コンバージョンAPIゲートウェイ提供開始のニュースから、現状の対策手段を整理してみる

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Facebook広告、Instagram広告の効果測定で何ができ、どのような準備がいるのかを考える

少し前のことになりますが、2021年10月20日(米国時間)、Meta が「Continued Improvements to Ad Performance and Measurement(広告のパフォーマンスと効果測定の継続的な改善)」というタイトルでアップデートを発表しました。
 
※参考:


 
この情報から、Facebook 広告(Instagram なども含む)において、アップデートによって何がどう変わったのか、結局のところ現時点では何ができるのか、法改正を控える2022年に向けて何を準備する必要があるのか、について、年の瀬も押し迫ってきましたので、2021年の最後に整理してみようと思います。

 

アップデートの内容をおさらい

まずは各種アップデートのタイトルを書き出すと、

  • Easier Conversions API setup
  • Updates to Aggregated Event Measurement
  • New SKAdNetwork campaign capabilities
  • Looking Ahead: Evolving our measurement approach

が今回の内容でした。それぞれ詳細を見ていきたいと思います。
 
 

Easier Conversions API setup(コンバージョンAPIの設定がより簡単に)

これまで実装が大変だったコンバージョンAPIが、コンバージョンAPIゲートウェイの登場によって”簡単に“なった、という趣旨のアナウンスですが、内容を読んで筆者がイベントマネージャ上で作業した上で持った印象としては、特段に実装ハードルが下がったようには思えませんでした。
 
本アップデートで特筆すべきは「ノーコードで実装可」ということで、発表でも以下の通りコメントしています。

The Conversions API Gateway greatly reduces the time it takes to set up the Conversions API. Available as an option in Events Manager, the Conversions API Gateway can help you to set up the Conversions API quickly and without developer resources or coding experience.
 

(コンバージョンAPIゲートウェイは、コンバージョンAPIのセットアップに要する時間を大幅に短縮します。イベントマネージャーのオプションとして利用できるコンバージョンAPIゲートウェイは、開発者のリソースやコーディング経験がなくても、コンバージョンAPIを素早くセットアップするのに役立ちます。)

 
確かに、イベントマネージャ上で操作しても画面の指示に従ってドメインの入力やクリックをしていくだけで設定そのものは進められるのですが、実装を完了させるには AWS(Amazon Web Service)のサーバーを契約済みである必要があります。
 
AWSの契約主体は事業主になりますので、費用についてもそうですが、契約に際してサーバーサイドエンジニアリングのコスト(費用+工数)も必要となると、ノーコードで開発コストが下げられるとはいえ、これを”簡単”と定義していいかについては少々疑問が残ります。
 
※広告計測でサーバー(普通タグじゃないの)?AWSの契約だけすればコンバージョンAPIゲートウェイが使えるの?といった疑問が残った方、以下のブログで大変丁寧に解説されていますのでご参照ください。


 

Updates to Aggregated Event Measurement(合算イベント測定が機能強化)

今年はドメイン認証や合算イベント測定の対応を済まされた方が多かった一年だと思います。その合算イベント測定が以下の通りアップデートされています。
 

  • ウェブイベントを使って新設されたキャンペーンでは、ビュースルーアトリビューションをデフォルトで有効にした
  • 広告主に関連する全ウェブページからのコンバージョンを考慮
    • 例1:jasper.com にランディング後、jasper.com.uk で購入完了
    • 例2:Jasper’s Market(自社ドメインは jasper.com)が、marketplace.com にユーザーをランディングさせる広告を配信
  • App AEM(Aggregated Event Measurement for App:アプリイベントの合算イベント測定)のグローバル展開を順次開始
  • (今後実装予定)App AEMでアプリ内のアクションに基づくリターゲティングキャンペーンを実施可能へ

 
合算イベント測定の機能を全体的に強化し、効果計測とターゲティングの精度向上を図る、といったところでしょうか。
 
調査機関によってデータはまちまちですが、モバイルアプリ解析サービスを提供するFlurryのデータによると、トラッキングをオプトインしているユーザーはグローバルで24パーセントに留まっており(iOS 14.5 のローンチ直後は多くが数パーセント台とレポートしていましたので多少上がっているようです)7~8割程度のユーザーはトラッキングを拒否している、と考えるのが現実的でしょう。
 

Image: App Tracking Transparency Opt-In Rate – Monthly Updates

 
そんな中、本機能はiOS 14.5以降のデバイスからアクセスするユーザーのウェブイベントの測定を可能にするプロトコルとして提供され、ローンチ当初はスケジュール優先で提供されたためか制限も多く設けられていましたが、アップデートによって本来想定していた姿に近づいたのではと思います。
 
なお、アップデートの内容を十分に享受する方法として、以下のヘルプセンターにベストプラクティスがまとめられています。
 

 
ビジネスにとって最も価値があるデータを送信するイベントを選択します。」や「広告の目標が広告費用対効果(ROAS)である場合は、イベント設定に追加するバリューセットを増やします。」など一見当たり前のように思いますが、広告のパフォーマンスには極めて重要なポイントも含まれていますので、設定済みの方も、ぜひ一度お目通しいただけたらと思います。
 
 

New SKAdNetwork campaign capabilities(SKAdNetwork キャンペーンの新機能)

We’re expanding campaign management and attribution capabilities to help improve the performance of your app ads.
 
(アプリ広告のパフォーマンス向上を支援するため、キャンペーン管理とアトリビューション機能を拡張します。)

という導入で、モバイルアプリインストール広告を配信している広告アカウントにビュースルーコンバージョンアトリビューションを適用したこと一つのアプリIDにつき最大九つの広告アカウントで九つの SKAdNetwork キャンペーンを実行できるようにしたこと、の二点を発表しています。
 
今年の8月、Meta の計測システムの不具合によって、Facebook アプリを使用する iPhone 12 ユーザーに SKAdNetwork を介して配信したアプリインストールキャンペーンが過小評価されている、と広告主にアラートを発していました。
 


 
この不具合は2021年2月から約7ヶ月間にわたって影響を及ぼしていましたが、発見・修正が遅れた要因として、2020年11月時点で SKAdNetwork のバグがありテストが困難だったこと、Apple がプライバシー保護のため共有するデータに制限をかけていたこと、SKAdNetwork 自体が新しいかつ複雑な技術であり開発現場に混乱をもたらしていたことなどが考えられたためか(あるいはインパクトが限定的だったためか)、大きな問題にはなっていません。
 
今回の発表も “help improve the performance of your app ads(アプリ広告のパフォーマンスを向上させる)” ものとして発表していますが、実際には「今まで計測できていなかったビュースルーコンバージョンを適切に計測できるようにした」という、ある種の修正に該当するように思います。もちろん、その結果、広告パフォーマンスを向上させることにつながりますが。
 
 

Looking Ahead: Evolving our measurement approach(今後の展望: 計測アプローチの進化)

発表の最後は、広告主たちがより良いマーケティングの意思決定を下せるよう、今後のアプローチを決める三つの優先事項を紹介して締めくくっています。
 

  • Measuring Total Value(トータルバリューの測定)
  • Actionable Insights(実用的/アクショナブルなインサイト)
  • Privacy at the Core(中核となるプライバシー)

 
今年の10月にオーガニック投稿用のABテストツールの提供が一部で開始していますが、これは “Measuring Total Value” の一環で、広告・オーガニック投稿・ショップなど、全てのマーケティング価値を明確化しながら、事業主が投資先と最適化の対象を適切に判断できるよう取り組んでいくことを発表しています。
 
また、それらのデータ測定に要する時間を削減し、より実用的な環境を整えていく、というのが二つ目のポイントである “Actionable Insights” です。
 
Facebook Business Suiteのインサイト、コマースマネージャのインサイト、広告マネージャには、すぐに適用可能な推奨事項のメッセージが表示されるようになるようです。
 
アカウントごとにカスタマイズされた推奨事項が表示される、といわれると Google 広告の [最適化案] タブをイメージしましたが、以下の通り各種ステータスの更新と併せてポップアップ形式でも表示されるようで、マーケターが開いているページに応じて表示するアクションも変わるような仕様になるのかもしれません。

For example, a pop-up may alert you to a newly available lookalike audience, alongside insights on how it might improve your performance.
 
例えば、新たに利用可能になった類似オーディエンスがあると、それがどのようにパフォーマンス向上に寄与するかのインサイトと一緒にポップアップが表示されます。
(意訳です)

 
最後の “Privacy at the Core” については具体的なアクションというよりも宣言に近く「Private Lift のような、我々のツールの将来のバージョンに搭載されるプライバシー強化の技術も含め、プライバシーへの配慮は、我々が構築するあらゆる計測用プロダクトの中核をなすものです。」とコメントしています。
 
 

現時点で何ができるのか、何が必要なのか

2021年12月の段階では、Cookie の動作状況に左右されない計測手段として、広告主(or 広告代理店)が選択できるオプションは以下の通りです。
 

  1. コンバージョンAPIを実装する:
    1. 直接統合:広告主のサーバーから Meta のサーバーへ直接データ送信
    2. コンバージョンAPIをサポートしているコマースプラットフォームを利用する
    3. サーバーサイドGTM(+GA4)、Tealium など統合済みのパートナーを利用する
    4. サービスベンダーによる実装支援を受ける
    5. AWSを契約してコンバージョンAPIゲートウェイを使う

     

  2. コンバージョンAPIの実装が不可:
    1. 手動詳細マッチングを使う

 
高精度で広告効果を計測すること自体ももちろん重要ですが、計測精度はターゲティングや入札の精度にも色濃く影響します。
 
計測精度を上げられないままでは、本来コンバージョンに貢献していた広告配信のインプレッションデータが欠落することになりますので、Meta が認識可能な範囲では広告パフォーマンスはなかなか改善されず、予測される実績が上向かないため徐々に配信ボリュームが減り、やがて打つ手もなくなってくる、という結果は想像に難くありません。
 
これは、どの広告主にも等しく当てはまることですので、まずは 1-1 から 1-5 までの方法でコンバージョンAPIの実装ができないか、検討することを強く推奨します。それぞれの実装手段が具体的にどういった方法になるのか、どのような手順で進めるのかなどについては、以下のリソースを参考にしていただければと思います。
 
1-1. 直接統合: 広告主のサーバーから Meta のサーバーへ直接データ送信

おそらく最も高難易度で多くの開発工数を要する手段ですが、メール・電話・実店舗・チャット・システム生成など他の方法では送信できないイベントデータもサポートされています。
 
1-2. コンバージョンAPIをサポートしているコマースプラットフォームを利用する

コーディング不要、画面の指示に従ってクリックしていくだけで設定が完了するという手軽さが魅力ですが、当然ながらプラットフォームの利用コストなどは考慮する必要があります。
 
1-3. サーバーサイドGTM(+GA4)、Tealium など統合済みのパートナーを利用する

1-2 と同じく、基本的にはノーコードで実装を完了できますが、サーバーサイドGTMであれば Google Cloud Platform のコストがかかりますし、他のカスタマーデータプラットフォームやシステムインテグレーターを利用する場合でも同様です。
 
1-4. サービスベンダーによる実装支援を受ける

中立性を保つため、本記事では具体的なサービスの紹介は控えますが「コンバージョンAPI 導入支援」などで検索していただくと複数のサービスが見つかるかと思います。
 
1-5. AWSを契約してコンバージョンAPIゲートウェイを使う


上述した通り、こちらもノーコードで設定できますが、設定するには AWS を利用できる状況にしておくことが必須になります。逆に AWS を利用中の広告主であれば、これ以上ないオプションでしょう。
 
 
また、コンバージョンAPIがどの方法でも実装できない場合、まだ諦めずに「2-1. 手動詳細マッチングを使う」をご検討ください。Facebook 広告を配信する広告主であれば、ほぼ間違いなくウェブサイトに実装しているピクセルを使って、デバイスやブラウザをまたいでもトラッキングを可能にする方法です。
 
具体的には、ウェブサイトを訪問したユーザーのデータを JSON オブジェクトとしてフォーマットし、実装済みのピクセルにパラメーターとしてコードを書き足すのですが、端的に申し上げれば「数行のコードを追記するだけで Meta のサーバーにファーストパーティーデータを送信できる」ようになります。
 
下図の通り、メールアドレスや氏名、電話番号、外部IDなどファーストパーティーデータとして取得するであろうものは、すでにパラメーターが提供されていますし、ユーザーデータ以外の value 関連のイベントパラメーターも一通り網羅されていますので、コンバージョンAPIの代替手段として活用できます。
 

Image: Meta for Developers

 

 
ただし、ウェブサイト側でユーザーデータを取得していることが手動詳細マッチング導入の大前提になりますし、リアルタイムに複数かつ動的なイベントを Meta のサーバーに送信する場合は、開発コストゼロというわけにもいかないかと思いますので、コーディングの知識がないマーケターが実装を主導する場合、エンジニアのサポートがあることが望ましいでしょう。
 
なお、実際のところ、ドメイン認証後にウェブ/アプリイベントの合算イベント測定のみを設定しているアカウントも多いかと思いますが、この場合 Cookie が動作しない環境への対策が取れておらず(合算イベント測定は ATT への対策です)、コンバージョンAPIや手動詳細マッチングを実装したアカウントとは比べること自体が難しいほど計測精度に差が出るはずです。
 
将来的な広告パフォーマンスの低下を予防するためには、コンバージョンAPIの実装をまずは検討し、最悪でも手動詳細マッチングを導入する、といった対応方針が求められます。
 
 
以上、冒頭で取り上げたニュース記事をおさらいしつつ、”Cookie-less world” の到来に向けて(というより、もう片足を突っ込んでいますが)、2021年12月時点で選択できるオプションをまとめてみました。
 
今回は Facebook 広告を題材にしていますが、APIを使ってファーストパーティーデータを広告プラットフォーム/メディアと共有するソリューションは一般化しつつあり、Google も極めて似た動きをとっています。
 

 
これらは大変テクニカルな内容であり、取り組んでいくこと、考えを巡らせることに対して、腰が重いマーケターも多いかと思います。次々と新しい計測の仕組みやソリューションが登場しますし、その度に調査や関連分野の学習を要します。
 
とても気の重いテーマではあるのですが、対策が取れなかったり、対応の進捗が遅くなったりした場合、ほぼ例外なく機会損失が待っています。
 
すでにコンバージョンデータの一部(あるいは大部分)は欠損し、広告配信を最適化するために必要な情報であるシグナルの種類やサンプル量などが減少することは、機械学習にとって有益な参考書が失われることを意味しており、理論上、対策なしに広告効果の改善はあり得ません。
 
これらの技術的な対応に加え、2022年4月には改正個人情報保護法も施行となりますので、法令上の対応も必要になります(技術面ではOKでも法令上アウト、というケースもありますので、この二つは分けて考えましょう)。
 
今年一年間は外部環境の変化に大きく揺さぶられた年だったかと思いますが、来年もしばらくこのしけはしばらく続くと見込んでいますので、あまり目先の事象にとらわれすぎず、これまで以上に大きな視点で捉えられるよう情報収集を続けたいと思います。
 
 


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