変化が激しいデジタル広告業界で育児をしながらキャリアを積むのに必要なものとは何か。前回は、出産・育児を経て20年以上この業界で活躍するIndex Exchangeの香川晴代さんに、キャリアの継続、活躍の秘訣を伺いました。
今は、女性が子どもを持ちながら産休・育休をとってキャリアを積むことが当たり前になり、男性の育児休業取得推進の動きもあり、男女関わらず育児をしながら働くことが求められています。ただ、めまぐるしく変化するこの業界で、一時的なブランク、時間的な制約が発生することは、いつの時代でも働き方に大きな影響をもたらします。
今回は、現在まさに子育て中であるThe Trade Deskの井川麻里子さんに、時間的な制約を乗り越え、さらなるステップアップを目指すために実践していることを伺うとともに、働きやすいデジタル広告業界に必要なことは何か、広告運用者は業界においてどういう立ち位置であるべきかなどについて、香川さん、アタラCEOの杉原がディスカッションしました。
話し手:
The Trade Desk
アソシエイト ビジネス デベロップメント ディレクター
井川麻里子さん
聞き手:
Index Exchange
日本担当マネージングディレクター
香川晴代さん
アタラ合同会社
CEO
杉原剛
目次
デジタル広告の仕組みに感動してデジタル広告業界へ
杉原:まずは井川さんご自身の自己紹介とThe Trade Deskの紹介をお願いします。
井川:The Trade Deskの井川麻里子と申します。The Trade Deskで広告主向き合いの営業を担当しております。The Trade Deskは、2009年にアメリカのカリフォルニアで設立し、日本オフィスにおいては2014年に開設。今、注目のOTT・CTVを含むオムニチャネルに対応し、デバイスを横断して広告配信できるバイサイドに特化したDSPを提供しています。
私のキャリアについては、新卒でガスを中心としたエネルギー関連の大手企業に入社し、主に新卒採用や研修業務に約3年携わりました。そこからデジタルマーケティングにキャリアチェンジをして、2016年にThe Trade Deskに入社、約6年間アカウントマネージャーを務めました。主に広告代理店向き合いの提案、運用のサポート、後半はマネジメントの業務にも携わりました。
その後、広告主向き合いの仕事の経験を積むために、TikTokを運営するByteDanceに転職しました。そこで経験を積んだ後、2023年に入って、The Trade Desk Japanが広告主向き合いのチームを立ち上げるタイミングで、ご縁あって再入社しました。今は、外資系のお客さまを中心に広く担当しています。広告主から広告代理店とのコミュニケーションまで、幅広く携わっています。
杉原:エネルギー関連の企業からデジタルマーケティングへ、なぜキャリアチェンジされたのでしょうか。
井川:もともとクライアントをはじめとした外部の方と関わる仕事にチャレンジしたいと思っていました。かつ、グローバルな環境、よりテクノロジーやイノベーティブな領域で新しい経験を積みたいと思っていたところ、The Trade Deskと出会い、リアルタイムビディングの仕組みなどを知る中で「これはすごい」と感動して飛び込みました。
社内にはeラーニングシステムがあり、業界の仕組み、The Trade Deskの強みについては、社員が一定のナレッジを得ることができます。初心者ではありましたが、そこでキャッチアップができました。
香川:麻里子さん(井川さん)とは私の前職時代に、世界最大の消費財メーカーの動画広告キャンペーンでご一緒して以来のご縁なのですが、とにかくガッツがすごいんですよ。スポーツもずっとやっていらして、スポーツの“攻め”のメンタリティを感じます。
井川:小学校から高校までサッカーをやっていました。スポ根系かもしれません(笑)。
杉原:では、香川さんの自己紹介もお願いします。
香川:Index Exchangeの香川晴代です。2000年にデジタル広告業界でのキャリアをスタートしました。DACの国際事業部、オーバーチュア、アマゾン・ジャパンで日本での広告事業立ち上げに関わり、フェイスブック・ジャパン、動画SSPのアンルーリーを経て、2019年にIndex Exchangeに日本担当のマネージングディレクターとして入社しました。
Index Exchangeは、グローバルな独立系アドエクスチェンジ企業で、本社はカナダにあります。メディア・バイヤー(広告枠を購入したい人/マーケターと代理店)とメディア・セラー(広告枠を売りたい人/パブリッシャー、アプリデベロッパー、ストリーミング・プロバイダー)間のプログラマティック取引を可能にするテクノロジーで、メディアオーナーには収益の拡大を、マーケターにはあらゆるスクリーン、広告フォーマットを通じて消費者にリーチする価値を提供しています。また、国内外DSPパートナーと密に協業をしており、The Trade Deskとも協業関係にあります。
また、杉原さんとはオーバーチュア時代の同僚で、かれこれ20年のお付き合いとなります。当時の社内の文化の名残で、剛、晴代と下の名前で呼び合っています。
産後に戻る場所は自分でつくる
香川:麻里子さんは今、未就学のお子さんを育てながらお仕事をされていますが、出産・育児で働き方や考え方は変化しましたか。
井川:出産するまでは目の前のことを、とにかくがむしゃらにやる、というスタンスでした。業界も未経験だったので、一つ一つ、全てを吸収しようという気持ちでした。
妊娠が分かったときには、出産半年後に職場復帰することは決めていました。同時に考えたのが、産休・育休に入るまでに、今までを超える結果を残そうということです。
実は、The Trade Deskの日本オフィスで産休・育休取得第1号だったんですね。前例がない中ではありますが、戻ってくることができる場所は自分でつくるものだというのが、自分の中でとても強くありました。その思いもあって、妊娠中も、日々の仕事はもちろん、国内出張や海外出張も全力で取り組みました。
香川:すごいですね!計画的に妊娠から産休前まで行動していたんですね。
井川:今、思うと、ちょっと力み過ぎていたかなと思います(笑)。なので今は、妊娠中の女性や、これから育休に入る女性にも男性にも「そんなに力を入れ過ぎなくていいよ」とアドバイスをしています。育休中については「子どもと、しっかり集中して向き合うほうがいい。帰ってきたら仕事はたくさんあるから!」とも伝えていますね。
ただ、振り返ると、そのときにすごく頑張っていたことで復職後に新しいチャンスが舞い込み、今のキャリアにつながっています。とても大変な時間でしたが、妊娠前よりもさらに頑張った経験というのは、自分の自信になっているとは思っています。
香川:The Trade Deskの中でも、APACやグローバルでは前例があったでしょうが、身近にはなかったということですよね。それは大きなことだと思います。なのに、不安が全く見えない!私も前例のない中での産休・育休でしたが、不安しかありませんでした。
杉原:二人とも共通しているのは、時代は違えど前例がなかったということですね。
井川:そうですね。確かに不安は不安だったのですが、不安を打ち消すように、がむしゃらに働いていました。
香川:それだけ頑張って、妊娠中、体調は問題なかったのですか。
井川:体調については、正直、とてもよいわけではありませんでした。しかし、働く時間をフレキシブルにしてもらったり、在宅で働けるようにしていただいたりしたおかげで、仕事を減らさずに済みました。おそらく仕事を減らすこともできたとは思いますが、環境を調整することで、妊娠中もフルタイムで今までと同等に仕事をさせてもらいました。周りが味方してくださったのが本当に大きかったです。この点については、会社に感謝しかありません。
杉原:組織としては、とても柔軟な対応をしてくださったわけですね。もともと御社ではリモートでシステムにアクセスできる環境はあったのですか。
井川:コロナ禍前だったので、まだリモートが今ほど普及していなかったのですが、リモートへの対応を会社が柔軟にしてくださったおかげで仕事を継続できたことも大きかったです。
妊娠してからは逆算してとるべき行動を考えるように
香川:復帰に当たって、何か準備はされましたか。
井川:復職する1カ月ほど前から、香港にいた上司とオンラインで面談をしたり、同僚とご飯に行ったりして、会社の状況を教えてもらいました。あと、自分が復職したら何を求められるか、どこでどんな仕事ならば産休・育休前と同等かそれ以上に自分が活躍できるかが知りたくて、上司だけでなく、いろんな職種の方に面談していただくこともしていました。
半年で復帰を決めていたので、仕事のための自己啓発などはせず、育休中はママ業に全力で専念しました。同時に、育休中のワーキングマザーたちと交流する機会はつくっていましたね。「復帰したらサポートが必要だよね」とか「こういう時間の使い方しなきゃ」という会話をよくしていて、少しずつは準備をしていたと言えるかもしれません。
杉原:とにかく先々を考えて計画的に過ごしていたんですね。
井川:妊娠してから、時間に対する考え方がすごく変わったんですよね。逆算して、いつまでに何をする、という考え方が強くなりました。例えば、いつまでに、これをやらなきゃとか、これを握らなきゃとか、こういう自分になりたいから、このタイミングで転職しなきゃとか、逆算してとるべき行動を考えるようになりました。
香川:時間の制限があるから、なおさら計画的に進めようというのは分かる気がします。全部はできないですからね。
井川:はい。時間に追われる分、計画的に逆算するようになりました。
杉原:アタラも、育休・産休期間はコミュニケーションは完全に止める形にしています。すると、やはり本人は不安に思われます。それは無理もないことですし、会社のことが気になるとは思うのですが、お休み中は育児にしっかり専念してもらいたいと思っています。ただ、変化の激しい業界ではあるので、急に戻ってくると状況がかなり変わっていました、ということはあり得るので、井川さんのように少し助走期間を置くというのはすごくいいですね。
井川:そう思います。
杉原:晴代のときは助走期間はありましたか。
香川:なかったと思います。急に戻ってきて、ぼうぜんとしていたような…。さらに、復職後は忙しくて考える余裕もなかったですしね。麻里子さんは、一度The Trade Deskに復職してからByteDanceに転職したのですか。
井川:The Trade Deskに戻ってきて、約1年8か月ほど勤務しました。
香川:元の職種(アカウントマネージャー)に戻ってきたのですか。
井川:はい、そうです。プレイング・マネージャーとして新しいお客さまを担当しながら、メンバーのマネジメントをするという両軸で仕事をしていました。なので、復帰してから仕事が減ったとか、希望していない仕事をすることになったなどという経験を全くしていません。私の場合、幸いなことに、メンバーのマネジメントという新しいことにチャレンジさせてもらいました。
香川:復職後の大変さは、復職前にシミュレーションしていたと思いますが、戻ってきてみていかがでしたか。
井川:めちゃくちゃ大変でした。
香川:対談が始まって初めて、大変だったって言いましたね(笑)。やはり戻ってみたら大変だったと。
井川:本当に大変でした。大変さの原因は、やはり「時間」だと思います。打ち合わせの時間を調整してもらわなければいけなかったり、会食や懇親会などで関係性を深めることがなかなかできないのも大変でした。
杉原:晴代も前回、同じ話をしていましたよね。
香川:前回も同じ、会食に参加できない話をしました。なんかもう、胸が痛む感じでしたね。ミスアウトしている(見逃している)感じ。実際、そんなことは何も起きていないんですけどね。今ならそう思うのですが、当時は「会食で何を話していたんだろう?」みたいなのが気になって気になって。
井川:そうですよね。自分だけ置いていかれてるような感覚でした。
価値観の合う職場、育児で得た忍耐力で両立の大変さを克服
香川:それが復職後のリアリティだと思います。では、この大変さを乗り越えられている要因は何でしょうか。
井川:自分の中で、職場選びは、柔軟な業務時間が確保できることと、業務時間の長さで任される仕事が制限されないことを重視しています。そこが合致するので、The Trade Deskで長く働いているというところはあります。おそらく、会社の方向性と個人の方向性が合わないと続かないので、会社に変わってほしいというよりも、会社と価値観が合うことを重視して職場を選んで乗り越えている形です。
あとは、ちゃんと主張すること、コミュニケーションを取ることかなと思っています。上司に対しても「前例はないけれど、時短ではなく復帰したらフルタイムでこのように働きたい」といったコミュニケーションは積極的にとるようにしていますし、この業界はきちんと伝えれば実現しやすい業界かなとも思っています。
香川:そのとおりだと思います。
井川:ママだけではなく、パパも、働き方の柔軟性については交渉しやすいのかなと。
杉原:声を上げるというのは、本当に大切ですよね。晴代のときも前例がなかったけど「こうしたい」というコミュニケーションをとってたと思うし、当時の上司だったグレース(グレース・フロム氏。現:CRITEO株式会社 北アジア地域最高責任者 兼 日本取締役社長)からの助言もあって、働き方や周りのサポートも変わった部分もあるかなと思います。マネジメント側に言わないと分からないというと、ちょっと受け身になってしまいますが、そういう側面も確かにあるので、言うこと、コミュニケーションすることはすごく大切です。
井川:家庭によってママとパパの家事や育児の分担のバランスもあると思います。そのバランスに応じて会社が個々に合わせて柔軟に対応できるといいのかなと思っていて、そうすれば女性だけじゃなく男性も働きやすい業界になるでしょうし、企業がそういった柔軟性を持つかどうかは、今後、人材を逃さないための鍵になってくると強く感じています。
香川:男性で育休をとる人は、The Trade Deskの日本ではいらっしゃいますか。
井川:はい。子どもが生まれた人で、育休をとっていない人は、いないです。「子どもが生まれる=育休はいつとるの?」というコミュニケーションが発生する環境になっています。
香川:もう、とるのが当たり前になってるんですね。
井川:そうですね。期間は6週間ですが、時期を2回、あるいは3回に分けて取得する人もいますし、ママとずらして育休をとる人もいて、とてもフレキシブルです。
香川:Index Exchangeの日本オフィスでも育児中の男性社員は多く、保育園に送り迎えに行く話や子どもの体調の話など、チームの中で普通にします。男性が育児休暇を取得するのが当たり前というのは、御社と同じです。復帰後はマネジメントにも関わるようになったということですが、業務としては、やはり以前よりも大変になったのではないですか。
井川:業務とマネジメントを両立するプレイング・マネージャー的な立場だったこと、シンプルに新しいチャレンジだったので大変だったことも多かったです。ただ、時間の使い方は以前より、うまくなったかなと思いますし、新しいメンバーと働くことで、働き方や価値観において自分の視野も広がったと思います。あとは、マネジメントは忍耐力が必要な場面も多いのですが、母親になって以前よりも忍耐力が高まったというのが大きかったですね。
香川:育児をしていると絶対に忍耐力、高まりますよね。子どもと対峙していたら、いろいろなことが予定どおりに進まないし、もう待つしかないみたいなときもしょっちゅう…。
井川:そうですね。全てが思いどおりにはいかないけど、見守るとか、やり方をちょっと変えてみるといった忍耐力を子育てをとおして学びましたし、さらに仕事でも学ぶことができて、相乗効果でとてもよかったです。
日本での広告運用者はどのような立ち位置であるべきか
杉原:さて、前回に引き続き、この対談ではデジタル広告業界におけるキャリアについて取り上げていますが、Unyoo.jpを読んでいただいている「広告運用者」について考えてみたいと思います。そもそも、日本のデジタル広告業界において広告運用者というのは、どういう立場なんでしょう。井川さんは、どう思いますか。
井川:広告運用者の仕事は、とても多岐にわたるじゃないですか。オペレーショナルな仕事だけではなく、配信設定の仮説づくりもしなければならないし、運用の最適化によるパフォーマンス改善も求められる。PDCAを回しながらデータを見て、時にはイノベーター的に新しいインサイトの発掘や、コンサルティングの要素があり、複雑で重要な仕事だなと感じています。
ただ、その複雑な仕事なのにもかかわらず、その重要性がまだまだ伝わりきっていないように思います。
本来、広告運用者は、マーケターや広告代理店の営業といったフロントの方とパートナーになって、一緒に課題解決していく立場だと思うので、より連携していくことが業界の発展のためにも必要です。The Trade Deskでは、トレーダー(広告運用者)はデータのスペシャリストとしてマーケティングにおいて重要な価値を提供しているという意味を込めて、トレーディングスペシャリストと呼んでいます。
香川:井川さんが広告運用者の重要性が伝わっていないと感じられている理由は何でしょう。
井川:やはり広告運用者の重要性は業界全体でもっと広く認められるべきだと思います。The Trade Deskにおいては職種間の上下は一切なく、むしろ並列で、営業とアカウントマネージャーとトレーダーが三位一体でお客さまをサポートすることがベースになっています。
杉原:The Trade Deskさんの中では、アカウントマネージャーもトレーダーも、長期間その職種を専門にキャリアを築いて、エキスパートになっていく傾向が強いのかなと思います。海外のカンファレンスに行くと、欧米では、やはり極めている方がとてもたくさんいる印象です。よい悪いは別にして、日本の広告代理店では新入社員はまず運用をやってみなさい、というのが多いですよね。基本だから、そのやり方はよく分かりますが、運用で実力をつけた人が、人手不足もあって、すぐにマネージャーにアサインされ、現場力をなくしていくというサイクルがあります。この20年間、このサイクルは変わっていない。
もちろん、運用を極める人もゼロではありませんが、広告代理店に限らず業界としても、もう少し組織体制やキャリアパスがいろいろあってもよいんじゃないかな、とは思うんですよね。
香川:確かに、この問題は、日本のプログラマティック業界の課題と密接に関わっていると思っています。トレーディング(広告運用)の仕事をする人は、プロダクトに一番精通してる職種じゃないですか。アカウントマネージャーと協力しながら、クライアントに対して専門知識をもって運用方法や方向制を決めていく。クライアントにとっては、いろいろな可能性を広げてくれる人だと思うのですが、広告代理店がその能力を生かし切れていないのではないかと思うことがあります。
特に、検索連動型広告の場合、長年「運用のプロに任せておけば結果は出る」という認識になっていますよね。
杉原:そうですね。運用のプロフェッショナルという存在が大切ですし、その重要性は、この20年あまり変わっていません。運用型広告の基本となるのが運用の部分であり、運用をやっていれば、いろいろなことができるようになります。運用からアカウントマネージャー、そして他へというキャリアパスもよいですが、もっと運用を極める人たちが増えないと、毎年、毎年トレーニングして早いうちに卒業して、またトレーニングして卒業して…というのは、業界としてしんどいと思います。業界の慢性的な人手不足もあって難しいとは思いますが。
香川:教えたと思ったら異動して、というサイクルですよね。
困ったときに実際に課題解決してくれるのは広告運用者
香川:私は今、サプライ側の仕事に携わっているので、The Trade DeskのようなDSPのパートナーの事業者と働く中で、トレーダーの人たちと密に働けることって重要だと感じるんですよね。広告代理店なり広告主が、ここの在庫を改善してより効果を上げていきましょうとなっても、トレーダーの人たちと一緒にやらなければ、それが採用されて効果を出していくこともできないので、すごくその重要さを実感する立ち位置にいますね。
井川:困ってるときに課題解決してくれるのがトレーダーだということは、本当にありますよね。思うようにマーケティングの成果が上がってないときの次の一手とか、テクノロジーのトラブルが起きた際に、実は活躍するのがトレーダーだったりします。
杉原:一方でアカウントマネージャーも、またいろんな素養が必要だと思っています。プロダクトのことも、もちろん分かってないといけませんが、お客さまのゴールも、テックも、AIも、クリエイティブも、いろいろ考えなければいけない立場なので、本当にいろんな素養を持ち合わせていないとなかなかできない。ですが、自ら鍛えていくことで本当なんでもできるようになるのがアカウントマネージャーであり、とてもよい仕事じゃないかなと思っています。
井川:本当にそうですね。私もアカウントマネージャーを6年やって、今はセールス職2年目ですが、アカウントマネージャーだったからこそ語れることが多いです。もちろん、アカウントマネージャーを極めていくこともできますし、キャリアの幅を広げることもできる仕事です。デジタルやマーケティングの業界に入りたいと思ったときに、アドテク企業のアカウントマネージャー職から入るのはキャリアを広げていく意味でもよい入りになると思いました。
杉原:キャリアの幅が広がりますよね、面白いところですよね。
香川:確かにそうですね。
広告運用は子育て中の人に合っている仕事
杉原:子育て中の人という観点でいうと広告運用者は、どういう仕事だと考えていますか。
井川:子どもを育てながらという観点でいうと、広告運用の仕事は合っていると思います。マルチタスクをこなせるところや、時間的な制限の中でクイックに動くことなど、子育てと仕事に両方必要な能力かなと。あと、広告運用者にはコミュニケーション能力も必要です。さまざまなステークホルダーとコミュニケーションをとりながら運用していく、形にしていくという、とても難易度の高い仕事ですが、そういったコミュニケーションは、実はワーキングマザーが得意な要素が含まれているかなと感じます。
香川:全く同意見ですね。先ほど出た忍耐力や、マルチタスク、いかにタイムマネジメントしていくかというのは、男女にかかわらず、育児経験で磨かれるスキルの代表だと思っていて。
井川:さらに女性という観点でいうと、私の中ではデジタル広告業界はまだ比較的新しい業界だと思っているのですが、男女の機会均等というところからスタートできているのではないかと。デジタル広告業界のよいところは、ある程度そこのベースはできている中で、男女関係なく自分の頑張り次第でチャレンジがしやすいところかなと思っています。
香川:機会均等であることを身をもって感じているんですね。
杉原:デジタル広告業界でも、男性が育休というのは、よく聞くようになりましたね。育休の“とりやすさ”があるかどうかは分かりませんが。業界として、働きやすさは前進しているのではないでしょうか。アタラも男性育休をとるメンバーがいますが、経営側からすると、働きやすさをつくることは必須だと思います。採用ができない上に、離職してしまうので。
働きやすい業界に必要なのは業界横断で学べる環境とフラットな関係性
杉原:「働きやすさ」というお話が出たところで、デジタル広告業界をどんなライフステージでも働きやすい業界にしていくためには、何が必要だと思いますか。
香川:外から見ると、デジタル広告業界の人たちは、専門用語を使って日々革新的なテクノロジーを使いこなしながら働いている専門性の高い人たちだと映っているかもしれません。そういう意味では、人手不足を解消して、働きやすい状況にするためには、各企業でだけではなく、業界を横断して、みんながもっと簡単に学べる仕組みがあるといいなと思いますね。
杉原:それはすごく思いますね。
香川:「もっとDSPを使ったほうがいいですよ」というアドバイスがあっても「いや、Googleが勝手にやってくれるネットワークでいいから」と返ってくるような、知識不足がもとで選択肢を狭めてしまうのは、もったいないですよね。ここの業界に入ってきたいと思う、学ぶ意欲がある人、チャレンジしたい意欲ある人を、いかに業界として取り込んでいくかという観点でも、学べる仕組みが大切だと思っています。
杉原:学びの環境があって、どんどんステップアップできるという夢が持てないと、なかなか人って、入ってこないですよね。
香川:すごく変化の激しい面白い業界なだけに、学ぶ意欲のある人はどんどん学んでいると思いますが、個人差が大きい。個人のモチベーションもそうだし、情報をとって昇華していくことを得意としてるか、そうじゃないかで、大きな差が出てきますね。だから、平等な学びの機会があるといいなと。
井川:私は「働きやすいと感じる=働きがいがある」なのかなと考えています。働きがいがあると感じる仕事は、クライアント様をはじめとする関係者の皆さんと一緒に面白い仕事、いい仕事をしたときです。それを実現するためには、みんなが本当の意味でのパートナーにならなければならない。もちろん商流があり、意思決定フローはありますが、パートナーとして、オープンディスカッションをして、透明性を持って新しいテクノロジーや事例といった情報共有を行い、何がベストかを話し合える業界にしていきたいです。言われたことだけやるのではなく考える力も付きますし、やりがいも働きがいもありますよね。
杉原:そういうフラットなやり方だと、変なコミュニケーション上のストレスも少ないでしょうしね。
デジタル広告のやりがい、面白さを伝え、業界を盛り上げたい
杉原:最後に、井川さんが次にやってみたいこと、近未来のゴールを伺いたいです。
井川:私はキャリアを考えるときに、自分に足りないパーツを埋めていきたい、という気持ちが強くあります。こういうところを成長させたいから、こういう仕事をやろうとか、この職種に変えようとか。今は広告主と直接話して、マーケティングをどうデジタルで変えていけるか、というようなコンサルティングができるよう、もう少し時間をかけて足りてないパーツを埋めながら成長したいです。
長期的には、この業界の、この仕事のやりがい、面白さを自分の仲間たちにも伝えていって、みんなで業界を盛り上げることをやっていきたいので、チームビルティングのような仕事にもチャレンジしてみたいです。さらには、携わる人を増やしていけたらいいなと思いますので、啓発活動のようなこともしていきたいですね。
杉原:すばらしい。業界としても、ぜひお願いしたいところです。
香川:The Trade Deskの会社としての柔軟性について井川さんがお話ししてくれましたが、前回、剛が話してくれたように、アタラでも柔軟性の高い働き方を実現している。そして、Index Exchangeも、The Trade Deskと非常に近いサポートや環境が整っています。現在、東京オフィスは半数以上が女性で、育児中の人もいて、APACには女性のリーダーも多くいます。こういう働きやすい環境が業界として、もっと広がっていってほしいと思っています。
さらに、デジタル広告は面白く、魅力的な、やりがいを感じられる仕事だと思いますし、運用者の地位もクライアントとのパートナーシップも、もっと改善していってほしい。その中で、井川さんのように、ご自身の考えを発言してくださることは、いろんな人の刺激になるでしょうし、とても嬉しく思っています。発信することによって、悩んでる人が気付きや助けをもらえたり、興味を持ってもらえることにつながったりすると思うので。
杉原:本当にそうですね。前回に続き、子育てをしながらのキャリア、さらには広告運用者の地位についてまで、広くディスカッションでき、とても有意義な時間でした。どうもありがとうございました。
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