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ソーシャルはもはや検索を凌ぐ勢いのディスカバリーチャンネルとなっている
3大ソーシャルメディア・プラットフォームであるFacebook、Instagram、TikTokは、本来の使い方に加えて、集客・販促・購入促進をするための場としても広く認識されています。このことを「ソーシャルコマース」といい、ソーシャルメディアが本来得意とする出合いを創出するという価値にECを組み合わせることで、購買プロセスを完結していました。
ショッピングとソーシャルメディアの融合は単なるトレンドではなく、進化する消費者行動への対応であることを表しています。調査会社eMarketerの2023年6月の予測によると、2024年には米国の成人は1日の総メディア利用時間の11.4%、デジタルメディア利用時間の17.9%をソーシャル・プラットフォームに費やすとしています。
2023年9月のeMarketerの予測によれば、米国のソーシャル・バイヤーのほぼ4分の1(23.1%)は25歳から34歳で、3分の2以上(66.5%)は44歳以下となっています。
デロイトの2022年11月のデータによると、Z世代は他のどの世代よりも、自分がフォローしているインフルエンサーのレビューを見て商品を購入する可能性が高いとしています。
これらの数字はまだまだ伸びていく方向にあるのではないかと思います。
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TikTokが興味コマースを大きくリードし、展開を大幅に加速へ
中国では、これを「興味EC(インタレストコマース)」と呼びます。TikTokなどを運営する字節跳動(ByteDance)が提唱している概念で、ユーザーの関心をもとにさまざまなコンテンツを投じて、興味のありそうな商品を動画やライブ配信を通して推薦し、さらに消費者の潜在的な欲求を刺激して「衝動買い」につなげるというものです。中心を走るプラットフォームが中国版TikTokのEC「抖音(ドウイン)」で、急成長しています。
この成功を米国でも実現すべく、9月に正式開始したのが「TikTokショップ」です。ByteDanceとしては、EC事業を広告事業に次ぐ2つ目の柱とすることにコミットしていましたし、米国市場にすでに大きな投資をしていました(一説によると2023年は米国市場の投資は700億円相当とも)。興味コマースの覇権を取るべく、何が何でも米国市場を成功させ、グローバル展開も急ぐ必要があったと考えられています(現在は、中国、アメリカ、イギリス、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピン、シンガポールで展開済み)。
サービスの正式開始後、いきなり年末商戦がくる形なったわけですが、この成否が今後のTikTokショップの成長可能性を占うものとなり、ByteDance社もキャンペーンを展開し、マーチャント増加とその支援に相当な力をかけていました。
結論から言うと、米国におけるこの賭けは成功し、手応えを得て、勢いに乗っている状態と言えます。米国の1日あたりの売上高は、23年5月は30万ドル(約4270万円)余りだったが、10月には1000万ドル(約14億円)まで急増しました。11月24日の「ブラックフライデー」では、たった1日でGMV3300万ドル(約47億円)を叩き出しました(調査会社「FastMoss」調べ)。今年は米国市場だけで前年比10倍の175億ドル(約2.4兆円)を狙うという話もあります。
TikTokショップの2024年のGMV(流通取引総額)目標を500億ドル(約7兆1000億円)としました。2023年の目標は200億ドル(約2兆8000億円)だったので実に2.5倍です。
このことから、2024年もTikTokショップ事業は大きく伸びることが予想されます。日本での展開も期待したいです。
対抗馬であるAmazon – Meta連携はテスト段階だが、かなり画期的なパートナーシップ
TikTokのこの動きに反応し、2023年11月にAmazonとMetaが提携をアマゾンとメタが提携。FacebookやInstagramのアカウントをAmazonにリンクさせる新機能を発表しました。
アマゾンの広報担当者は以下のように述べています。
初めて、顧客はソーシャルメディアアプリを離れることなく、アマゾンのフェイスブックとインスタグラムの広告で買い物をし、アマゾンでチェックアウトすることができるようになります。米国の顧客は、新しい体験の一環として、FacebookとInstagramの選択したAmazonの商品広告でリアルタイムの価格、プライム資格、配送見積もり、商品詳細を見ることができます。
“Purchase with Amazon without leaving Facebook or Instagram “と題されたサポートページで、この新機能の詳細を説明しましたが、Amazonと提携することで、MetaはFacebookやInstagramのアプリ上でカスタムストア・フロントを作成することなく、ショップが商品を販売することを容易にすることができます。
収益分配がどのように機能するのか、どのように広告が掲載され、データはどの程度やりとりされるかなどは不明ですが、かなり大きく、画期的な提携だと思います。MetaとしてはAmazonの購買データにある程度アクセスができるようになると言われており、プラットフォームを乗り越えての「クローズドループ測定」ができるようになれば、リテールメディアにも対抗し得ますし、Facebook、Instagramにとっては有効なEC化戦略の一環となります。一方で、自社チェックアウト機能も再度強化する方向なので、どうバランスさせるか。Amazonとの連携はそれまでのつなぎなのか、要注目かと思います。AmzonにとってもソーシャルコマースはTikTokの状況を見てても意識はしており、2023年にソーシャルアプリ「Inspire」をテスト的にロンチしました。EC企業がソーシャルを攻略するという、逆の動きですが、これも大きくはなっておらず、今回の提携で、現時点ではソーシャルコマースをリードするMeta陣営と、双方Win-Winを実現する形で組むことができたのはAmazonとしても意義のあることになると推察はできますが、これは実際に開始されてからその有効性がわかってくることかと思います。それを確認することができる1年になるのではないかと思います。
『広告プラットフォームの2024年業界予想』(全10)の他の記事へのリンク(タイトルをクリックしてください)
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②日本のリテールメディアにブランドによるPoCや実験的予算がつく。オフサイト配信が増える。標準化が課題に
③AIはプラットフォームの機能やサービスにさらに侵食する
④TikTokが興味コマースを大きくリードし、展開を大幅に加速へ(本記事)
⑤プラットフォーム間パートナーシップが増える(公開予定)
⑥MFA、詐欺広告、アドフラウド等と向き合う年に(公開予定)
⑦メディア・パブリッシャーのビジネス苦境。生き残りをかけた年に(公開予定)
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⑩レイオフは続く(公開予定)