Microsoft 広告について掘り下げる連載「Microsoft 広告アカウントマネージャーに聞く」。第1回と第2回ではMicrosoft 広告の概要と広告プロダクトについてMicrosoft 広告アカウントマネージャーの上林慎介さんに説明していただきながら、気になる点について質問しました。第3回では広告運用の最前線、つまり、運用していく中で気になる点について質問をしつつ、Microsoft 広告の運用について理解を深めていきます。
※第1回記事はこちら
※第2回記事はこちら
話し手:
日本マイクロソフト株式会社
Microsoft 広告事業本部
アカウントマネージャー 上林慎介さん
聞き手:
アタラ合同会社
パートナー 和泉晴之
コンサルタント 大野柊一
目次
予算設定について、1カ月あたりの上限金額はどう算出されるのか
和泉:最初に、予算設定について質問をさせてください。予算設定について正しい理解がないまま設定しており月末になって…ということは意外と耳にします。具体的にはキャンペーンの予算(1日あたり)についてですが、何も変更しなかった場合は、キャンペーンに設定している予算×30.4日(365日÷12カ月)が上限金額になる認識ですが、理解は正しいでしょうか。
上林:ある特定の1日に絞った場合、設定予算を上回る費用が発生する可能性はありますが、以下の計算式を基に、1カ月あたりの予算でコントロールされます。
1カ月あたりの予算=1日あたりの予算×30.4日(1カ月あたりの平均日数)
月の途中で1日あたりの予算を変更した場合は、1カ月あたりの限度額が以下の計算式で更新されます。
1カ月あたりの予算=それまでの費用+(1日あたりの予算×残りの日数)
万一、キャンペーンの費用が1カ月あたりの限度額を超えた場合は、月末に超過分が払い戻されます。
※参考サイト:どのような予算オプションがありますか?
和泉:ありがとございます。
広告グループの品質スコアはどのように算出されているのか
和泉:次に、広告運用者なら誰もが気になってしまう、品質スコア関連について質問させてください。品質スコアはヘルプにも記載されているとおり、キーワード、キャンペーン、広告グループのテーブルで確認できると思います。
※参考サイト:品質スコアと品質インパクトの詳細(2023年5月22日閲覧)
和泉:どうしても運用者って品質スコアが気になるので、運用現場や運用ティップス(ちょっとしたこつやテクニック)の情報で話題になってしまいますし、僕も時間的な余裕があれば自由課題のように解いてしまうかなと思います…。
上林:自分も実際、代理店にて広告運用していたことがあるので「どうやったら品質スコアが高くなるのかな」という思考は理解できます。ただ過去と比べて状況が変わってきています。現在の広告のプロダクトの裏側は、ディープラーニングが活用されています。そうなってくると、全て中身のロジックが明確になっているわけではなかったりします。なので、明らかにできる部分と、できない部分があるというのも理解しておく必要があると思っています。
アセット(広告表示オプションなど)設定による広告ランクへの影響は
和泉:アセット(広告表示オプションなど)の質問をさせてください。Microsoft 広告でも、さまざまな広告表示オプションの設定が可能だと思います。アセットを設定することで何かしら、いわゆる広告ランクへの影響などありますか。
※参考:広告ランクについて
上林:基本的に品質スコアは、三つのコンポーネント(ランディングページの利便性、広告の関連性、推定クリック率)に基づいて定められています。何かの表示オプションを設定したから加点するという形にはなっていません。
和泉:なるほど。広告ランクへの影響がないとしても、ユーザーにとって有益な情報提供になるアセットは設定を推奨されています。Microsoft 広告の仕組みとしては、ユーザーにとって最適な広告やアセットを表示させるので、アセットを設定していない場合よりもクリック率が改善する可能性が高まります。そうすれば結果的に品質スコアや最適化スコアがよくなり、全体的に効果が高まります、という理解でよいでしょうか。
上林:そうですね。例えばサイトリンクが分かりやすい例だと思いますが、複数設定していただいているときに関連性の高いものから優先して表示がされる、そもそもサイトリンクとか表示オプション自体もCTRの改善が見込める、という意味で間接的に影響する可能性はあると思います。
和泉:ありがとうございます。
Microsoft 広告として推奨しているアカウント設計はあるか
和泉:アカウント設計について質問させてください。
昔から日本で運用されるアカウントは「細分化しすぎ」と指摘されるという話は、広告プラットフォームの方々から頻繁に伺います。各プラットフォームでも推奨アカウント設計などの情報を発信されていますが、Microsoft 広告として推奨しているアカウント設計はありますか。
極端な表現にしていますが、以下の図のようにパターンAとパターンBの場合があると思います。
背景としては、施策別にある程度の予算が振り分けられており、予算はキャンペーンの設定にひも付くためにキャンペーンを分けているのがパターンBです。
上林:ありがとうございます。ここには二つ視点があるかなと思っています。Microsoft 広告の自動入札はキャンペーン単位で行う形になるので、例えば目標コンバージョン単価や目標広告費用対効果(ROAS)を設定しようと思うと、コンバージョンは最低30件、50件程度はためてください、というご案内をしています。そのときにキャンペーンを分けたとしても、それぞれで十分なコンバージョン数があれば特に問題はありません。また、キャンペーンをまたいだ入札戦略の設定もできるので、ある程度柔軟には対応できますが、そもそもターゲットとなるユーザーが大きく異なることがなければ、あえてキャンペーンを分けていただく必要はないのではないかと思います。
和泉:なるほど。ターゲットが大きく異なる場合を除いては、キャンペーン単位で機械学習のディープラーニングが働くので、同一キャンペーンで運用したほうがよいということですね。
上林:そうですね。分ける必要がないものはまとめておいたほうが、自動入札を使うときにもコンバージョンが分散しない、というよさがあります。
Microsoft 広告の入札戦略をうまく活用するために知っておきたい基本や注意すべきポイントは
和泉:ありがとうございます。先ほどの質問の中で入札戦略、いわゆる自動入札の話があったので関連して質問させてください。Microsoft 広告の入札戦略をうまく活用するための方法や基本的な知識、注意すべきポイントなどを教えていただけますか。
インポート後に使用する場合、拡張クリック単価で1~2週間様子を見る
上林:まずはGoogle 広告からインポート機能を使って始められる場合です。非常に多いケースです。Google 広告で目標コンバージョン単価を使っていると、目標コンバージョン単価の設定がインポートされます。ただ、Microsoft 広告での配信の実績はゼロからスタートすることになります。なので、開始時点では拡張クリック単価を使っていただくことを案内しています。特に、最初の1~2週間くらいは様子を見ていただきたいとご案内しています。この1~2週間は学習期間として捉えていただければと思います。
和泉:約1~2週間ですね。この1~2週間で、どの程度のコンバージョン数を集めることが理想なのでしょうか。学習期間を考えるときに、時間軸をX軸、コンバージョンの件数をY軸に取った面積が広ければ広いほどよいとは思っています。ただ1~2週間を長いと感じる広告主もいらっしゃるので、必要最低限の面積が知りたいなと思います。
上林:コンバージョンの件数の基準については、特にご案内していません。パフォーマンス(実績値)の波を見て、コンバージョン単価の実績が安定してきたというような判断になると思っています。そのため、コンバージョンの件数ではなく、期間でご案内しています。
拡張クリック単価から目標コンバージョン単価への切り替えはCVが約30件、ROAS使用時は約50件たまってから
和泉:「1~2週間を学習期間としてみてください」とのことですが、初期値は重要ではないかと思っていますが、どうでしょうか。
上林:そうですね。目標コンバージョン単価をご利用いただく場合、30件程度のコンバージョンをためていただいた後に、拡張クリック単価から目標コンバージョン単価へ切り替えてください、とご案内しています。
和泉:なるほど。
上林:また、目標広告費用対効果(ROAS)を使う場合は、50件程度のコンバージョンをためてください、とご案内しています。
和泉:期間としては2週間でしょうか。
上林:過去30日を想定しています。
和泉:そうなると、目標コンバージョン単価に切り替えるためには1日1件が必要。目標広告費用対効果(ROAS)の場合は1日1.6件程度ほど必要になりますね。
上林:キャンペーン単体で30件とか50件が難しいケースがあるときに、よくやる手法としては、マイクロコンバージョンのような設定をされるケースもあると思います。一つのキャンペーンのみでは目標のコンバージョン数に届かないという場合は、キャンペーン横断の入札戦略を使っていただいて、そのキャンペーン全体、複数のキャンペーンで30件とか50件をためて使っていただくってことも可能になっていますので、お試しいただければと思います。
入札戦略変更後は2~4週間でパフォーマンスを評価
上林:入札戦略を目標コンバージョン単価や目標広告費用対効果(ROAS)へ変更した後は、2週間から4週間程度の期間でパフォーマンスを評価してください、とご案内しています。
和泉:なるほど。基準値になるコンバージョン数が分散されずに蓄積されることが重要なポイントになりますよね。こういった意味でも、アカウント設計も可能な限り分けずにまとめるということですね。また、入札戦略を目標コンバージョン単価や目標広告費用対効果(ROAS)へ変更した後は、2週間から4週間程度の期間でパフォーマンスを評価するとなると、最低1カ月程度の学習期間をみておく必要性がありますね。
上林:ケースバイケースですね。実際には、学習期間は1週間ぐらい運用していただくと、安定してきている印象もあります。
和泉:ありがとうございます。入札戦略については、運用していく中で感覚をつかむ部分もあるので、怖がらずに試行錯誤が大切かなと思っています。
入札戦略もキャンペーン予算も細かい変更は避ける。変更するなら20%以内で
上林:ただし、入札戦略を活用する際に避けていただきたい留意点があります。例えば、入札戦略が思いどおりに動いていない印象があり、設定してから数日で入札戦略や予算設定を大きく変更したり、高頻度で変更したりしてしまうことです。入札戦略や予算設定を変更すると、もう一度学習し直す状況になってしまうので、数日単位でいろいろと変更することは逆効果になることもあると思っています。
和泉:そうですよね。おっしゃるとおりの傾向はあると思います。日々の運用で結果が出ないと焦ってしまう心理はあるのですが、必要以上に設定変更することは避けたいとは思っていますが…。
上林:入札戦略だけではなく、キャンペーンの予算を細かく変えることもお勧めしていません。というのは、自動入札は、あくまで設定されている予算内でのパフォーマンスを最適化・最大化する前提になっています。例えば、コンバージョン最大化の入札戦略を設定したときに、設定している予算内で最大化するように内部的なアルゴリズム調整がされるので、キャンペーン予算が変わってしまうと前提が変わってしまうのです。
和泉:設定している予算金額が前提条件になっており、目標コンバージョン単価を設定している場合、予算に基づく範囲内で最適化していくロジックなのですね。完全な因果関係ではないにしろ、相関関係というか影響はあると。
上林:そうですね。あくまで要素の一つではありますけれども、その予算内でパフォーマンスを最適化する前提にはなります。もちろん変えていただくこと自体は問題ありませんが、それを何日かごとに変えるというのは、お勧めしていないですね。本来的な考え方でいくと、月のプランニングの中で、例えばキャンペーン予算が月3万円の設定であれば、日割りにしたら1日1000円なので、1000円に設定して1カ月走らせる。本来はそういった使い方をしていただくのがよいと思います。
先にお話ししましたが、Google 広告からインポートしたときに、Google 広告で設定している目標コンバージョン単価を持ってきてスタートする、というケースが非常に多いのですが、最初から広告配信があまり出ないケースがあります。最初は拡張クリック単価を使っていただきたいという点や、急激に変更すると配信が激減することもありうるので、やはり基本的な内容についてはヘルプで確認していただくことを推奨します。
※参考サイト:入札単価の管理は入札戦略を用いて Microsoft Advertising に任せましょう(2023年5月22日閲覧)
和泉:なるほど。基礎的な情報にしっかりと目を通しておくことは重要ですよね。
上林:また、先ほどの目標コンバージョン単価、目標広告費用対効果(ROAS)であれば、閾値のコンバージョン件数を基準にしていただければ、コンバージョンの多いアカウントの場合は仮に3日目でも拡張クリック単価から目標コンバージョン単価、目標広告費用対効果(ROAS)へ切り替えていただいても問題はないかなとは思います。
和泉:ここについてはケースバイケースなので、コンバージョンの閾値を超えているなら運用者自身で判断して切り替えたり、必要な調整をしたりするイメージでしょうか。
上林:そうですね。特段、何日は最低みたいなところは、ご案内はしてないですね。
初期段階で拡張クリック単価を使っている場合はUETタグ実装なら適宜入札変更をしてもよい
和泉:なるほど。初期段階の拡張クリック単価を使っている期間における入札変更頻度についても、目標コンバージョン単価、目標広告費用対効果(ROAS)と同等の取り扱い、つまり必要以上に変更しないほうがよいのでしょうか。
上林:拡張クリック単価の機能はUETタグを実装していただいている前提ですが、コンバージョンの可能性が高いと思われる広告オークションの場合は入札調整をします。入札単価を基準にしているので、長期的には平均クリック単価が入札単価を上回らないように調整されています。
※参考サイト:入札単価の管理は入札戦略を用いて Microsoft Advertising に任せましょう/拡張クリック単価(2023年5月22日閲覧)
和泉:なるほど。そういうロジックが働いているのですね。拡張クリック単価の期間は適宜CVR(コンバージョン率)やインプレッションを確認し、目標コンバージョン単価、目標広告費用対効果(ROAS)へ変更できるコンバージョンの閾値を超えることに集中すればいいですね。
プラットフォームのポテンシャルを試すために運用してみるクライアントも
上林:ちなみに、拡張クリック単価から目標コンバージョン単価、目標広告費用対効果(ROAS)を使う運用をされるケースは多くあります。ときどき「Microsoft 広告が新しいプラットフォームなので、実際どれくらい配信のポテンシャルがあるのかを見たい」といった意味合いで拡張クリック単価から始めていただいて、その次にクリック最大化などを使って実際にどれくらいのポテンシャルがあるのか、インプレッションやクリックのボリュームが期待できるのか、ということを検証されるケースもありますね。
和泉:それは先進的ですし、先を見越した投資ですね!
上林:もちろん多くはないですが、そういう考えをされている広告主もいらっしゃいます、という例です。幅広いクエリまで広告表示することでクリックを集めてくるというよりは、クリックとコンバージョンの適切なバランスの中で配信されているのかな、という印象もあります。
和泉:なるほど! こういった挙動がMicrosoft 広告の特徴なのかもしれませんね。
上林:そうですね。また、定性的な内容ですが、代理店からも比較的パフォーマンスの安定や最適化に必要な時間が短い、というお声は時々いただいたりもします。
和泉:なるほど。そういった部分も含めてMicrosoft 広告が成長していく過程で、どのように変化するのか、ちょっと楽しみであり、興味深いですね。運用しながら変化を楽しみたいと思います。
上林:ありがとうございました。
第1~3回の連載を振り返って
今回のインタビューをするまでは、私たち自身も、まだまだMicrosoft 広告の経験は浅く知識も乏しく不安もありましたが、アカウントマネージャーの上林さんの豊かな知見と、すてきな人柄に助けていただいたこともあり、楽しいインタビューになりました。あらためて、心から御礼をお伝えできればと思います。
また、今回のインタビューの事前準備において、広告運用に携わる仲間たちから、多くの知見を快く提供していただきました。心から感謝いたします。 特に、アユダンテ株式会社の岩瀬真理さん、粂野三佳さん、和田浩希さん、寳洋平さん、株式会社オーリーズの田中智さんには多大なご助言、ご協力いただきました。ここに深く感謝の意を表します。
連載「Microsoft 広告アカウントマネージャーに聞く」は、今後も形を変えて続きます。Microsoft 広告の運用に携わる皆さまに、運用に役立つ最新ニュースやサービスの詳細、実際の運用の中で出てくる疑問に答える記事などを掲載予定です。今回のインタビューについての感想や、今後取り上げてほしい内容などをUnyoo.jpの公式Twitterアカウントにお寄せいただければ参考にさせていただきます。