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米国のインハウス調査レポートからみた内製化とは
広告運用のインハウス化は、昨今のプラットフォームの機械学習が進化してきた事で、より一層、事業主側の考える顧客のコミュニケーションが反映しやすくなり、自社に運用管理の権限を移管する傾向が加速しているように感じます。また2020年のCOVID-19によって、マーケティング活動への投資を見直すことも、検討せざる得ない時だからこそ、運用型広告を自社で運用する手段を検討する事実も増えています。
インハウスというと、外部委託していた業務を自社で行うことなど、「内製化」というイメージを皆さんも想像すると思います。
無論間違っているわけではありませんが、米国のインハウス調査レポートを眺めてみると、内製化という言葉を少し解した形でインハウスに向き合うべきだとも考えられます。
Bannerflow社がDigiday と共同で発表したインハウスレポート「The State of In-Housing」の2020年と2021年の調査レポートから、事業主がインハウス化を決断し、どのような変化が起きたのか、2020年というパンデミックのタイミングによって、どのようなマインドセットでインハウスを向き合うべきか、2021年のインハウスの行方を考えていきます。
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広告運用のインハウス化に自信を持っている事業主は90%
まず2020年の調査レポートの中で、90%のブランドがインハウス化に踏み切れる自信があると回答をしています。これはインハウス化が「トレンド」というレッテルを超えて、必須の検討事項であり、多くの事業主がその一歩を踏み出していることがわかります。
そして2021年の調査レポートでは、62%=「インハウスで効率的なリモートワークが可能になる」と回答しており、2020年から多くの企業がリモートワークに直面しているため、インハウスはさらなる利点を生み出している、と回答しています。
ただ、インハウス化を踏み出したあとのフィードバックをまとめてみると、4分の1の25%は「正直に言うと、多くの障害があり苦戦している」と、自信レベルが高い一方で、マーケッターはインハウス化へのアプローチ・プロセスに課題を感じていることも認めています。
意思決定スピードの加速するが、組織面・人材スキルが追いつかない
そこでより具体的にインハウス化したことによって実感しているメリットと、インハウス化によって生まれてしまった障壁をまとめてみます。まずは、そもそもインハウス化する事でどんな効果を期待しているのか?の回答だと以下になります。
1位である39%”Increased transparency”「透明性の向上」というのは、マーケティングデータを保管するインフラの混在化や、広告管理を代理していたパートナーとの業務構造の問題、といった様々な「透明性」の意味合いを持つと考えられますが、やはりインハウス化する最大の目的である「意思決定スピードを上げる」ための大きな要因になることは間違いありません。
日本だとインハウス化を決断するきっかけとして、コスト削減が先行し、削減してから色々と考えることが多いのですが、本調査では1位ではないことから、コスト削減が先ではなく、むしろ組織やパフォーマンス重視のためのインハウス化を行うほうが、最適なコスト削減にもつながるのでは、ないかと考えられます。
それを裏付けるコメントとして、Getty Images社のCMOのジーン・フォカ氏は次のように述べています。
“The end game was to raise the bar on our talent and
performance and eliminate risk.We were able to do those things and eliminate external spend organically. It wasn’t a specific goal, though we found we could manage our needs in a more cost-effective manner with strong results”「最終的な目標は、人材とパフォーマンスのレベルを上げ、リスクを排除することでした。当社はこれを実行し、コスト削減を実現することができました。それ自体は具体的な目標ではありませんでしたが、より費用対効果の高い方法でニーズを満たすことができ、強力な結果を得ることができました。」
しかしながらメリットだけではなく、インハウス化の障壁理由については「組織と人材スキル不足」の類が中心になっています。
「インハウス化への意思決定に対する社内サポート」26%
「有能なインハウスチームを構築するための既存の人材やスキルの不足」20%
「インハウス化の目的をコミュニケーションし、社内での合意形成の獲得」19%
「インハウス化を決断する自信の欠如」12%
「有能なインハウスチームを構築するためのリソース不足」11%
「プログラマティック・バイイングに対する知識不足」5%
「組織のニーズに適したアドテクツールの不足」3%
また、どんなスキルが不足しているのか? を聞いてみたところ、以下の回答結果であることから、スキル面で上記全てを兼ね備えたスーパーマン人材がいることは稀有なので、インハウス化している現在のスキルバランスから、不足しているスキル箇所があれば、専門性のあるコンサルティング会社からの支援を受けて、ギャップを埋めることもインハウスの在り方であると考えられます。
「デジタルマーケティングの知識・資格」34%
「クリエイティブな思考」27%
「組織的能力」21%
「業界経験」10%
大手通信事業のテレフォニカのデジタルマーケティングと広告の責任者である、ミゲル・ロドリゲス・カルデニョーサ氏はこのようなスキル不足を解決するために、インハウスチーム内での適切なコンピテンシー(能力)を把握し、初期段階のインハウス化する領域と、アウトソースする領域の2本柱のモデルを作ろうともしています。
“We’re trying to develop a model where we have people in-house and we have freelancers, and some tasks on top of the agencies.”
「社内にインハウスメンバーがいて、フリーランスがいて、代理店にもいくつかタスクがあるというモデルを作ろうとしています。」
エージェンシーモデルの転換期
事業主がデジタルトランスフォーメーションエージェンシーを定期的に、月単位で利用している動きもあり、インハウス化を支援するためのパートナー会社が登場という、新時代の到来を示唆しています。
事業主がデジタル広告の買付をインハウス化している状況に拍車がかかっていることを鑑みると、エージェンシーは現在の事業主の在り方を理解し、あらためてビジネスモデルを見つめ直す事が大事です。
以下の調査では、旧来のスタンスのままのメディアエージェンシーでは、事業主は懸念を感じることは多くなり、これからは事業主のマーケティング課題に対して新しいアイデアや人材を提供し、リスクを管理し、機能的な専門性をアジャイルに補完していかなければならないことをより一層、感じています。
メディアエージェンシーの透明性に懸念を感じていますか?
「はい、透明性は依然として大きな懸念事項です」56%
「多少の懸念はありますが、いくつかの進展がありました」40%
「いいえ、当社はエージェンシーに満足しています」4%
クリエイティビティ(創造性)とROIの相関関係
インハウス化によるROI向上について、58%が「初期の兆候はポジティブ」、39%が「幾分いい」と回答しており、よい景色に変化していく可能性は高いようです。
そんなROIが増加するのは、クリエイティビティ(創造性)が高まったことが相関として強いようです。
今まで研磨できてなかった創造性という包丁をインハウス化することで研ぎ澄まし、あらたなマーケティング施策を誕生させて実行・検証・再創造するサイクルを早めることが、結果としてROI増加につながっているのではと考えれます。
「クリエイティビティが高まった」74%
「クリエイティビティのためのKPIを定義している」56%
「クリエイティブ・マネジメント・プラットフォームが整備されている」83%
創造によって改革が起こりやすくしているきっかけは、社内テクノロジーの活用だと回答しています。社内テクノロジーを活かすことで、以前よりもデータを使う意識が芽生え(58%)、より創造性のレベルが上がり(55%)、チーム内のデジタライゼーションが進みだすことで、より良い方法でデータを活用(50%)し、ボトルネックの可視化が生まれ、それはマーケティング成果を最大化させる大きな施策につながるはず、と考えれます。
またパンデミックの間には、クリエイティブをテーマとしたワークショップを実行するなど、クリエイティブの強化を図りつつも、インハウスチームはコンテンツ制作からメディアバイイングなど、専門性のある組織を横断した連携・コラボレーションの可能性を見つめ、それを実現させているようです。
パンデミックが流行の中、どのようにして社内のチームを刺激し、クリエイティブな仕事へのモチベーションを維持してきたのでしょうか?
「クリエイティブワークショップを導入・増加」66%
「チーム間の連携タスクの増加」65%
「 コラボレーション技術の導入・増加」63%
「研修の増加」48%
特に運用型広告においても、機械学習中心とした運用がデファクトスタンダードであるが故に、運用者はクリエイティブに向き合い、クリエイティブを運用する時間こそが、運用型広告の成果拡大のファクトであることは体感しているかと思います。
ジェームズ・ロスウェル氏の抜粋コメント:
“The power of in-house teams is being closer to the core of the brand and ongoing creative excellence needs, hence it puts them in the prime spot to make more informed decisions and give better creative direction. They also instinctively understand the audience needs”
2021年のマーケティングチームには、どのような意味でインハウジングが必要不可欠になると思いますか?
「インハウスチームの力は、ブランドのコアと継続的なクリエイティブエクセレンスのニーズに近づきつつあります。それゆえに、より多くの情報に基づいた意思決定を行い、より良いクリエイティブディレクションを行うことができます。また、オーディエンスのニーズを本能的に理解しています。」
インハウス化=事業の自分事化
再度、Getty Images社のCMOのジーン・フォカ氏はインハウス化することが大事ではなく、経営陣の会社全体の意識改革と仕組みを更新し、現場マーケッターも、自らのパフォーマンスを最大化するように動いた結果であると言及しています。
“Without a doubt. But, it’s not that we’re seeing strong ROI because we moved inhouse.
We’re seeing strong ROI because we’ve steadily,
systematically improved most areas, we’re holding people accountable, we’re measuring performance and we’re working collaboratively and inclusively.
Those are the things that are driving ROI.”インハウス化したことでROIが得られたと感じていますか?
「間違いありません。しかし、それはインハウス化したから強いROIが出ているわけではありません。ROIが向上したのは、ほとんどの分野を着実に、かつ、体系的に改善し、メンバーに責任を持たせ、パフォーマンスを測定し、コラボレーティブかつインクルーシブに取り組んでいるからです。これらがROIの原動力となっています。」
組織的課題による社内のサイロ化・スキル不足など、目の前に解決しないといけない障壁はあれど、ROI最大化の為のアロケーション計画立案・クリエイティブ強化施策などなどの、意思決定スピードを上げるための1つの手段としてインハウス化する事の重要性はご理解いただけたかと思います。
インハウス化を検討中・進行中の事業主は、組織内に社内エージェンシーを設置する、という基盤だけ用意しても成功しないと考えています。
マインドセットとしても自身があらためてマーケッターである自覚を再認識し「誰になにを伝えていくのか?」の解を研ぎ澄ませ、事業のマーケティングをより一層、自分ごと化していく意識を強くもつことが、インハウス化を選択した時に成功を強く感じることでしょう。