※本記事は、adjust株式会社ゼネラルマネージャーの佐々直紀さんに寄稿していただきました
インターネットの広告媒体費のうち、モバイル広告の占める割合が増加しています。日本においては、2018年にモバイル広告費が初めて1兆円を突破して1兆181億円となり、2019年はインターネット広告媒体費の75.9%である1兆2,623億円(前年比123.9%)にまで成長しています(出典:https://dentsu-ho.com/articles/7227)。しかし、モバイル市場が受けているアドフラウドの被害は依然として大きな課題です。Adjustが2019年のデータを調査したところ、全てのソーシャルアプリのインストールの約11%が不正なものであることが分かりました。
アドフラウドの課題は絶えませんが、2020年はアプリ市場全体において間違いなく成長の年となることが予測されています。しかし、それもアドフラウドによって簡単に妨害されてしまう可能性があります。例えば、東南アジアなどアプリが急成長している地域では、不正防止ツールが十分に普及していなく、不正業者のターゲットになりやすい傾向があります。その損失は金銭的なものだけではありません。不正によってデータの正確性が損なわれ、マーケティング活動では誤った意思決定をしかねない上、どのチャネルが最もパフォーマンスの高いのか分からなくなります。2020年を、ビジネスを成長させるチャンスの年にするためには、まずは不正防止を優先事項として取り組む必要があります。
では、どのように不正を防止できるのでしょうか。まずはアドフラウドを正しく理解することから始めましょう。
アドフラウドとは
モバイルアドフラウドとは、不正業者がモバイル広告の技術を利用して広告主の予算を盗み取る行為です。主にクリックインジェクション、SDKスプーフィング、クリックスパム、フェイク(偽装)ユーザーの4つの不正手口が使われます。不正は大きく2つのタイプに区別でき、1つはビューやクリックなどの広告エンゲージメントを偽装するもの、もう1つはインストール、セッション、イベントなどのアプリアクティビティを偽装するものです。前者は「アトリビューションの横取り」、後者は「ユーザーのなりすまし」として知られています。
さらに、不正業者はリソースが豊富で、不正フィルターが特定の不正を阻止していることに気付くと、回避する手段を見つけようとしたり、アドフラウド対策がされていないアプリを新たなターゲットにする傾向があります。
しかし、業界で話題に上らない不正は波及効果を及ぼし、マーケターは不正で歪んだデータを使用したままマーケティング活動を行ってしまいます。
不正が評価基準に与える影響
アドフラウドは広告予算を盗み取るだけではなく、ユーザー獲得施策の意思決定も妨害します。
例えば、あるネットワークから新規インストールが大量に流入しているように見えても、それらのアトリビューションが不正である可能性があります。もしマーケターが偽物と本物のユーザーを識別できなければ、数値としては「優良」なネットワークに対して予算を追加投入し、不正を受ける間口をさらに広げることにつながるのです。こうした悪循環により、高い価値をもたらす、実際に存在するユーザーに充てるべき予算が奪い取られてしまいます。
また、フェイクユーザーがアプリ内アクティビティや購入データに与えるドミノ効果(連鎖反応)も十分に考慮しなければなりません。書面上においては、フェイクインストールはユーザー獲得数を増加させるため、そのタイプの不正を注視していないマーケターも存在します。しかし、継続率や生涯価値(LTV)といった他のKPI基準に支障をきたし、いずれ深刻な問題となります。
さらに、不正業者はクリックスパムやクリックインジェクションといった手口でオーガニックを横取りしようとします。以下の表は、このような不正手口がいかに評価基準に影響を及ぼしているかという点を、収益とROIの違いに注目して示したものです。
大半のネットワークは優良企業で、クライアントの利益を最優先に置いているのは確かですが、ネットワークが認識していない広告ビジネスのさらに奥にある領域から、不正業者が広告主を利用しようとしている可能性があります。仮に、不正行為が全く発生していない状態なら、500円のCPIで500インストールを提供するネットワークに対し、マーケターは10万円の収益を上げることができたとします。また、1,000のオーガニックインストールを獲得することで、100万円の収益を上げることもできます。これは非常に優れたROIです。
ここで、そのネットワークが500円のCPIで800のインストールを提供したとしましょう。これは大変な増加で、一見優れているように見えます。同時に、オーガニックインストールが700に低下したとします。これはあり得ないことではありませんが、このトラフィックソースはクリックスパムまたはクリックインジェクションを使ってオーガニックユーザーや他のネットワークからのユーザーを横取りし、自分のものとしている可能性が高いと考えられます。こうした不正行為による被害が広告予算を無駄にし、ROIを大幅に低下させるのです。
アドフラウドに対するソリューション
業界からアドフラウドを撲滅させることは決してできませんが、マーケターが自分を守るためにできる手段は多く存在します。最も重要なことは問題を理解し、不正を真剣に捉えることです。プロセスを明確にし、社内にアドフラウドの担当窓口を確立し、問題に対処していく必要があります。マーケターはデータに歪みがないかどうかを確認し、問題を適切な担当者に報告するのに最適なポジションにいます。
さらに、広告が表示される場所を正確に把握したり、クリックやアトリビューションの定義を把握できるように、パートナーに透明性を求めることも重要です。不正業者は広告配信の不透明な仕組みを利用して問題から逃れようとするため、そのパートナーが誰で、どのように広告不正に対処しようとしているのかを、モバイルマーケターが問いただす必要があります。
アドフラウドは急速に進化しているため、常に最新の傾向を把握する必要があります。まずはモバイルマーケティング業界の一人一人がアドフラウドを正しく認識することが、業界全体の取り組みを推進させるのです。