アテンション計測最前線:日本オラクル アルフォンソ・アセンシオさん、西川明里さんに聞く

アテンション計測最前線:日本オラクル アルフォンソ・アセンシオさん、西川明里さんに聞く

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『プログラマティック広告最前線』連載の趣旨

 

デジタル広告が総広告費に占める割合はグローバルでみても年々増加しており、このデジタル広告のデファクトスタンダードとなっているのが、広告在庫の自動売買に対応するプログラマティック広告です。5Gに代表される通信システムの発達やIoTの普及も相まって、テレビや屋外・交通広告(以下OOH)といったデジタル広告に分類されない媒体においても、プログラマティック化が進んでいます。

そこで本連載では、マーケティング先進国の欧米の事例を中心にプログラマティック広告の最前線をお伝えするとともに、最前線の少し先の世界を考察しています。また、日本国内の最新事例についても、キーパーソンとの対談を通して紹介していきます。

第九回では、インストリームに特化したビデオSSP兼アドサーバー事業をグローバルで展開するSpotXの日本カントリーマネージャー 原田健さんとソリューションエンジニアマネージャー 張舜さんに、OTT(over-the-tops)ならびにCTV(connected TV)の最前線について伺いました。

※参考リンク

第十回となる今回は、オーディエンス、コンテクスト、広告効果検証の包括的ソリューションであるOracle Data Cloudを提供するオラクルの日本リージョナルディレクター アルフォンソ アセンシオさんとパートナーデベロップメント 西川明里さんに、Moatを中心にアテンション計測の最前線について伺いました。

※参考リンク

話し手:
日本オラクル株式会社
リージョナルディレクター
アルフォンソ アセンシオさん
パートナーデベロップメント
西川明里さん

聞き手:アタラ合同会社
コンサルタント
高瀬優

※本インタビューは2020年2月に実施されました。

 

オーディエンス向けソリューションからスタート

高瀬:まず簡単に、アルフォンソさんと西川さんのご経歴を伺えますか。

アルフォンソ:1998年に日本にやってきました。名古屋大学を卒業後、10年間ほど日系企業に勤務していました。セガやバンダイでマーケターとしてのキャリアを積み、2013年に日本事業立ち上げメンバーとしてAcxiomに加入。オラクルには2018年に入社し、現在はOracle Data Cloudのリージョナルディレクターを務めています。

西川:CCIでメディアプランニングからセールス、メニュー開発などに携わり、その後2年間ほど留学。帰国後はCriteoでパブリッシャーリクルーティングやマネタイズを担当し、2017年にOracle Data Cloudの日本立ち上げメンバーとしてオラクルに入社しました。

私が入った当初はオーディエンス向けソリューションのみがOracle Data Cloudのサービスだったため、まずはパブリッシャーやデータプロバイダーのリクルーティングを通してオーディエンスデータの収集に取り組みました。その後、2017年にオラクルがMoatを買収してからはMoatとオーディエンス、2018年にコンテクスチュアル解析・ターゲティング企業のGrapeshot (現Oracle Contextual Intelligence)を買収してからはオーディエンス、Moat、コンテクスチュアルの3領域でパートナーマネージメントを担当しています。

高瀬:オーディエンスというのはOracle BlueKaiのことを指しますか。

西川:そうですね。正確に言うと、オーディエンスに関してはOracle BlueKai単体だけでなく、合計四つの企業を買収して一つにまとめたOracle Data Cloudのプラットフォームです。オンライン、オフライン両方のデータを基に、パーソナライズされたマーケティングキャンペーンをサポートしています。

 

アテンションとエンゲージメントを測定可能

 

高瀬:ありがとうございます。そうしましたら、ここからはOracle Data Cloudの中でもMoatにフォーカスしてお話を伺えればと思います。具体的にMoatが提供するソリューションについてご説明いただけますか。

 

アルフォンソ:デジタルマーケティングの効率を上げることがOracle Data Cloudのミッションの一つとしてあります。当初からあるオーディエンスのソリューションは、その中でもターゲティング効率を上げる役割を果たしていましたが、ターゲティングして実際に広告に接触したユーザーの反応までは測定できていませんでした。しかしながら、Moatを買収したことにより、広告接触におけるアテンションとエンゲージメントを測定することが可能となり、ターゲットごとに適切なメッセージや環境を分析できるようになりました。Analyticsでは60以上の指標を計測可能です。

高瀬:Moatはアドベリフィケーションのカテゴリーに分類されると思うのですが、過去に弊社メディアでもIntegral Ad Science(以下IAS)やCHEQなど、御社からみると競合となるベンダーにインタビューさせていただいており、プレイヤーの数も増えているのかなと感じています。競合ベンダーと比較して特筆すべき部分はありますか。

西川:昨今、新興ベンダーも増えていますが、それらとMoatが大きく違う部分は、アドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティの3軸で計測ができ、かつMRC(Media Rating Council、広告出稿のレイティングとオーディットについての認定を行うNPO)認定を取得していることです。

この3軸の計測に加えてMRC認定を取得しているのは、現時点ではMoatを含めて日本では3社になるかと思います。

 

さらに、この3社の中からMoatにおいて差別化できるポイントとして、まずビューアビリティにおける計測可能な指標の数があげられます。MRCで定められた指標はもちろんのこと、広告上でのマウスの動作有無や、スクリーンにおける広告の占有面積率といった広告注目度における重要な指標を、他と比較しても圧倒的に多く提供しています。

 

次に、アドフラウドに関しては、オラクルが従来より持つテクノロジーを掛け合わせることで不正トラフィックやbotの検出などが可能です。一例としてオラクルは世界最大のDNSサービスであるDynも提供しており、そこで得られるリアルタイムのデータを活用することで、進化を続けるアドフラウドの手法をどこよりも早く見つけ出し、ブロックすることができます。

 

最後に、ブランドセーフティに関しては、Oracle Contextual Intelligenceのテクノロジーを活かした質の高いブランドセーフティを実現できていると自負しています。

以上のことから、Moatはオラクルがもつテクノロジーを最大限活用し膨大なデータアセットでIVT(Invalid Traffic)を検出することが可能です。これはオラクルと買収企業が生み出すシナジー効果と考えています。

アルフォンソ:アドベリフィケーションの基本的なアプローチ、すなわちブランドセーフな環境でビューアブルな広告をヒトに向けて配信することは重要ですが、もちろんそれだけでは足りないと考えています。Moatの提供する数多くのアテンションメトリクスを活用することで、単純なクリックやオンラインコンバージョンといった伝統的な手法を超え、ユーザーによる広告への注目度やエンゲージメントまで理解できれば、さまざまな企業がオンライン広告の精度を高め、よりビジネスゴールに近づくことができるでしょう。

アテンション獲得でブランドを作り上げていく

高瀬:弊社が実施したIASやCHEQのインタビューの中でも、アドフラウド防止やブランドセーフティの実現といった事故防止のような側面から、コンテクスチュアルターゲティングやROIベースでの広告配信を実現するための計測環境の提供といった方向に各ベンダーがフォーカスし始めている印象を受けました。御社でいうと、それがアテンションメトリクスという理解でよろしいでしょうか。

西川:そうですね。日本では、アドベリフィケーションというくくりだと、どちらかというと守るためのツールという印象からかブロック機能にフォーカスされていますが、Moatは”Analytics”という名称の通り、基本的に分析ツールです。この点が他社と大きく違うこともあり、世界最大規模の広告主の皆さまに採用された要因の一つだと考えています。Moatは、アドベリフィケーションを「守り」だけではない、広告予算の最適化とパフォーマンス向上のための「攻め」のソリューションだと考えており、アクションにつなげるための分析ツールという側面を有しています。

高瀬:なるほど。初期からそういったアプローチをされていたというところが、競合ベンダーとの違いだとお話を聞いて思いました。

西川:そうですね。根幹となるコンセプトが少し違うかもしれないです。

アルフォンソ:Oracle Contextual Intelligenceを活用して配信した広告のエンゲージメントをMoatのAnalyticsで計測するといったことが実現できるのも、私たちOracle Data Cloudの強みであると考えています。

高瀬:ありがとうございます。Financial Timesの広告責任者の方がAdExchangerに寄稿したコラムの中で、アドベリフィケーションの次の流れとしては、まさに御社が強調されていたアテンションへの注目が再び高まっていくと指摘しています。実際、御社としても広告主のアテンションへの注目度は高まっていると感じますか。

参考:

アルフォンソ:そうですね。これはマーケティングに限った話ではなく、広くデジタルの世界全般で言えることだと考えています。例えば、Netflixは2019年に約150億ドルを、Appleも60億ドルをオリジナルコンテンツに投資しており、DisneyはDisney+のグローバルサービスローンチ初日で100万人の会員を獲得しています。このような状況下で、デジタル環境で最も価値のある通貨はアテンションになってくると言われています。Oracle Data Cloudとしてもアテンションやエンゲージメントの重要性はさらに増していくと考えています。

西川:アテンションに関しては、大きく分けてマーケティングとブランディングの二つの軸があると思っています。マーケティング担当者は、アテンションメトリクスを見ることで、広告がユーザーにどのような影響を与えたのか、実際にどのくらい長くビューされたのか、相性のいい媒体はどこか、といった洞察が得られます。

一方で、ブランドを作り上げていくという観点では、ユーザーに対してブランドとしてどのような見せ方ができたのかという計測ができ、他国ではすでにそういった活用を行なっています。

日本に関しては、主要先進国と比較してブランドを作り上げていくという観点での利用法はまだまだ多くはないと感じています。これは、デジタルでのブランディングがあまり浸透していないことに加え、ブランド自身が分析ツールを活用するケースが少ないことも理由の一つかもしれません。

一方で、さまざまな企業のマーケターと会話をする中で、例えばJAA(日本アドバタイザーズ協会)に加盟している企業の中にはブランドを作り上げていくといった観点でのアテンションメトリクス活用を考えているところもあり、日本でも変化の萌芽を感じています。

 

OTTにおけるアドベリフィケーションにも積極的に対応

高瀬:2019年6月に、Samsung Smart TVにおけるビューアビリティとIVT計測にMoatが採用されています。OTT(over-the-tops)ならびにCTV(connected TV)におけるアドベリフィケーションは、例えば米国ではすでに重要視されているのでしょうか。

参考:

西川:5Gの商用サービス開始がOTTの需要増にもつながれば、それに比例してアドフラウド業者もさらに増加していくことが考えられるため、弊社としてもOTTにおけるアドベリフィケーションの先駆者として、今まさに対策を積極的に行っています。

アルフォンソ:Oracle Data Cloudは最近、アメリカで非常に人気の高いOTTサービスが、悪質なセッションハイジャック攻撃を受け、ユーザーがテレビを消した後も意図せず広告をストリーミングし続けていることを発見しました。Moatがセッションハイジャック率という指標を導入するまで、この問題に誰も気付いていませんでした。

高瀬:ありがとうございます。Samsung Smart TVに限らず、スマートTVやOTTプラットフォームとのパートナー関係構築はすでに力を入れて取り組んでいますか。

西川:そうですね。実際に、さまざまな大手動画プラットフォームやデバイスにおいてMoatでの計測が進んでいます。

高瀬:なるほど。DSPやSSPに関してはいかがでしょう。

西川:DSPではThe Trade DeskやMediaMath、AppNexusが挙げられますし、SSPに関してもグローバルで事業展開しているプレイヤーはほとんどがMoatに対応しています。日本国内においても、2019年の終わりごろからDSPやSSP、ないしはアドネットワークとのパートナー関係構築が進んでおり、広告プラットフォームが積極的にアドベリフィケーションを実施していくことがトレンドになっているという印象を受けます。

 

オーディエンスとコンテクストでターゲティングのすみ分けを

高瀬:IPG Mediabrandsの方がAdExchangerに寄稿したコラムの中で、今後はAudience verificationのニーズが高まっていくということが指摘されていました。そもそもAudience verificationとは何を指すのか、また、御社はAudience verificationのソリューションを提供しているのか伺えればと思います。

参考:

西川:一般的なAudience verificationの意味は、オンターゲット率のような、広告がターゲットとして意図したユーザーにどれほど配信されたかを計測するものだと思います。Moatは、米国ですでにAudience verification のソリューションを提供しており、今後日本を含めグローバル展開を予定しています。

高瀬:例えばDSPで特定のセグメントに対して広告配信をして、それが本当に意図したセグメントに配信されたのかを計測する仕組みはどういったものでしょうか。

西川:クライアントによって何を指標とするかで変わってきます。1st Partyデータや3rd Partyデータ、あるいはニールセンDAR(Digital Ad Ratings)を正として検証するケースもありますし、オフラインデータを使わなければならないケースもあります。こういった目的のため、DMPと接続してIDシンクできることも重要です。一方で、国によってIDシンクに関するポリシーは変わってきており、企業によって保有しているデータの質や量にもバラツキがあるため、米国以外の国で今後どのように展開していくかを探っている状況です。

高瀬:分かりました。昨今のGDPRやCCPA、さらにはWebブラウザの3rd Party Cookieサポート終了といったトレンドがある中で、御社として今後Audience verificationの展開をどのように実施していくのでしょうか。

アルフォンソ:Audience verificationの観点では、日本でサービス提供していないこともあり、まだ回答ができませんが、オラクルのCookieに関するポリシーとしては、GDPRに準拠するレベルのものを採用しています。

3rd Partyデータのビジネスが完全に無くなるとは考えていませんが、オーディエンスソリューションも違う形で進化していく必要があると考えており、そこに合わせて私たちもポリシーを順次適応していく予定です。

西川:そういった世の中の変化がある中で、オラクルはOracle Contextual Intelligenceを強みの一つに加えました。これにより、すみ分けた使い方をご提供することが可能になりました。例えばデモグラフィックはオーディエンスベースで興味関心はコンテンツベース、といった組み合わせも実施できます。

高瀬:Oracle Data Cloudの中でも、今後はOracle Contextual IntelligenceとMoatがより重要な位置付けになってくるのかなという印象を受けました。

西川:そうですね。

質の高い購買につなげるためのアプローチを

高瀬:これはIASとのインタビューの中でも話題に上ったのですが、日本は米国と比較してブランディング目的でプログラマティック広告を活用するケースがまだまだ少なく、ビューアビリティが軽視されがちです。今後、日本においてビューアビリティやアテンションを重視していくといったトレンドは起こるとお考えでしょうか。

参考:

西川:たとえキャンペーンの目的がコンバージョンやクリックであったとしても、ビューアブルでないインプレッションはクリックされないため、ブランディング、パフォーマンスの目的を問わずビューアビリティを向上することがファーストステップであるとクライアントには説明しています。

アルフォンソ:多くのグローバル企業はブランディングを目的としたデジタルマーケティング活動についてしっかりと戦略を持っており、これからブランディングに力を入れていこうとする企業がそこから学ぶことができると考えています。日本国内におけるブランディングにしても、従来のテレビだけでなく、デジタル環境で実施していく必要性が増しており、今後日本企業でもブランディングのデジタルシフトは加速していくと思われます。

高瀬:そうですね。実際、デジタル環境でのユーザーとのタッチポイントが増加していく中で、広告主の理解が進み広告費のデジタルシフトがさらに加速していけば、ビューアビリティやアテンションを重要視するようなトレンドが起こってもいいのかなと思っています。一方で、CPC主義も根強くあると思うので、こことのバランスが難しいようにも感じます。

西川:確かに現状では、主要媒体のクリック課金で広告配信を実施していることが多いかと思います。特にCPCの場合、アドベリフィケーションを実施することによってインプレッション数は減少しますが、インプレッション数が減少すればコンバージョン数も減少してしまうのではないかと懸念されることがあります。アドベリフィケーションの本来の目的は、質の高い購買に広告配信をつなげることですので、広告がしっかりと視覚に入りクリックされたかといった指標を見ていきましょうと啓発しています。

アルフォンソ:5年ほど前にデータドリブンマーケティングが話題になりましたが、そのときに3rd Partyデータ含めたオーディエンスターゲティングの必要性を認識していたブランドは少なかった印象です。今はどのブランドもオーディエンスの価値を理解していると思いますが、浸透するまでには数年の時間がかかりました。ビューアビリティやアテンションも同様、少しずつ浸透していくのではないかと考えています。

高瀬:ありがとうございます。最後に、グローバルならび日本におけるOracle Data Cloudの今後の事業展望を伺えますか。

アルフォンソ:世界第3位とも言われる日本のデジタル広告におけるエコシステムが成長を続けるために、今後も引き続き広告主や代理店、パブリッシャーと共にセル・サイド、バイ・サイド両軸においてサポートを行っていきます。具体的には、以下の点に焦点を当てていきたいと考えています。

まずは、メディアにおける計測および分類についてです。新しいチャネルや広告フォーマット、そして主なオーディオ・プラットフォームにおける計測をしていきます。

次に、IVTおよびブランド適性の向上を目指します。当社のIVTリサーチチームは日々新しいリスクを特定しています。また、インターネット・インテリジェンスのグループは、世界中で数え切れないようなトラフィックのパターンがある中で新種のボットサインを特定することにも成功しています。こうして得た情報を広告の効果測定やプリビット、ブランド・セーフティといった当社のさまざまなサービスに活かしていきます。このことは、コンテクスチュアルにおいても同様で、今後は動画コンテンツにおいても引き続き注力していきます。

そして、無駄を抑えた広告の効果最大化の支援、ユーザーフレンドリーで機能面、インターフェイス共に使いやすい、セルフサービスのツールとしても向上を目指していきます。

高瀬:本日はどうもありがとうございました!

取材当日に出勤していたオラクル犬のCandyと

 

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