今回の話し手:ピンタレスト・ジャパン合同会社の井上英樹さん
Pinterestは、ユーザーが発見したアイデアを“ピン”(保存)していくビジュアル探索ツールです。そのPinterestが、2022年6月から日本でも広告事業を開始しました。ピンした情報からインスピレーションを得ていく「インスピレーションプラットフォーム」という特性ゆえに、Pinterestの広告はユーザーから他のメディアとは異なる受け止められ方をするといいます。
今回は、Pinterestというプラットフォームについて、またその広告事業について、ピンタレスト・ジャパン合同会社の井上英樹さんに伺いました。
話し手:
ピンタレスト・ジャパン合同会社
執行役員 SMB日本統括責任者
井上英樹さん
聞き手:
アタラ合同会社
ストラテジック ビジネス リード/チーフコンサルタント
中川雄大
アイデアや情報をピンして集めるインスピレーションプラットフォーム
中川:自己紹介をお願いします。
井上:井上英樹と申します。PinterestでSMB(Small to Medium Business=中小企業)事業の責任者として、日本のマーケットで中小ビジネスおよびスタートアップ企業さま向けに広告事業を立ち上げる仕事をしています。
前職のオンラインプラットフォームでは、SMBから中規模、グロースマーケット領域のクライアントさま向け広告事業の責任者を、シンガポールを拠点にやっていました。その当時から個人的にPinterestを利用していたのですが、アイデアが湧いてくるのを助けてくれるすごいプラットフォームだなと感じており、日本で広告展開するとよいのになと思っていました。
そういった状況と、コロナ禍となり約2年間も帰国できなくなってしまい、親世代の健康状態や年齢を鑑みて日本に帰国することを検討していた折、たまたまPinterestのグローバルチームのリーダーの方とお話しする機会がありました。日本でも広告事業をローンチするという話を聞いて意気投合し、Pinterestへの入社を決めました。
中川:ありがとうございます。今まさに事業立ち上げフェーズということですね。
井上:はい。
中川:一からの事業立ち上げとなりますと、SMB領域については井上さんが、取引事業社の開拓も求人募集も営業も全部お一人で担っていらっしゃるということでしょうか。大変ですよね。
井上:はい。大変でないと言えばうそになりますが、決して一人で担っているわけではなく、仲間とともに立ち上げを行っており、すごく面白いです。前職では、そうしたフェーズの最初の山を乗り越えた後の入社でしたから。もちろん、そのフェーズからさらに事業を成長させる必要があったので、それはそれで面白くやりがいもあったのですが、今回は最初から全ての立ち上げを行うという、ずっと求めていた環境にいるので非常に面白く感じています。
中川:なるほど。では井上さんのご興味とライフステージがうまくかみ合わさったところでPinterestに入社されたのですね。
井上:そのとおりです。
中川:続いて、Pinterestのブランドストーリーをお聞かせください。
井上:Pinterestは、2010年にファウンダーのBen Silbermannと起業家三人で立ち上げた会社です。もともとはオンラインで見つけた好きなアイデアをコレクションするツールとして、サービスを開始しました。画像や動画などのビジュアルを通して見つけたアイデアを“ピン”することで、実際に行動に移したくなるインスピレーションを得られる、そういったところにPinterestの価値があるのではないかと分かってきました。それで「インスピレーションプラットフォーム」という現在のサービスに進化しました。
広告事業に関しては、米国では2014年から展開しており、すでに非常に多くの業種・業界のお客さまに使っていただいています。利用者としては現状4億人以上のユーザーがいます。ちなみに、われわれはピンする人たちという意味でユーザーを「ピナー」と呼んでいます。
つまり4億人以上のピナーがいるコミュニティになっています。日本に関しては、ニールセンの調査によると870万人のユーザーがいるといわれていて、近年非常に伸びているという状況です。
また、ユーザーが自分の好きなものを保存するピンの数は、日々300万件を超えています。日本でもPinterestの使われ方がかなり拡大している状況です。
中川:よりアクティブになって、プラットフォーム自体が活性化されているということですね。
井上:そうですね。
中川:その理由について、御社の中で何か分析をされているのですか。
井上:まずベースとしては、コロナ禍に入ったことは要因の一つといえます。
中川:いわゆる巣ごもり需要ですね。
井上:はい。人々がこれまでの行動を変えざるを得なくなり、そこにちょうどPinterestのサービスがはまった部分も当然あると思います。2010年からサービスを提供している中で、ピナーは単なるエンターテイメントとしてではなく、アイデアや行動を起こすきっかけとなるアイデアを探しにPinterestを訪れているため、レシピや家の整理整頓など多くのユースケースに対応するソリューション・ツールとして利用されていました。グローバルにおけるユーザー数の成長率に関しても、コロナ禍のタイミングでぐんと上がりました。
中川:コロナ禍に突入してユーザーさんの数自体も増えたのですね。国内もそうなのですか。
:国内の定点的なユーザー数の成長率は発表していないのでお出しできないのですが、先ほどお伝えした保存数と外部データのユーザー数から、勢いを感じていただけるかなと思います。
中川:Pinterestユーザーの4分の1がZ世代だという発表をお見かけしたのですが、現状も変わらずですか。
井上:Z世代、ミレニアル世代は、新規ユーザー増加の大部分をけん引してるユーザー層です。
中川:ちなみに、PinterestはSNSではないのですよね。
井上:そうですね。われわれは「パーソナルネットワーク」と呼んでいます。ユーザーが集まるプラットフォームという点では、やはりSNSのイメージを持たれているのかもしれませんが、Pinterestはいいね!やシェア数など、他人からの評価に捉われず、主観的な視点でこれから実現したいインスピレーションを探すために使われているプラットフォームです。
中川:そうですよね。ユーザー間でテキストや動画でコミュニケーションするようなプラットフォームではないのだろうなと、お見受けしていました。Pinterestのメディアガイドを拝見したのですが「検索」とはおっしゃらないですよね。「検索」ではなく「アイデアを探す」「探索」という言葉を使われていることが印象的でした。
井上:さすがですね。
中川:一応、始祖に迫ろうということで(笑)。Pinterestが重きを置いているポイントや生い立ちが、いわゆるSNSとは全く違うが故に「検索」という言葉をあえて使わない「探索」と呼ぶという違いがあるのかなと、お見受けしていました。
井上:そうですね。独自性という話では、たくさんご紹介したいポイントがあります。
これから起こす行動や未来につながるポジティブなツール
井上:まず、まさに今おっしゃった「探索」はPinterestにとって大変重要だと考えています。われわれの言葉では「ビジュアル探索プラットフォーム」と表現しています。
そもそも、暮らしを豊かにするようなインスピレーションの発見、さらには発見だけではなく実現、なんらかの行動をもたらすということをミッションとしている会社であり、プラットフォームなので。米国発ではありますが、現在4分の3が米国以外のユーザーです。
また、Pinterestにはさまざまなジャンルのカテゴリーがあります。日本で人気があるカテゴリーはファッション、ビューティ、インテリア、フードなど。みなさまご想像の通りかもしれませんが、このへんはやはり人気のカテゴリーです。
先ほど中川さんがSNSの話を引き合いに出されていましたが、SNSプラットフォームは、過去自分の経験したことを共有したり、現在何をやっているかなど、そういった過去と現在を共有する機会が多いプラットフォームだと思うのです。一方、Pinterestは、どちらかというと自分がこれからやってみようと思うことや、興味・関心、こういったことを見つけて何か行動を起こす、未来につながるツールだというのが大きな違いです。つまり、Pinterestは未来に向けたツールだというのがテーマの一つです。
Pinterestを利用されている方はご存じかもしれませんが、使えば使うほどに自分の好みに合致するものが自分のページにレコメンドされるので、未来に向けて、自分の好みに近いような、もしくは好みに近いけど自分だけでは発見できなかったようなものがレコメンドで出てくる。そのように「探索」して発見するツールだといえますね。
中川:そうですね。Pinterestのレコメンドは強烈ですものね。偏ったものばかり見ていると、関連していろいろおすすめしてくださる。おそらく、これは裏側のシステムの部分の話になると思うのですが「分かってるな」というコンテンツばかりが出てくるというか。
同じレコメンド機能一つ取っても、某大手ECサイトのようなレコメンドはしてこないというか。某大手ECサイトのシステム内のカテゴリーでいえば、今表示されたレコメンドは“類似”と認識されているのだろうけど、このレコメンドは俺の好みは無視してるよねとストレスに感じるようなことが、Pinterestでは起きづらいと思います。
井上:そうかもしれません。
中川:ストレスが減るが故にPinterestへの滞在時間も延びるのだろうなと思います。
井上:まさに自分が過去Pinterestを使っていた際、レコメンドされる内容やセンスなど、自分好みのものが次々と出てきたので、これはすごいと思っていました。Pinterestへ入社してからもあらためて、そのへんの思想がすごくしっかりしている会社だなと感じています。よりパーソナルなところを、誰かにシェアするために探して収集するのではなく、自分がこれから何らかの行動を起こすために、未来に対してパーソナルな空間をつくっていく。そういったものなのだといえるでしょう。
その関連でいうと、もう一つのキーワードは「ポジティブ」です。やはりポジティブに自分がこれからやりたいことを探していき、ひらめきを得るというのも一つのキーワードだと思っています。
ポジティブさでいうと、ユーザー体験が一番重要だと考えているので、主要プラットフォームとしては初めて、ダイエット広告の掲載を禁止しているんですよ。これは昨年発表して、大きな反響をいただきました。
やはりそれは結局、ユーザーが気持ちよく将来のことをポジティブに考えていけるプラットフォームでいたい、という思想の表れがアクションにつながった一つの例だと思っています。
中川:なるほど。ダイエット広告掲載の禁止とは思い切ったご判断ですね。
井上:そうですね。
中川:実は、弊社のクライアントでもPinterest広告への出稿を考えているところが1社あります。広告審査のプロセスが他のプラットフォームとは少し違って、ただアカウントを作るだけでもしっかり厳しく審査されている、という話は聞いていました。
井上:はい。もちろん広告審査はなかなか厳しいですが、思想とアクションをしっかり守ろうとしている会社だというのは中にいても感じます。
中川:本当に好感が持てました。
井上:ありがとうございます。
中川:プラットフォームが大きくなってくると、悪い方向性でハックしようとしてくる人も出てくるでしょうね。
井上:そうかもしれませんが、Pinterestのユーザー体験として、いいものを提供し続けることで頑張りましょうという思想です。
中川:なるほど。どんどんグレーゾーンは排除してほしいです(笑)。では、Pinterestを知らない読者の方々に向けて、オーバービュー的にどういったものかを簡単にご紹介いただけますか。
井上:Pinterest は、夕食のレシピやファッションのアイデアから家づくりや休暇で行きたい場所など、暮らしさまざまなシーンの中のアイデアが見つかるプラットフォームです。
個人的に、Pinterestは日本市場にとても親和性の高いプラットフォームだと思うのです。絵文字が日本から始まったように、静止画・動画含めてビジュアルからインスピレーションを得て発信していくことは、日本にいる僕らの価値観や文化と親和性が高いと思うんですよ。なので、Pinterestの活用をもっともっと喜んでもらえる土壌が日本にはあると思います。自分もPinterestに参画してからビジュアルやカルチャーの領域を伸ばしたいと思うようになりました。
中川:なるほど。ジャパンカルチャーですね。イラストなどは一大カテゴリーになっていますね。
井上:そうですね。アニメ、漫画、イラスト。
中川:Pinterestの日本独自の使われ方はありますか。
井上:ユーザー視点でいうと、日本のユーザーは複数の興味カテゴリーを選択しているのですが、その中でも特徴的なのは“ファッション”と“インテリア”です。これらのカテゴリーはグローバルでも人気ですが、実際に検索しているアイデアが日本らしいのが面白い特徴の一つだと思います。
特にインテリアに関して日本らしいなと思うのは、小さな部屋の整理についての検索です。流木インテリア、整理整頓、DIYなど、小さな部屋の多い日本ならではと思える検索が多いと感じています。
中川:Facebookでは例えば日本でよく見られる時間帯、一日の中で通勤時よく見られていたり、寝る前や起きてすぐ見る傾向があるなど、特徴がありますよね。
Pinterestでも日本独自のピナー像、そのへんが見えてくるとより面白くなってくると思うので、これからも注目していきたいです。
Pinterest広告は潜在顧客とブランドが出会える場
中川:ここからは広告プラットフォームとしてのPinterestに迫ろうと思います。一通り広告フォーマットも国内でもリリースされ、サービスとして提供開始されていらっしゃいますよね。
井上:Pinterest広告に関しては、日本は2022年6月1日から提供を開始しました。
なぜ今、日本で広告事業を開始したのかというと、国内外で広告主さんからの日本市場での広告出稿のニーズがあったということと、ビジネスとしてもPinterestのプラットフォームのユーザー数が成長し続けている背景もあり、いよいよ日本でも広告事業をローンチする運びとなりました。
Pinterestの場合、広告自体もピナー(※ユーザー)の価値に合った還元性のある広告をレコメンドするという思想を持っています。そのため、広告を広告として見るということではなく、表示された広告をアイデアの一つとして見ていただけるプラットフォームだということも非常に特徴的です。
アメリカのある調査の結果*で、10人中8人のユーザーがPinterest利用時にポジティブな気持ちになれると回答していました。他のプラットフォームの平均だと、だいたい10人中3人程度らしいのですが。なのでそういった意味でも、Pinterestは圧倒的に「ポジティブ」というキーワードが実際の体験の中で体現されているプラットフォームといえるでしょう。
* Talk Shoppe社による調査「Emotions, Attitudes, and Usage」(米国、2018年9月)より
また、上位の「探索」の97%が、いわゆる非指名検索といわれる一般ワードになっています。例えば「夏 メンズ 服」といったようなものです。
中川:「コーディネート 夏 メンズ」みたいな。
井上:どこにもブランド名が入っていないんです。一般キーワードで検索されることがほとんどなので、何かアクションを起こしたい、購入したい、という意思がある一方で、まだ購入するものや購入先を決めていない、そういった潜在顧客の方々とブランドが出会える希少なプラットフォームかなと思っています。
中川:興味深いですね。検索として機能は提供していても、searchではなくexploreだといえるのでしょうか。
井上:そうですね。
中川:ブランドの比較前の状態にあるピナーさんが多いということですよね。
井上:そうです。本当にインスピレーションを探している状態です。やはりそれぞれ自分のテイストや好みってなんとなくあるじゃないですか。そういう方が、夏になるから服を買おう、冬に結婚するからその準備をしよう、家をリノベーションしよう、というニーズが出てきても、そういったアクション自体に対して自分のテイストはあって、でも顕在化していないものがいっぱいある。そういったアクションの手前の段階でアイデアを得ようという人たちが多いです。
中川:なるほど。ピナーさんの脳内がまだわりとふんわりしていて、自分のインスピレーションを得るための解像度を高めるために使われていると。
井上:その言葉のチョイスが素晴らしいですね。解像度を高める(笑)。そして自分の頭の中でひらめきに気が付く。「これだよ、これ」というものをビジュアルで見つけられるのが特徴だと思っています。
何かアクションを起こすかなり前の段階からPinterestを使うというのが、ユーザーの動向として特徴的だと思っています。来週買うから今検索しようではなく、この秋に結婚するから今から調べ始めようとか、夏に向けてファッションを検討しようとか。
中川:購買行動の一連のプロセスの中で、計画時に使われるという言い方ができそうですね。
井上:はい。先ほどおっしゃっていた、解像度がまだ低い、輪郭がはっきりしてない状態の中で、好きなものやインスピレーションを見つけるという使われ方です。
決まったワードでの検索ではないので、広告主さんにとっても最初の段階で自分の商品を見せるチャンスがあるプラットフォームだといえるでしょう。やはり企業の大小にかかわらず、そういったところにリーチできるのがメリットです。
レザー財布を探しているとスニーカーがレコメンドに出てきたりするのですが、なんとなく財布を探している人たちのユーザー像に一致しているような周辺のものが出てくるということです。
中川:ピナー目線でいうと、検索したり使えば使うほど自分色に染まっていくのですよね。
井上:そうですね。しかもそれが絶妙に、検索したものだけに限らず、次のレイヤーと、その次の次ぐらいのものがレコメンドとして出てきたりするので、そうすると発見になるのですよね。
中川:あらためて、購入プロセスのかなり初期のステージにいるお客さまにリーチができて、実際に購買まで促す力がある。
井上:もちろんそうですね。あとは、そういったものをどんどんキュレーションしていって、自分の中のピンとしてためておいて、時期がきたらそこから選んでいくということですよね。
例えば、記念日のディナーや旅行の行き先とかだと、半年前から興味あるものを少しずつためていて、実際にそのためていたボードの中から、後で旦那さんと一緒に話し合って決める、というシーンでも使えたりします。
中川:Pinterestならではの極めてユニークなポイントだと思います。
井上:ありがとうございます。
広告というよりはインスピレーションの一つ
中川:では、広告プラットフォームとして、Pinterestらしいものがあれば教えていただけますか。
井上:広告フォーマットでいうと、静止画、動画、あとカルーセル、コレクションがあります。ショッピングとの親和性、先ほど言ったように、お客さまが将来何かアクションを起こそうとしている状況の中で使われているという意味では、ショッピング広告は一つ大きな特徴かなと思います。
これに関しては、それこそフィードと連携して価格や在庫状況を含めた形で提案できるので、ショッピング広告は物を売っている広告主さまであればPinterestのメリットを最大限にご活用いただける広告フォーマット、ソリューションだと思っています。
もう一つは「アイデアアド」といってクリエーターが作る動画、静止画を組み合わせたコンテンツを利用した広告配信ができるというものです。今後もピナーへショッピングと親和性を高めていくための新しい体験を、これからさらに提供していきます。
中川:広告フォーマットもそうですが、ターゲティング機能も一通りあるのでしょうか。
井上:そうですね。最初からフルファネルでご用意してるので、ブランディングに適した動画再生系のものから、いわゆるCPA目的のアクションを軸にしたものまであります。
中川:特筆すべき点は。
井上:目的として、リーチやアクションに対するCPCでの流入に、インタレストカテゴリーのターゲティングができるのが特徴だと思います。
なので、先ほど申し上げたような、例えばファッションで夏のメンズのコーディネーションを探してる人に対して「この清涼感のある新しいTシャツを地方のお客さまへ売りたい」となった場合、そこにターゲティングをすれば、そういったものを探している人に対して見つけてもらえる可能性があります。これはおそらく、なかなか他社さんだとできないことだと思うので、興味・関心のカテゴリーがあるユーザーに対してターゲティングできるのは大きなメリットだと考えています。
中川:ターゲティングに関していえば、ユーザーの瞬間的なニーズを捉えているかどうかは重要ですよね。いわゆるSNSだといつ広告を表示するのが適切かの判断が、実はかなり難しいと思っています。
ユーザーの皆さまにとって広告は基本お呼びでないものですし、いかになじむ形で表示し興味を持っていただくかが肝になるのですが、Pinterestはそもそも情報を探しにきてる人たちであふれているプラットフォームなので、ターゲティングがちゃんとしていれば広告表示されたものが煙たがられることは少ないのではないかと思っていました。
井上:中川さん、さすがですね(笑)。本当におっしゃるとおりで、他のプラットフォームだと、広告を見るシーンが知り合いの投稿アップデートやフォローしているインフルエンサーさんの情報をチェックしたときという状況で、表示された広告を「まさに見たかった!」というスタンスでは見ていませんよね。なので広告はたまたま当たれば当たるけれど、そうではない場合が結構あると思うんですよ。
でもPinterestの場合には、先ほど中川さんがおっしゃったように、まさに探してる人たちが探しているワードの周辺の情報やレコメンドとして上がってくるので、広告自体を広告と捉えるよりもインスピレーションの一つと捉えていただける可能性が圧倒的に高いのです。
もちろん、これは関係ないという広告もあるとは思いますが、自分自身もPinterestを使っている中で広告をインスピレーションとして認識するようなユーザー体験がありました。それはまさに広告を出す側にとってもメリットといえるでしょうね。
中川:ちゃんとピナーさんの状態を考えてターゲティングできれば、広告主にとってもピナーさんにとっても有益な状態がつくれると思います。
井上:そうですね。
中川:例えば某大手ECサイトの中での行動でいうならば、物を買いにきた人たちは某大手ECサイト上で検索をしているわけで、そうした中で某大手ECサイトの検索広告を通じて商品が売れるのは当たり前の話ですよね。
井上:それは広告があったから買ったのか、それとも、もともと買う人に対して広告が表示されたから買ったのか、これもなんとも言えませんが。
中川:そうですよね。一方で、Pinterestはクリエイティブ次第で早い段階からユーザーさんの心をつかまえられるかもしれないという可能性がありますよね。
井上:はい。なので、かなり絶妙なポジショニングだと思います。手前みそですが、他を見渡しても、あまり見当たらないプラットフォームだなと思います。
中川:いや、本当にそう思います。入札も自動入札の広告があると思うのですが、どのような信号をアルゴリズムの中で大事にされていますか。先ほどのお話の中で、キーワードとして関連性という要素がおそらくきっと大きいのだろうなと察しているのですが、他に日時や時間帯についてはいかがでしょう。
井上:Pinterest はタイムライン型ではなくユーザー一人一人に関連性が高い良質なコンテンツを識別し提供しています。ユーザーにとって一番意味があるものを出すために裏側でいろいろな努力をしているのがPinterest独自のアルゴリズムだと思います。
中川:アルゴリズムが分かってしまうと逆にハックできるようになるともいえるので、いいことかもしれませんね。
井上:そうかもしれませんね。
中川:エンジニアの開発思想が垣間見れて、逆によかったです。ありがとうございます。
広告運用のような狭い領域の話でいきますと、私はパフォーマンスを左右する変数は三つしかないと思っています。ターゲティングと、ビディング、クリエイティブです。
ただ、自動入札があるので、このピナーにこのクリエイティブを見せるというのを究極的に突き詰めないと、パフォーマンスは上がっていかず、なんとなくで設定してはだめだよというのが分かりました。
井上:そうですね。日本は広告が始まったのが6月からなので、この辺りは、特に広告代理店さんや広告主さんと一緒に考えていきたいと思っています。そこからいろいろな特徴があれば、それを学んでいけたらいいなというのが率直なところです。なので上からこうやるべきですよと言うつもりはまったくなく、一緒に効果的なやり方を見つけていきたいと考えています。
物を買うだけではないショッピング体験
中川:では今後について、公開されていらっしゃる開発ロードマップがあればお聞かせください。
井上:ロードマップという形では公開していませんが、直近でいうと、過去一年間でも例えばカタログの部分や、ショッピングをパーソナライズして推奨する展開、プラットフォームの中でショッピング可能なピンの数を増やしたりするといったことがありました。今後も、キーワードはやはりショッピングの体験をよりよくしていくということだと思います。
なので、ショッピングは単に物を買うことではなく、比較検討やオフラインのデパートやショップに行っていろいろと見ながら、こんなのいいねと思うような経験を、いわゆるショッピング体験として、われわれのプラットフォームの中でもやっていただけるようになっていきたいと思っています。
直近では、AIを活用したファッション通販プラットフォームのTHE YESというアメリカの会社を買収しましたが、その点もその流れに合致しています。
あと、Pinterestの新CEOのBill Readyのバックグラウンドもコマースとペイメントです。こういった動きからも、ショッピング体験をものすごくよくしていこうとしているというのが分かります。ショッピングAPIもローンチし、今後はこのへんがより強化されていく方向なのだろうなと考えています。
中川:ではショッピングがフォーカスエリアということで。
井上:フォーカスの一つです。
中川:分かりました。やはり広告主のピナーへの“提案力”が問われますね。ふわっとしたものを検索している人に、こういうものがあるのですよと、どこまで本質を突いた提案ができるかがパフォーマンスを左右しそうです。
弊社の話をさせていただくと、弊社は運用型広告レポート作成支援システムを開発・提供しているのですが、広告代理店さんからも広告主さんからも「Pinterestにはいつ対応しますか」というお問い合わせがあります。
やはり実感としても引き合いが強いと感じているところなのですが、あらためて広告主がPinterestを出稿すべき理由、セールスポイントを教えていただけますか。
井上:繰り返しになりますが、一番の特徴がリーチできるユーザーの状況です。要はアイデアを探している状況だけれどニーズが顕在化していない、そういったユーザーに対して早い段階でリーチできるのが一番のメリットだと思いますし、なかなか他社さんで提供できてない価値だと思うので、そこをしっかりと目指せるものだと思っていただきたいです。
あとはやはり、Pinterestユーザーは能動的にポジティブに何かをやりたい、買いたいという人たちなので、結果的に購買単価が高いユーザーが集まっているといわれています。
なので、その辺でアクション取りたい、何か買いたい、そして実際に単価の高いお客さんがいるというのは、広告主さんにとっても、それを支援する広告代理店さんにとっても、非常にプラスになると思います。
実際に、他のプラットフォームの利用者よりもPinterestユーザーは2倍多く消費をしていて、ホーム、ファッション、ビューティについて1回当たりの決済時の金額は85%高いという調査結果**があるようです。
** 米 Dynata調査:2021年4月
中川:倍近くですか。
井上:はい。これはPinterestユーザーの非常に大きな特徴といえるでしょう。しかも広告を見るときに何かを探しているマインドにあるので、先ほど言ったとおり、広告としてというよりも欲しかったものが見つかってよかった、と本当にポジティブに捉えていただける可能性が非常に高いプラットフォームです。まずはトライしていただきたいですね。
例えば「レザーの財布」と検索すると広告感のない感じで出てくるのですよ。でも実際よく見ると、広告と書いてあって広告なのです。
中川:広告とは分かりづらい、きれいなクリエイティブなのですね。
井上:まさしく。魅力的なビジュアルのもののほうがパフォーマンスが高くなる傾向はあります。
中川:広告主さんが出稿されるとき、Pinterestさんの中でクリエイティブ審査はあるのですか。
井上:もちろんあります。明文化された形ですと、いわゆる広告ポリシーがあってそこに細かく書いてあります。単なる見た目だけの問題ではなく、その広告を見て飛んだ先に一貫した内容が載っているかどうかとか、そういった広告体験という意味でのクオリティや、ビジュアル的にもちゃんと分かりやすく表現されているかというのはあるので、一定以上のクリエイティブの質は担保したいという思想があります。
あとは実際に出たとしても、体験としてよくない広告はやはり非表示になったり、本当に悪い広告だとリポートされたり、といったことになります。
中川:広告主に対してクリエイティブ制作支援もされているのですか。
井上:いわゆるクリエイティブストラテジストといった専門家が社内におり、大規模なキャンペーンなどに対してアドバイスをさせていただくことがあります。
中川:ニーズはありますよね。
井上:はい。これからもやっていこうと思っています。規模の小さなキャンペーンに対しても、クリエイティブの素案を作成・ご提案できるような支援もしていきたいです。これは特徴的なニーズの一つだと思っています。
中川:では最後に、井上さんの個人的な目標や将来の展望を教えてください。
井上:個人的には、前職も含めて中小ビジネス、それからスタートアップ支援にかなりパッションを置いています。以前もコンピュータを中小ビジネスのマーケットに売っていくグローバル企業にいたのですが、日本の経済にとって重要で、かつ、企業数として99.7%を占める中小ビジネスの現場の方々は、やはりリソースや使えるツールが限られています。当時はお客さまが必要な製品・サービスを無駄のない価格でご提供することで、最新のテクノロジーを全ての中小ビジネスの方々が活用できるようにすることに使命感を持って取り組んでいました。
その後、自分がマーケターとしてやっていく中で、世の中のデジタル化が進んできましたが、マーケティング自体は特別なものでなくていいのに…という思いがありました。そのときに前職と出会い、それを中小ビジネスの方々に広める活動をしてきました。
そうした中でPinterestは、先ほど申し上げたようにビジュアルベースなので、日本だからこそより活用できるプラットフォームだと思っています。ビジュアルベースで誰でも自分の会社の商品やサービスを提案できるチャンスが与えられる、そういったプラットフォームを広めていきたいです。そして、それによってマーケティングの民主化を進めていきたい。この点に尽きます。
より多くの中小ビジネス、スタートアップの皆さんにこういったものの価値に気付いていただき、そのことにご賛同くださる広告代理店さんと一緒にいろいろな事例をつくっていって、Pinterestグローバルの中でも日本の中小ビジネスの方々がこんなうまく使っているよという事例が共有されるようにしていきたいと思っています。
中川:井上さんのこのSMBに対する情熱と一貫性は素晴らしいですね。
井上:前職でもそうだったのですが、地方に行ってトレーニングやイベントでお話しすると、ものすごく喜んでいただけるんですよ。「このプラットフォームがなかったらこのビジネスなかったですよね」というのを経験して、やはり大事だなと思ったのです。それと同じかそれ以上のインパクトをPinterestは与えられると個人的に思っています。
中川:分かりました。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。