広告運用現場(アカウントマネージメント)の視点からMicrosoft 広告について深掘りする「Microsoft 広告アカウントマネージャーに聞く」。第2回は、Microsoft 広告のサービスの概要説明を受けて、気になる点について議論を深めました。
※第1回はこちら
話し手:
日本マイクロソフト株式会社
Microsoft 広告事業本部 アカウントマネージャー
上林慎介さん
聞き手:
アタラ合同会社
パートナー 和泉晴之
マネージャー/コンサルタント 高瀬優
コンサルタント 大野柊一
目次
Microsoft 広告のカスタマーマッチとカスタムオーディエンスの違いは
高瀬:第1回のターゲティング機能のご紹介で出てきた「カスタマーマッチ」と「カスタムオーディエンス」の違いはなんでしょうか。
上林:カスタマーマッチは、メールアドレスの情報をアップロードしていただいて、われわれが持っているユーザーを判別するキーと突き合わせして、マッチした人に対して広告の配信ができるものです。広告主さまが自社で持っている顧客基盤のデータを利用するので、CRMやリピート購入などで使っていただくケースがあると思います。
カスタムオーディエンスは、DMP(Data Management Platform)と接続をして配信ができるものです。まだ日本では利用できません。対応しているDMPは、Adobe Audience ManagerやOracle Blukai、LiveRampで、これらのDMPと連携して、そこでマッチした人たちに配信ができる機能です。
高瀬:カスタマーマッチ = 広告主が持っているファーストパーティ・データを使う形、カスタムオーディエンス = DMPと連携して配信するからサードパーティ・データ、という理解で問題ないでしょうか。
上林:はい。そのとおりです。
和泉:プラットフォームごとに名称が同じでも機能が異なる場合もあるので、運用現場に慣れてない初心者の方は混乱しそうな部分ですね。注意したい点です。
今、Microsoft 広告が一番の課題として取り組んでいることは
大野:御社で広告プロダクトをよりよくするために、今、一番重きを置いて取り組んでいることや、ここはまだ改善余地があるということがあれば、ぜひお話を聞かせていただきたいです。お客さまへの提案時に参考にしたいと思っています。
上林:キーワード プランナーやオーディエンス プランナーのような機能は、データが蓄積されて精度がどんどん上がっていくものですが、Microsoft 広告が日本でサービスを開始してから日が浅く、まだまだ日本におけるデータ量が十分とはいえないので、必要なデータ量を増やして、精度を高めていきたいと思っています。
大野:ありがとうございます。そういった点も伝えて、お客さまへの適切な情報提供を心がけるようにしますね。
上林:ありがとうございます。
和泉:ご説明いただいた内容については、ユーザー・広告出稿企業・Microsoftの三者で適切なデータを一緒に蓄積し、育成していくイメージを共有すべきかと思います。Microsoftさんで精度を高める努力は継続していただく前提はありますが、プラットフォーム側の頑張りだけでは限界があると、昨今の状況を見ていると感じます。Microsoftさんに音頭を取っていただきながら、いろいろと啓発していただけるとよいのではないかと。
上林:ありがとうございます。そう言っていただけると非常にうれしいです。
今後のB to C商材・サービス、広告主向けの強化ポイントは
高瀬:お話を伺っていて、日本国内においては、どちらかというとB to B向けの商材やサービスがメインなのかな、という印象を持ちました。今後、日本国内においてB to Cの分野の商材やサービスについて、広告主向けの強化ポイントがあれば伺えますか。
上林:B to Bに特化しようとか、そこをまず注力して機能開発とか展開をしているということはありません。ただ、プラットフォームの特性として親和性がとても高いので、B to B系のクライアントさまに関心を持っていただきやすかったり、実際にパフォーマンスがよかったりすることも多いので、結果的にB to Bのクライアントさまのご利用は広がっています。
Bingは検索エンジンですので、あらゆるクエリ、あらゆるカテゴリのものが検索されます。なので、B to Cのクライアントさまにも使っていただけるものになっています。B to Cのクライアントさまの利用を拡大するために、今後何か改善していくというよりは、どのクライアントさまでも使っていただけるように、という思想で展開をしていく形になると思います。その上で、バーティカル広告のように、特定の業種に特化して、そのカテゴリで成果が出しやすいものなどをローンチしていくことで、そのカテゴリに最適なものを提供していく流れになると思っています。
今後のモバイル向けの展開は
高瀬:現在はPC向けの展開がメインになっているとのことでしたが、今後のモバイル向けの展開が気になります。
上林:現時点だと、Bingユーザーはデスクトップがメインになっており、われわれも課題感を持っている部分です。現時点で具体的にご紹介できるものはありませんが、例えば、検索のパートナーを増やすことで、モバイルの在庫を増やしていくような取り組みは進めていくことになると思います。
和泉:B to Bだけではく、B to Cも含めて広く使っていただけるように、現状もそうですし、これからもいろいろと進化されるということですね。現時点の印象としてはB to Bが強いかもしれませんが、B to Cも含めて中立的な視点でプランニングし、試行錯誤することは重要だなと思います。事例が作られるのを待つのではなく、自ら事例を作っていくという姿勢、意気込みですよね。
上林:そうですね。B to Bの商品やサービスでは、成果をお返ししやすい傾向にありますので、Microsoft 広告を使っていただくことを私も強くお勧めしていますが、そこだけに特化したプロダクトとなってしまうことは避けたいところです。
ワークデイ コンシューマーは今後どう変化していくと考えているか
和泉:「ワークデイ コンシューマー」についてです。パンデミックが収まったとはいえませんが、徐々にリモートではなくなっている会社が増えたり、週何日かは出社するといった話も出てきたりしていると思います。ワークデイ コンシューマーの概念は、ここ3年ぐらい、パンデミック中に顕著になってきましたが、この先でどう変化していくとお考えですか。
上林:私の所感になりますが、今の働き方が完全にコロナ禍以前のように元に戻ることはないと思っています。ですので、今後、何年かたっても、使われ方やユーザー属性が大きく変わることはあまりないとは思っています。
あとは、ワークデイ コンシューマーが増えているという追い風はありつつも、そもそもの基盤であるEdgeやBingのユーザーの規模を拡大していくことが重要だと思っています。その中の取り組みの一つとして、Microsoft Rewardsなどもありますが、そこをしっかり拡大していって、付随するサービスとして広告をしっかり提供していくものではないかと思っています。
和泉:いや、まったく同感です。ワークデイ コンシューマーのデモグラフィックのデータを見ると「年齢が高くて、意思決定者」いわゆる経営層が多い。だから、自動車を買い替えたいので情報を集めよう、あるいはゴルフへ行く、出張のホテルを予約したいなどのカテゴリが結構強いなと見えました。そういった経営層に近い人たちのデータを取り除いたとき、どういった特徴があるのかというのは、すごい気になりました。
いわゆる一般的な会社員の方々(メンバー、リーダー、現場のマネージャークラスの人たち)もワークデイ コンシューマーのデータの一部だと仮定するなら、他プラットフォームの属性と大きく変わらない可能性もあるのではと思ったりします。リモートワークで、スーツは着なくなってカジュアルだけどオンラインミーティングで違和感のないファッションに関わる検索をしたり、実際に通販サイトで購入したりしている可能性もあるかなと。こういったデータがあれば、プランニングでの思考の幅が広がると思います。データが明確には出せなかったとしても「多様なペルソナがあります」というような情報が出てくると、B to BだけではなくB to Cも含めて、どう使うか、というプランニングの補助線にはなるかもしれません。
上林:ありがとうございます。データとして手元に持ってはいないので定性的な参考程度の情報になりますが、平日は金融系の情報を調べているユーザーが、週末はお買い物情報やポイント関連情報を検索していることが多い、というような傾向が検索クエリから見られます。非常に特徴的なところだけ抜き出してお話ししましたが、それだけでも家にあるパソコンを使って検索しているイメージがわきますよね。
和泉:もしかしたら子育てでは、朝は小児科や耳鼻科の検索を多くしている可能性もある。夕方に通販サイトから届く荷物の到着予定時間を変更するために宅配業者の社名検索が増える、ということもあるかもしれないですよね。データがあれば、こういった仮説に基づいてMicrosoft 広告のプランニングが可能になるのではないかと思います。ワークデイ コンシューマーだからこそ、会社貸与PCで検索しているからこその特徴的な傾向は出てきそうです。別の検索エンジンとは違った形のプロモーションの方法や、ユーザーとの接点の持ちようがいくらでも出てくるかもしれないと思いました。
上林:ありがとうございます。検索エンジンなので「ありとあらゆる人にリーチできます」というのがよい一面もあれば、今みたいに、ある程度ペルソナが立っていて特定の層にリーチできる、となっていると使いやすい側面もある。特徴が出るのはいいことですが、一方で、万人にリーチできることも検索エンジンとしては重要だと思うので、私もセールスとして案内していくときに難しいと日々感じています。
和泉:要するにバランスだと思います。検索エンジンなので万人にというのは前提ですが、広告というプロダクトを考えたときに、インハウスだったら当該部署の担当者、広告代理店に任せていれば運用者がプランニングするときに、イメージがわかないと使われないという問題もあると思います。「みんな使っています、なので、好きにやってください」って言われても「じゃあどう使えばいいんだっけ?」となる。すると、想定範囲内のターゲティングでしか配信しません、となってしまい、プランニングが固定されてしまう可能性がありますよね……。
地方の小さな広告代理店や、インハウス運用のスタートアップとかだと、まだまだプランニングの知見が少ないところもあります。今後、Microsoft 広告を成長させていく中で、規模に関わらず多様な事業の成長を後押しするために、プランニングが固定化しない情報発信をしていただければ嬉しいなと思います。せんえつなことを申しまして申し訳ありません。
上林:おっしゃるとおりだと思います。
和泉:いろいろと多岐に渡り説明していただき、私たちの疑問に答えていただいて、ありがとうございます。非常に勉強になり、Microsoft 広告への解像度が高くなりました。
次回は、実際の運用に関わる基本的なロジックや考え方について詳しく伺います。
※本記事の内容、肩書きは2023年3月現在のものです。