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広告運用者の仕事は上流工程のその先へ
Googleを筆頭に広告プラットフォームはめまぐるしいアップデートを続け、機械学習を活用した自動入札、広告クリエイティブの最適化、ターゲティングの自動化やアトリビューションモデルの構築等が当たり前のものとなっています。これに伴い、これまで広告運用者が多くの工数をかけてマニュアルで行っていた作業は広告プラットフォームに代替えされ、広告運用者の仕事は確実に高度化(上流工程へシフト)していると感じています。
では、2020年現在ですでに高度化している広告運用の仕事は、今後どのように変化していくのでしょうか。変わりゆく広告運用者の役割についてコラムや対談を通して考察していく本連載の第一回では、筆者が考える変わりゆく広告運用者の役割をお伝えしました。
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第二回となる今回は、広告運用者が提供できる価値について考察していきます。
COVID-19による広告業界への影響
2020年4月現在、新型コロナウィルス感染症(以下COVID-19)により、世界中が未曾有の危機に瀕しているのはご存知の通りかと思います。日本においても経済活動へのダメージは非常に大きく、2020年3月の全国企業短期経済観測調査(短観)によれば、製造業・非製造業問わず景況感は悪化しています。
このような不況下において、広告主による広告費削減は加速していくでしょう。IABが3月27日に公開した調査レポート(米国の広告主や広告代理店等バイサイドの意思決定者約400名が対象)によれば、対象者の74%が、COVID-19が広告に与えるインパクトは2008年の金融危機を上回ると回答し、さらに対象者の70%はすでに広告費を削減もしくは広告を停止する等の措置を取っているといいます。
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これに伴い、3月から6月の期間において、デジタル広告費は当初計画比で33%減、テレビやラジオ等のトラディショナルメディア広告費は39%減となる見込みで、広告業界全体への影響も非常に大きいです。AdExchangerによれば、世界最大の広告会社であるWPPは最低でも今後3ヶ月間の経営陣への報酬を20%カット、パブリッシャーの間でも給与カットや従業員の解雇が進んでいるとのことです。
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その時広告運用者が提供できる価値とは
では、こういった状況下で広告運用者はどのような価値を提供できるでしょうか。これを考えるうえで、以下「運用」に関する当メディアの考えを「Unyoo.jpについて」から引用します。
マルチスクリーン化が加速し、デジタルという軸でさまざまなメディア・モノが繋がっていく現代では、広告やCRMなどをはじめとしたマーケティング活動の根幹として、「運用」という概念の重要性が増してきています。
配信、取引、計測などの環境が進化し、技術の進歩にともなって、「運用」という言葉がそれまでの「保守」「維持」としての意味から、キャンペーンの成否を分ける最も重要な「設計」「実装」「分析」「最適化」といった成果に直結する意味も含めた包括的な概念に変化しているのではないかと感じています。
広告運用者は、広告アカウントを「設計」「実装」して広告配信を実施し、結果を「分析」して「最適化」を進めます。そして、このプロセスを繰り返すことで、初めてクライアントのビジネスゴールに伴走できると考えています。外部環境の急激な変化と、これによる活用可能な資源の制約に対して、高い「運用」スキルが求められることは言うまでもありません。
また、変化に機敏に対応できる運用環境が構築されていることも重要です。クライアントと同じ目線でコミュニケーションを取ることができる環境は必須で、加えて変化を察知しアクションにつなげる仕組みをテクノロジーを活用して作ることが求められるでしょう。広告運用とテクノロジーの知見を活かして、広告運用者がリードするかたちで環境構築を推進していくことは可能だと筆者は考えています。
さらに、コンテキストに即した広告クリエイティブの見直しも実施していくべきでしょう。DIGIDAYによれば、宣伝が多すぎる、あるいは現在のコンテキストにそぐわない広告を中断している米国の広告主は多く、コンテキストと生活者目線での広告クリエイティブ見直しはこういった状況だからこそより重要性が増しています。広告運用者からクライアントに働きかけることも心掛けるべきだと思います。
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マクロな視点で生活者の変化を捉える
生活者の外出自粛は、COVID-19収束後の消費行動にも大きく影響する可能性があります。
例えば、ECの利用はより一般的なものとなるでしょう。本連載の第一回でも紹介した通り、2018年時点での日本のB to C市場のEC化率(全ての商取引金額に対する電子商取引市場規模の割合を指し、算出対象は物販系分野)は6.22%にとどまっていますが、2020年は大幅に上昇することが見込まれます。
これに、PayPay等のキャッシュレス決済の普及が加わることにより、デジタルがリアルを内包する「アフターデジタル」の世界が急速に広がっていくことが予想されます。オンラインで完結する広告運用中心の世界がオフラインと融合していく流れもますます加速していくでしょう。
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生活者のメディア消費にも変化が出てくるでしょう。Nielsenによれば、外出自粛は生活者のメディア消費量を60%増加させるポテンシャルを持っており、OTT広告プラットフォームを提供するStrategusのJoel Cox氏が以下AdExchangerに寄稿したコラムの中で指摘するように、OTT(over-the-tops)ならびにCTV(connected TV)の普及は加速するかもしれません。
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OTTの中でもAVOD(Ad-supported Video-On-Demand)のプレイヤーが増加し、CTVでのコンテンツ視聴が普及すれば、メディアプランニングやクリエイティブのディレクションにも変化が出てくるでしょう。マクロな視点で生活者の変化を捉え、それを施策に活かしていくことも、広告運用者が提供できる価値のひとつではないでしょうか。
コンサルタントとしてクライアントに向き合う
繰り返しになりますが、広告運用者は、「設計」「実装」「分析」「最適化」のプロセスを繰り返すことで、初めてクライアントのビジネスゴールに伴走できると考えています。一方で、クライアントのKGIを達成するためのKPIが適切に設定されていなければ、ビジネスゴールに伴走することは難しくなります。
例えば、ECを運営するクライアント社内に、新規顧客獲得数をKPIとするデジタルマーケティングチームと顧客生涯価値(Life Time Value、以下LTV)をKPIとするCRMチームがあり、デジタルマーケティングチームの広告運用を担当するケースがあるかと思います。仮に、デジタルマーケティングチームは順調に新規顧客を獲得できている一方で、特定の広告キャンペーンで獲得した新規顧客のLTVが他チャネルと比較して低いことがCRMチームの分析から明らかになった時、どのようなアクションを取るべきでしょうか。
クライアントのビジネスゴールに伴走するといった観点では、KGI達成のための最重要プロセス、すなわちCritical Success Factor(重要成功要因、以下CSF)の見極めをクライアントと共に進めることができるかと思います。CSFが定まれば、自ずと優先すべきKPIが決まり、具体的なアクションに落とし込むことが可能です。
いま広告運用者が向き合っているKPIが、クライアントのKGI達成のためのCSFの目標数値となっているのか、コンサルタントとしてクライアントに向き合うこともできるのではないでしょうか。(KPIマネジメントの詳細は以下記事を参照ください)
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マーケティングの自走化を支援する
マーケティング活動の意思決定スピードは、クライアントのビジネスゴール達成を左右します。不況下におけるコスト削減も相まって、「意思決定スピード向上」と「コスト削減」のメリットを持つマーケティングのインハウス化は、今後ますます加速していくのではないでしょうか。
DIGIDAY[日本版]が2019年11月に実施したアンケートによれば、回答者の8割以上がすでに半分以上のマーケティング活動をインハウス化しており、以下の通りインハウス化における最も大きな恩恵として「意思決定のスピードアップ」をあげる回答者が全体の31%を占めています。
「外部に開示できない顧客データの活用」をあげる回答者が二番目に多くなっている点も注目に値します。昨今の個人情報保護や個人データの活用に関する規制のトレンドが、クライアントの外部(3rd Party)への過度なデータ依存に対するリスクヘッジを促進していることが推測されます。
インハウス化がすべてのクライアントの最適解になるわけではないですが、ビジネスゴールを達成するうえでインハウス化が適切な状態であれば、広告運用者がクライアントのインハウス化を支援することもできるでしょう。インハウス化が完了した後も、広告運用を軸としたマーケティング活動、業界トレンド、テクノロジーの知見やノウハウを提供することで、クライアントのビジネスゴールに伴走することは可能です。
COVID-19による未曾有の危機の中、自身の今後のキャリアについて今まで以上に不安を感じている広告運用者も少なくないのではないでしょうか。しかしながら、ここまで筆者の視点で考察してきた限りでは、このような状況下でも広告運用者がクライアントに提供できる価値はたくさんあると考えています。不安を感じているのはクライアントも一緒かと思いますので、これまで以上にクライアントに伴走することを意識して、価値を提供していきたいですね!