世界最大級のマーケティング・コミュニケーションのプレミアイベント「Advertising Week Asia 2023」が、2023年6月6日から8日の3日間にわたり、東京ミッドタウンで開催されました。本記事は2023年6月6日に実施された「お客様起点で設計する Amazon Adsとの広告体験」のイベントレポートです。
目次
お客様起点で設計する Amazon Adsとの広告体験
Advertising Week Asia2023の最初の講演では、アマゾンアドジャパンのカントリーマネージャーである石井哲氏からAmazon Adsの広告体験について語られました。
オンラインショッピングを増やす消費者
最初に、PwCが2023年2月に実施した消費者調査を基にしたビジネス環境の変化について語られました。この調査の結果では、以下のようなことが分かったそうです。
- 96%の消費者が今後6カ月の間に生活コストの削減を考えている
- 69%の消費者はすでに過去6カ月の間に生活に必要なもの以外の支出は削減する対策を取っている
- 43%の消費者が今後6カ月でオンラインショッピングを増やしていく予定
これらの結果を見て、石井氏は「買い物・消費をされるお客さまの環境も変わってきている。そんな中でマーケティングに携わる方においては、限られた予算をどのように効率的かつ効果的に使っていくかを考え、施策を確実に可視化し、検証して最適化につなげていくかが重要になってくるのではないか」と述べられました。
また「Amazonでは買い物を含め、あらゆる点でブランドとお客さまのつながりを豊かにし、より確実にビジネスの成長につなげるメディアになろうとしている」とも語られました。
本講演では、四つの観点でAmazon Adsの特徴が説明されました。
- チャネル
- インサイトに基づいた広告アプローチ
- ストーリーテリング
- キャンペーンの最適化
オンラインストアだけではない豊富なチャネル
オンラインストアのAmazon.co.jpが代表的なAmazonですが、石井氏は以下のようなAmazon独自のチャネルについて触れました。
- Prime Video
- Fire TV
- Twitch
- 配送箱
Prime Videoにおいては、2023年3月に開催されたワールドベースボールクラシックの決勝戦(日本対アメリカ)の配信が、日本でのコンテンツ配信における配信初日の視聴数としては歴代1位とのことでした。ライブ配信の間に挿入された広告について、視聴体験を損ねることなく広告を展開するのが、われわれの取り組みである、と石井氏は述べられました。
また、ライブ配信において広告を出稿した飲料メーカーにおける、購入に至るまでのパネルへの影響に関する検証結果が紹介されました。この検証では、Prime Videoでインストリーム広告を配信したのみで、以下の結果が得られたとのことです。
- Amazon内の実際の商品ページの閲覧数が25%増加
- Amazon内の検索数が42%増加
- Amazonでの実売数が8%増加
この結果から「Amazonにおいては、ミッドからロウワー、いわゆる興味関心から購入検討、もしくは購買に至るまで影響力があるということが新しい発見だった」と語られました。
「オンボックス広告」というAmazonから商品が配送される際の箱もチャネルの一つとして紹介されました。ワーナーミュージック・ジャパンとのコラボレーションの事例として、レコードプレーヤーに見立てた「あいみょんオリジナルBox」が紹介されました。あいみょんオリジナルBoxでは、新しいアルバムの告知、認知と同時に、箱に印刷されたQRコードをクリックすることで新しいアルバムの詳細が見られるそうです。このオンボックス広告の特徴として、ランダムに配送されるため単純にリーチするだけでなく、サプライズ効果もあることが述べられました。このサプライズ効果について、石井氏は「SNSのほか口コミ効果も絶大で、単純にリーチしただけではなく、副次効果として面白くかつ立体的にお客さまの反応を得られた、データとなる広告だと思っている」と語りました。
進化する購買体験
二つ目の「インサイトに基づいた広告アプローチ」については、Amazon DSPを使ってより精緻なターゲティングを行う一環として、化粧品コミュニティサイトのアットコスメを運営する株式会社アイスタイルとの協業について語られました。
Amazonが持っているデータと、化粧品にまつわるコミュニティを持つアイスタイルが保有するデータを掛け合わせることで、具体的なターゲティングメニューを作ったそうです。例として、以下のような行動、全てを行うコアビューティーターゲットセグメントも作成できることが紹介されました。
- Amazonで化粧品を購入
- アットコスメで口コミを行う
- アットコスメのECサイトで化粧品を購入
石井氏は「Amazonの購買のインサイトとアイスタイル様のコミュニティサイトやECサイト、店舗データのインサイトを掛け合わせることによって、さらに深みのあるターゲティングメニューを作っていくことができると思っている」と述べました。
さらに「われわれはオンラインのみならずオフラインのデータも活用していきたい。今後はオンライン・オフラインであまり垣根はなくなってくると思っている。オンラインとオフラインの購入データを常に合わせることによって、プロモーションも買い物体験も垣根なく、より豊かなものにしていければ」と今後の意気込みを述べられました。
よりリッチなプロモーションが可能に
三つ目のテーマである「ストーリーテリング」については、カスタムソリューションが紹介されました。石井氏は「Amazonならではの消費者の生活に密接したチャネルで認知を取った後、いかに興味関心から実際の購買に至らせるか。ここに、われわれも注目している。確実にそのブランドのことを知り、理解をして、買いたくなるような体験をどのように作っていくか」と述べ、カスタムソリューションの詳細が語られました。
カスタムソリューションの事例として、韓国の自動車メーカーのヒョンデで展開したカスタムランディングページが取り上げられました。ヒョンデは2022年5月、12年ぶりにヒョンデブランドとして日本に上陸しています。
カスタムランディングページでは、電気自動車のIONIQ 5、水素自動車のNEXOというブランドの二つが作成されました。
※参考リンク:Amazon.co.jp: Hyundai: IONIQ5
カスタムランディングページでは車の紹介がされているだけでなく、360度ビューという形で車の内外を見られるようになっています。
また、カスタムソリューションではDSP配信も組み合わせてキャンペーンを実施したことが語られました。結果として以下の数値が得られたそうです。
- カスタムランディングページ閲覧数が6倍
- ヒョンデ自社サイトへの誘導が3倍
石井氏は「Amazonに来たお客さまにしっかりヒョンデブランドを知っていただいた上で、サイトにも飛んでいただく動線作りも達成できたのは大きい」と述べました。
Amazon Marketing Cloud(AMC)
最後のテーマである「キャンペーンの最適化」では、Amazon Marketing Cloud(以下、AMC)が紹介されました。石井氏は「プライバシーセーフな環境の中で、ファーストパーティーデータとAmazon Ads内の広告のシグナルのデータを掛け合わせてみる。そこから実際に分析をして、新たなセグメントを生み出したり、もしくは自分たちが思っていたターゲットに対する検証を行ったり、さまざまな作業ができるようになっている」と、AMCで実現できることを語りました。
そして、Amazon Marketing Cloudへ二つの新機能が加わったことが発表されました。
- Amazonショッピングインサイト
- AMCオーディエンス
Amazonショッピングインサイトでは、広告の接触有無に関わらず購買データをひも付けられるようになり、広告の接触有無で購買態度の違いが分析できるようになるそうです。AMCオーディエンスでは、実際にAMCで作成したオーディエンスをDSPのターゲティングに使用できることが述べられました。今まではAMCでオーディエンスを作成した後に、Amazon DSPでターゲティングを定義する必要がありましたが、AMCオーディエンスを利用することでオーディエンス作成から配信が自動になるとのことです。
新機能に関連して、アメリカで先行して実施されたセキュリティ系の機材を販売するSimpliSafeとBuy Box Expertsというエージェンシーの事例が紹介されました。「購入検討しているが購買に至ってない顧客をピンポイントでターゲティングしたい」という課題がある中で、ピンポイントのセグメントを作成してDSP配信を行うキャンペーンを展開したそうです。その結果、以下のような効果が得られました。
- 広告費用対効果(ROAS)が+109%
- 購入単価(CPCV)が-65%
- ブランド新規顧客による購入割合が+29%
「AMCを使って、ショッピングインサイトやAMCオーディエンスという機能も付加させ、セグメントや属性に特化した課題があれば、キャンペーン分析含めて、われわれと一緒にできればと思っている」と述べられました。
まとめ
Amazon Adsについてチャネル、インサイトに基づいた広告アプローチ、ストーリーテリング、キャンペーンの最適化という四つの観点からAmazon Adsの特徴が語られました。まとめでは、広告配信における重要な要素である“面”と“人”からAmazon Adsを考察していきます。
面については、Amazonが保有するユニークな面が取り上げられました。特にチャネルのセクションで紹介された配送箱の事例では、広告ではありながらも受け取った側のワクワク感が醸成されるユーザーフレンドリーな取り組みであると思います。Prime Videoは、競合としてNetflixやHuluがありますが、オンラインストアを保有しているAmazonとの相乗効果を考えると、競合と一線を画しているユニークな面といえるのではないでしょうか。
人については、アットコスメを運営するアイスタイルとの競合により、より具体的なターゲティングを行えるようになることが印象的でした。豊富なファーストパーティーデータを保有することに加えて、そのデータをどのように活用していくかという観点では、Amazonとアイスタイルの協業は、他のコスメサイトにはまねできない稀有な取り組みになるでしょう。AMCについても、Amazonのファーストパーティーデータを有効活用する上で重要な要素となります。Amazon Adsシグナルとファーストパーティーシグナルを掛け合わせることにより、広告主視点の顧客の解像度が上がる他、そのまま配信にも活用できることは検証スピードを上げるきっかけになると思われます。
AIが広告配信に組み込まれる中で、全自動配信に近いプロダクトを各媒体がリリースしています。媒体の機械学習を最大限活用するには、必要最低限のターゲティング設定を行うことが推奨されます。これは広告効果の観点ではよい一方で、ユーザーが望まない広告を配信してしまうことを懸念する広告主の方も多いのではないでしょうか。この点において、Amazon Adsはターゲティングをより精緻にする方向に向かっており、必要な人に必要な情報を届けることが実現しやすいと思われます。AIやファーストパーティーデータの活用などで話題が絶えませんが、これからもAmazon Adsをはじめとする各媒体の動向を追っていきます。