目次
パートナーシップが増える理由:箱庭化とは?
2024年の特徴の一つとしてプラットフォーム間パートナーシップが増えると思います。ChromeのサードパーティCookieの廃止が言われるようになった4年前から、この背景となる動きは始まっていたのではないでしょうか。リテールメディアはその中でも一番大きなムーブメントです。リテールメディアは小売業者がメディア・広告プラットフォーム事業を展開することですが、いくつものメリットの中で、注目されているのは、質の高いファーストパーティデータを大量に保有している点です。このデータがあるからこそ、ユーザー理解と精緻なターゲティングが可能になります。
私はリテールメディア、または小売業でない企業が同じように質の高いファーストパーティデータを大量に保有しており、メディア/広告プラットフォームを事業化するのをXメディア(エックスメディア)と呼んでいますが、これらを「ミニ・ウォールド・ガーデン」と言うこともあります。頭の中ではこんな絵をいつも想像しています。
内向性を強める傾向にあるプラットフォーム、つまり箱庭は、今後もどんどん増殖を続けていきますが、そうなると、データや機能を相互で補完し合ったり、規模感を出そうとするために積極的な連携が増えると思われます。
こちらのInsider Intelligenceのリサーチにもあるように、実際に2023年からプラットフォーム間の連携は始まっていました。それが2024年は加速する可能性があるということになります。
※参考リンク:
ファミリーマート、ドン・キホーテのファーストパーティデータ連携は画期的
ファミリーマート、ドン・キホーテのリテールメディア事業での協業に関する発表が2023年4月に発表されました。ファミリーマートは2,900万の広告IDや購買データ、ドン・キホーテは1,100のアプリ会員や購買データを掛け合わせ、3000万以上の広告IDデータを構築するというものでした。大手コンビニエンスストアがリテールメディアの構築を宣言するだけでも大きなニュースですが、同時に他社とデータ連携も発表するというのは離れ業だと思った次第です。
※参考リンク:
このような取り組みにおいてはデータボリュームは多いほうがメリットがあるので、このような形も増えるのではないでしょうか?
気になるのはAmazonの積極的な外交姿勢
「予想:④TikTokが興味コマースを大きくリードし、展開を大幅に加速へ」でも取り上げているように、Amazon – Metaの連携は非常に画期的です。
※参考リンク:
ですが、Amazonはこの前にAmazonのスポンサープロダクト広告をPinterestやBuzzfeedなどにオフサイト配信することを可能にする、別の形の連携を発表しています。他社製品で例えると、Googleアドセンス(for Search)のAmazon版です。Pinterestなどは特に、検索とAmazon広告の結果の相性はかなりよいと思われるので、効果も高いことが想像できます。
【提携プラットフォーム/メディア】
- BuzzFeed
- Hearst Newspapers
- Raptive
- Lifehacker
- Mashable
また、この連携はプラットフォームにも恩恵はありますが、メディア/パブリッシャー企業の苦しいマネタイズの状況を解決する一つの策となりえます。そのことからも、Amazonはこれらのプラットフォーム/メディア/パブリッシャー以外の企業とも積極的に連携し、外部配信の領域を増やしていくことは可能性として高いと思います。
ダークホースはフェディバース連合
2023年7月にMetaがThreadsをリリースしました。InstagramやXより早いスピードで、グローバル1億人を突破してからは、「使わなくなった」といった声も聞かれるようになりました。しかしながら、実際はユーザーは増え続けていますし、Metaとしてまったく諦めているとは思えないレベルで新しい機能も順次リリースされています。
自助努力でユーザーは順次増やしていき、どこかで広告配信を考えていると思いますが、Threadsにはもう一つの顔があります。それは連合体の一員の顔です。Threadsは、W3Cが発表したソーシャルメディア・プラットフォーム相互運用のためのプロトコル(通信手順)であるActivityPubを、サービス開始当初からサポートすることを表明しています。
ThreadsやMastodon、Misskeyなどは、言うまでもなく異なるプラットフォームですが、ActivityPubを使うことによって、プラットフォーム間で投稿やフォローが可能になります。旧来の「中央集権型SNS」から「分散型SNS」を標榜していますが、各社でつながり合うことによって連合体を作ろうという考え方です。この連合体をFediverse(フェディバース)といいます。Federated(連合した)あるいはFederation(連合)とUniverse(宇宙)を組み合わせた造語です。
メリットとしては、ユーザーにとってはどこに所属していても、多くの人とつながり合える点です。もう1点は、Metaの視点からはゆくゆく広告配信をThreadsで開始した際に、そのエコシステムを広げられる可能性があります。逆に連携先である他の分散型SNSは、収益化が課題なので、そういう観点ではWin-Winなパートナーシップにできる可能性もあります。ActivityPubによる連携がお目見えするのはまだこれからですが、将来的には大きなソーシャルメディア連合体になるか、広告配信先として成長するかが注目です。
『広告プラットフォームの2024年業界予想』(全10)の他の記事へのリンク(タイトルをクリックしてください)
①ChromeのサードパーティCookieサポート廃止による混乱が発生する
②日本のリテールメディアにブランドによるPoCや実験的予算がつく。オフサイト配信が増える。標準化が課題に
③AIはプラットフォームの機能やサービスにさらに侵食する
④TikTokが興味コマースを大きくリードし、展開を大幅に加速へ
⑤プラットフォーム間パートナーシップが増える(本記事)
⑥MFA、詐欺広告、アドフラウド等と向き合う年に(公開予定)
⑦メディア・パブリッシャーのビジネス苦境。生き残りをかけた年に(公開予定)
⑧Netflixが独自広告プラットフォーム開発へ(公開予定)
⑨Appleが広告事業拡大(公開予定)
⑩レイオフは続く(公開予定)