クッキーレス時代の効果計測:DoubleVerify 武田隆さんに聞く

クッキーレス時代の効果計測:DoubleVerify 武田隆さんに聞く

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ユーザーを識別し、情報を記録・保持することができるCookieは、リターゲティングや行動ターゲティング、アトリビューション分析などに幅広く利用されており、企業のデジタルマーケティング活動に欠かせない技術でした。

一方、EUで施行となったGDPRや米国カリフォルニア州のCCPAといった法規制に加え、AppleのITPや2023年を予定しているChromeの3rd Party Cookieサポート終了といったWebブラウザの仕様変更など、グローバルかつ業界全体でCookieの利用を制限する動きが出てきています。

そこで本連載では目前に迫っているクッキーレス時代の到来に向けて、識者との対談を通じ、その全容を明らかにすると同時にマーケターが今から準備できることを明らかにしていければと考えています。

第5回は、国内最大級の結婚準備クチコミ情報サイト「ウエディングパーク」などウエディング専門の五つのメディアを展開する、ブライダル業界のインターネットリーディングカンパニーである株式会社ウエディングパークの助川健太郎さんに、事業主としてのクッキーレス時代との向き合い方について聞きました。

※参考リンク:

第6回となる今回は、デジタルメディア測定、データおよび分析のソフトウェアプラットフォーム大手であるDoubleVerifyの日本法人代表 武田隆さんに、クッキーレス時代の効果計測について聞きました。

話し手:
DoubleVerify Japan株式会社
日本代表・カントリーディレクター 武田隆さん

聞き手:
アタラ合同会社
マネージャー/コンサルタント 高瀬優

 

インプレッション品質と広告パフォーマンスの正の相関

高瀬:2023年中に予定されているChromeの3rd Party Cookieサポート終了やAppleのITPにより、広告業界はターゲティングだけではなく広告の効果計測に関しても岐路に立たされているのではないかと感じています。

御社は2008年に設立された老舗のアドテクベンダーですが、その立場から、この状況をどのように見ていらっしゃるのでしょうか。

武田:我々は、このような動きになる以前からテックスタックもデータの管理も100%自社で行っており、もともとプライバシーには厳格な基準を設けています。そのため、もともとCookieにはまったく依存しておらず、ひたすらインプレッションの質を追い求めてきました。

前職のGoogle時代も、ずっとオーディエンスベースのマーケティングを見てきましたが、プライバシーに配慮する中でCookieが使えなくなるのは時代の流れなので仕方がありませんし、業界全体を見渡してもCookieに頼っていたテクノロジーは多々あるものの、そういったものを見直すべき時期に来ています。

そうした流れの中にあっても、インプレッションの品質を担保することで広告のパフォーマンスを必ず上げられる、というのがDoubleVerifyの思想です。弊社が追い求めてきたインプレッションクオリティ、アテンションメトリクスなど、オーディエンスターゲティングではなくもっと多様なパフォーマンス指標が採用されることで、新しい方向に業界全体が向かっていくのではないかと思っています。

リアルタイムでオーセンティック率を監視

高瀬:効果計測の観点でCookieに依存しないソリューションとして、御社は「オーセンティック・アド」という統合指標をお持ちです。オーセンティック・アドに関して、説明していただけますか。

武田:まず、DoubleVerifyはブランドセーフ、フラウドフリー、ビューアブル、それからインジオという主に四つの指標を計測しています。インジオとは、ジオターゲティングに適切にフィットしているかと、ターゲットしたエリアに配信されているか、どれ位のインプレッションが出ているかというものです。

それらを全て重複なく統合した指標をご提供していて、これが「オーセンティック・アド」というソリューションです。全てをクリアした指標なので、ブランドセーフかつビューアブルかつフラウドフリーでジオもちゃんと一致している、そういったインプレッションの数値だけを出すことができます。MRC(Media Rating Council:メディア調査会社の監査や認定審査を行う業界団体)に統合指標としての認定もいただいている、とてもユニークな指標です。

高瀬:MRC認定を受けているというのは非常に素晴らしいですね。DoubleVerifyの管理画面でオーセンティック率をリアルタイムに監視できるイメージでしょうか。

武田:Pinnacleというダッシュボードがあり、このダッシュボードも強みの一つです。オーセンティック・アドのサマリービューでは一番左にオーセンティック率が常に出てきて、どれぐらいブロックされたかやビューアビリティ、アドフラウド、ブランドセーフティー、ジオが別々に出てきます。数時間で新しい情報がアップデートされます。

例えば、何かインシデントが起きてフラグが立ったときには発生場所をデスクトップやアプリ、ウェブ、CTVなどのデバイス別で見ることができます。また、キャンペーン別で見ることもできます。

媒体別で見て、どこで、どのようなインシデントが起きているのかが常に日々更新されていきます。これを見ながら常にアクションを取っていく、というのが基本の運用方法です。YouTubeもSNSも全て別々に見られるようになっています。

MondelēzやVodafoneがKPIに採用

高瀬:リアルタイムでダッシュボード上に可視化されることで、キャンペーンレベルの細かい粒度でインシデントをすぐに検知できるということですね。

武田:最初にオーセンティック率の指標をオプティマイズしていくことで、トータルのオーセンティック率を限りなく100%に近づけるように上げていくのです。例えば、オーセンティック率が96%だと、わりと成績がいいほうですが、4%はなんらかの事象が発生しているので、その中身を全部見ていきます。

それがアドフラウドだったのか、ブランドセーフティーではなかったのか、というのを全媒体別、URL別、ページ単位で見ていくこともできます。アプリも全てタイトル単位で見られます。そして、インシデントが起こったところを分析していきます。

実際の金額に換算すると、予算のうちのいくら分で事象が起こったのか。これをサーバーサイドと連携できれば、シームレスにオプティマイズできるのです。

高瀬:ありがとうございます。オーセンティック・アドの計算方法というのは、御社の中で独自に作り出しているのですか。

武田:はい。

高瀬:ちなみに、これは日々アップデートされているものなのですか。

武田:そうです。ですから特別な分析は必要ありません。最初から自社データで重複なく統合された形で日々見られるというのが最大の強みです。

高瀬:分かりました。さらにMRCの認定を受けていると、クライアントとしても安心感はありますよね。

武田:そうですね。そのため、オーセンティック率をマーケティングのKPIにされるクライアントも多いです。グローバルだとMondelēzやVodafoneが、これをKPIにして常に100に近づけるということを行っています。

さまざまな粒度でリアルタイム分析を実現

高瀬:オーセンティック・アドにパフォーマンスの指標をさらに加えた「オーセンティック・アテンション」というものが直近リリースされました。こちらについてもご説明いただけますか。

武田:はい。オーセンティック・アテンションは、オーセンティック・アドの指標上に新しくエンゲージメントとエクスポージャーという軸を載せるのですが、左側の縦軸がエンゲージメントで、横軸がエクスポージャーです。これにより広告がどう露出しているか、なんらかのインタラクションがあったかが分かります。

エンゲージメントは、スクロールしたり音量を下げたり上げたり、横にしたり縦にしたり、というシグナルを拾っています。エクスポージャーというのは、実際に見られたかどうかや音量あり・なしもそうですし、完全視聴だったかどうかなど、タイム・イン・ビューも含めて全部を総合的にインデックス化している指標です。

平均値である100に対して現状がどうなのかが、常にインデックスで出てきます。例えば、トータルのアテンションインデックスは100に対して76だったとします。内訳を見ていくとエクスポージャーは75しかなく、一方でエンゲージメントは88あった、というふうに細分化して見ていくことができます。

これもキャンペーンやクリエイティブ単位で見られます。クリエイティブは、例えばビューワブルレートが65%で、アテンションインデックス、エクスポージャーインデックスどちらも高かったとします。ただ、これはインプレッション量が少ないので、別のクリエイティブに投資したほうがよいといったような運用が可能です。

サイトや各パブリッシャーのパフォーマンスも同じように見られるので、投資の仕方を考える際の材料になります。

高瀬:なるほど。平均値であるスコア100というのは、クライアントの平均ということですか。

武田:クライアントではなく、過去28日間のDoubleVerify全体データの中での平均を100としています。

高瀬:キャンペーンやプレースメント、クリエイティブという、いろいろな切り口で見られるので、今どこがボトルネックになっているのかを見つけることができるのですね。これは日本で利用する場合は、日本の数値でフォルタリングされますか。

武田:今はグローバルの値です。

クッキーレス時代の新しい計測指標となるか

高瀬:オーセンティック・アテンションの具体的な活用事例があれば、教えてください。

武田:例えばMondelēzさんは、FMCG(日用消費財)を扱っているのでブランドリフトを目的とされていて、MillwardBrownのブランドリフト調査も実施されています。

ですから、例えば広告のキャンペーンごとに取得されている認知度や理解度、購入意向などの数値をオーセンティック・アテンションに入れ、ブランド・リフト・スタディーと突合していきました。

その結果、ブランドリフト系のクライアントでは、エクスポージャー軸が非常に重要だということが分かりました。特にエクスポージャー軸の右側にあることがとても重要で、右側にあるインプレッションのほうが、左側のインプレッションよりもブランドリフト、例えば認知率や購入検討率が高いことが分かったのです。

高瀬:ブランディング目的であればオーセンティック・アドでも事足りる印象なのですが、あえてオーセンティック・アテンションを活用されたのは、何か背景があるのですか。

武田:おっしゃるとおりオーセンティック・アドも取れるのですが、オーセンティック・アテンションを使うと、キャンペーンとクリエイティブそれぞれのパフォーマンスの相関関係が見られます。オーセンティック・アドは、クリエイティブ単位で見ることができない点が大きく異なります。

高瀬:なるほど、分かりました。クッキーレス時代において3rd Party Cookieをベースとしたアトリビューション分析ができなくなる一方、今あらためてMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)やリフト調査が計測手法として見直されているかと思います。

しかしながら、これらの手法においては、クリエイティブ単位といった細かな粒度やリアルタイム性をもった分析は非常に難しいため、御社のオーセンティック・アテンションを併用することには、とても意味があると感じました。

武田:そこはとても大事な部分で、やはり粒度が細かくないと詳細な分析ができないのです。加えて、何ヶ月もかけて分析し、レポートを出すようなやり方ではなく、リアルタイムで常に相関関係が見られるようになったほうが、クライアントもアクションが取りやすいですよね。そこを今、注力しています。

高瀬:パフォーマンス目的での活用事例もありますか。

武田:あります。企業名は出せないのですが、パフォーマンス寄りのコンバージョン目的のクライアントの場合には、エンゲージメント軸が大事になります。コンバージョンと突合した際に、よりエンゲージしているほうがコンバージョンに寄与したということになりますね。

広告そのもののクリックというよりも、表示されているコンテンツとのエンゲージメントが高いほうが、コンバージョン率が上がったという事例です。

高瀬:クリックはしなくても、どのぐらいその広告がユーザーのアテンションを引きつけたかというところが、コンバージョン率と相関性があるということですね。日本国内の事例はありますか。

武田:日本のグローバル電子機器ブランド企業において、オーセンティック・アドでテストを行った結果、オーセンティック率が36%という非常に低いデータが出てしまいました。内容を確認したところ、UGCなどがたくさん出てきました。該当プロダクトが若者向けの製品だったこともあり、かなりきわどい面にも出稿されていましたが、今は90%台まで改善されています。

クリック至上主義からの脱却を

高瀬:以前、Integral Ad Scienceの方にインタビューした際、どうしても日本の広告主はパフォーマンスベースのマーケティングを重要視する傾向が強く、CPC主義だというお話が出ました。

※参考リンク:

アドベリフィケーションの指標においては、特にビューアビリティが日本の広告主に軽視される傾向があるようです。ビューアビリティは、オーセンティック・アドやオーセンティック・アテンションを構成する一つの大きな指標だと思いますが、日本で軽視されがちという状況を踏まえて、日本市場におけるオーセンティック・アド、オーセンティック・アテンションのポテンシャルについては、どのように見ていらっしゃいますか。

武田:クリック至上主義というのは本当に日本独特のカルチャーで「デジタルというのはクリックされてなんぼだ」という信仰があるのでしょうか。しかし、特に動画はそうですが、YouTube広告などはアッパーファネル目的ですよね。つまり、クリックを目的としないデジタル広告が割合的には相当大きく増えてきている中で、まだデジタル=クリック主義に捉える部分が日本にはあります。

インプレッションして広告がユーザーの目に触れる以上、それは管理する必要があります。実際に人間が見たのか、適切な環境で見られているのか。そうした、あまたある指標の中で、クリックというのはほんの一部です。

我々はやはり、インプレッション自体のクオリティを高めて初めてベースが完成すると考えています。その意味ではビューアビリティは非常に重要です。

リーチ・アンド・フリークエンシーは意味を失っていく

武田:もう一つは、クッキーレスな世の中になる上で、リーチ・アンド・フリークエンシーの意味が、おそらくなくなっていくと思います。オーディエンスベースではなくなるわけですが、フリークエンシーも基本的にはオーディエンスをベースにした考え方だからです。何回見られているかによって効果が変わるというのは、かつての考え方です。

クッキーレスになり、オーディエンスベースではなくなっていく中で、アテンションのような指標がしっかり活用できるようになれば、例えばクリエイティブのパフォーマンスがリアルタイムでモニターできるようになります。どのように露出されたかが正しく評価されれば、フリークエンシーはより意味を失っていくでしょう。

高瀬:確かにリーチ・アンド・フリークエンシーは非常に分かりやすい例だと思うのですが、クッキーレスな世界で、いかに広告のパフォーマンスを正確に測っていくかというアプローチにおいて、これまでご説明いただいたオーセンティック・アドやオーセンティック・アテンションといった指標が浸透していくポテンシャルはありそうですね。

武田:そうですよね。個人的には、メディアのクオリティだけではなくクリエイティブのクオリティ、つまり器の中身も当然大事だと思うのです。初めてちゃんと器のお話ができるようになったというのが、オーセンティック・アテンションだと思っています。クリエイティブの中身自体が今どのように効果を上げているのかが分かれば、より的確なアクションというか戦略づくりに役に立つインサイトになるはずなのです。

とはいえ、クリエイティブだけ切り取って評価するのは、おそらく片手落ちです。インプレッションの質とクリエイティブの質というのは両方、同じ土俵でちゃんと評価したほうが絶対に正確ですよね。クリエイティブのA/Bテストや評価テストがそれだけで行われても、メディアの特性とマッチしていないと意味がないですよね。

高瀬:そうですね。ビューアブルであればそれでいいのかというと、そういう話でもないですね。実際にビューアブルかつ、アテンションをちゃんと引きつけられたかというところまで見られると、だいぶ違ってきますね。

武田:はい。だから、もっとアクションやインタラクションを通じてそれが評価できるようになれば、本当のクリエイティブの評価になっていくと思うのです。おそらく今は、ビューアビリティとクリック率といったもので評価するしかありません。しかし、クリック率は小さな一部分の話でしかないですし、ビューアビリティは先ほど言ったように「可能性があった」というだけです。

日々のバロメーターとして指標を見ていく癖を

高瀬:Cookieレス時代に向けて、マーケターが今から準備できることは何だと思いますか。

武田:この時代、常に24時間どこで誰が自社の広告を見ているか分からないですし、24時間お店を開けっぱなしにしておかなければなりません。オールウェイズオンという考え方がありますが、ディスプレイや動画の世界も一緒で、例えばユーザーが作るコンテンツがどんどん大きくなってきているわけですから、UGCを常にチェックしていく必要があります。

半期に一度出てきた数字をもとに何か評価をする場合、その間に起こっていることは、まったく評価の対象になりません。そのときにやったキャンペーンについて評価しても、おそらくそれは何かの要素でデータが出るので、常に高止まりするために何をすべきか、常にアクションを取れるようにする必要があります。

そのため、マーケターのお仕事としては大変だと思います。定期的にMMMをやったり、さまざまな指標を使って評価をして上司に報告したり。それだけではなく日々モニターする必要もあります。

一見大変ですが、テクノロジーの力というのは素晴らしく進化していて、こういったツールを使って何か大きいことが起こる前に常にモニターし、チェックしていれば、より効果的なマーケティング戦略につながっていくと思います。クッキーレスの世界が広まる今こそ、マーケターの皆さんもこういったテクノロジーを駆使されるようになってくると、よいのではないかと思います。

テクノロジーの一つとして弊社のオーセンティック・アドやオーセンティック・アテンションがあるわけですが、こうした指標は、年に一度の健康診断とか、そういう形でお使いになるだけだと非常にもったいないと思っています。年に一度、半期に一度の健康診断とか、何か起こったときに使うとか、そういった保険的にお使いになるのではなく、日々のバロメーターとして使うべきだと思うのです。

高瀬:健康診断の例は、とても面白かったです。マーケターを取り巻く状況は日々変わっているので、今年1年間の結果をもとに来年こうしていきましょう、ということでは遅いという話ですね。

武田:そういうことです。

高瀬:本日はありがとうございました。

※当記事の内容、所属、肩書きなどは、記事公開時点のものです。

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