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広告運用を始めて1年目くらいの方におすすめしたい、ノンプログラマーのためのテクノロジー解説書
2020年11月に、デジタルマーケティング初学者でも分かりやすくテクノロジーについて学べる入門書『集中演習 デジタルマーケターのためのテクノロジー入門』が発売されました。本記事では、本書を執筆した株式会社プリンシプルの山田良太さんに、本書執筆の背景や内容を余すことなく吸収するためのポイントなどをインタビューしました。
今回の話し手:株式会社プリンシプルの山田良太さん
話し手:株式会社プリンシプル
チーフテクノロジーマネージャー 山田良太さん
聞き手:アタラ合同会社
コンサルタント 大友直人
大友:本日は、新しく出版された『デジタルマーケターのためのテクノロジー入門』について伺えればと思います。簡単に内容を教えていただけますか。
山田:本書は、デジタルマーケティングに携わっているけれどもプログラミング経験のない、ノンエンジニアのビジネスパーソンを対象に執筆しました。HTMLやCSS、JavaScriptといったWeb系の言語や、Googleアナリティクスなどのマーケティングツールの背景となるテクノロジーについて、ノンエンジニアでも分かりやすく解説した書籍です。
加えて、読みっぱなしになって知識が定着しないことを防ぐため、各章末にはその章で学んだ知識を定着させるための演習問題を設けたり、巻末の総合演習ではビジネスシーンで問われそうな設問を設けたりと、工夫を凝らしています。
大友:読者としては、デジタルマーケティングやインターネット広告業界に入って間もない方が対象になっていると感じました。
山田:一番のベストなターゲットとしては、広告運用やアクセス解析などのデジタルマーケティング業務をやり始めて1年くらいたった人たちだと思っています。特に広告運用をやり始めた人たちは、本書の内容以外にも学ぶべきことがたくさんあると思うのです。広告媒体の管理画面の使い方も知らないといけないだろうし、どんな広告のクリエイティブを配信するのか、キーワードをどう考えるのか、そういった学ぶべきことが他にもたくさんあると思うので、初心者の方は、まずはそういったことの優先順位のほうが高いと思っています。
しかし半年、1年と経ち、広告運用業務に慣れ、さらに次のステップにいこうと思ったときに、Cookieとは何なのか、UTMパラメータの正しい設定方法や、簡単なJavaScriptを使って計測をより細かく行うためにはどうすればよいか、正規表現を使ってレポートを柔軟に作るにはどうしたらよいかといったところを学ぶ必要が出てくると思うのです。そういった人たちが、本書の一番のターゲットだと思っています。
しかし最近、Twitterなどでシェアされている投稿を見たら「やり始めた人たちに最初に読んでほしい」という内容もあったので、それもありなのかもしれません。チャプターによっては、そういった人たちがターゲットになる部分も確かにあります。
大友:山田さんは2017年に電子書籍として出版された『Webマーケターのためのテクノロジー入門』も執筆されています。同書も入門者向けの内容だと思いますが、今回出版された書籍とはどう異なりますか。
山田:前回の電子書籍の執筆を経て、全般的に初学者でも読みやすい文章にすることを心がけました。内容面では特に後半の実践編をより厚くしており、Google 広告やアクセス解析業務に携わる方が、本書で学んだことをどのように実際の業務に生かすのかという応用的な部分が濃くなっている点が前回との大きな違いです。
大友:書籍のタイトルが「webマーケター」から「デジタルマーケター」に変わり、帯にも「文系でも活躍できる」というキャッチコピーが付きましたが、何か意識された部分はありますか。
山田:「ウェブマーケター」というと少し狭い表現であるという話が、出版元であるインプレスさんとのミーティングの中で出たことに加え、最近だとウェブマーケティングというよりもデジタルマーケティングという表現のほうがしっくりくるということで、この表現になりました。
大友:ありがとうございます。早速ですが、中身に入りたいと思います。本書はパート1「Web技術と言語の学習」とパート2「マーケティングでの実践」の大きく2章に分かれており、その後、総合演習問題があるという構成です。
【書籍『デジタルマーケターのためのテクノロジー入門』の内容】
チャプター1「PCとアカウントの準備」の章では、最初にどのPCを利用するかや、ウェブブラウザーについて書かれていて、本当にやさしいところから書かれているという印象を受けました。ここをあえて載せる理由として、どのような想いがあったのですか。
山田:自分のように、もともとエンジニア出身者からしたら当たり前のことでも、ビジネスユーザーにとっては当たり前ではないことも当然あるかなと思い、入門的な内容から執筆しています。
大友:PCの問題やブラウザー、テキストエディタについては、業界に入りたてだと分からない方が意外と多いかもしれませんね。しかし、そういったことを説明している書籍は、なかなか見当たらないような気がします。
山田:特にテキストエディタについては、普段使わないような人も多いと思うので、重要ですね。あとはチャプター2「Web概論」もやはり、勉強をし始めた人にとっては、とても重要なコンテンツがたくさんあると思います。
大友:例えば、URLの基本構造やユーザーエージェント、Cookieについての理解が浅いと、相手とのコミュニケーションが円滑に進まない場合があります。本書には、こうした基本的な知識も書かれているので、社内でのコミュニケーションにも活用できそうですね。
山田:細かいところの知識がしっかりないと、知らず知らずのうちに間違えたままになってしまうことがあります。間違っていることにも気付かずに、しかもそこまで大したことではないと思っているために気付くこともできず、開発サイドとの折衝がうまくいかないというケースはたくさんあると思います。
Google タグ マネージャーを使いこなすための基礎知識を習得する
大友:チャプター3では「HTML」、4では「CSS」、5では「JavaScript」について解説されています。
山田:3、4、5のチャプターで1セットになっていると考えています。これらのチャプターを押さえることで、Google タグ マネージャーを使っていろいろな計測ができる知識が身に付くと思います。
大友:これらの知識を生かす実践的な内容としても、eコマースの商品を買うときのタグの例などが書いてありますね。
山田:はい。「広告タグで購入した商品の金額の情報を送らないといけない」といった問題に直面しながらも、どうやったらいいのか分からないことはたくさんあると思うので、そういった際に参考になると思います。
大友:JavaScript・HTML・CSSについてはGoogle タグ マネージャーなどで使用するために詳しく解説されていたのですが、例えばSQLやPythonついては書こうと思われましたか。
山田:SQLやPythonに関しても、デジタルマーケター向けの情報があまりないので書きたいとは思っていましたが、なかなか手が出せません。
大友:そこについても今後、発信していきたいとは思われますか。
山田:そうですね。ただ、環境づくりがやはり最初の大きな崖になると思っています。SQLを学んで活用しようと思ったら、Google BigQueryなどにデータがすでに入った状態の環境でないと、学んだことが使えません。そして、そのデータをGoogle BigQueryに入れるところについては、比較的ちゃんとしたエンジニアがやらないとハードルの高い領域だと思うのです。そういったことを考えると、インプットを増やしても、それをアウトプットする場がある人は限られてくるなと思っています。ただし、G A4により、Web閲覧データがBigQueryに自動で入ってくるようになったので、今後そのハードルは少し下がるかもしれません。
大友:チャプター3~5において、山田さんが特に多くの方に読んでほしい部分はどこですか。
山田:3~5に関しては全てがつながっているので、一部を読んで理解するのは難しい内容となっています。そのため、ひととおり順番に学んでいってほしいです。ただし、HTMLを使った制作がどのような形で行われているのかに関しては、広告代理店やアクセス解析に関わる人にとって重要だが知る機会が少ないので、かいつまんで読めるような構成にしました。
なんとなく分かったで終わらせず、実務に生かすためのノウハウを詰め込んだ「実践編」
大友:パート2「マーケティングでの実践」では、実践編としてGoogle アナリティクスやGoogle タグ マネージャー、そしてBIについて解説されていますね。
山田:実践編に関しては今回、全て新しく書き直しました。学んだことをどう生かせるかを知らないと、やはり「なんとなく分かった」だけで終わってしまうというのが前回の電子書籍での課題だったので、今回は実践編をより厚くすることで、学んだものを活用するところまで一気通貫で学べる構成にしました。
実践編を読む中で、学習編で学んだことで漏れている部分やきちんと理解できてない部分があれば、またそちらに戻って勉強し直せるので、より深い学びにつながっていくと思います。
大友:チャプター7の「Google タグ マネージャー」については、かなり充実していますね。
山田:はい。Google タグ マネージャーに関しては、そのうちの半分を、タグを実際に追加するための方法やトリガーの追加手順など、使い方に関する話に割いています。その中でも、学習編で出てきた「CSSセレクター」や「URLの構造」「正規表現」「JavaScript」などのキーワードを多く登場させることで、学習編の学びを定着させる助けにしています。
大友:ここのパートは、Google タグ マネージャーの使い方だけではなく、その背景の知識、URLの構造も含めて一気通貫で学べるというのが本書の大きなポイントですね。昨年名称が変わったばかりの「Google Analytics 4 property」についても少しだけ触れられていましたね。
※参考リンク:
山田:締め切り直前に近いタイミングで「Google Analytics 4 property」が正式ローンチされたということもあり、ページ数は少ないですがちゃんと書くことにしました(笑)。よくあるGoogle アナリティクスの解説書の場合「Google Analytics 4 property」が登場することによって、いろいろと改定の必要が生じるかもしれませんが、本書の場合、使い方というよりもその根底にある技術の説明がメインです。そのため、今後機能面のアップデートがあったとしても本書の内容の7割、8割は内容が変わらないので「Google Analytics 4 property」の時代が来ても読み続けられると思います。
変わるのは「Google Analytics 4 property」のタグの設定の仕方において項目が変わるというところだと思うのですが、その程度であればこの本を読んだ上で、公式のヘルプページなどを見ることでカバーできるかと思います。
5年後にも使える知識を凝縮:100問もの豊富な練習問題で書籍の知識を自分の力にする
大友:最後にチャプター9「テクノロジーの発展的活用」についてですが、ビジネスインテリジェンス(BI)やITPやCookieに関する解説が盛り込まれていました。
山田:はい。ここでは特に、今後変わっていくであろうITPやCookieに関するもの、流行り始めているBI、今後流行っていくと思われるオフラインデータの統合などについて書きました。
大友:BIに関しては、例えばTableauやGoogleデータポータルを使うときに、技術的なスキルではどんなことが求められますか。
山田:本書では書き切れなかった内容ですが、データの構造がどうなっているか正しく認識するということは一つ重要なことだと思っています。
また、取り込んだデータの1行がどのようなデータを表しているのか、例えばGoogleアナリティクスであれば、1行がページビューであったり、セッションであったり、イベントのヒットであったりなど、取り込むデータソースのディメンションによって変わってきますよね。どの単位のデータを取り込んでいるかを正しく認識するのが大事だと思います。そこを間違えてしまうと、ページビュー単位のデータを取っているのにセッション単位の指標を使ってしまい、間違った見方になってしまうといったことが発生してしまいます。
大友:今おっしゃったデータ構造についても、本当は書きたかったという気持ちはありますか。
山田:そうですね。ただ、なかなか言葉にして説明するのは難しいので、諦めました(笑)。
大友:2017年に『Webマーケターのためのテクノロジー入門』を執筆されたときと、今回新しく執筆された2020年とでは、デジタルマーケティングの世界はテクノロジーの観点から見てどう変わったと思われますか。
山田:大枠としては、ほとんど変わっていないこともあります。例えばチャプター2の「Web概論」で書いた内容や、チャプター3、4、5のあたりは、最初に書いたときと中身の変化がほとんどありません。おそらく今後も同じように、これらの技術はほとんど変わることはないと思っているので、一度学べば5年後でも使えるのではないでしょうか。
一方、変わった部分については、技術側の変化ではなく、ITPやGDPRなどの環境側の変化です。技術そのものが変わったと見なすのか、環境が変わったと見なすのかという問題はありますが、ITPやGDPRのような法律や規制に関わる部分での変化に引っ張られたということがありました。
大友:環境は日々変わるので、そこについていくことも大変ではありますが、本質ではおっしゃるとおり、技術はあまり変わっていないと思います。あまり表面的なところに揺さぶられないようにしたいですね。
山田:そうですね。あとはウェブ制作の領域では、SPA(つまりJavaScriptを使ってページ遷移なども全部行うようなサイト)が最近少しずつ増えている状況だと思います。
大友:ありがとうございます。最後に、本書で山田さんから読者に伝えたいことはありますか。
山田:練習問題をちゃんとやって知識を深めていってほしいと思います。本書において「プログラミング自体は言語であって、例えば英語や中国語と同じようなもの」と書きました。言語と同じく、プログラミングも何度も繰り返し使うことで理解が深まるものであり、練習をしないと知識は身になりません。その意味も込めて、100問の練習問題を設けたので、ぜひ本書で学んだ知識を使って練習問題に取り組んでみてください。
大友:練習しなければ身にならないというのは真理ですね。本日はありがとうございました。