ビジネス最適化ソリューション「Domo」を提供するDomo社が主催するカンファレンス「Domopalooza 2020」が、3月18日にオンデマンドで開催されました。様々なセッションが開催されていましたが、本コラムでは「本当のAI活用ジャーニー」について紹介します。
AIをビジネス活用したいと考えている会社には、DomoクライアントであるFreddy’s Frozen Custard & Steakburgers IT DirectorのSean Thompson氏の試行錯誤の話は大変参考となる内容です。
目次
AI活用の始まり
セッションではまず、Sean氏が所属する「フレディー」というステーキバーガーを販売する企業でAI活用を始めることになったことが語られました。「フレディー」の分析チームは初期段階として売上予測を目的とし、社内データに触れながら分析に没頭しました。しかしその実態は、プロジェクトメンバーも完全には理解できていないような分析モデルを多用するだけの未熟なものだったといいます。結果として、目的を達成することなく、初期プロジェクトは完全に失敗したとSean氏は述べています。
AI活用の失敗
失敗の要因
なぜAI活用の初期プロジェクトが失敗したのか。Sean氏は次のように説明しています。「初期プロジェクトにおける失敗の最も大きな要因は、プロジェクトメンバーが成果の達成に囚われたあまり、その過程に着目することなく十分な経験値を得ることができなかったことだ。」
さらに、彼はSteve Jobsが提示した「旅そのものが報酬」という教訓を活かすことができず、何も得られないという結果に終わったと述べていました。セミナーではSean氏がSteve Jobsの教訓を提示した理由について触れられていませんでしたが、「旅そのものが報酬」という言葉を引用したことからSean氏が、世界的に影響力を持つSteve Jobs氏の革新性から学びを得る支持者の一人であると推論できます。
また「最も多くの食事を提供すると予測されるレストランは、他店より多くの売上を出す」という予測結果が挙がったそうですが、Sean氏は、この予測はアクションにつながらないという点で意思決定に全く役立つものではなかったとし、失敗の一例として挙げていました。
AI活用の立て直し
方針転換
初期プロジェクトは投資対効果が限りなく0でしたが、苦心しながら他のやり方で再挑戦させてもらえるように、役員に提案したとSean氏は述べています。Sean氏が説明した他のやり方とは、カスタマージャーニーに沿ったAI活用に注力することでした。
現実的なゴールの設定
カスタマージャーニーをベースにAI活用方法を考えた結果、第二プロジェクトのゴールはデータの中で説明変数と目的変数にどのような相関性があるかを理解し、分類することとしました。上記のゴールを設定した背景として、事業部門内において予測にあたってのビジネスの因子は理解していましたがそれがどのように結びついているかをより深く理解する必要があったと述べています。
メンバー同士で意識的に情報を共有するための時間作り
初回の失敗経験を活かすため、プロジェクトチームは議論の時間をしっかり取ることを意識しました。より具体的には質問時間、余談などの時間を作り、確実に経験値を得られていることを相互に確認しながら、プロジェクトを進めたそうです。これによって部門を超えたデータ活用に関する意識が生まれたと説明しています。
※用語説明
・説明変数:何かの原因となっている変数(一例:気温)
・目的変数:その原因を受けて発生した結果となっている変数(一例:売上)
AI活用の成功
小さな成功
第二プロジェクト後は徐々に小さな成功を獲得できるようになりました。
一つ目の小さな成功は二つのレストランをデータで比較しA/Bテストで仮説を検証できるようになったことです。Sean氏は、それまでは感覚でレストランを比較していたのに対し、データを活用することで定量的に比較できるようになったと説明しています。
二つ目の小さな成功は、データ間の真の関係性について、何が相互作用をもたらしているのかを明確に理解したことだと述べています。同カンファレンスでは直接言及されていませんが、新商品の数と平均購入頻度の相互作用といったものだと想定されます。(一例:新商品が増えれば平均購入頻度が上がり、新商品が減れば、平均購入頻度が下がるなど)
大きな成功
大きな成功としては「フレディーロイヤルティプログラム」があります。これは利用頻度などをベースに顧客をAIで評価しランキング化して、それぞれに合ったキャンペーンの展開やサービスの提供を実施することでさらなる来店を促す仕組みを仕組みを構築したものです。
この仕組みの強いところは、来店によってさらなる顧客データが蓄積され、よりAIモデルの精度が上がるように設計されていることです。
AI活用の振り返り
最後にプロジェクト全体を振り返ってみると、3つの成果を得ることができたと述べています。
限界を知ること
最初の成果は、チームの限界やAI技術の限界を知ったことになります。プロジェクトを通して、理想ではなく現実をみること、そしてシンプルで現実的なゴールを設定することの重要性を強く認識したそうです。Sean氏は「限界はあるが、解決策を探すのは、データを持っていてそれを知っている当事者である我々だ」と語っています。
旅そのものが報酬
「旅そのものが報酬」という教訓が指摘するように過程を楽しむことが重要であると述べています。AIプロジェクトを今後も続けていく中で、道のりを覚えることによって、次のプロジェクトをよりよくできるといった考えが根底にあると言います。
パートナーシップ
人を教育し、学んだことをシェアする重要性についても、Sean氏は触れていました。これはビジネスとデータを見つめ、事業部門と同じ視点で問題に取り組む人をいかに育てるか、共に成長するかがプロジェクトの成功に寄与するからです。
最後に
コンテンツとしては、技術的なことではなく組織やプロジェクトにフォーカスし、AI活用を進めるために行った試行錯誤について語られた内容となっていました。一般的な企業では初期段階から特に費用対効果を求められることが多い中、「旅そのものが報酬」という教訓を活かし、まずは経験値の獲得を優先したのは、フレディー社ならではのユニークな視点だと筆者は考えています。
読者の皆さんも、営業やマーケティング活動にAIを活用する際には、彼らの試行錯誤や振り返りを参考にしてみるとよいかもしれません。