事業主としてのクッキーレス時代との向き合い方:クッキーレス時代と向き合う 第5回 ウエディングパーク 助川健太郎さんに聞く

事業主としてのクッキーレス時代との向き合い方:クッキーレス時代と向き合う 第5回 ウエディングパーク 助川健太郎さんに聞く

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ユーザーを識別し、情報を記録・保持することができるCookieは、リターゲティングや行動ターゲティング、アトリビューション分析などに幅広く利用されており、企業のデジタルマーケティング活動に欠かせない技術でした。

一方、EUで施行となったGDPRや米国カリフォルニア州のCCPAといった法規制に加え、AppleのITPや2022年を予定しているChromeの3rd Party Cookieサポート終了といったWebブラウザの仕様変更など、グローバルかつ業界全体でCookieの利用を制限する動きが出てきています。

そこで本連載では目前に迫っているクッキーレス時代の到来に向けて、識者との対談を通じ、その全容を明らかにすると同時にマーケターが今から準備できることを明らかにしていければと考えています。

第4回は、日本オラクル Oracle AdvertisingのJAPACマーケティング責任者 横大路牧子さんと、同じくOracle Advertisingのシニアパートナーマネージャー 西川明里さんに、同社が提供するコンテクスチュアルターゲティングのソリューション Oracle Contextual Intelligenceの概要と、クッキーレス時代におけるコンテクスチュアルターゲティングの可能性について聞きました。

※参考リンク:

第5回となる今回は、国内最大級の結婚準備クチコミ情報サイト「ウエディングパーク」など、ウエディング専門の五つのメディアを展開する、ブライダル業界のインターネットリーディングカンパニーである株式会社ウエディングパークの助川健太郎さんに事業主としてのクッキーレス時代との向き合い方について伺いました。

話し手:
株式会社ウエディングパーク
メディア開発本部 マーケティングリード 兼 経営本部 広報・宣伝 助川健太郎さん

聞き手:
アタラ合同会社
マネージャー/コンサルタント 高瀬優

 

想定内だったクッキーレス時代の到来

高瀬:2020年1月、Googleは、Chromeの3rd Party Cookieのサポートを2年以内に終了するという旨の発表を行いました。この発表を受けて、助川さんは率直にどう思われましたか。

助川:一言で言えば「いよいよか」という感じでした。Cookieに関する議論は昔からありましたし、国内外でプライバシー関連の法案整備が進んだことや、AppleのITPも相まって、GoogleがCookieの利用制限について発表すること自体は想定の範囲内でした。

高瀬:2年という猶予期間についてはどう思われますか。

助川:比較的猶予期間があるなと感じました。弊社もそうですが、Google 広告を主体に広告出稿されている企業も多いと思うので、具体的なデータの利用方法が変わってくるのは大前提ですが、Googleを取り巻く世界の構造としては、さほど今と変わらないだろうと思っています。

広告に関しては、Googleが自社で保有している1st Party データもあるため、おそらくCookieベースにしなくてもやりようはあるのだろうと見ています。


高瀬:そこはとても冷静に、俯瞰していらっしゃるということですね。では、クッキーレス時代に向けて現在、御社で取り組んでいること、これから取り組む予定のことを具体的に教えてください。

助川:すでに取り組んでいることとしては、広告配信については想定される影響と今後の見通しをまとめています。具体的にはWebブラウザと広告媒体と広告手法、それぞれの粒度でCookie規制の影響をどう受けているのか、またどのような代替手段があり、どう対応するのかをまとめました。

それに付随して、実際に弊社が出稿中の広告媒体別に、今後の見通しを独自視点でまとめています。それを基にしながら今後の施策としては、デモグラフィックターゲティングやコンテクスチュアルターゲティングといった、脱Cookie的な広告配信手法にチャレンジしていこうと考えています。

また、一度サイトを離脱した方にリターゲティング広告で再来訪を促してアクションしていただく、といった長いカスタマージャーニーのタイムラインを想定するよりも、最初に来訪してくださったときにアクションしたくなるような施策を、Web接客の施策と連動させながら実施していく予定です。例えば、初回訪問していただいた際に、Webサイト上でコンバージョンを促すための動機づけを行うメッセージを出すといったものです。

高瀬:Web接客は、クッキーレスの潮流を受けて導入されたのでしょうか。

助川:Web接客自体は、まったく別の経緯で導入しました。もともと、サイトに来訪していただくユーザーに対して、基本的には一律同様の情報を提供しており、ユーザーごとの個別最適化ができていないという課題があったことが導入したきっかけでした。

加えて、サイトの機能開発からリリース、検証までの時間がかかっていたため、そこを短縮化する狙いもありました。

高瀬:クッキーレス時代に突入する中で、Cookieに依存した従来のOne to Oneマーケティングは難しくなっていくと思います。そんな中で、サイト来訪ユーザーの体験を改善するWeb接客というアプローチは、今後ますます重要になっていきそうです。

助川:そうですね。確かにクッキーレスの潮流でWeb接客の重要性は高まりましたし、ある意味、広告配信との親和性が高まるという側面もありそうです。

マーケターに求められる、情報のキャッチアップ

高瀬:クッキーレス時代に向けて、Googleがイニシアチブを取るPrivacy Sandboxや、The Trade Deskがけん引するUnified ID 2.0、またはコンテクスチュアルターゲティングの躍進など、クッキーレス関連のテクニカルかつ複雑な最新のトレンドが矢継ぎ早に出てきている昨今の状況で、最新情報をキャッチアップするのは、やはり大変ですか。

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助川:事業主サイドにいると情報自体がそこまで入ってくるわけではないので、キャッチアップは本当に大変だと思います。それこそ、Unyoo.jpを拝見したりしています。

また情報自体は入手できても、どんどん複雑化しWebエンジニアリング領域も関わってきているので、非エンジニア領域出身者からすると辛い部分もありますね。

高瀬:そうした知識は、事業主のマーケターの方にも今後は求められてくるのではないかと思っています。

助川:そうですね。この領域に限らず、海外の動向は3~5年後に日本に来るというセオリーがあると思います。その意味では、海外の動きや海外から発信される情報は意識的に見るようにしています。

部署横断で社員一丸となってクッキーレス対応に臨む

高瀬:助川さんには、2019年に開催したUnyoo.jp MeetUp Vol.16 『リターゲティングに寄り添わない』にもご登壇いただきました。イベントの際には、リターゲティング依存からの脱却の必要性は重々理解しているものの、広告パフォーマンスが下がるというリスクを取るのが少し怖いとおっしゃっていました。

※参考リンク:

イベントから2ヶ月ほど経った頃にGoogleの発表があったわけですが、現在はリターゲティング依存からの脱却、代替プランはどのようにお考えですか。

助川:感覚的には当時と今でさほど変わりはありません。しかし、当時と比べて業界各社の動きが明確になってきたため、あらためて状況を整理して経営陣に対してアウトプットして伝えていくということを定期的にやり始めています。

高瀬:デジタルマーケティングの担当部署であれば、クッキーレスの状況もある程度理解できると思いますが、それを他部署や上層部に理解してもらうとなると、重要である一方で非常に難しいところがあります。納得を促す上で、助川さんが心がけていることがあれば教えてください。

助川:テクニカル領域の話ではあるものの、それによってどういったことが起きるかという危機感は抱いてもらっています。毎年、年間の計画を立てるのですが、その際に前述のリスクの話も一緒に伝え、数字にはどういった変化が生じるかということもセットで伝えられるようになったのは、当時と比べて進歩した点かもしれません。

広告経由の流入やコンバージョンは、サービスに対して一定のインパクトがあるため、そこが変わると事業計画にも影響してきます。そうなると「知らなかった」では済まなくなるため、経営層への提言やアウトプットは欠かせません。

一方で今回の規制はサイト自体の機能にも大きく影響を与える可能性があるため、マーケターよりもエンジニアのほうがキャッチアップが進んでいる部分もあり、エンジニアのメンバーからの啓発が行われることもあります。エンジニアは既存機能に対する影響や解決策を考えていると思います。そういった意味でも、他部署との連携は必須ですし、補い合っていく必要があると考えています。

マーケターの本質的なスキルが問われる時代

高瀬:それでは、迫りくるクッキーレス時代に事業主のマーケターに求められることについて、助川さんのご意見を教えていただけますか。

助川:強いて言えば、いわゆるデジタル領域が主力だったマーケターの方も、マーケティングの本質と向き合うときが来たのではないでしょうか。これまでデジタル領域はアドテクノロジーの進化や広告媒体側の機能進化に依存した広告配信が主流になってきていたので、どちらかというと、そちらの方面へのキャッチアップが重要でした。

今後もコホートベースでの興味関心ターゲティングなどは存続すると思いますが、厳密にはこれまでのようなターゲティングはできなくなってくるので、今まで以上にターゲットインサイトを突くようなスキルが必要になってくると思います。

つまり、マーケターの本質的なスキルが問われると思っていて、私も含めデジタル領域出身のマーケターはこれまでの考え方を変えて、マーケティングに向き合う必要性が生じると思います。

高瀬:そういった部分が苦手なマーケターは、どうアクションしたり知識を吸収したりするべきでしょうか。

助川:これまでは情報のキャッチアップを前提に業務にあたっていたと思いますが、今後は原点に立ち返り、過去から学ぶ必要があると思います。マーケティングの書籍を読んだり、周辺領域として例えば行動経済学について学んだりすることは、どのマーケターも共通してやったほうがよいと思います。

また、あらためて自社のサービスや商品がターゲットに対してどのような価値を提供し、課題を解決できるのかを突き詰めて考える訓練をするべきです。それを理解してもらうために、どうメッセージングするかを根本的に整理することは、全マーケターがあらためてやるべきことでしょう。

高瀬:私もクッキーレス時代をきっかけに、マーケターの本質が問われている気がしています。例えばPrivacy Sandboxは、結局今まで3rd Party Cookieが実現していたことを違う形で実現しようとしていますが「Privacy Sandboxで実現できるからいいや」と考えを放棄するのではなく、それを機に事業会社が、そもそもどういったブランド姿勢で、どういったベネフィットをユーザーに提供できるかを見直すべきときが来たのではないかと思います。

助川:弊社はウエディングパーク以外にも関連する姉妹サイトをいくつも持っていますが、広告領域を担当するチームでは、チーム内であらためて各サイトの価値や、どういったメッセージングをしていくべきかを話し合っています。

高瀬:本質をあらためて見直してみようという試みをなさっているのですね。

助川:関連することで言うと、コンテクスチュアルターゲティングは試す予定ですが、いわゆる面への回帰が進むのではないかと考えています。DSPの登場で、面から人へと配信対象が移り変わっていった流れがあるのですが、やはり面によってアクセスする人の感情は変わると思うのです。

例えば楽しいコンテンツに触れているときは前向きになり、そこに広告を出せば受容性が高まり、悲しいニュースに触れているときは気分も落ち込んで受容性が低くなる、といったことはある気がします。

根本から提供できる価値を見直していく過程でコンテクスチュアルターゲティングを行うにしても、ユーザーの感情をしっかり推測して適切にサービスに誘導できるように、人間理解のスキルも別軸で身に付けていこうと思っています。

高瀬:コンテクスチュアルターゲティングも、コンテンツの解析技術が非常に進歩しているため、数年前とは違った精度が実現できると思います。

ただ、コンテクスチュアルターゲティングを行うにしても具体的にどのような仕組みで解析しているのかをある程度理解しておかないと、パフォーマンス以前にリスクが高いと思います。

助川:確かにそうですね。

自社やクライアントのサービスへの理解をより深めることが重要

高瀬:ではクッキーレス時代において、広告会社には何を求めますか。

助川:広告会社には、テクニカルな部分というよりもよりクライアントの事業理解を深め、ターゲットとのコミュニケーション方法を一緒に模索していけるようなスタンスが必要になると思います。

これまでの役割分担では、クライアント側が大枠のコミュニケーション戦略を練り、それをどうターゲットに届けるかの部分を突き詰めるのが広告会社、という分担が多かったと思います。今後は上流の戦略設計の部分から参加できないと、広告会社としての価値を発揮するのは難しくなるのではないでしょうか。

例えば、単にCookieが使えなくなりリターゲティングができなくなるから目標CPAのラインを変えましょう、と提案しても根本解決にはならず、説得力がありません。

高瀬:小手先のテクニックはもう通用しなくなるということですね。よりクライアントのビジネスゴールに伴走するスタンスが大事になってきますね。それでは最後に、クッキーレス時代に向けて、事業主・広告会社問わず、マーケターが準備できることについて伺えますか。

助川:情報のキャッチアップは大前提ですが、前述したようにマーケティングの本質と向き合うことを意識するのが重要だと思うので、書籍を読んだり学んだりすることが必要です。

また、あらためて自社やクライアントのサービスがもたらす価値、いかにしてターゲットの悩みを解決できるか、それをどうメッセージングして理解してもらうかを整理し直すことが大事です。マーケティング活動の当たり前のこと、基本に立ち返る準備が必要です。

高瀬:自社サービスがもたらす価値を伝えるためのメッセージングという観点で、クッキーレス時代におけるブランディング施策についてはどう思われますか。

助川:より重要になってくる側面もあるかもしれません。第一想起をいかに取れるかが重要になるので、最初にタッチポイントを作る上でもブランディングは重要だと思います。

高瀬:本日はありがとうございました!

※当記事の内容、所属、肩書きなどは、記事公開時点のものです。

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