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『プラットフォームの思想を知れば、これからの広告運用が見える』連載の趣旨
デジタル技術の進化により、年々増え続ける広告プラットフォーム。しかも各媒体でサイレントを含むアップデートが繰り返され、新機能を使いこなすことに手一杯になっている運用者の方も多いのではないだろうか。しかし、普段機能の一つ一つに目を向けていると分からないものだが、それらはもっと根幹の部分にある「プラットフォームとしての思想」が反映された結果として、生み出された機能であるはずだ。
ユーザーベースドな広告運用が大事だといわれている今だからこそ、各プラットフォームの思想を理解し、これからの広告運用に向き合うためのマインドセットを再確認することが大事なのではないだろうか。本連載では「どういう思いでプラットフォームが立ち上がり、その思想がサービスにどう反映されているのか」をテーマに進める。
今回、プラットフォームの思想を伺った方:Outbrain Japan株式会社の上野正博さんと飯嶋攝子さん
第7回となる今回は、オープンウェブ上のレコメンデーション・プラットフォームを提供するリーディングカンパニー Outbrain Japan株式会社のマネージング・ディレクター 上野正博さんと、ヘッド オブ ミッドマーケット セールスの飯嶋攝子(せつこ)さんにお話を伺った。
話し手:
Outbrain Japan株式会社
マネージング・ディレクター
上野正博さん
ヘッド オブ ミッドマーケット セールス
飯嶋攝子さん
聞き手:
アタラ合同会社
CEO 杉原剛
マネージャー/コンサルタント 高瀬優
マクロデータとCookieを用いて、ユーザーの興味・関心のある記事や広告をレコメンドする
高瀬:Outbrainの誕生について教えてください。
上野:創業者はヤロン・ガライとオリ・ラハブという2人のイスラエル人です。オリは現在CTOで、ヤロン・ガライはずっとCEOを務めています。ヤロンはとにかく膨大な量の本や記事を読む人で、ウェブサイト上でも雑誌と同じような「自分に興味のある物がページをめくる感覚で次々と表示される」という体験ができないものか、という思いから、”レコメンデーション”が生まれました。CEOやCFOが拠点としているHQはニューヨークにあり、最も大きな開発部門はイスラエルにございます。
当初Outbrainでは、広告モデルではなく、媒体のページビュー数を増やしていくためのレコメンデーションエンジンを提供していました。ページビューが増えると、媒体社様にとって、一般的な広告枠(Googleさんなど)が増えるというメリットがあるため、我々のレコメンデーションエンジンを使っていただけるようになったことが始まりです。
高瀬:上野さんがOutbrainのマネージング・ディレクターに就任された背景を伺ってもよろしいですか。
上野:私は2016年から2019年までBuzzFeed Japanの社長をやっていたので、コンテンツを作ってお金に換える大変さを知っています。良いものを作っても読まれるとは限らないですし、逆にこれがどうしてすごく再生されるの?というものもあります。
ただ、それを経験したからこそ媒体の役に立ちたいという思いがありました。私はリクルートが最初の会社だったのですが、当時から「広告=情報」という考え方を持っていたので、Outbrainの考えに共感したというのは大きいですね。
高瀬:ありがとうございます。御社が広告のビジネスにも参入されたきっかけも教えてください。
上野:我々のレコメンデーション機能を活用すれば、ユーザー体験を邪魔することなく、広告であることは伝えながらも「情報」として、ユーザーにきちんと伝えることができる、と考えたことがきっかけです。
高瀬:提供サービスはパブリッシャーのサービスから始められて、現在はパブリッシャー向けと広告主向けの二軸ということですね。
上野:はい。
高瀬:どういった仕組みで精度の高いレコメンデーションを実現されていらっしゃるのでしょうか。
上野:広告や記事のランディングページ(以下、LP)のコンテンツ、配信面のコンテキスト(文脈)、そしてユーザーがどんな興味を持ってるか、その三つの情報をエンジンに入れ込んで、相関関係の一番強いもの、興味・関心を持たれやすいものを配信していくというのが軸です。例えば、コロナ関連の記事を読んだ人は、コロナ関連の記事をさらに読むことはもちろん、加えて健康、グルメに関する記事や海外の状況に関する記事を読む傾向がある、といった関連性を見つけていくのが、マクロデータになります。個人データというのは、Aさんは午前中は政治経済の記事を読みがちで、午後になると芸能やスポーツ系の記事を読みがち、といったもので、これについては、Cookieを使っています。
マクロデータとCookie、この二つの組み合わせで、レコメンデーションを行っています。
高瀬:LPのコンテンツも加味して、ということですか。
上野:LPも記事コンテンツと見なしています。例えば、カメラに興味・関心がある人がガジェット系の記事を読んで、その中でもカメラ関係の記事を読んでいればカメラの広告を表示する、というのは分かりやすい文脈だと思います。それだけではなく、実際にカメラを使用する場面、例えば「ペットを撮る」とか「旅行中に撮影する」といった使用を想定して、旅行関係の記事の下にカメラの記事を表示する、といった具合です。
高瀬:旅行関係の記事を見ている人も旅行先で写真を撮るであろうという観点で、その人にとって最適な情報かもしれないというアルゴリズムで、旅行関連の記事にひも付けてカメラの広告主の広告を出すということをされているのですね。アルゴリズムの中身について、以前、Taboola Japan株式会社さんにこの企画でインタビューさせていただいた際、わりと似たようなお話をされていました。そこはあまり違いはないのですか。
上野:お互いにアルゴリズムのチューニングといった本当の中身まで分かっている人はひと握りだと思いますし、僕らはそこまではお互いに理解していません。ただ、彼らが配信している日本の媒体と我々が配信している媒体は異なるので、記事データをどれだけためられるかというスピード感、またデータの質と量は異なるといえるでしょう。
高瀬:それでは、御社のネットワーク在庫の特徴はどんなところでしょうか。
上野:約300媒体とパートナーシップ契約を結んでおります。読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞といった新聞社様とのお取り組みは弊社の特徴の一つでもありますが、ここ数年で地方新聞社様とのお取り組みも非常に増えました。スポーツ新聞や海外メディア、ネットに特化した媒体も入っており、媒体のジャンルは幅広いです。特に、プロが記事を書いている媒体が多いというのが特徴です。日経さんとのお取引も先日、開始しております。
高瀬:ジャンルがこれだけ幅広いと全体最適化という観点でアルゴリズムのチューニングはしやすいですか。
上野:はい。どんなエンジンでもそうですが、やはりデータが多ければ多いほど精度は上がっていきます。
高瀬:そこがある意味、特徴でもあり強みでもあり得るということですね。
上野:はい。ちなみにリーチでいうとスマホが約8割にのぼります。スマホが約4,500万UU、PCが約1,300万UUなので、日本のオーディエンスは約5,800万人ぐらいです。
興味・関心によるターゲティングをかけた状態で配信をする「オートターゲティング」とは
高瀬:ありがとうございます。運用者として興味があるところなのですが、実際に広告プラットフォームとして、どういった入札戦略やターゲティングメニューを使えるのか教えていただけますか。
飯嶋:まず、ターゲティングについてお話しします。Outbrainの特徴の一つである、デフォルトでデモグラフィックや年齢、性別というようなターゲティングを最初に切るということは基本的にしません。あくまでもユーザーが興味を持っているコンテンツを、間口を広げた形で提供するというのが始まりになっています。
アルゴリズムの根幹、LPの内容、配信面のコンテキスト、ユーザーの興味・関心、これらを掛け合わせて自動でターゲティングをかけているものを「オートターゲティング」と呼んでいます。この業界ではノンターゲティングのことをブロード配信とよくいいますが、Outbrainにおいてはそのブロード配信という概念はなく、興味・関心によるターゲティングをかけた状態で配信をすることをオートターゲティングと呼ばせていただいています。
高瀬:広告配信にレコメンドの仕組みをそのまま使うということですよね。
飯嶋:そうです。つまり、今、皆さまが用意ドン!で一斉に同じサイトの同じ記事を読んだとしても、それぞれレコメンドされるコンテンツが違うというのが、このオートターゲティングの世界観です。
それ以外では、いわゆる「リターゲティング配信」やコンバージョンポイントなどの「類似拡張配信」、また「インタレストターゲティング配信」はユーザーが読んでいる記事のジャンルを指定して配信ができるもので、特に直近24時間以内にそのジャンルの記事に接触したユーザーにターゲティングをかけていくものになります。
「コンテキストターゲティング配信」は、広告が掲載されるメディアの記事の内容(コンテキスト)を指定できる手法になります。こちらはCookieの情報を一切必要としません。コンテキストの種類は310種類あり、例えばスポーツの記事の下、というような形の指定も可能ですが、スポーツの中でも「ゴルフ」、「サッカー」または「野球」の記事といった細部まで指定できる配信方法です。
ちなみに、使い方としては、オートターゲティングから開始していただき、その後Cookie対策に特化したコンテキストターゲティングを同時にご利用いただくことをおすすめしています。
高瀬:御社が用意した310個のコンテキストのカテゴリーから選べるということですね。
飯嶋:はい。最大100個まで指定可能です。皆さま、おおよそ60〜70個選んでいただいて、相性のいいコンテキストを見つけていく形をとられています。
杉原:結構選ぶのですね。オートターゲティングは御社の強みをとてもよく生かすことができる、ということですね。類似拡張配信とリターゲティング配信はイメージしやすいですが、あえてコンテキストやインタレストを選ぶケースはどういった場合ですか。
飯嶋:例えば「ビジネス」というインタレストで考えてみてください。実際、BtoB商材を扱うお客さまが、インタレストターゲティングでストレートに「ビジネス」のインタレストを選択されることもあります。一方で「保険」や「車」など直接ビジネスに関係がない商材を扱うお客さまが「ビジネス」というインタレストを選択されるケースもあります。車は、やはり高所得者層の方が購入される可能性が高いため、そのような方は積極的にビジネスの記事を読んでいる確率が高いのではないか、というような推論でビジネス記事に対してターゲティングをする、というイメージです。
記事と広告、双方の内容が直接的にマッチするインタレストに絞ってターゲティングし、リーチできるユーザーを狭めていくというよりも、新たに相性の良い興味・関心を持っているユーザーを発掘していくのがインタレスト配信、またコンテキスト配信で目指していることになります。
高瀬:つまり、幅広い価格帯の商品に対応しているということですか。
上野:そうですね。全体でいうと、さきほど申し上げたような媒体をオープンウェブ上で読んでおられる方々なので、ユーザー層は幅広いのが特徴です。特に30代以上のユーザーが多く、世帯年収も平均より高い傾向です。ご活用いただいている広告主様の業界としては、自動車や金融、飲料、また最近はテレビCMでも同じことがいえると思いますが、健康食品も多いです。
飯嶋:コスメ業界のお客さまも増えており、先ほどのコンテキストターゲティングをご活用いただいているケースが多いです。クライアントさまとしては、美容系のコンテキストの下のみに掲載したいというご要望が多いですが、弊社のデータから見ると、もちろん美容系のコンテキストをご利用いただくことに併せて、ペット関係の記事や、お子さまの教育の記事の下に掲載することで、他社プラットフォームではなかなかターゲティング対象になりにくいユーザーにリーチできており、ご好評いただいております。
高瀬:その辺りは、なかなか思い浮かばないですよね。
飯嶋:そうですね。一貫して決め付けのターゲティングを行わないという点は、まだまだご理解いただけないこともあるのですが、実際に使っていただくことでスケールしていくというのは弊社の勝ちパターンだと思います。
上野:例えば「購入」がKPIの広告主様であれば、コンバージョンを最大化させるような機能もあります。そのKPIの切り方、立て方によってご利用いただく機能が異なってきます。
継続して使うことでコンバージョンの獲得の効率を上げるConversion Bid Strategy
高瀬:今のお話に関連して、使用できる入札戦略も簡単に伺えますか。
飯嶋:コンバージョンの定義は「購入」はもちろん、実際の購入よりもう少し浅い、例えば「ページ遷移」や「滞在時間」でもいいのですが、それぞれのクライアントさまのKPIに応じて、コンバージョンを最大化するために自動で入札を変えていくConversion Bid Strategy(コンバージョン・ビッド・ストラテジー、CBS)というシステムがあります。こちらに関しては、基本的にはアルゴリズムが自動で各メディア、各セクションに応じて入札を変えていくので、費用対効果が良いユーザーを多くお持ちのメディアには、より入札を強化してコンバージョンを最大化するという機能です。
具体的には「〇〇〇なメディアは全体として効率が良い傾向がある」といった弊社が所有するビッグデータをスタート時から適用させることで、キャンペーン初期から最適化をかけていき、徐々に実際のキャンペーンパフォーマンスも学習材料として取り入れながら、自動で最適化してくれる機能がCBSです。
高瀬:ということは、獲得できるコンバージョンが増えていくと学習も進んで効率も上がっていくということですか。
飯嶋:はい。継続してご利用いただいて、より獲得の効率を上げていくという学習型のシステムになっています。
上野:GoogleさんでもCriteoさんでもRTB Houseさんでも同じだと思いますが、離陸するまではやはり少し時間がかかりますよね。なので、せっかく開始していただいたのに、30万円分だけ試してKPIにミートしないからといってやめられてしまうのは非常にもったいないことです。
高瀬:なるほど。ファネルでいうと、どういった層に使われるケースが多いですか。
上野:いわゆるアッパーファネル、ミドルファネル、ローワーファネルでいうと、今までのレコメンデーションウィジェットの使われ方は、ミドルファネルがメインだったかと思います。CBSについては、KPIの設定方法により、ミドルファネルに加えて、ローワーファネルでお使いいただく方も増えています。
飯嶋:また、CBSはコンバージョンをKPIとされているお客さま向けですが、先日Engagement Bid Strategy(エンゲージメント・ビッド・ストラテジー、EBS)という商品もリリースしました。こちらは、アッパーファネルやミドルファネルに向けたキャンペーンにお使いいただくことを想定しており、その名の通り、エンゲージメント、例えばサイト滞在時間やセッションごとのPV数などをKPIとしているお客さまにご活用いただければと考えています。
Outbrainの広告フォーマットを使うメリット
高瀬:ちなみに、パフォーマンス観点だとGoogle 広告やFacebook広告が最初の選択肢として挙げられる中で、御社の広告プラットフォームを使うメリットを教えてください。
上野:まず言えることは、他プラットフォームとの重複についてですね。ユーザーの重複はあるものの、他プラットフォームとの広告の見え方や広告接触タイミングが異なるため、同じユーザーでも広告の捉え方が違ってきます。MSNを例に挙げると、MSNブラウザを利用しているユーザーはGoogleなどをメインに利用しているユーザーと比較して、コンバージョンしやすい傾向にあります。そういったユーザーはFacebookのウォールの中にいないこともあるので、メディアプランニングの際にターゲットを使い分けてください、ということはお伝えしています。
高瀬:リーチの観点もありますか。
上野:リーチの観点もそうですし、弊社のオーディエンスネットワークの中には新規のお客さまが多くいらっしゃいます。
飯嶋:実際に、クリックユーザーの新規率を計測すると、低くても約80%以上になることが多いです。また、BtoB系の商材でユーザー層が限定的な場合でも、新規のクリック率が5か月連続90%以上という実績もございます。新規クリック率が上がると、コンバージョンの新規率も上がるため、結果的に新規顧客が増えていくということになります。
高瀬:それはレコメンドウィジェットで、ネイティブ広告の形で表示されるからですか。
飯嶋:はい。おそらく他の広告枠や広告フォーマットでは反応しないユーザーが、ユーザーにとって付加価値のある情報をコンテンツという形で提供しているネイティブ広告で接触して、結果的にコンバージョンにつながっているのではないかと考えます。
上野:ただ、ネイティブ広告、弊社を筆頭に何年もお付き合いいただいていて、慣れている会社さんや代理店さんはいいのですが、ネイティブ広告専門のLPを作るのは手間がかかるのも事実です。よって、以前「工数がとれないのであればFacebook広告やGoogle 広告で使っているLPをそのままネイティブ広告に使ってください」といって失敗したケースもありました。広告枠という入り口とLPでの親和性という面がずれてしまいますので、やはりネイティブ広告には相応のLPが必要なのです。今、インプレッションは全体で110億から120億ぐらいあるので、LPの作り方、タイトルとサムネイルの作り方に関して、業種ごとにある程度ナレッジがたまっている代理店さんは強いです。
高瀬:Google 広告やFacebook広告と同じスタンスでやろうとすると、うまくいかないのですね。
上野:そうですね。
Cookieレス時代に向けて
高瀬:なるほど。では、次はわりと大きめな話になりますが、Cookieレス時代に向けた御社の戦略があれば伺いたいです。2021年に上場し、video intelligence AGという会社を買収されたり、ネイティブヘッダービディングソリューションの提供を開始されたりなど、活発な動きをされているので、その辺りも絡めて教えてください。
上野:弊社が提供できるCookieレス時代の解決策としては、コンテキシャルターゲティングが挙げられます。それが完璧にCookieの代替になるかというと正直そうではありませんが、少なくとも一つの手段にはなると思っています。テキストだけではなく、動画もカバーしていこうということで「video intelligence AG」を買収しました。スイスの会社で、まだ日本での展開はこれからになりますが、いよいよ動画でのコンテキシャルターゲティングが実用化することになります。
また、ヘッダービディングソリューションに関しては少し異なります。今まで主に記事下のウィジェットに特化してきたのですが、その枠が例えば、今後毎年30%ずつ増えていくかというと、それは非現実的な話ですよね。しかし、会社としては当然、年々成長を目指す必要があるので、ヘッダービディングソリューションを通じて、既存の空いている広告枠のリーチを買えるようにしよう、というものです。
高瀬:ヘッダービディングソリューションの在庫にも、記事コンテンツの文脈に合った広告が配信されていくのですか。
上野:そうですね。まだまだ成長途上で在庫確保はこれからになりますが、ヘッダービディングソリューションに関しては弊社が記事下のウィジェットでお付き合いのある媒体に対して広告枠確保の提案をしていくので、ユーザーもずれません。
高瀬:Cookieレスという観点だとコンテキストターゲティングがありますし、広告在庫やフォーマットという観点では動画やヘッダービディングソリューションで在庫を増やしているのですね。
上野:あとは、グローバルの大手ニュースメディアなど、多くのサブスクライバーを抱えていらっしゃる企業だと、弊社のキャンペーンでファーストパーティデータを活用していきましょう、というようなご提案はこれから出てくるかもしれません。
高瀬:video intelligence AGの買収に関しては、例えばコネクテッドTVも視野に入ってきますか。
上野:入ってくると思います。弊社は動画のコンテンツを持っていないですし、かといってテキストメディアの方々も動画を持っていないと思うので、おそらくですが、日本でいうと、大手の通信社さんなどのニュースプロバイダーからそういったものを仕入れさせていただいて、それを媒体さんにはめ込んで、広告の収益を分けるといったモデルになるかもしれませんね。
高瀬:コネクテッドTV向けに、欧米だといろいろなパブリッシャーさんもコンテンツ提供をしています。日本でもそれが進んでいけば在庫になり得るということですか。
上野:そうだと思います。
高瀬:では、再びCookieレスに関係することなのですが、今コンテキストターゲティングが結構盛り上がってきていて、それ以外にもサードパーティCookieの代替含め、いろいろなソリューションが出てきています。その動向を上野さんはどのように見ていらっしゃいますか。
上野:日本はApple端末の比率が高いので難しいですよね。GoogleさんもFLoCから変わってTopicsを提供しようとしていますが、根本的にApple端末の上でブロックされるとさすがのGoogleさんでもきついだろうと考えます。なので、これというソリューションは僕らも持っていないですし、この半年間マーケターや代理店の方も、やはり皆さん悩んでいらっしゃいますよね。
高瀬:GoogleのTopicsは、現時点で350のカテゴリしかなく、カテゴリ数が増えていくとしてもFLoCと比較して少なくなるでしょう。今まではCookieが使えたのでオーディエンスターゲティングフォーカスだったデジタル広告は、今後はどうなり得ると思いますか。
上野:オーディエンスターゲティングは推測が入るのでCookieを使った最終的なリターゲティングに比べたら、どうしても精度が落ちます。そこは致し方ないと思います。僕がマーケターの立場だったら、来年の年末にはその現実が来てしまうので、今からできるだけいろいろなものを少しずつ試しながらナレッジをためていくしかないと思います。
本来のオープンウェブにもう一度回帰していく?
高瀬:では、Cookiesレス時代では、ウォールドガーデンとオープンウェブの在り方はどのように変化していくと思いますか。
上野:日本ではまだそこまでではありませんが、ヨーロッパでは、ウォールドガーデンに対する意見は相当厳しくなってきていますよね。例えば、Yahoo! JAPANさんはヨーロッパでコストが合わないからもうやめるという判断をされたと思います。そういった企業は今後増えるかもしれません。
高瀬:プライバシー保護に加えて独禁法関連の圧力もかかっているので、ウォールドガーデンの覇権でいうと若干弱まっていくという見方でしょうか。
上野:本来のオープンウェブにもう一度回帰していく可能性はあると思います。ただ、日本には楽天経済圏やZ(Zホールディングス)経済圏というものがすでに存在しています。例えばソフトバンクモバイルを使っていて、PayPayを使っていて、LOHACOとYahoo!ショッピングを中心に買い物して、というような人たちと、楽天モバイルを使っていて、楽天市場で買い物して、楽天トラベルで旅行に行き、楽天ポイントをためる、というような人たちは、そこはもうウォールドガーデンが入ってしまっているので、そのウォールドガーデンをこれから切り崩すのは厳しいでしょうね。
高瀬:TikTokなどの比較的新しいSNSが分かりやすいですが、今まで広告事業に参入してこなかった新興ウォールドガーデンもどんどん出てくる中、オープンウェブはもちろん、既存のウォールドガーデンが今後どう立ち向かっていくのかという点に興味があります。
上野:マーケターの方々はいま大変だと思います。でも10年前とは異なり、消費財やアパレルだけではなく金融系でもそうですが、検索からの流入はサイトトラフィック流入の3分の1もありません。売り上げでいうと、先ほどおっしゃったようなTikTokやInstagramを使ったり、効率がいいからとGoogle 広告やYahoo!広告やFacebook広告などを使いながら運用していらっしゃると思うのですが、全部を掛け合わせてどのようにしてユーザーを獲得していくかというロジックは、より複雑になっています。マスメディア広告を打ってどうやってTwitterでフォローさせるかとか、ストラテジーが大変複雑になってきているので、これだけやっておいたらいいですよ、という時代はもう終わると思います。
つまり、日本においても、例えば一昔前までは「うちはYahoo!のプロです!Yahoo!のことは何でも聞いてください!」というような代理店さんがいらっしゃったと思うんですけど、それだけではもう通用しなくなってくるでしょう。そういった意味でも、より大きな予算を持った広告主さんがインハウス化に向かってきているのかもしれません。
高瀬:確かに、特定の広告プラットフォームに売り上げを依存していた代理店は厳しくなってくるかもしれないですね。
上野:僕らは正直言ってTikTokの使い方は分からないですし、中には決して高いとはいえないクオリティーでなぜそんなにも反応があるんだろう、と思ってしまいます(笑)。先ほど、弊社はプロの書き手の方が多い媒体社さんとのお付き合いが多いと申し上げましたが、プロの書き手がいなくなるとYahoo!ニュースさんなどのウォールの中で記事を読んでいるユーザーが読む記事がなくなってしまいますので、そこは絶対に守らないといけない。そうしたメディアを守っていくことに対する思いは強いです。
高瀬:ちなみに、OPENERSというメディアで上野さんがインタビューを受けていた記事で、媒体社と広告主と読者をつなぐ三角形の話がありましたね。今の話ともつながっていくと思うのですが、その三角形の、上野さんが考える今後のあるべき姿と、御社がその中で果たしていく役割やお考えがあれば教えてください。
※参考リンク:
上野:媒体社と広告主とユーザー、その三つのお客さまの正三角形を少しでも崩すと、つまり、広告主に有利に働くようにしたり、媒体社に有利になるようページビューを稼ぐための嘘の記事を掲載するといったことをすると、それは読者であるユーザーさんにとって、いい事ではない、と分かると思います。小学校で習ったと思いますが、正三角形の真ん中にしか円は入らないので、その立場であり続けないといけないとは常に考えています。
杉原:正三角形、現状ではどうなっていますか。
上野:できるだけ頑張っています。
一同:(笑)。
上野:媒体側が一番課題を抱えていらっしゃいますよね。例えば、昔は絶対に駅でスポーツ新聞を買っていた人たちがコロナ禍の影響で、出勤する回数が極端に減ったことで、スポーツ新聞の売上も減少していると聞いています。紙媒体全体を通して、発行部数が下がっているというのもよく耳にします。ですから、このコロナ禍の苦境の中、少しでもメディアの広告収入をお手伝いさせていただき、皆さまに踏ん張っていただくほかありません。
飯嶋:弊社のグローバルにおけるミッションとしても、そういったライトハウスという信念はありますね。ミッションをきちんと理解して、正三角形の中の円を作っていこう、という思いをグローバル全体で持っているというのはあります。
杉原:なるほど。本日はありがとうございました。
※このインタビューは、2022年2月に行ったものです。
左から、高瀬(アタラ)、飯嶋(Outbrain)、上野(Outbrain)、杉原(アタラ)
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