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『プラットフォームの思想を知れば、これからの広告運用が見える』連載の趣旨
デジタル技術の進化により、年々増え続ける広告プラットフォーム。しかも各媒体でサイレントを含むアップデートが繰り返され、新機能を使いこなすことに手一杯になっている運用者の方も多いのではないだろうか。しかし、普段機能の一つ一つに目を向けていると分からないものだが、それらはもっと根幹の部分にある「プラットフォームとしての思想」が反映された結果として、生み出された機能であるはずだ。
ユーザーベースドな広告運用が大事だといわれている今だからこそ、各プラットフォームの思想を理解し、これからの広告運用に向き合うためのマインドセットを再確認することが大事なのではないだろうか。本連載では「どういう思いでプラットフォームが立ち上がり、その思想がサービスにどう反映されているのか」をテーマに進める。
今回、プラットフォームの思想を伺った方:GumGumの若栗直和さん、松本亮さん、趙アリスさん
第5回となる今回は、コンテクスチュアル広告のソリューションを提供する、米国のAI企業GumGum(ガムガム)の日本代表を務める、マネージングディレクターの若栗直和さんと、Head Of Salesの松本亮さん、シニアアカウントマネージャーの趙アリスさんにお話を伺った。
話し手:
GumGum
マネージングディレクター
若栗直和さん
ヘッドオブセールス
松本亮さん
シニアアカウントマネージャー
趙アリスさん
聞き手:
アタラ合同会社
執行役員/シニアコンサルタント
清水一樹
画像認識技術、言語解析技術を広告の世界に
清水:御社についてご紹介いただけますか。
若栗:GumGumは、2007年から2008年にかけてアメリカの西海岸サンタモニカで創業された会社です。最もコアな技術であるAIを使ったマシンラーニングをバックボーンに、画像認識技術を使って、いろいろな領域の事業を変えていこうというスピリットで始まりました。そこが弊社の一番根底にある思想だと思います。当初は、それを使って広告とスポーツそして歯科治療の世界を変えていこうとしていました。
清水:歯科治療ですか?
若栗:全く違うものなのですが、それだけ汎用性のある非常にレベルの高い画像認識技術を使って、変えられる自信があったということが動機です。
今、歯科治療とスポーツの会社は別会社として独立しており、GumGumは100パーセント広告にフォーカスしています。画像認識技術に言語の中身を人間と同じぐらいのレベルで解析する言語解析技術を組み合わせて、われわれが通常やっているコンテクスチュアル広告ターゲティングに生かしていこうとしています。
それをベースにして広告の世界をどのように変えたいのかというと、そもそもインターネット広告の在り方に大きな疑問を抱いていたスターティングポイントがあります。特に画像認識技術を持っているところから始まっているので、例えば画像が多く含まれるパブリッシャーさんのコンテンツがうまく広告に活用されていないことが、大きな課題としてありました。
パブリッシャーさんから見ても、自分たちのコンテンツにそぐわないような広告が出てしまうとか、それを見ているユーザーの方にも印象があまり良くないとか、ということもあります。あとは実際に、せっかくいい画像があるのに、こういったところにちゃんと親和性のあるような広告を出すことができないという機会損失があるので、それをなんとか変えられないかということで始まりました。
現在、マーケットとしては北米を中心にカナダ、アメリカ、UK、日本で展開しており、直近ではアメリカの大手リッチメディアのJust Premiumという会社を買収しました。それによってドイツやフランス、オランダなどヨーロッパ各国に関しても事業展開していく予定です。
チーム体制でコンサルティングから運用まで
清水:GumGumという社名の由来も教えてください。
若栗:諸説あるのですが、ガムはいろいろなものを引き付けますよね。ガムが、例えば画像解析やAIの中心にあって広告を引き付けたり、スポーツを引き付けたり、あとはデンタルも引き付けたり、それ以外のものも引き付けて、いろいろな業種に活用できるのではないかという、今後の可能性に期待を込めた名前として付けたというのが一つ目の説で、われわれとしても最も納得している説です。
清水:ありがとうございます。では、皆さんの自己紹介もお願いします。
若栗:私は20年以上広告の世界にいるのですが、もとからデジタルにフォーカスしていたわけではなく、いわゆるブランディングやクリエーティブにフォーカスしていました。2000年にオグルヴィに入社し、インターナショナルブランドのアジア・パシフィックでのマーケティングや広告活動をサポートする仕事をし、そのあとGumGumになります。
GumGumはテクノロジーの力が他の企業に比べても格段に上だというのは、いろいろな人から話を聞いていました。最初は会社についてよく分からなかったのですが、エンジニアの方の話を聞いたり、US本社の人の話を聞いたりしているうちに、いろいろな知識を身に付けていく上で技術がすごいというのと、この技術を使えば明らかに今後の広告の在り方を変えていけるのではないかと思うようになりました。
そのバックグラウンドには、広告はいやらしいもの、倫理観がないものという一面がどうしてもあります。僕は20年以上ずっと広告をやっているのですが、そこがずっと引っ掛かっていました。倫理観があるものができない限り、社会貢献性は低いだろうと思っていました。しかし、この技術を使って、プライバシーを大事にしながら新しい広告体験をつくっていくことができれば、非常に倫理的な世界観がつくれるのではないかと思ったのです。自分が新しいマーケットでそれをリードできるのが、ものすごく面白そうだと感じました。
松本:私は広告主サイドにずっといて、いわゆるマーケティングからセールスまで、上流から下流までやってきました。実際に自分が選定したメディアをインターネット広告に流すというときに、どうしても手法として限られるといいますか、1ユーザーとしてこれは本当に1個のタッチポイントとして正しい在り方なのだろうか、ということをずっと感じていました。GumGumは、ユーザーが見ている関連する広告と、あとはそこで見せる広告の豊かさといったリッチクリエーティブに対して「おそらくユーザー心理から考えると、こういうものが求められているのだろう」と。若栗と同じで、これを日本に広めていくことが面白いだろうなと思って入社しました。
趙:趙アリスです。中国出身なのですが、東京を拠点として外資系広告代理店で、戦略プランニングとメディアプランニングの仕事をしてきました。最先端のテクノロジーを使ってデジタル広告の変革を目指しているGumGumのビジョンの可能性に惹かれて2年前に入社し、今はシニアアカウントマネージャーをしています。現在も外資系のブランドを中心に、大手企業向けのキャンペーンの提案から設計、運営、レポーティングなど一通りの業務を手掛けています。
清水:組織の人数構成は、どうなっているのですか。
若栗:日本の中でいうと今は20人弱の規模の組織で、その中でセールスチームとアカウントマネジメントで半分を占めています。セールスは提案やコンサルティングをするのですが、アカウントマネージャーはキャンペーンが決まって、そこから全ての運用からレポーティング、次回のキャンペーンへ向けた布石まで担当するプロジェクトマネジメント的なところがあります。アカウントマネージャーがよくオペレーションの中で仕事をするのがデザインチームです。弊社はインハウスでクリエーティブも制作しているので、専属のデザイナーが2名います。あとはアドオペレーションという広告の運用です。それは直接純広告的な配信もしますし、いわゆるプログラマティック配信もしますし、そういったチームを国内とUSとで連携してやっております。他にも、日本でのパブリッシャーネットワークを開拓しているパブリッシャー開発チームもあります。
清水:ありがとうございます。運用面も自分たちで対応するとのことですが、広告代理店などのパートナーにお任せするということはされていないのですか。
若栗:一部お任せしています。例えばターゲティングの設定やクリエーティブの開発、ラッピングなどは全部われわれのほうでやらなければいけないのですが、できたものをお渡しして、あとはDSPさんのほうで実際に配信の開始から実際の運用の最適化までお願いします、という形を一部取っています。
清水:DSPというと、Googleディスプレイ&ビデオ360など接続できると思うのですが、お願いする範囲は、最適化というのはキャンペーンが開始されるスケジューリングの設定やコストコントロールまでをおっしゃっていますか。
若栗:全体のバジェットという意味ではコストコントロールもそうです。あと、コンテクスチュアルターゲティングだと異なる文脈を複数設定するのですが、例えばどの文脈が一番パフォーマンスが良くて、そこに予算を充てていくとか、逆にパフォーマンスが低いところは落としていくとか、そういった運用という感じでしょうか。
清水:文脈とターゲティングも含めて一応ワンターゲティングのパックを社内でつくりながら、それをDSPの側に置いていって、あとはコントロールしてもらうということですね。
松本:その辺のハンドリングをDSPさんに渡すまでをアカウントマネージャーなどが携わってコントロールして、DSPさんとクライアントさん側、広告主さん側、代理店さん側と一緒に、ではどういう文脈に充てるのがベストかというのを彼女たちと私たちセールスが一緒になってコンサルテーションに入らせてもらう、というイメージです。
倫理観を重視し、最適な広告体験をつくる
清水:ありがとうございます。先ほどAliceさんがGumGumのビジョンに惹かれたと話がありましたが、御社のビジョンをお聞かせいただけますか。
若栗:弊社は、やはり倫理観を非常に大事にしています。では倫理観とはなんなのかというと、実際に広告に関わる方々全てが、ちゃんとハッピーになるようなものだと認識しています。例えば、その広告を見ているユーザーが嫌な広告体験をせずに好意的な広告体験ができる、それによって有益な情報を得ることができる、という当たり前の形です。
ブランド側としてみれば、関心を持っているユーザーに対してちゃんと届けるために、適切な環境で広告を出すことができます。もう一つは、パブリッシャー側でも自社のコンテンツにマッチした内容の広告を出してあげることで、彼らが持っているコンテンツの価値をより一層高めることができる。つまり、その三者がそれぞれ皆さん確実にハッピーになるようにということを根底に持ってやっています。
最近だと、Cookieを使わないとか個人情報に依存しないとか、そういった話が注目を集めているので、Cookieが使えないからコンテクスチュアル(※)でしょという文脈で注目を集めているのですが、われわれがもともと持っているのはCookieの代替として成功しようということではなく、あくまで最適な広告体験をつくってあげようという考え方です。そのために画像解析も言語解析も使うし、クリエーティブの力も使うし、パブリッシャーも優良なパブリッシャーをわれわれがちゃんと選んで交渉して集めてくる。そういったことをやっております。
とはいえ、おそらく、われわれのように12年以上もコンテクスチュアル広告の技術やノウハウを磨き続けている会社は世界にないと思うので、Cookieレスによって大きく注目されるようになったという感じです。
※コンテクスチュアルターゲティングは、Webページのキーワードや画像などを解析し、広告出稿主の商品に興味をもつユーザーが訪問しそうなWebページを抽出、広告をマッチングさせる手法
清水:ありがとうございます。そんなコンテクスチュアル領域の中で、GumGumさんらしい言語解析の考え方についてもお聞かせいただけますか。
若栗:われわれがやっている言語解析は、キーワードだけではなく画像の要素も含めてピックアップして、スコアリングをしてあげるということをAIがやっています。そのAIのスコアリングによって、どの文脈に一番適切なのかというのを、アメリカのIABという団体が設定しているIABカテゴリーのどれかに当てはめてあげるという、そういった文脈診断もやっているのです。おそらくGoogleさんの場合は、IABの照合はやっていらっしゃらないと思います。
松本:例えば「マスク」という単語には、予防用のマスクと女性が使うビューティー用のフェースマスクがありますよね。この二つは同じ「マスク」というキーワードでも、意味合いも文脈もまったく違います。それをキーワード単位だけで見ると、どちらがどうというのは言い難いのですが、他のキーワードやそこに含まれる画像の情報などをトータルでスコアリングすることで、これはヘルスケア関連の記事で、これはビューティー関連の記事と分けることができます。そこの違いはあるのではないかと思います。
清水:なるほど。言語の部分について非常によく理解できましたし、GumGumさんらしい画像の部分も理解はしたのですが、日本でカルチャーとなっている言語解析に関しては、どれぐらいの信頼性があるのでしょうか。
若栗:日本には2017年に参入しているのですが、その数年前からアメリカのエンジニアリングのチーム内にあるNatural Language Processing(NLP)チームに日本人が常駐しています。彼らが実際に、そのマシンにいろいろな日本語を覚えさせて、アノテーションを通して精度を高めていくということを今も日々やっているのです。そのレベルは今、英語と同じような精度で解析ができるというところまできています。
一つのベンチマークでしかないのですが、例えば今、アメリカでMR認証というものがあります。Media Rating Council(※)はご存じだと思いますが、その中には、いわゆるコンテンツ解析とブランドセーフティという項目があります。さらに、その中にプロパティレベルとコンテンツレベルという二つのカテゴリーがあります。プロパティレベルは画像を除いた言語だけの要素を分析でき、それに関しては、いろいろなコンテクスチュアルベンダーもおそらく認証を取っているはずです。最近、われわれは画像も含めて総合的に内容を診断できる認証を受けている、唯一の独立系のベンダーになりました。
その認証を現在は英語だけで取っているのですが、日本が一つだけ遅れているのは、動画の中身について日本語を使って同じようなレベルで解析できるかどうかという点です。そこに関して今はまだ検証を続けており、順調にいけば年内には無事に同じ認証が取れるのではないかと思っています。それでいうと、英語とまったく同じレベルで解析ができるといえるでしょう。
※Media Rating Council:MRCは米広告業界団体IABとともにビューアブルインプレッションのガイドライン策定のために動いてきた、メディア調査会社の監査や認定審査を行なう業界団体
コンテクスチュアル広告は新しいもの
清水:ありがとうございます。コンテクスチュアル広告を始める上で、何を意識したほうがいいのでしょうか。
松本:コンテクスチュアルターゲティングについて、国内の広告主と代理店さんの方200名に聞いて調査を行いました。まず、コンテクスチュアルターゲティング自体の認知度を聞いたら、だいたい6割の方が知っていました。一方、実際に使い方を熟知されていますかという質問には、分かると答えた方は約7パーセントしかいませんでした。何が言いたいかというと、コンテクスチュアル広告自体はなんとなく頭の中でイメージがあっても、実際に使いこなせるかというと現段階ではそうではなく、皆さんにとって、とにかく新しいものだということです。
コンテクスチュアルターゲティングの使い方については、私たちのほうがよく理解できているつもりなので、私たちが最適と思えるやり方をご提案させていただいています。コンテクスチュアルでユーザーに広告を配信して当ててみたときに、どういう反応があるだろうとか、どういうインサイトがそこから得られるだろうというところは、従来型のオーディエンスデータを使った配信で得られる結果やインサイトとはやり方が変わるので、ここの部分を私たちは提唱させていただいています。
趙:コンテクスチュアルターゲティングの設計には四つの段階があると思っています。一つはデザイン、二つ目が実際に実行するアクション、三つ目がインサイトを見るという部分、あとはオプティマイゼーションの四つになるのですが、最初のデザインのところが他のプラットフォーマーさんと大きく違っています。要はやり方が違うのです。最初にどのようなモーメント、コンテクスチュアルがそのブランドさんの商材・サービスに適しているかを仮説で何個か出していただきます。従来型の配信の結果や、もしかしたらブランドさんがされているような調査の内容、デモグラフィック、ペルソナといった情報をベースに、きっとこのユーザーだったらこのコンテキストが合うだろう、というものを三つほど用意していただいて、そこに対して、どのようなクリエーティブを見せるのがいいのかというのも考えていただきます。三つほど仮説ベースで配信してみて、ではどれがパフォーマンスが良くて、それがどういった結果を得られたのかというのを抽出し、次のキャンペーンにつなげるとかを決めていきます。
現在、ペルソナはデモグラフィックベースで設計されることが多いと思うのですが、得られた結果から、このペルソナの人たちが反応する一番のモーメントはなんだろうというところで、もしかすると、かなり上流のマーケティングプランニングのところから戦略づくりのところに、そこを結果として入れてもらって、もっとホリスティックな戦略をマーケター側が立てられるようになるといいな、というのが私たちの理想です。
清水:ありがとうございます。ご紹介できる事例などはありますか。
松本:例えば、とある化粧品メーカーさんはリブランディングをきっかけとしてGumGumを検討してくれました。会社として、おそらくとても大きな取り組みになるので、いちメディアのGumGumだけでリブランディングはできないため、私たちのほうで代理店さんを紹介させていただきました。そして、デジタルキャンペーン設計から、どのようなメディアでどのようなジャンルにするかというのを2021年の8月から開始しました。面白いデータがありまして、コンバージョンユーザーにはどのようなユーザーがいるかなどについては、クライアントさんの側で見ているのですが、コンバージョンユーザーの中で初回接触がGumGumだというユーザーが全体の80パーセントぐらいいるそうなのです。つまり、ファーストタッチでちゃんとGumGumを見たユーザーが最終的にコンバージョンに至る率が他のメディアに比べても高いというのがあったので、そこは評価していただいているポイントだと思います。
清水:GumGumはアトリビューション視点で、最終成果に至るまでに接触し貢献できる配信である、と。
松本:CPA重視のメディアさん、プラットフォーマーさんと変わったところとしては二つあります。一つは単価感が異なってくる点で、もう一つはエンジンだと思っています。やはり、そういったプラットフォーマーさんがファースト・パーティー・データなどを持っているので、どういうユーザーがアクションしやすいかというところのAIは、しっかりとしたものを持っていらっしゃるかなと思うのです。
GumGumは、どちらかというと、AIの最適化が全て広告主さんの狙ったコンテキストを正しく捉えて、そこに対して良いクリエーティブ表現を見せていくということをやろうとするのですが、やはりコストが掛かってきてしまいます。その意味で、すごく数が取れていればCPAで勝負ができるとは思いますが、やはり、そこはどうしても役割が違うのです。そういった意味では、組み合わせが大事なのではないでしょうか。
逆に、他社さんでできないところをGumGumが補完をしていく。例えば、正しくコンテクスチュアルの文脈レベルまで捉えていって、しかもブランドセーフティな環境でリッチなクリエーティブでユーザー体験をかなり良いものにしていくといったところは、やはり私たちのほうにアドバンテージがあると思っています。その領域は、私たちでしっかりとした準顕在層をある程度顕在化していくということは、できるのではないでしょうか。他社さんのコンテクスチュアルだけを組み合わせて、ファネル別にアプローチをするということも、一つ考えてみていただけるものなのではないかと私は思いました。
デジタル広告の中で今、全体設計で認証フェーズから落とし込んでフルパネルで統一していくという考え方は、そこまで確立されていないと思うので、その意味でも、それができるのはアッパーファネルやミドルファネル向けのコンテクスチュアルベンダーであるGumGumだと思っています。
若栗:あとは1インプレッションの質だと思います。そこに対して投資をしたいブランドさん、クライアントさん向けにデザインされているといえます。全てのブランドが、必ずしもそこに投資したいと思っていないかもしれませんが、語弊を恐れずに言えば、お客さまを選ぶようなものかもしれません。
ユーザーの反応をどう測るか
清水:では、GumGumの景色の中で、日本と海外の違いや今後の日本市場の展望について、お聞かせいただけますか。
若栗:日本と海外の違いについて、デジタルにブランディングという発想を持っているか持っていないかというところで言うと、日本のデジタルマーケターの方々は、どうしてもCPAのほうに意識がいきがちで、ブランディングという発想はないことが多いように感じられます。アメリカも完全に浸透しているとは言い切れないと思うのですが、日本と比べると圧倒的に、ブランディングで評価しよう、どういうユーザーに対して印象を持ってもらったかということをちゃんと正しく評価して使っていきましょう、ということで評価されているお客さんが結構いると聞いています。
清水:海外では、どのような形でブランディグの評価をされているのでしょうか。
若栗:実際、広告に対して、例えばクリックしたかとか、実際にそこからコンバージョンにつながったかということよりも、例えばその広告がどのような状態で表示されたかというアテンションを中心にしたような指標、あとはそこに対してどれぐらいのエンゲージメントがあったのかというところを中心に、アテンションメトリックをこれから実施していきましょう、といったことを大手のグローバルクライアントさんはお話ししているようです。
やはり、メジャーメントとしては当然アクションを取るほうが簡単だと思うのですが、そうではなく、ユーザーの反応をどうやって測っていくのかというのが、彼らがブランディングの指標として考えているところだと私は理解しています。
清水:ありがとうございます。アテンションメトリックといった発想は非常に面白いですね。
若栗:ありがとうございます。日本だとブランディングの指標はブランドリスト調査などにどうしても頼りがちなのです。一つの指標になりうるとは思うのですが、完全に全てを捉え切れているわけではないと思います。おそらく複数の指標を組み合わせて、今後どんどん評価できるようにするべきなのではないかという意味で、アテンションメトリックはかなり可能性があると思っています。
清水:結局、本来あるべき1インプレッションの価値でブランド評価をしていくという目的でGumGumという広告を配信したときに、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)で分析する、というのも、ブランド評価の継続の一つの手段なのかもしれませんね。
松本:そこは大変ポテンシャルを感じております。GumGumはブランディング領域で使っていただくことが多いのですが、いわゆるCPGという領域の、例えば飲料メーカーさんだと、実購買は店頭が95パーセントで、宣伝をやったとしてもコロナ禍で最終的にオフラインでの購買がないとあまり意味がない、という話がどうしてもあります。MMMの考え方にもつながると思うのですが、それがあるので、私たちは実は、購入率がどのぐらいGumGum接触ユーザーと非接触ユーザーで変わったかを見ることがあるのですが、それでいくとGumGum接触者のほうが非接触者に比べて2倍以上というケースも結構あるのです。
そのため、実はUSでもそういった指標で、コスト・パー・ストア・ビジットとか、要はセールスリフトを実購買で見ていくということもやっているようです。どうしても、ある程度配信規模を担保しないと効果は出てこないのですが、規模感を持つキャンペーンがあればそういった効果も出てきているので、オフラインであってもオンラインであっても、そういう計測の仕方ができると思います。
結局、脳内でブランドに対していろいろな好感度が高いとか興味度が高いとかという組み合わせで、最終的にいいタイミングでリターゲティングされてコンバージョンするといったことだと思うので、ロジックは一緒だと思うのですよね。なので、そういったことをオンラインでもできるようになってくると、きっといいのだろうなという希望を持っています。
コンテクスチュアルの精度向上を目指す
清水:ありがとうございます。最後に、今後のアップデートを含めて何かロードマップはありますか。
若栗:まず、コンテクスチュアルの精度が非常に高いという自信があるのですが、これからもどんどん精度を高めていく必要があると思っています。これは、われわれが今後、日本のマーケットに向けてやらなくてはいけないところです。日本語解析の精度を継続的に高めていきつつ、あとは実際にターゲティングが良くても出てくる広告が良くないと、まったくお話にならず、結局、意味がないですよという話になってしまうので、広告表現の部分はいろいろなクライアントさんのニーズに応えられるようなプロダクトを用意していきたいと考えています。
今だと例えば、われわれのメインのプロダクトは6秒ぐらいのアニメーションのものがメインです。マウスオーバーすると拡大したり、中に動画が入っていたりするものがメインなのですが、それだけではなく、例えば、もうすでにクライアントさんがお持ちのアセットがあれば、それをコンテクスチュアルに配信してあげる、そういったニーズにも応えられると思います。
要は、すでにお持ちの規定のバナーをコンテクスチュアルに配信することで、少し効果をリフトアップしてあげると、そういったことができたり、ソーシャルメディアのアセットをお持ちのクライアントさんがいたら、それをそのまま使ってソーシャルメディア以外のところでコンテクスチュアルに配信することで、より広い潜在層にリーチできるようなプロダクトも今、用意しています。このように、プロダクトのバリエーションは継続的にやっているところです。
さらに、USのほうだと動画コンテンツも一つの広告プレースメントの枠として考えられることから、動画のコンテキストを解析して、そのコンテキストに合った広告を動画の中に表示してあげるということも提供しています。日本だと、実際に本当にちゃんとそういった枠を確保できるのかも含めて、いろいろチャレンジがあるのですが、それも確実に今、話として進んでいます。
清水:動画内のコンテクスチュアルというのも、また確かに面白いですね。
若栗:そうなのです。非常に未来感があって面白いです。
もう一つだけ、クリエーティブの話で付け加えさせていただきたいのですが、そういったダイレクト寄りのプロダクトのラインナップを広げつつ、逆の方面のオートクチュールを、さらにオートクチュールするといった方面のプロダクトのクリエイティビティの開発もやっています。一番分かりやすい例だと、最近JustPremiumというヨーロッパのリッチクリエーティブの会社をGumGumが買収して、われわれの一部として使っていくという話でやっています。そこがつくっているクリエーティブは本当に超オートクチュールという感じなので、その両方をやることでコンテクスチュアルターゲティングを軸に表現の幅、ニーズに合わせて、できるだけ広いエリアをカバーできるようにするという感じでやっています。
清水:やはり昨今の運用型広告は、クリエーティブを運用することであると強く考えています。GumGumさんは、そのクリエーティブの要素に非常にコミットしてように感じています。
若栗:ありがとうございます。おそらく、われわれは基本的にメディアのサービスだと思うのですが、その中でクリエーティブをだいぶ重視していて、クライアントさんによっては、われわれのことを、いわゆる広告会社、エージェンシーだと見てしまうケースもあるのですよ。クリエーティブに、そこまで力を入れているところがないからかもしれません。そういったポジショニングは重要だと思っています。
清水:本日はありがとうございました!
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