ユーザーを識別し、情報を記録・保持することができるCookieは、リターゲティングや行動ターゲティング、アトリビューション分析などに幅広く利用されており、企業のデジタルマーケティング活動に欠かせない技術でした。
一方、EUで施行となったGDPRや米国カリフォルニア州のCCPAといった法規制に加え、AppleのITPや2022年を予定しているChromeの3rd Party Cookieサポート終了といったWebブラウザの仕様変更など、グローバルかつ業界全体でCookieの利用を制限する動きが出てきています。
そこで本連載では目前に迫っているクッキーレス時代の到来に向けて、識者との対談を通じ、その全容を明らかにすると同時にマーケターが今から準備できることを明らかにしていければと考えています。
第3回は、グローバル大手DSPのThe Trade Desk日本担当ゼネラルマネージャー 馬嶋慶さんと、Inventory Partnershipsディレクター 白井好典さんに、同社がイニシアチブを取り開発が進められているUnified ID 2.0の全容を聞きました。
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第4回となる今回は、日本オラクル Oracle AdvertisingのJAPACマーケティング責任者 横大路牧子さんと、同じくOracle Advertisingのシニアパートナーマネージャー 西川明里さんに、同社が提供するコンテクスチュアルターゲティングのソリューション Oracle Contextual Intelligenceの概要と、クッキーレス時代におけるコンテクスチュアルターゲティングの可能性について聞きました。
話し手:
日本オラクル株式会社
Oracle Advertising Head of Regional Marketing, JAPAC 横大路牧子さん
Oracle Advertising Senior Partner Manager 西川明里さん
聞き手:
アタラ合同会社
マネージャー/コンサルタント 高瀬優
目次
言語学の観点から記事を解析
高瀬:目前に迫るクッキーレス時代に向けて、コンテクスチュアルターゲティングが再び脚光を浴びつつあると感じています。御社が提供されているOracle Contextual Intelligenceの概要についてお聞かせください。
横大路:一言で言うと、広告枠のある記事の中身をクローリングし、今まさにその記事を見ている人たちに対してリアルタイム性を持ってターゲティングするCookieを使わないアプローチ手法です。各記事のコンテンツに対してターゲティングしていくので、網羅性が高いだけでなくブランドスータビリティ(ブランドとの適合)の高いプロダクトです。
高瀬:今ご説明いただいたのは、どちらかというとターゲティングの観点だと思うのですが、ブランドセーフティを目的とした使用もできますか。
横大路:はい、そうですね。
高瀬:なるほど。コンテクストにはいろいろなカテゴリーがあると思いますが、例えば具体的にどのようなカテゴリーを利用できるのでしょうか。
横大路:既存のカテゴリー(スタンダード)としては、ターゲティング用では例えばビジネスや政治、イベントなど、20以上のさまざまなカテゴリーがあり、それらの中でもさらに細部化してご用意しています。
ブランドセーフティでも、IAB(Interactive Advertising Bureau)というオンライン広告における技術的標準規格の策定を行う海外の業界団体が定めている11カテゴリーを、既存(スタンダード)でご用意しています。
また、ターゲティング、ブランドセーフティともに、実はカスタマイズで特定のセグメントを作成することもできるため、広範囲からニッチなニーズまで対応することが可能です。
西川:その記事が存在するカテゴリーであれば、無限にターゲティングすることができるのです。
高瀬:実際、どのようにコンテンツはカテゴライズしているのでしょうか。
西川:一概にコンテクスチュアルターゲティングといっても、現在いろいろなベンダー、解析方法、カテゴライズ方法が存在しています。例えば、従来より存在するコンテキストマッチやコンテキストディスカバリー、また直近のCookieレスを受けてさまざまなベンダーより新しいタイプのコンテキストターゲティングがでております。
Oracleのコンテクスチュアルターゲティングはどのようにカテゴライズしているかというと、弊社の日本語言語学者が言語学の観点から設定した、カテゴリーごとのキーワード群に沿って、関連性スコアなども加味された上で、ターゲティング対象であると判定されたページをカテゴライズするという形です。この点からも記事の内容を把握する正確性の高い技術として、ご利用いただいている皆さまからは評価をいただいています。
シードキーワードと機械学習で適切なページを選定
高瀬:例えば、2020年に話題になった”Black Lives Matter”に関する記事はキーワードで広告配信対象から除外できるかと思いますが、記事によってはネガティブな取り上げられ方をしていないこともあります。同じカテゴリーでも表現のされ方によってブロックする・しないといった使い分けは、御社のOracle Contextual Intelligenceでは可能なのですか。
西川:可能です。例えば差別となるようなネガティブなキーワードが含まれていたら、それをカテゴライズするのではなく、そのキーワードの前後の文章や他のキーワードも全て読み込んで「このページは何についての関連性が高いのか」をカテゴライズするので、キーワードが含まれているからといって必ずしも特定のカテゴリーに分類するわけではありません。
逆に言うと、このキーワードが入っているページにターゲティングしたいというときには「こういったページにカテゴライズするには、こういったキーワードのシード(種)が必要だ」と逆算します。例えばスキーに関連したページに配信したい場合は、スキーに関連する5個位のシードキーワードが必要です。そのシードキーワードから、機械学習でどういったページにターゲットしたいのかを解析し、それに近しいページを探してきます。
高瀬:広告主の方がシードキーワードを登録して、それに基づいて御社のOracle Contextual Intelligenceが機械学習で最適なページに配信するということですね。
西川:はい。それがカスタムで設定する場合で、スタンダードの場合は前述したようにシードキーワードが言語学者によって事前に設定してあります。
横大路:例えばキーワードサーチのようなものは「パウダー」という言葉を使うとしたら、そのパウダーの意味が何であろうと「パウダー」という文字を追いかけるのですが、広告主が化粧品会社であれば、当然化粧品のパウダーを指すはずです。そうなると、パウダーというキーワードが含まれている文章が重要になります。これが仮にパウダースノーの文脈だとすると、まったく見当違いのコンテンツに広告が配信されることになります。
このキーワードを活用して、何に関するトピックを追いたいのかということを最初にきちんと定義付けることがOracle Contextual Intelligenceでは可能で、いわゆるキーワードだけを追いかけているわけではない、という差別化につながっています。
高瀬:ちなみに、先ほど事前にページをクローリングするというお話と、リアルタイム性を持っているというお話がありましたが、その両立はどのようにされているのでしょうか。要は事前にクローリングをするのであれば、リアルタイム性を担保できないのではないかと思うのですが。
横大路:以下のスライドはOracle Contextual Intelligenceとは何かを1枚にまとめたものです。
ブラウジングデータを例に考えてみましょう。これは過去の履歴をためていて、それに対してアプローチをかけるというのが一般的だと思います。
それに対してコンテクスチュアルは、今まさに見ているページにアプローチします。そのため、その人たちの過去の足跡にアプローチするのではないという点で、リアルタイム性があり、それをどこまで実現できるかはそのテクノロジー次第ということもいえます。
高瀬:Cookieベースのオーディエンスとの比較ということですね。
横大路:そうですね。
西川:技術的な部分でも、我々が接続しているDSPに関しては毎分毎秒DSPがもつ配信在庫のURLをクローリングし続け、数分単位でカテゴリーの値を返し続けています。ブランドセーフティも扱っている観点からも、例えば1日や2日に一回しか値を返さないとなると、同一URLでもページ内容が変わっていることもあるので、数分単位で返し続けて常にフレッシュな情報をお渡ししています。
高瀬:分かりました。おそらく基本的にはPre-Bid対応だと思うのですが、毎分返すことでPost-Bidに近いような正確性も担保できるということですね。
西川:はい。DSPは常に更新された在庫のカテゴライズ情報を保有し、配信リクエストに応じてカテゴライズの値がついている在庫を取りにいって配信する形になります。
日本語での解析が強み
高瀬:競合他社と差別化できるポイントとしては何が挙げられますか。
西川:大きく分けて二つあります。一つはクローリングの方法で、裏側の解析のメソドロジーの部分と、もう一つはセグメントの設計方法が特徴的かと思います。両方ともプロダクトとして作り上げるのにかなり時間がかかり、この技術はOracle Contextual Intelligence以前のコンテキストターゲティングの老舗であるGrapeshotの特徴になります。
まず解析方法の面でいうと、前述のとおり弊社のソリューションは日本語を判読できるので、日本語で記事の中身をクローリングして読んでいます。
カテゴライゼーションする際に日本語を読める会社は実は多くありません。他社は基本的には英語を翻訳して、英語でカテゴライゼーションしているのですが、もともと弊社は日本語で読めるというのが一つの大きな違いです。
もう一つの違いはセグメントの作り方で、従来のコンテキストターゲティングの場合、記事の中に指定したキーワードが入っているかを探しにいくという方法によってセグメントを設計したり、カテゴライゼーションしたりしています。そのため、キーワードは完全一致である必要があったり大量のキーワードを設定する必要があったり、また設定したキーワード以上の関連性のあるページには配信できないということがあります。
弊社の場合は先ほどもお話ししたとおり、キーワード群から何についてターゲティングしたいのかを機械学習で解析し、関連性の高い記事を抽出するという点が大きく異なります。この方法により、人間の頭では思いつかない関連性のある記事もカテゴライズすることができ、正確なターゲットにリーチをもってターゲットすることが可能となります。
高瀬:ここは御社から見た視点で伺いたいのですが、コンテクスチュアルターゲティングを提供しているベンダーは、IAS、DoubleVerifyなどのいわゆるアドベリフィケーション企業と、GumGumなどのようにコンテクスチュアルターゲティングに特化したスタンドアローンな企業に大別できると思うのですが、その違いはあるのですか。
西川:そうですね。IASやDoubleVerifyは、配信機能を持たない3rd Party コンテキストベンダーという立ち位置です。アドベリフィケーションの機能の一つであるブランドセーフティは裏を返すとコンテキストターゲティングになりますので、従来の機能を応用する形でプロダクトの拡張をしているかと思います。
一方、GumGumの場合はアドネットワークで、GumGumのコンテキストターゲティングはGumGumのインベントリーの中で利用するサービスとなるため、弊社とはポジションが少し違ってきます。
コンテクストに沿ったブランドメッセージを
高瀬:これまで、プログラマティック広告に関してはオーディエンスターゲティングがメインで、コンテクスチュアルターゲティングはあくまで補完的な位置付けだったと個人的には感じています。その背景は何だとお考えですか。
西川:日本だとCookieによるターゲティングが出てくる前は、媒体のカテゴリーターゲティングや、媒体の種類に対してターゲティングする形でしたが、時代の流れとともにCookieによるユーザーターゲティングになってきた歴史があるかと思います。現状は、ターゲティングのベースにオーディエンス、Cookie、MAID(モバイル広告ID)という考えがあるので、それ以外の手法に関してはサブ的なポジションになる、そういったカルチャーだからではないでしょうか。
高瀬:トレンドのような側面というか。
西川:そうですね。
横大路:あと“代わりになる”、“補完的”というイメージを持たれがちなのは、やはりプライバシー保護に関する法規制がニュースとして取り上げられて、では他に何ができるのかという発想があるというのも一つではないかと思います。言い方は違いますが、世界的にもコンテンツマッチといったものは昔からあったので、それをもう一度リバイバルしているという考え方がもしかしたらあるかもしれません。
ここで一つお伝えできることがあるとすれば、冒頭にも触れましたが、当時のそれと私たちが今お話ししているようなOracle Contextual Intelligenceとでは、その精度や技術そのものにだいぶ差があるということです。そういった意味で、昔のものをもう一度リバイバルしているというよりも、進化して現在のニーズに合ったテクノロジーを私たちは使えるようになったと思っています。
もう一点は、例えばCookieの問題です。おそらく皆さんは今後自社データをいかにして使えるようにしていくかという話に注目されていると思うのですが、おそらくこれからのマーケターにとっては、どうやってデータを集めていくか、つまりデータを集める手段や方向が課題になっていくと思います。集めるには大変時間もかかりますし、いろいろな工夫も凝らさなければいけません。
そんなとき、いかにしてユーザーがブランドに対して自分の情報を提供してもいいと思えるようになるかを考えたときに、効率的な方法はないと思うのですが、ブランドのメッセージをうまく伝えて、好きになってもらい、情報の提供に対してハードルを下げていくような環境を作る、ということも一つの手段だという考え方が、これから生まれてくると思います。
結局ブランドというもののメッセージをうまく伝えるところに、このコンテクスチュアルターゲティングがはまっているのではないでしょうか。そういった意味で考えると、補完とはまた別の立ち位置にあるのではないかと思います。
高瀬:確かに広告も、ある意味ブランドが消費者とコミュニケーションする手段の一つにすぎず、広告であってもブランドスータビリティという観点を気にすることで消費者とのエンゲージメントを高めていくというお考えですよね。
横大路:おっしゃるとおりです。
コンテクスチュアルターゲティングの方がスケールする例
高瀬:クッキーレス時代において、まだこの先不透明なことは多分にありますが、GoogleがPrivacy Sandboxの中で提案しているFLoCやTURTLEDOVEがプログラマティック広告におけるターゲティングのメイン手法になるのではないかという見方があります。
※参考リンク:
一方で、コンテクスチュアルターゲティングは現在技術も進歩してトレンドとしても盛り上がってはいますが、引き続き補完的役割になるというシナリオも考えられると思うのです。この点について、御社としてはどのようにお考えですか。
西川:ターゲティングの仕方を限定してしまうと、やはりどうしても補完的な立ち位置から抜け出せないと思うのですが、知識をもった幅広い使い方ができれば、そこから脱却できると思っています。また、Cookieが使えなくなる時代になった際には、コンテクスチュアルを使わざるを得ない状況にもなると考えています。
一つ、オーディエンスでできないことをコンテクスチュアルではできるという例を挙げましょう。例えば業務用コーヒーメーカーがあるとします。オフィスに置くようなコーヒーメーカーの訴求をしたいときに、オーディエンスはどのようにターゲティングするかというと、オフィスマネージャーや総務、人事の人に対してこういった商品があるということを訴求するかといます。
ただ、Cookieにしろ次世代のデータにしろ、日本で総務や人事など決裁する人のデータがどれぐらいあるのかといえば、多く集められてもせいぜい1,000か2,000でしょう。そういう人にターゲティングしても配信できるインプレッションの量は、1万~10万インプレッション程度になるかと思うのです。
一方でコンテクスチュアルターゲティングを使うことで、対オーディエンスだけではなく、オフィスコーヒーメーカーを導入しようと考える場面やシチュエーションに対してターゲティングをすることができます。例えば「福利厚生」というページや「オフィス用自動販売機」「社員の充実」などのページを見ている人です。
キーワードはそれこそ「コーヒーメーカー」でもいいですし、ライバル会社のコーヒーメーカー名でもいいでしょう。Oracle Contextual Intelligenceはそういった記事に対してターゲティングすることができるのです。それらの記事を読んでいる人は結局、総務や人事の人、それに関わらず決裁権のある人、とにかく今まさにコーヒーメーカーを探している人です。リーチが取れるという意味では、コンテクスチュアルターゲティングは補完的というよりもむしろ、それ単体でも使う意味があるかもしれません。
一方で、コンテクスチュアルターゲティングはそういった興味関心には使えても、デモグラフィックには使えないというイメージがあるかと思います。確かに、アルコールの訴求などで絶対に20歳以上の人にだけに配信しないといけないといったものに関しては担保できないこともありますが、例えば化粧品メーカーの商品でコンテクスチュアルターゲティングをどうやって使うのだろうと考えるときに、だいたい「肌荒れ」とか「敏感肌」といった商品特性に特化した記事に対してターゲティングしようと思うはずです。ただ、角度を変えればデモグラ的な使い方もできるのです。
例えば高級化粧水の場合、女性の20~50代全員が購買対象というわけではありません。高級化粧水が買える人は、自分にお金をかける時間と余裕がある人かと思います。そういった人が必ずしも毎回化粧品のことを調べているかというとそうではなく、その人たちは例えば今コロナ禍で旅行に行けなくなったために、近場で美味しいものを食べようとして三つ星レストランを調べていたり「国内 離れ 高級宿」といったキーワードで調べていたりするかもしれません。
そういった人たちのシチュエーションや行動をもとにデモグラ的ターゲティングをするという使い方もできるので、使い方のバリエーションをしっかり把握できれば、必ずしも補完的な使い方にはとどまらないと思います。
高瀬:確かにそうですね。コーヒーメーカーの例では、オーディエンスターゲティングだとスケールの観点で難しくても、逆にコンテクスチュアルターゲティングのほうが有効だというのが、とても分かりやすいと思いました。
化粧品の例だと、例えば御社の製品であればシードとなるキーワードを選ぶのが重要になってくるのではないかと思います。そこは広告主や広告会社の方が頭をひねって考えていくという感じですか。
西川:そのような場合もありますが、広告に関わる仕事をしていると、どうしても「キーワード=SEM、SEO」というイメージがあって、SEM、SEOのワードをとにかく詰め込んだり、キーワードの数を増やしたりする傾向があります。それだとうまくエンジンが回らないので、現状だと私たちがターゲットしたいユーザーの量や商品の内容を聞いて、こちら側で代わりに作りながら一緒に最適化するサポートを常に行っています。
マーケターが自立する時代
高瀬:クッキーレス時代に向けた動きが直近話題になってきていますが、これに伴ってコンテクスチュアルターゲティングに興味を持つ広告主は増えてきているのでしょうか。
西川:広告代理店や広告プラットフォームは危機感を抱いている印象がありますが、今のところ広告主はそこまでではないという印象があります。これから2022年にかけて現在と同じターゲティングや分析はできなくなります。特に興味関心アプローチや新規顧客へのアプローチに関しては着実に影響が出てきます。そういった状況を正しく伝えた上で、広告での顧客との接点が減ることのないようサポートしいていくことでコンテクチュアルターゲティングを広く理解してもらいたいと考えています。
横大路:私は自分がマーケティングの担当として、これはとても重要なポイントだと思うのですが、結局なぜ今そういった質問が特にあがってこないのかというと、おそらく広告主側の皆さんは、広告代理店に頼っている部分が多分にあるからだと思うのです。専業の方にお任せするという考え方もある一方で、自分たちが投資しているお金がどのように使われているのかをもう少し考える時代がこれから来るのではないか、と思います。
実は私自身も、Oracle Advertisingという部門に移ってきた理由が、自分でもっと広告の領域を理解しないといけないと思ったからでした。お金を投資しても、結局その後、何が起こっているのかが分からずに出来上がってきたレポートからコンバージョンなどの数字だけを見て、その成果がどうだったかの話をするということに、個人的に違和感がありました。他に手段や選択肢はなかったのかというところを、本来マーケターである自分たちが選択をして考えていく必要があるのではないかと思います。
日本アドバタイザーズ協会が「アドバタイザー宣言」を出されていましたが、広告の透明性がより進化していくと、広告主にとってもより一層分かりやすい状況が生まれてくるのではないかと思います。今までオーディエンスターゲティングは一つの手段でしたが、それだけではなく例えばコンテクスチュアルターゲティングであったり、他にもさまざまな手段があったりするということをマーケター自身が把握することによって、本来であれば今この時点で質問が出てきたり、他の手段はあるのかどうかという議論ができると思います。
高瀬:確かに重要な視点かもしれませんね。これまで広告主がパートナー任せになり過ぎていたところはあると思うので、このクッキーレスの動きが、ご自身で自社の広告や投資の在り方を考えるよいきっかけになるかもしれないですね。
横大路:そうですね。もちろん全ての人がそうだというわけではありませんが、何より自分の会社が出すお金なので、やはり真摯に向き合って理解し、考えていくことは非常に大事なことだと思います。
自社にとっての最適解を導き出す
高瀬:コンテクスチュアルターゲティングの技術は着実に進歩していると思いますが、今後さらに進歩していくとしたら、どのような方向に進んでいくのでしょうか。
横大路:現時点でPredictという機能がそれに相当すると考えています。前述のとおり、コンテクスチュアルターゲティングをする中でマーケターがシードとなるキーワードを選定し、そのトピックを弊社がご支援させていただいているのですが、それはあくまで今ターゲットしたいものを見ているといえます。ところが、ものによってはトレンドとともに変化していくことも十分にありえます。
オリンピックは短い期間でいろいろな変化があるので例として分かりやすいのですが、あるスポンサーが特定の選手、例えば「水泳」という項目で広告を打ち出そうと思っていたのに、実は注目していた選手がまさかの予選敗退だったとか、思いもかけない選手が勝ち進んだとか、まったく思ってもみなかった種目で日本が金メダルを取ったとかいうことが、大いにありえますよね。そういったことは、たった一つのことに焦点を当てていると追いかけられないのですが、技術としてはオリンピック全体を見ていく中で全て追いかけられるように進歩しています。
他の例で言うと、クレジットカード会社が若い人たちをできるだけ早い段階で取り込んでいきたいというキャンペーンがありました。クレジットカードは一度作ったら以後あまり変えないためです。しかし、若い人をターゲティングしようとしても、彼らのトレンドは私たちがマーケターの視点で見ているもの以上に発展性も早いし、トレンドもどんどん変わっていきます。
そこで、人間が考えて追い付くことができないところに機械学習が介在すると、日々記事をクローリングする中でどんな記事が生成されているのか、今のトレンドは何なのか、若い人たちが興味を持って読む記事にはどのようなことが書いてあるのか、といったところを即座に判断して返してくれるのです。つまり、今のモーメントを捉えてターゲティングに活用できるという点が、一つの大きな進化だと思っています。
高瀬:では最後に、クッキーレス時代に向けてマーケターが今から準備できることを教えてください。
横大路:繰り返しになる部分もありますが、マーケターとしてできることは、どのような手段が自社にとって最適解なのかを幅広く自分たちの目で見て、理解していくということだと思います。分からないこともあるかもしれませんが、次はそこに対して興味を持って何があるのかを見ていくことによって、キャンペーンの幅ももちろん広がりますし、可能性もどんどん広がっていくと考えています。
今回はコンテクスチュアルターゲティングのお話をさせていただきましたが、こういったものがあるということをまずは頭の中に入れておいていただいて、そこから何ができるのか、これはどのようにキャンペーンに生かせるのかを考えていくことが、今後のクッキーレス時代において大事だと思っています。
西川:今後さまざまなターゲティング手法が増えていく中で、正しいターゲット層やターゲットとなる指標を明確にしておくと、どういった手法でも正確なターゲティングができるようになると思います。というのも、前述した化粧水の例のように、デモグラフィック上は20代~50代の女性に対してターゲティングしていたとしても、コンテクスチュアルターゲティングの観点では訴求の方法や角度がいろいろあるからです。
例えばそのキャンペーンでのダイレクトコンバージョンを最終ポイントとするのであれば、ダイレクトコンバージョンを取るためにはどういったユーザーが一番刺さりやすいのかということをあらかじめ把握しておくことで、コンテクスチュアルターゲティングでも他のターゲティング手法でも精度の高いターゲティングができるようになります。目的に到達するまでのライフ・タイム・バリューというか、どういったターゲット層があるのかを明確にしておくことで、今後どういったところであってもよいターゲティングができると思います。
高瀬:コンテクスチュアルターゲティングを活用するにあたっては、より一層コンテクストに合ったクリエイティブというものがあると思うので、そこに関してもマーケターはより注力していくべきなのかもしれないと僕は思います。
西川:そうですね、おっしゃるとおりだと思います。
横大路:見方を変えるとやることが増えてしまうと感じる人もいるかもしれませんが、自分たちがそもそも何をしたいのか、それを達成するために必要なことは何かを突き詰めていけば、クリエイティブも含めた動きはおのずと生じてくると思います。
高瀬:本日はありがとうございました。
※当記事の内容、所属、肩書きなどは、記事公開時点のものです。