともしながら、イノベーションでエコシステムを再構築できるチャンスであることも意識して動いていきたいと思っています。


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