アナリストは医者、分析は健康診断、データは健康データである:小川卓さんに聞く 後編

アナリストは医者、分析は健康診断、データは健康データである:小川卓さんに聞く 後編

アタラ BIツール導入コンサルティングサービス

『アナリティクス賢者訪問』連載の趣旨

アナリティクスに携わる人は多くいますが、それぞれに分析に対する考え方や思いは異なるもの。同連載は、アタラ合同会社コンサルタントの大友が、アナリティクス業界を牽引する著名な方々のもとを訪れ、それぞれの分析に対する考えや、魅力に感じる部分などをお聞きしています。

※前編はこちら:

 

今回の賢者:株式会社HAPPY ANALYTICSの小川卓さん

第7回は、小川卓さん(株式会社HAPPY ANALYTICS)にお話を伺いました。今回は後編記事をお届けします。

話し手
株式会社HAPPY ANALYTICS
代表取締役社長 小川卓さん

聞き手
アタラ合同会社
コンサルタント 大友直人

 

ユーザーの素直な行動心理が表れるのが、アクセス解析の魅力

大友:その後、独立してHAPPY ANALYTICSを立ち上げられましたね。

小川:少しさかのぼるのですが、リクルートに在籍していた2009年からブログを書き始めました。ちょうどアクセス解析を本格的に学んでいた時期だったので、学んだ内容をどんどんブログにアウトプットしていこうと思い、趣味的に始めたのですが、その内容が出版社の目に留まり、2010年に初めて本を出すことになりました。これがきっかけで、アクセス解析に関して情報を発信する機会が増えていきました。

2014年までアマゾンジャパンにいたのですが、その間にも本を数冊出したり、セミナーや勉強会をやらせていただいたりしました。そうするうちに、コンサルティングの相談や分析支援の依頼が来て、それが結構な量になり、独立を考えるようになりました。

独立した大きなきっかけの一つは、それで食べていける見込みがある程度あったからです。加えて、事業会社にいるとどうしても自社のみが改善の対象になってしまいますが、アクセス解析の楽しさや必要性を自社以外のより多くの人に伝えられたら、もっとウェブサイトやインターネットはよくなっていくだろうと思ったからです。

大友:これまでの経歴の中で、一番つらかった瞬間はありますか。

小川:つらかった瞬間はありますが、今となっては全部よい思い出です。でも一つ挙げるとしたら、やはりリクルート時代でしょうね。分析そのものや実装で苦労したことはそこまでありませんが、結局は人間を動かしたり、協力したりが大変だったといえます。特にリクルートはよい意味で個性が強い人が多かったので、コミュニケーション面で苦労した思い出があります。

大友:では、小川さんがアクセス解析や分析をされる際に、どういった部分に魅力を感じられますか。

小川:ユーザーの行動がそのままデータになって表れる点が魅力だと思います。特にアクセス解析だと、例えばユーザーがページに流入してきて、イマイチだと思ったらすぐに帰りますし、よさそうだから読んでみようと思ったらスクロールするし、気になったら次のページに遷移しますよね。そういったものが、データとして非常に素直に出てくると思うのです。

ユーザーアンケートやインタビューも大事ですが、実際に素直な意見は言いづらいと思うのです。一方でアクセス解析データは、ユーザーの素直な行動心理が如実に表れます。そこをきちんと読み解ければ、ビジネスとして価値を生むことができます。

大友:逆に難しいと感じるときもありますか。

小川:アクセス解析は今あるものに対しての、あくまでもデータ取得という形です。例えばウェブサイトやビジネスを伸ばしていこうと思ったときに、分析を通じたサイト改善や集客で改善できる範囲は限られていると思うのです。

悪いサイトや使いづらいサイトを直していったり、今あるコンテンツをより大勢に見てもらったりするための改善はやりやすいですが、そもそもその商品や企画で企業が伝えたいことというのは、アクセス解析だけでは完結できないのです。アクセス解析はあくまでも過去のデータを見て、今あるものに対して評価を下すものですから。その点が難しいと感じています。

大友:ユーザーの行動がそのまま数字に表れるというお話で、清水誠さんと共に提供を開始された「アナリティクスによるCX向上サービス」を思い出しました。本サービスでは、顧客理解のためのデータ統合や個人単位での特性の可視化、接客やMAツールとのデータ連携、デジタル施策の改善提案までを一気通貫でカバーされていますよね。

※参考リンク:


小川:清水さんはずっとコンセプトダイアグラムを提唱されていて、ユーザー軸での分析の重要性を説いてこられましたが、私もその意見に賛同しています。Google アナリティクスやアクセス解析ではユーザーを軸にした分析がしづらく、今まではセッション単位での分析が基本でした。それだと、例えば4回検討して5回目でコンバージョンした場合、そのコンバージョンしたセッションを見ても、トップページからいきなり問い合わせに行ったように見えてしまいます。

コンセプトダイアグラムはユーザー軸なので、ユーザーを軸に改善案を考えることができます。この考えを浸透させたいという話を清水さんとした際に、パッケージ化してサービスに落とし込むことになりました。

大友:小川さんからみて、清水さんのすごみを感じられた瞬間はありますか。

小川:清水さんは先駆者というか、本当にやりたいことに向かってチャレンジングなことをどんどん提唱される方です。私はどちらかというと、アクセス解析をより多くの方に浸透させたいという思いがベースにあります。そのため、書籍執筆やセミナー実施などの草の根活動を通して、より多くの人にアクセス解析を知ってもらいたいのです。

おそらく私は清水さんのようなアプローチはできないし、それは逆もしかりだと思います。そういう意味で、すごいなと感じるとともに、同じ業界で生きる同志として非常に助かっています。


セミナーの開催や書籍の執筆を通して、より多くの人にアクセス解析の魅力を普及させたいという小川さん。

分析のために分析するのではなく、ビジネスをよくするために分析がある

大友:次に、Google アナリティクスについて伺いたいのですが、2020年に発表された「Google アナリティクス 4 プロパティ(以下:GA4)」についてはどう思われますか。

小川:GA4は、単純に難しくなりましたよね。とはいえ、いずれ移行していくとは思いつつ、まだ数年はかかるだろうというのが率直な意見です。今はユニバーサルアナリティクスがまだ使えるのでメインストリームはそこだろうと思いますが、GA4によってさらにユーザー理解に寄せた分析や分析の自動化が今後数年単位で進んでいくのではないでしょうか。

ぜひGoogleさんに実現してほしいと思っているのは、分析を全て自動化してほしいということです。私は分析が楽しくて分析をしているわけではなく、本当にやりたいことは世の中に一つでも多くのよいウェブサイトを増やしたいから分析をしています。そのため、分析の部分が自動化されて業務が短縮化すれば、より多くの時間をサイト改善なりビジネス課題の解決に割けますよね。

例えば運用型広告などは、どんどん自動最適化が進化してきています。アクセス解析の世界では、どうしても考えないといけない変数は多いのですが、そこが自動化される世界に早くなってほしいです。

大友:GA4はまだ発展途上の段階ですね。

小川:まずは仕様を正しく理解する点でも、まだまだブラックボックスな部分が多く、自分たちで探りながら使っている、いわゆる「黎明期」だと思っています。ページビューの計測方法もセッションの定義も変わってしまって、直帰率もなくなりました。

そのあたりの理解やこれまでとの違いを私を含めて今、皆が追いかけているという段階です。本格的な判断ができるのは、GA4を使ってしっかり分析できるようになったタイミングだと思います。

大友:今、伺ったGoogle アナリティクスを含めて、今後5年先、10年先を見据えたアクセス解析業界の在り方や、小川さんが目指されている世界があれば教えてください。

小川:まずは、前述した分析の自動化はぜひ実現してほしいし、実現しない限りこれ以上の広がりはないと思っています。世の中的にアクセス解析は難しそうだというイメージが固定化しているので、敷居を下げていく活動はツールベンダーも使う側も一緒になって行っていく必要があります。

また、アクセス解析以外のデータも活用していくことが重要です。ウェブサイトというものはユーザーさんのウェブ体験のごく一部であり、検索もソーシャルも動画も、広告も含めて横断的な分析がもっと一般化することを期待しています。

今、いわゆるデータウェアハウスやCDPといった話題がよく取り沙汰されますが、いろいろなツールベンダーがいて、まとめるだけでも一苦労という状況です。今後5年、10年で統廃合されていき、オンライン上のカスタマージャーニーが一気通貫に分析・改善できる状態になってほしいと思っています。

データとは健康診断の材料、アナリストは医者のような存在

大友:では、小川さんにとってのデータとは、分析とは、どのようなものかを教えていただけますか。

小川:健康診断に例えると、データは体重や血圧といった値、つまり健康診断の材料にあたります。一方、分析というのは、その数値に対してきちんと解釈を与えるということです。つまり「血圧が160だと高い」とか「世の中の平均値よりずれている」とか、よしあしを判断することを指します。そしてアナリストはお医者さんであり、データからよしあしを判断し、その結果を改善するためのアドバイスをしたり、医療を施したりする役割だと思います。

健康診断を受けた人がお医者さんの判断でより健康な体づくりを目指すように、アナリストはよりよいウェブサイト作りを支援する立ち位置です。ただアナリストは改善の提案はできますが、実際に改善の活動を行うのは本人側(=経営やクライアント)の強い思いが必要です。ダイエットのアドバイスはできるけど、取り組むかは本人の意思次第ですからね。

大友:非常に分かりやすい例えだなと思いました。最後に、アクセス解析や分析に携わる方に小川さんからのメッセージをいただけますか。

小川:私が思うに、分析とはあくまで手段であり目的ではありません。これから分析を学ばれる方は、分析よりも施策から入ったほうがよいと思います。サイトを改善してみたり、コンテンツを追加してみたり、レイアウトを変えてみたりしてから、どう影響を与えたかを分析するという順番です。

アクセス解析や分析を行う一番のモチベーションは、結局はウェブサイトが改善していくとか、ビジネスが伸びていく点にあると思うので、施策を打たない限りはおそらくデータを見ても面白くないでしょう。施策を行った結果「どうなったかな、見られているかな」とチェックするために解析があると思うのです。

自分がよいと思ってもユーザーがよいと思うかは別ですし、売上が上がるかどうかも別なので、データをみて「上がった、下がった、今回は成功した」といった楽しみを見出していただけるとよいのではないでしょうか。

大友:これまでの経歴やお考えを赤裸々に語っていただき、ありがとうございました。大変魅力的なお話を伺えました。本日はどうもありがとうございました!

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