2023年6月20日、Meta日本法人Facebook Japanのオフィスで「Data and AI Performance Summit」が開催されました。本記事では、サミットのテーマである「Fuel and Freedom」に沿って、サミットで発表された内容をご紹介します。
目次
AIとともに成長してきたMeta
MetaのAIに対する取り組み
オープニングキーノートでは、Facebook Japan代表取締役の味澤将宏氏より最新のAIの取り組みについて語られました。
味澤氏によると、AIは70年の歴史がありAI1.0とAI2.0では以下の特徴があるとのことです。
- AI1.0:大量のサンプルデータを読み込んで、ロジックをを作る予測モデル
- AI2.0:少ないデータでAI自身が考えてコンテンツを作る生成AI
FacebookはAIとともに成長しており、2006年にリリースしたニュースフィードのレコメンデーションにはAIが活用されているとのことでした。2023年2月には、生成AIサポートする非商用目的の大規模言語モデル「LLaMA」をリリースしています。広告においてもAIが活用されており、その一つとして2023年5月にリリースをしたAI Sandboxというツールが取り上げられました。AI Sandboxを使用すると、以下のことができるようになります。
- コピーライティングのバリエーションを自動生成
- プロダクトの背景画像を自動生成
- 画像の不要部分を自動クロッピング
現在は限られた広告主とテストを繰り返しており、今後広範囲にリリースをしていく予定とのことです。
AI SandboxについてはUnyoo.jpでも取り上げていますので、あわせてご確認ください。
※参考リンク:
味澤氏によると、AIはこれまでで最も投資をしている領域であり(研究開発やインフラストラクチャーの構築に2018年以来900億ドルを投資)、成果の一つとしてスーパーコンピューターのAI Research SuperClusterが開発されたとのことです。さらに、今年も300億ドル追加でAIに投資をしていくことや、AIを活用したMetaのサービス事例三つの紹介がありました。
事例一つ目が、FacebookフィードとInstagramのフィードでAIがおすすめするコンテンツの比率は年々上がってきており、直近では20%に達していること。二つ目が有害なコンテンツの検出の80%以上をAIが自動で行っていること。三つ目が、AIを使った広告プロダクトによってパフォーマンスが向上していることです。プライバシーとパフォーマンスの両立に注力する中で、ランキングロジックや配信、管理ツールの見直しが行われ、広告プロダクトのラインナップが一新されました。この結果、2022年12月は2021年対比で広告プロダクトのパフォーマンスが20%向上したとのことです。
そして、広告プロダクトの一つとして2022年後半に提供を開始したMeta Advantageが紹介されました。本記事では、 広告配信のワークフローを自動化するMeta Advantage+の詳細を後半で取り上げます。
Fuel and Freedom
本サミットでは「Fuel and Freedom」というフレーズに沿って、各セッションが進行されました。味澤氏はFuelについて「AIにとってのFuel(燃料)はデータです。正しいデータをリアルタイムで大量にAIに提供していくことが広告効果を最大化するための一つのポイントになります」と述べました。事例として、マーケティングデータとMetaをつなげるツールであるコンバージョンAPI(以下、CAPI)が取り上げられ、CPAが13%向上し、購入数も33%増加したことが紹介されました。
Freedomについては「AIに自由を与えるということです。制約をなるべく加えずに与えられたデータを活用して効果を最大化するようにAIを自由に働かせるということです」と語りました。オーディエンスやプレースメントの設定はAIに任せ、多くのクリエイティブ設定することで、Advantage+ ショッピングキャンペーンにおいて、CPAが17%、ROASが32%、インクリメンタルのコンバージョン当たりのコストは25%改善したとのことです。
効果的なデータ戦略
Facebook Japan執行役員営業本部長の近藤克尚氏からは「効果的なデータ戦略を策定せよ データドリブン型マーケティングを目指して」というテーマでCAPIについて紹介されました。
近藤氏は「広告のパフォーマンスを最大化するために、データドリブンの戦略を立てることは重要です。ただし、同時に広告のパーソナライゼーションができている状態、プライバシーを尊重したデータの活用の両立が必要となっています。われわれは、この二つを両立できると考えており、そのための手段を提供したいと思っています」と語りました。
効果的なデータ戦略を持つことのメリットと課題
効果的なデータ戦略を持つことのメリットが三つ紹介されました。
- 広告のパフォーマンスの向上が期待でき、より多くのコンバージョンが見込まれる。
- 広告の効果測定能力も向上させることができ、より広告効果の可視化が可能になる。
- 将来に向けて最新の技術を導入する準備をすることで、競合他社に対する競争力優位性が高まる。
APACで実施した分析によれば、プライバシーポリシーにのっとってハッシュ化された連絡先情報などのファーストパーティデータをMetaに連携することで、CPAが13%も改善したという結果が出ているとのことです。
データを有効活用する上で重要になるのが、機械学習です。近藤氏は「機械学習モデルは、どのようなオーディエンスがこの望ましい行動を取る可能性が高いかという問いに答えてくれる」と述べ、その仕組みについて次のように解説しました。
「機械学習モデルは、プラットフォームから得られるデータとシグナル、インサイトを組み合わせてキャンペーンに設定された望ましいアクションを予測します。広告主から提供されたデータと、当社のプラットフォームやWeb上で観測されたシグナルがモデルを訓練して予測を継続的に改善し、適切なメッセージを適切なクリエイティブで適切なタイミングで適切な人に届けます」
また、効果的なデータ戦略の三つの柱と、それらに関する課題が挙げられました。
- 獲得:データベースを増やすために、どのように有効活用しやすいファーストパーティデータを獲得できるか。
- 有効活用:そのデータを手に入れたら、その後どうすればよいのか。
- 維持:顧客生涯価値とブランドロイヤリティを高めるためにリテンションをどう上げればよいのか。
このデータ戦略の三つの柱をサポートするMetaのツールやソリューションとして以下のものが紹介されました。
- 獲得:Facebookログインやリード獲得広告
- 有効活用:コンバージョンAPIやMeta Advantage
- 維持:LTVカスタムオーディエンスやバリューベース、類似オーディエンス
コンバージョンAPIのベストプラクティス
CAPIのメリットとして、近藤氏は「広告配信は、以前はMeta Pixelを使用したWebデータに依存しており、そのPixelはブラウザベースのテクノロジーに依存していました。CAPIは企業が所有するマーケティングデータと、われわれのシステムを直接つなげることで、広告のターゲティングの最適化、顧客獲得単価の削減、広告効果の測定に役立ちます」と語りました。
CAPIはMeta Pixelよりもブラウザ技術への依存度が低く、パフォーマンスと将来に向けた準備の両方においてデータの活用を強化することが可能だそうです。今後はオフラインイベントなど、その他のイベントの共有手段としてCAPIを拡大していく旨も語られました。
また、CAPIを導入するときに気をつけるポイントが四つ紹介されました。
- イベントのマッチングクオリティ:CAPIをしてもイベントがマッチングしなければPixelのデータを補完はできないため、管理画面でイベントマッチングクオリティを確認する。
- 冗長性:Pixelだけ、CAPIだけでデータ送信を行うのではなく、両方を送信する。
- 重複除外:データが重複してカウントがされないような設計をする。
- データの鮮度:リアルタイムに近い形でデータを送信する。
コンバージョンAPIの新しい導入手法 コンバージョンAPIゲートウェイマルチプルアカウント
CAPIを利用するには、さまざまな方法があるとのことです。
- コンバージョンAPIゲートウェイ
- 自社サーバのコードベースに直接アクセスする直接連携
- Shopifyなどのパートナーソリューションの使用
- 複数アカウント用コンバージョンAPIゲートウェイ(コンバージョンAPIゲートウェイマルチプルアカウント)
「複数アカウント用コンバージョンAPIゲートウェイは、CAPI未導入だったお客さまへの強い手助けになると思っています。CAPIは設定推奨から必要不可欠に変わってきていると、われわれは考えています」と、最後に近藤氏は述べました。
コンバージョンAPIゲートウェイマルチプルアカウント
CAPIゲートウェイマルチプルアカウントについて、Facebook Japan営業部長の黒木壮太氏から特徴や最適化を行うための手法が語られました。
コンバージョンAPIゲートウェイマルチプルアカウントの特徴
CAPIゲートウェイには2種類あり、本セッションでは、そのうちのCAPIゲートウェイマルチプルアカウントについて詳細が語られました。CAPIゲートウェイマルチプルアカウントは代理店の環境内にAWSをホストするため、通常のCAPIゲートウェイと比べて広告主が設定する作業は格段に少なくなります。
送客に必要なイベントの重複除外も自動で行われるため、適切な冗長性も担保されているとのことです。また、各ビジネスのアカウントのデータは分離されているため、他のビジネスからアクセスできないセキュアな仕様になっているそうです。AWS以外にもGoogle Cloud Platformなど、他のクラウドサービスプロバイダーへの対応を2023年中に予定しているとのことでした。
CAPIゲートウェイマルチプルアカウントの最適化
通常のCAPIゲートウェイも含めて最も重要なのは、EMQ(イベントマッチングクオリティ)だそうです。EMQは1から10のスコアで表示され、顧客情報パラメーターがどれだけMetaのアカウントとマッチしたかを示す重要な指標である、と黒木氏は語りました。イベントはマッチングしないと広告のアトリビューションやキャンペーンの最適化に使用できないため、EMQのスコアが高ければ高いほどCPAを改善できる可能性があるそうです。
CAPIゲートウェイマルチプルアカウントでは、デフォルト設定でIPアドレスとユーザーエージェントおよびファーストパーティークッキーの送信を行っています。広告効果を最大化するためには、EMQ6以上が推奨されています。また、詳細マッチングを実装することでEMQの改善につながり、結果としてCPAを抑えることにつながるとのことです。
本セッションでは、パネルディスカッションとして着圧スリムタイツブランドのBELMISEを展開する株式会社ファストノットCMOの菅家太一氏と、同社のCAPIゲートウェイマルチプルアカウントの導入を支援した株式会社CyberACEでMetaグループ責任者を務める杉山尚徳氏を交え、CAPIゲートウェイマルチプルアカウントの導入による効果について発表もありました。
Advantage+ ショッピングキャンペーン(ASC)
Advantage+ ショッピングキャンペーンについては、Facebook Japan営業部長の丸山祐子氏より紹介されました。
ASCの概要・特徴
ASCは、従来のショッピングキャンペーンよりも手動での設定が必要となる箇所を可能な限り削減したキャンペーンです。Metaの新しい機械学習モデルによって適切な広告を適切な人に届け、パフォーマンスを改善することが可能と紹介されました。
こちらのキャンペーンは2022年に発表されたものですが、Metaの調査によると、2022年7月から9月に同キャンペーンを用いたことで広告費用対効果が32%改善されたとのことです。
従来の広告では入札やオーディエンス、配置面など手動で設定する項目が多く、人が介在し、人が考えた運用改善をしてきました。それに対し、ASCにおいては、これまで手動設定だったものをAIに任せることで、運用の手間を省くだけでなくパフォーマンスもAIによって高まり、可変要素がクリエイティブのみのため、クリエイティブの改善に集中できるようになるとの説明がありました。
”ショッピング”という言葉から有形商材向きなのではないかと思われたり、ターゲット設定も自動であるため、年齢や性別、興味・関心など細かくターゲット設定をしたいという広告主には導入が難しいという声も多く上がったりしているそうです。一方で、有形商材だけでなく人材やクリニック、レッスンなどのオンライン予約でも高いパフォーマンスを発揮しており、手動でターゲットを狭めていたキャンペーンにおいてもパフォーマンスが向上したという話もありました。
ターゲティングについては、特定地域の除外と最低年齢の設定についてのアップデートが順次進んでいるとのことでした。ただし、Metaの推奨は「制限することなくAIを自由にさせること」とのことです。
ASCのベストプラクティス
クリエイティブに関するMetaの推奨は「作りこんで、作りこんで、これだというよいものを数個入稿する」よりも「フォーマットを網羅するようにクリエイティブのバリエーションを増やして入稿する」としており、そうすることでリーチを最大化できると説明がありました。
また、ASCの改善ステップとしては、以下の順序で網羅的に取り組むことを推奨していました。
- モバイルに最適化されたクリエイティブの作成
- クリエイティブの数を増やす(動画、静止画の作成)
- 掲載面ごとに最適化されたクリエイティブの作成
ただし、前提として、Metaが推奨している運用(情報収集期間が終了するまで不必要な編集は行わないことや、50件/週のCVが獲得できるような設定をする)ができていることがAIの力を最大限発揮する条件であると補足がありました。
Advantage+ アプリキャンペーン(AAC)
Advantage+ アプリキャンペーンについては、Facebook Japan営業部長の古田理恵氏より紹介がありました。
AACの概要・特徴
AACの特徴として、以下の三つが紹介されました。
1.機械学習とベストプラクティスを組み合わせることで少ない工数でも高いパフォーマンスを実現できる
AACは従来のアプリキャンペーンとは異なる最適化アルゴリズムを搭載しており、これにより従来のアプリキャンペーンでは実現できなかった「アプリインストール」と「アプリイベント:購入」の両方を同時に最適化することが可能になりました。
また、大量のクリエイティブを入稿した際に、タイミングや配置に応じた最善のクリエイティブを見いだす最新のクリエイティブ探索アルゴリズムも強化されているため、今まで以上にパフォーマンス向上が図れるとのことです。
2.AACの配信面、リーチの最大化によってパフォーマンスを維持できる
AACではデフォルトでブロードターゲティングやアドバンテージプラス配置(自動配置)が搭載されているため、より多くのユーザーに、より最適な配置で広告を配信することが可能になります。
また、クリエイティブにおいては、最大50件の画像または動画、五つのタイトル、五つのメインテキストを入稿できるため、あまたの組み合わせの中から常に最適なクリエイティブをユーザーに届けることが可能になるとのことです。
これらの機能により、予算を拡大した場合でもパフォーマンスを維持しやすいと説明されていました。
3.入稿作業の効率化によって時間と労力を削減できる
従来は広告を一つ一つ入稿する必要がありましたが、AACでは素材を一括でアップロードするだけで自動で広告が生成されるため作業の削減が可能となります。
また、手動のアプリキャンペーンでパフォーマンスが高かったクリエイティブをAACに自動でインポートする機能も搭載されています。
こういった機能を用いることで、入稿に必要といわれる工数40ステップを15ステップに削減することが可能であると述べられました。
AACと従来キャンペーンの違い
AACと従来の手動アプリキャンペーンの違いとして、設定よりも裏側のアルゴリズムの違いが大きいとのことです。
AACの配信アルゴリズムは、通常の手動アプリキャンペーンとは異なる配信アルゴリズムの開発がされており、それによりパフォーマンスも改善されると述べられました。AACは「従来と比べて自動化が進んで簡単に設定できる」というような従来のアプリキャンペーンの簡易版ではなく、最新のソリューションであるということが強調されていました。
機能面の拡張も進んでおり、クリエイティブに関してはカルーセルフォーマットへの対応、広告フォーマットではダイナミック広告への対応、配置アセットカスタマイズへの対応といった機能拡張が実装され、さらにパフォーマンスが出やすい環境になっているとのことです。
AACのベストプラクティス
AACのパフォーマンス最大化のポイントとしては、ターゲット設定と最適化、クリエイティブの多様化と差別化、テストの三つが上げられ、そのうち入稿設定とクリエイティブについて話がありました。
入稿設定に関しては、予算以外の制限はなるべくかけないようにすることが推奨設定とのことです。
さまざまな最適化オプションが用意されているため、複数のKPIを追っている場合には複数のAACを作成、それぞれ別の最適化ポイントを設定して同時に複数キャンペーンを走らせる運用が推奨されていました。
クリエイティブに関しては、本数は20本以上、可能であれば最大の50本を入稿し、それらを定期的に差し替えること、網羅的なフォーマットで入稿することが推奨事項として挙げられていました。
執筆者のコメント
サミットのテーマである「Fuel and Freedom」はMetaのプロダクトの可能性を最大限引き出す重要な要素であると同時に、AIを搭載したあらゆるプロダクトに通じるテーマだと感じます。クリエイティブや配信面の最適化が機械学習によって行われることで、広告配信設定における差別化要素が減り、機械学習のシグナルであるデータやクリエイティブの重要度がより高まりました。これからの広告運用者に求められるスキルは、AIを最大限活用するためのディレクション能力といえるかもしれません。データ、クリエイティブともに一朝一夕に何とかなるものではないので、計画的にアクションを取りたいものです。データにおいてはCAPIゲートウェイマルチプルアカウントが、広告主のファーストパーティデータの活用を一層推進する強力なソリューションになると思われます。このようなソリューションを知っているか、知らないかもデータ活用を推進する上での分かれ道になります。
Advantage+キャンペーンに関しては、ほとんど自動化であるため不安に感じる広告運用者も多いのではないかと思います。しかし、データとしても効果が改善されていることが表れているため、まだ使用していない場合は前向きに検討してもよいと考えます。現在、クリエイティブは自動化ではないものの、遠くない未来にクリエイティブの自動化も実装されるのではないでしょうか。
そうした場合に「広告運用者によって左右されるポイントが少なくなる=一つ一つのポイントの重要性が高まる」ため、手腕が問われることになるでしょう。また、各プラットフォームで自動化が進むにつれ、広告運用者の価値自体が問われることも増えていくと思います。そういった状況でも必要とされる広告運用者となれるよう、情報の収集や自身のアップデートはより一層力を入れていきたいですね。