簗島亮次さんに聞く、クッキーレス時代に向けたデータ活用と心構え:A future state of AdOps 2020 第五回

クッキーレス時代に向けたデータ活用と心構え:少し先の、広告運用の現在 〜A future state of AdOps 2020 第五回 簗島亮次さんに聞く

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『A future state of AdOps 2020』連載の趣旨

Google 広告を筆頭に広告プラットフォームはめまぐるしくアップデートを続け、機械学習を活用した自動入札、広告クリエイティブの最適化、ターゲティングの自動化やアトリビューションモデルの構築などが当たり前のものとなっています。これに伴い、これまで広告運用者が多くの工数をかけてマニュアルで行っていた作業は広告プラットフォームに代替えされ、広告運用者の仕事は確実に高度化(上流工程へシフト)していると感じています。

では、2020年現在ですでに高度化している広告運用の仕事は、今後どのように変化していくのでしょうか。変わりゆく広告運用者の役割についてコラムや対談を通して考察していく本連載の第四回では、グローバル大手SSP/アドエクスチェンジのIndex Exchange日本担当マネージングダイレクター 香川晴代さんに、クッキーレス時代のデジタル広告の在り方を伺いました。

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今回の話し手:株式会社インティメート・マージャーの簗島亮次さん

本連載の最終回となる第五回は、約4.7億件のオーディエンスデータを提供するDMP専業最大手、データプラットフォームカンパニーの株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長 簗島亮次さんに、クッキーレス時代に向けたデータ活用のかたちと広告主やマーケターの持つべき心構えをお聞きしました。

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簗島亮次さんプロフィール
株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長。慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科を2010年首席で卒業。2013年、Googleのレイ・カーツワイル氏が2020年に起きると予測した「あらゆるデータがひとつに統合される」という革命を冠した株式会社インティメート・マージャーを創業し、2019年10月東証マザーズへ上場。2020年にはデータ活用領域のさらなる拡大を目指し、Fin Tech事業会社クレジットスコア株式会社や、プライバシーテック事業会社Priv Tech株式会社を設立。データサイエンティストというアカデミックな視点と経営者としてのビジネスの視点から、日本最大級を誇る約4.7億のオーディエンスデータを用いてさまざまな業界の課題解決を支援している。

 

データ活用を武器にポストクッキー時代を切り拓く

高瀬:御社はパブリックDMP事業を展開されていますが、昨今の法整備やWebブラウザの仕様変更に伴うプライバシー規制は、現時点で御社のビジネスにどのような影響を与えているか、もしくは今後どういった影響があるかをお聞きしたいです。

簗島:一般的に弊社は、クッキーだけに過度に依存していてこれから絶望的なのではないか、と思われがちな会社です。確かに、クッキーを使ったターゲティング広告領域であるパブリックDMP事業がメインではありますが、最近だと「データを活用した最適化」であればさまざまな領域でサービスを提供しています。例えばIPアドレスを使ったBtoBのサービスや、他にも弊社が取得しているデータはいろいろとあるので、これらデータを活用した広告アカウントの自動設計や最適化など、実はクッキーに依存しないデータを活用した事業もかなり増えてきています。

今後、やはりクッキーの領域は法整備やWebブラウザの仕様変更などの影響を受けやすいのは事実で、クッキーがなくなったときに今までのサービスと同じ価値を継続して使うことができるようなポストクッキーテクノロジーに力を入れています。

当然クッキーがなくなれば既存サービスが一部使えなくなるという影響はあるのですが、弊社だけではなく世の中すべてに影響が出るので、データ活用を得意とする弊社にとってチャンスであるとも思っています。皆がクッキーを使えなくなれば新しい方法を考えなければいけないので、この部分を弊社は新しくトライしているところです。

高瀬:ちなみに3rd Party クッキーに関しては、2017年にAppleがITPで規制を開始しましたが、その頃からITPによる影響は実感されていましたか。

簗島:正直僕らはもともとSafariの3rd Party クッキーはほとんど取れなかったので、事業を開始してから今に至るまでSafariの環境が劇的に変わったという実感はあまりありません。Safariに関して言うと、ITP以前から3rd Party クッキーは全体の15~20%くらいしか取れていない状況は変わっていません。

株式会社インティメート・マージャーの簗島亮次さん

高瀬:なるほど。そうなると、やはり今後予定されているChromeにおける3rd Party クッキーサポート終了による影響は大きそうですね。

簗島:Chromeもそうですし、Windows(Internet ExplorerとMicrosoft Edge)も直近クッキーが取れなくなっています。この辺りは影響が出始めるのではないでしょうか。

 

リアルタイム属性解析や大手プラットフォーマーとの連携強化

高瀬:ポストクッキー時代に向けて御社が目指す方向性を具体的にいくつか伺えればと思います。

簗島:先ほどのポストクッキーテクノロジーに関して言うと、大きく分けて六つの領域に力を入れようと考えており、プレスリリースも出しています。例えばIDソリューション開発では、海外だとID5、LiveRampやThe Trade DeskのUnified IDなど、3rd Party クッキー以外のIDでブラウザを識別できるようにするという動きがありますが、弊社もそういった3rd Party クッキー以外のターゲティングに使える識別子の開発は今後力を入れていこうと思っています。もともと弊社はクロスデバイスの識別IDのようなものを持っているので、これを使って開発していきます。

二つ目は、クッキー以外のデータを使った属性を解析する部分です。クッキーはブラウザの閲覧履歴を時系列に取ったり、ドメインをまたいだサイトから情報を取ってきたりすることができるという認識ですが、弊社が今取り組んでいるのは、ブラウザにアクセスした瞬間に取得できる情報、例えば端末名やIPアドレスなどから機械学習でリアルタイムに属性を判断するといったことです。

例えば「このユーザーは何十代の男性の可能性が高い」といった属性をリアルタイムに、かつデータを蓄積せずに推測する方法を今つくっていて、直近で注力しています。三つ目の領域「AIによるリアルタイム属性解析技術の開発」もこれに含まれますね。

高瀬:それはすごいですね。おそらくユーザーエージェントなどの情報を属性判断に使用していると思うのですが、クッキーに比べると情報量は少ないですよね。

簗島:そうですね。例えばリファラーもそうですし、それ以外にもURLにパラメーターが付いていますよね。解像度や端末設定言語といったユーザーエージェントから取得できるデータに加えてIPアドレスも分かれば、年齢や性別程度であれば、わりと当たるイメージです。

高瀬:裏側では御社の中で参照できるデータベースのようなものを活用しているのでしょうか。

簗島:そうです。変な話、シンプルスマホユーザーは完全に年齢が高かったり、Bingから流入するユーザーは年齢が高い男性が多かったりするのです。微妙なところではありますが、おそらく今後サイトに来ているユーザーをいろいろなデータの中から類推していくかたちになると思っていて、これをスマートに行っているイメージです。例えば、弊社の持っているデータベースの中には「某アプリユーザーは30代から40代の女性の可能性が高い」といったデータを持っていたりするので、そういったもので類推して確率をどんどん高めていくことを行っています。

四つ目はプライバシー保護技術の開発です。海外でいうとCMP(Consent Management Platform)のイメージに近いのですが、メールアドレスや簡易IDをユーザーの同意を得たうえで取得する、また、取得したデータを他のサービスでもプライバシーを保護したかたちで活用するといったことを実現するための技術です。

プライバシー保護の領域は、テクノロジー無くしては運用が非常に大変です。例えば、プライバシーポリシーを変更するたびに全ユーザーから一から許諾を取るためのメールを送るなど、今までの全ての許諾情報を捨てるという運用を行う会社もあるのですが、この場合、活用できるデータはどんどん減っていってしまう可能性が高いです。そうではなく、どの許諾を、どのレベルのユーザーの同意が取れているのかといった部分までテクニカルに管理し、これをCDPなどと連携するということができれば、広告プラットフォームとの連携もスムーズですよね。

五つ目は、大手プラットフォームの分析基盤との連携機能強化です。プラットフォーム側の最適化機能を使い、大手プラットフォーマー内での分析を可能にするデータクリーンルームとの連携強化を指します。もともと弊社は自分たちでデータを集め、自分たちのインフラで解析するということをやってきたのですが、それを大手プラットフォーマーのデータクリーンルームに載せて解析できるようにしていくサービスを開発、提供しています。僕らとしては若干不本意なところがあるのですが、やはり大手プラットフォーマーの膨大なデータを活用できるという点で、しっかり力を入れていかないといけないと思っています。

最後のデータを用いた自動化技術の開発に関しては、これまでの話の総合的なものでもあります。例えば、五つ目で前述した大手プラットフォームのデータと弊社のデータを連携すると「どのようなアカウント設計をすればCPAが改善するか、コンバージョン数が増えそうか」というデータが取得できます。一方、これらの取得したデータを人力で集約するのは骨の折れる作業で、せっかくデータを取得できてもオペレーションまで乗せることができないことも想定できるので、データ解析から広告アカウントへの設定反映までを自動化するといった領域も力を入れているところです。

 

自動最適化された結果を解釈する

簗島:データを用いた自動化技術、僕らはRPAの一種のように思っていますが、これに関して詳しくお話しすると、運用者が全ての可能性を網羅して仮説を立てるのは大変だと思いますし、もちろん人間が仮説を立てないといけない部分と、データを見れば分かる部分は分かれていると思うのですが、データを見ればある程度意思決定ができる領域を僕らは自動化していっているのです。

細かい一例で言うと、Google 広告のアフィニティカテゴリーは約790個あるのですが、人間が790個の仮説を立ててどれがいいかを考え判断するのは大変ですよね。できる範囲で仮説を立て配信テストを実施したとしても、例えば引っ越し業者であれば、引っ越しに興味があるユーザーや不動産に興味があるユーザーのパフォーマンスが良かったなど、当たり前の結果になりがちです。

これを僕らが配信結果とアフィニティカテゴリーを掛け合わせて網羅的に分析すれば、実は引っ越し業者でも引っ越しのアフィニティのCPAは他と比較してむしろ悪く、事務職のCPAが良いということが分かったりします。小さい企業であれば、事務所の移転にも通常の引っ越し業者を活用するケースがありますからね。

このように、人間が全て網羅しきれない領域でサポートしていたり、細かいところだと緯度・経度の下6桁までのコンバージョン率を全て算出したりしています。無限に時間があれば人力でもできますが、そういうわけにもいかないので、こういった部分でテクノロジーを活用して僕らが支援しています。

高瀬:今ご説明いただいた例は、例えばGoogle のAds Data Hub(以下、ADH)などが活用できそうですね。

アタラ合同会社 高瀬優

 

簗島:そうですね。もちろん、僕らの持っている3rd Partyデータも活用しています。昨今、大手広告プラットフォームは広告配信を「自動最適化」することを売りにしているかと思いますが、その工程は時としてブラックボックス化してしまうこともあります。データクリーンルームを活用すると最適化の工程を正確に理解することができるので、これはとてもいいことだと思います。

高瀬:そうですね。Google 広告はもちろん、GoogleアナリティクスにおいてもGoogle Analytics 4 propertyがローンチされ、これまで以上に機械学習を前面に出したアップデートをプラットフォーマーが繰り返している状況下で、3rd Partyの御社はどういったポジションを目指していくのかと気になっていました。

簗島:僕らもデータの会社なので、機械学習で自動最適化されていくことがおそらくパフォーマンス観点では一番リーズナブルだと思っていて、正直人間がそこまで頑張る必要はないと思っています。

一方、人間がまだやらなければいけない領域はいくつかあると思っています。それは機械学習で自動最適化された結果を解釈するというところです。また、解釈するためのデータは意外と出てきておらず、解釈するための切り口を用意しておくといったところは、人間がやらないといけないですよね。良い結果が出たときに何が行われていたかを知って、その状況を理解して、例えばそれをクリエイティブに生かしたり、はたまた機械学習をより有効活用するための工夫をしたりするといった部分は、人間が頑張らないといけません。

そのため、今後は主従逆転した考え方をしていく機会が増えていくと思っています。人間の作業を機械学習が補完してくれるというよりは、機械学習した結果を人間が頑張って理解したり、一番機械学習が働くようにサポートしたりするというかたちになると思っていて、そういった部分で僕らが提供するようなサービスは大いに使えると思っているのです。

高瀬:まさにおっしゃるとおりですね。機械学習をうまく働かせるためには質のいいインプットが必要ですし、自動最適化が働く工程を詳細に知ることによって、よりクライアントのビジネスゴールに寄り添った広告運用ができるようになるのではないかと思っています。

 

データクリーンルームでパブリックDMPと広告データを突合

高瀬:プラットフォーマーのデータクリーンルームを活用したデータ分析に関してお話しいただきましたが、非常に細かい粒度での分析が実現できそうだと感じました。

例えば、ADHであれば約790のアフィニティカテゴリーごとのインプレッション、クリック、コンバージョンのレポートや、緯度・経度の下6桁まで分かるといった細かい粒度で見ることができそうです。

簗島:人力でもやろうとすればできることですが、設定だけでなく分析にも膨大な時間を要するため、サービスを利用していただくメリットはあると考えています。事前に設定せずとも、配信結果を細かな粒度でいつでも見られる点でお役に立てると思います。

高瀬:一方、御社が持っているデータと突合するパターンもありますよね。

簗島:そうですね。例えば、僕らはURLごとのキーワード情報のようなものを捕捉しているので、インプレッション、クリック、コンバージョンが出ているURLとプラットフォーマー側のデータを突合することで、パブリックDMP用にURLに振っている属性やカテゴリー情報を突合して分析することもできますし、広告の配信のデータと僕らの類推した属性データを突合することもできます。

高瀬:今まではGoogle 広告のレポートは外部のいかなるデータソースも突合することができなかったと思うのですが、ADHを連携させた場合、そこの門戸が開かれたといえますね。

また、広告配信先URLと御社が保有しているURLごとの属性やカテゴリー情報の突合は非常に興味深いです。これはコンテクスチュアルなアプローチで、それこそポストクッキー時代には有効だと感じました。

簗島:そうなのです。前述したアカウント自動最適化サービスの中でも、よりパワーアップしたコンテクスチュアルターゲティングのようなものを僕らも考えています。アフィニティカテゴリーは若干クッキーを使ったりするので、クッキーを使用していないという観点ではおそらくドメインくらいしかないと思うのです。

また、一つのドメインの中にもさまざまなコンテンツが含まれているので「このドメインの中でも、このキーワードが入っている記事はコンバージョン率が高いが、このキーワードが入っている記事はコンバージョン率が低い」ということも大いにあると思います。一方、人間が網羅的にこういった分析をすることは難しいと思いますので、僕らがデータを使って最適化していくお手伝いができると考えています。

 

共通IDか統計的推計か

高瀬:各広告プラットフォーム内での分析は、ADHのようなデータクリーンルームを活用することでかなり精緻に実現可能かと思いますが、3rd Party クッキーにより実現していたプラットフォームを横断したフリークエンシーコントロールやアトリビューション分析は、ポストクッキー時代にどのようになっていくとお考えでしょうか。

簗島:難しい問題ですよね。プラットフォームをまたいだデータ転送の実現はさすがに難しいと思うので、共通の識別子を使うか、あるいは統計的に推計する方法をつくるしかないと思います。

高瀬:僕もそう思っています。結局、完全にデータをつなぐことは難しいと思うので、それこそADHなどのデータクリーンルームでプラットフォームごとのデータ分析をしたうえで、個々のプラットフォームのデータの相関関係で見ていくというかたちになっていくのかなと思います。

一方、情報銀行のようなサービスが浸透すれば、何らかのインセンティブと引き換えにユーザーが積極的に自身のデータ利用を許諾することで、プラットフォームを横断した取り組みも実現可能かと思いますが、その辺りはどうお考えでしょうか。

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簗島:どうなのですかね。僕個人はAmazonギフト券500円もらえれば個人情報もどんどん渡すタイプなのですが、それはおそらく希有です(笑)そのため、一般性が低いデータでターゲティングするならある程度可能かもしれませんが、分析は難しいかもしれません。

例えば「御社にはポイントサイトに興味がある人がたくさん来ています」という分析結果しか得られないかもしれませんし、一般的にモニターになりやすい人は主婦が多いということであれば「主婦が見ています」というレポートしか出せないかもしれません。

ひるがえって考えると、ターゲティングに関しても微妙かもしれないと思いました。ターゲティングはある程度の人口に対して人数が少ないものにしか価値が出ないという話をよく僕らはしていて、例えば飲料メーカーからプロモーションにデータを活用したいとなると「それはおそらく人口の8割の人がターゲットとなるのでデータで絞る必要ないでしょう」という結果になります。一方、ハイブランドの商品であれば、100人のうち買ってくれる人は1人か2人なので、それを除く98人に広告が出ないことはとても重要です。この場合は、情報銀行の許諾済データの活用の余地はあるかもしれません。

 

不確実性の高いポストクッキー領域

高瀬:今まさにポストクッキー時代に向けて、GoogleがブラウザベースのPrivacy Sandboxでイニシアチブを取り、W3Cのワーキンググループで議論が進められていますが、御社はアドテクベンダーとしてこの議論をどのように見ていますか。

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簗島:単純に思うのは、あと1年半ほどで議論が収束するのかということです。これほど何も決まっていないのに、1年半後にいきなり変えるのは難しいと思っているのです。少しフワッとした話をすると、もはやこれはテクノロジーではなくモラルで対応する場所だろうと思って見ています。

要は、テクノロジーでスパッと切るとどこか不都合が生じやすいので、本当は法律でしっかりと決めたほうがいい領域なのではないでしょうか。いずれにしても、どうやって収束させるのだろうかと注視しつつ、収束したものには弊社もなるべく素早く対応していく、くらいのことしか考えていません。どちらかというと、このブラウザの議論は独禁法の話との兼ね合いが強そうですし、この仕様のままでどこまで議論が進んでいくのだろう思いながら見ています。

高瀬:独禁法との兼ね合いはありそうですよね。直近は検索サービスの文脈で話題に上がっていますが、Chromeしかり、旧DoubleClick製品群も対象になる可能性もあり、個人的にも注目しています。

簗島:そうですね。しかしながら、仮にGoogleがChromeの事業を切り離して別の会社がそれを買収したとして、その会社が独占的な意思決定ができてしまうのであれば、結果として誰も何もしなくなるといったことも考えられるのではないかと思います。

だからこそ、ポストクッキーの領域は1カ所に張ってはいけないと強く思っています。3rd Party クッキーがなくならないという話になったとしても、SafariやWindowsで取れない件数が増えているので、これらに対して何かしらの情報を付加する方法はとにかく考えないといけないですし、不確実性が非常に高いので、さまざまなパターンに対応したソリューションをつくらないといけないと思っています。

海外のアドテクベンダーも、The Trade DeskはUnified IDから分かるように完全にIDソリューションに寄っていて、これに賛同したCriteoに関しても同じようなことが言えるのではないでしょうか。1カ所に張っているアドテクベンダーがとにかく多い印象ですが、なかなか厳しいのではと感じてしまいますね。W3Cでの議論もGoogleのPrivacy Sandboxベースで収束するだろうという期待を持ちつつも、今は何もやらずに考えることを放棄するというのはリスクが高いので、さまざまなバリエーション、可能性があると考えながらやっている感じです。

株式会社インティメート・マージャーの簗島亮次さんとアタラ合同会社の高瀬優

 

5年後の世界と真剣に向き合う

高瀬:最後の質問です。御社から見て、広告主やマーケターがポストクッキー時代に向けて今から準備しておくべきことをお聞きしたいと思います。

簗島:これは今、マーケターや広告主の方にはよく話をしているのですが、おそらく今できていることの中で、ポストクッキー時代にできなくなることについてちゃんと定義できる人が意外と少ないと思っています。できなくなることの中でも、必ずしも必要ではないものと不可欠なものがあって、後者を未来永劫実現するためにできることを考える必要があります。

例えば、リターゲティングが難しくなるのであればやらなくてもいいと思われる方もいるかもしれませんが、日々目標を追っているマーケターからすれば、必ずしも新規ユーザーを獲得できなくとも、CPAの安価なリターゲティングキャンペーンをやめる選択肢を取ることは難しいでしょう。アドテクベンダーの立場からすれば、広告主のビジネスを永続的に成長させるためにサポートすることが仕事ですので、既存の方法で実現できなくなっても、広告主のビジネスを伸ばすために不可欠なものに関しては新しいものを提案できる体制をつくっておいたほうがいいのではないかと思っています。

すごく斜に構えた言い方にはなりますが、クッキーが今後使えなくなるということは、広告主にとってなんの価値も生まないですよね。いかにしてビジネスを伸ばすかという責務を本当は負っているはずなのに、情報通で終わるアドテクベンダーや広告代理店は要らないと思っています。できなくなることばかりを言っても誰も何の得もしないので、今はビジネスを伸ばすための手段をとにかくたくさん蓄えたほうがいいでしょう。

高瀬:そうですね。それこそアドテクベンダーや広告代理店であればADHに関して今のうちからアンテナを張っておいたり、広告主であれば御社が提供しているようなCMPを早めに導入したりすることで、プライバシーを担保しながらユーザーと直接関係を持つことの準備をしておくべきですよね。

簗島:はい。これは僕らもそうかもしれないし、僕ら以外の会社もそうですが、やはり今後5年後ぐらいまでのことを考えたときに、永続的にビジネスを伸ばすための話をできる会社と付き合ったほうがいいと思っています。これも斜に構えた話ですが、他の会社のセミナーや記事の中で「この状態でうまく物事が進まなくなったらやめればいいや」といった雰囲気を時々感じることがあるのですが、僕らはそんなこと言っている場合ではないと思います。「Googleがどうにかしてくれるでしょう」というように自分ごと化していない方も少なくない気はするので、自分ごと化して話している人と仕事をしたほうがいいのではないでしょうか。

高瀬:本当にそうですね。本日は貴重なお話ありがとうございました!

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