目次
『突撃!隣のマーケター』連載の趣旨
広告運用などのマーケティング活動を自社で内製化する「インハウス化」。ここ数年、日本においてもインハウスの流れが加速しているという現状がある一方、インハウスをどう捉えるかは、企業によって異なるのではないだろうか。
同連載では、毎回異なるインハウスカルチャーを持つ企業にアタラの井谷が突撃し、「お宅のインハウスカルチャーとは何ぞや?」をインタビューしていく。
今回の隣のマーケター:レバレジーズ株式会社 藤本直也さん 松原英之さん
話し手:レバレジーズ株式会社
執行役員 藤本直也さん
マーケティング部 部長 松原英之さん
聞き手:アタラ合同会社 井谷麻矢可
第4回となる今回突撃したのは、エンジニアなどのIT人材向けのキャリア支援サイト「レバテック」や、新卒就活支援サービス「キャリアチケット」、看護師の転職・就職を支援する「看護のお仕事」など、IT、医療、介護、若年層領域を中心に28のサービスを展開・運営するレバレジーズ株式会社だ。2017年より東南アジアや中南米諸地域の日系企業に対する就職支援を軸とした事業で海外進出を開始し、2005年の創業から14年で342億円規模の急成長を遂げており、IT・医療の分野では業界トップクラスの人材系サービスを展開している。
リンク:
同社は「インハウス主義」を掲げており、事業運営に必要な専門性はほぼ全て社内で完結させることで独自のインハウスカルチャーを醸成してきた。
同社の掲げる「インハウス」とは何なのか、インハウスカルチャーを浸透させるための組織づくりや、カルチャーフィットする人材とは何かを中心に、執行役員である藤本さんと、マーケティング部部長の松原さんにお話を伺った。
事業が急成長する中で、インハウス化を実施
執行役員を務める藤本さんは、2014年に新卒で入社、それ以前にも約2年間インターンとして在籍し、約8年間同社の成長と共に歩んできた。現在は内外に対して「インハウス主義」を掲げる同社だが、本格的にインハウス化体制の構築を始めたのは創業6年目頃だったと当時を振り返る。
藤本:新卒入社3~4年は新規事業を担当していましたが、その後は人事責任者として新卒採用や中途採用、制度研修を経て、最近は計画室室長を務めています。ただ、もともとインターン時代はマーケティング部に在籍していたこともあり、専門性としてはマーケティング人事、事業開発にあたります。
今でこそ28個もの事業を抱える弊社ですが、創業8年目くらいまでは人材系サービス3つ程度でした。そこから3年で7~8サービスになり、その3年後には28個まで増えました。当初は人材系サービスの色が強かったのですが、現在はM&AやITサービスなど、さまざまなサービスが始まっています。
内製化を強化し始めたのは創業6年目くらいから。夢のある言い方をすれば、インハウスでマーケティングが競合よりも強い状態を担保できていれば、社内にナレッジが蓄積し競争優位性となるので、事業の成長は加速しますし、顧客に最高のサービスを届けられます。
逆に夢のない言い方をしてしまえば、競合や広告代理店のマーケターよりも自社の能力が低ければ、パートナーに頼った方が会社は成長するという構造になってしまいます。そして、広告代理店へのマージンが入ると利益率が圧迫されてしまう傾向にあります。
一方、現在マーケティング部の部長を務める松原さんは、2013年に入社してきた転職組。元々は大手広告企業の制作部門で商品企画や広告ディレクターを務めていた。
松原:前職でのマーケティング活動というと、CPAなどの数字とにらめっこしながら、どのクリエイティブで何人集客できるのか、本部が出す目標値にいかに合わせにいけるか、という世界でした。そうした枠に囚われずにマーケティング活動をしてみたいという思いから弊社に転職し、最初はウェブディレクターを、次年より「レバテック」のマーケティング責任者、その翌年からは現職であるマーケティング部長を担当しています。私が入社した2013年にマーケティング部が発足しました。マーケティング部発足前は、広告運用などは各事業部の担当者が個々に実施していましたが、きちんと組織化しようということで、マーケティング部が立ち上がったと聞いています。
藤本:松原が入社したとき、私はちょうどインターン生としてマーケティング部に入ったタイミングでした。当時の組織状態はまだまだ手探りの段階で、皆でマーケティングに関する論文や書籍を読みながら「こうやるらしいよ」と話し合ったりしていました。そこに松原が入社してきて、天からの助けのように感じたのを覚えています(笑)。
2013年のマーケティング部立ち上げ当初、社員数が約300名だったのに対し、同部はマーケター20名弱が所属する組織として始まったという。まだまだ手探りの組織運営ではあったが、意外にも松原さんのようにマーケティングの実務経験者を中途採用で採用するパターンは珍しく、新卒入社組が試行錯誤しながら自社のマーケティングを考えるという運営方針だったそうだ。
松原:教育についてよく聞かれるのでお答えします。ある程度の基礎的な教育はしますが、それ以上は自分で学びながら実践をしてもらいました。この原則は現在も変わらず、最初に3ヶ月程度研修を実施しますが、それ以降は責任ある仕事を彼らに預けてしまうことが多いです。
マトリックス型の組織編成で事業拡大と個々人のスキルアップを両立
2013年に立ち上げられたマーケティング部には7年経った今、100名以上のマーケターが所属している。組織編成も整えられ、現在は職能ごとに区切られた横軸と、事業ごとに区切られた縦軸が交差する、いわゆるマトリックス型の組織編成を採用。松原さんはマーケティング部全体の責任者として現在どの事業にも属さず、各事業部が抱えるさまざまな運用課題を解決する役割を担っている。
松原:弊社のマーケティングにおける特徴の一つは、この組織編成にあると思っています。マーケティング系の職種は事業企画系、アナリティクス系、CRM系、プロモーション系、SEO系、コンテンツ系の大きく6つに分かれており、それぞれがメディア企画部とマーケティング部に属しています。
横軸である事業軸は28のサービスに分かれているが、それぞれに事業のサービスレベル、ターゲット、ビジネスモデルが異なる。対応策としては、事業部がそれぞれのサービスをいくつかのビジネスモデルに分類し、ビジネスモデルごとの類似点を分析、アカウントの難易度を考慮しながらリーダーとのすり合わせを行っているという。
松原:誰にどのサービスを任せるかについては、事業部からオファーすることが多いです。また、基本的にジョブローテーションの制度化は実施していません。弊社はT型人材が多いので、広告やCRMといった深い専門分野が基軸にあり、それをベースに幅を広げるパターンが多いです。
藤本:国内大企業のように、ここで2年やって次はこれ、といったやり方は弊社っぽくないと思っています。それよりも、その時のポジションでの問題解決方法を確固たるものにして、ステップアップしてもらいたいです。
一方縦軸の機能軸チームでは、基本的にリーダーが現場のメンバーのサポートを行うが、前述の通り必要以上に教育することはなく、各自の学びの姿勢を尊重している。
松原:ものによってケースバイケースですが、例えば「Tableauの導入を検討したいが他のBIツールとどう異なるのか」といったテーマを決めて、個々人に勉強してもらうケースもあります。社内で優先度の高い課題としてイシューの時点で渡せば、渡された人は責任感を持って課題解決のために自然と調べて勉強します。もちろん任せる人は適正を見てテーマごとに選びますが、意外と手取り足取りする必要ってなかったりするものだと思います。
藤本:そのため、たまに損失が出たりもしますが、チャレンジをしていかないと始まらないので、そこはあまり気にしていません。デジタルマーケティングの世界はアップデートが激しいので、懇切丁寧に教えたところで1年後には機能もアルゴリズムも変わっていることが往々にしてあります。加えて弊社はサービス数が多いため、あるサービスでは上手くいった施策があるとしても、異なるターゲット・フェーズの別サービスに当てはまるとは限りません。結局、一人一人が自立して学習し、PDCAを回せないと事業成長には繋がらないと感じています。
教えてもらえる環境を作るよりは、自分で能動的に学び、試してみる。そうしたカルチャーを作ったほうが、結果的にデジタルの世界では強い人材が育つと藤本さんは言う。そして、仮に試みが失敗に終わったとしても受け入れてもらえる環境やカルチャーが同社には醸成されている。
ウェブコンバージョンの先を見通すためのデータ活用
同社はオフラインデータやCRMデータの活用に注力している点も特徴的である。マーケティング部の主要目標の一つである新規顧客の獲得のためには、ウェブ広告を駆使したユーザーコミュニケーションが不可欠であり、ウェブ広告の費用対効果を上げるためには、オフラインデータやCRMデータの活用が必須だと松原さんは語る。
松原:オフラインデータやCRMデータに着目した一番のきっかけは、広告運用のパフォーマンスをどうやって上げるかを突き詰めた結果でした。元々、資本の少ない状況からマーケティング活動を開始したということがあるため、いきなりマス広告で集客することは難しいという課題がありました。ウェブ広告はマス広告よりもコストをかけずにエンジニアなど売り手の求人を集められるため我々にとっては非常に優れたチャネルです。
加えて、ウェブ広告を自社運用するのであれば、「サービス登録」などウェブ上でのコンバージョンの後にどれだけの期間で売上につながったか(同社では応募価値と言う)までを追い、CPAベースで実際にどの程度の利益を生むかまでをも見るべきです。マーケティング目標を達成していても、事業目標である売上につながる新規顧客獲得ができていなければ、施策を再考する必要があるからです。そして、そこまできちんと追うためには、全てのデータをきちんとつなぐ必要がある、と。
藤本:試行錯誤の繰り返しですが、現在はCRMシステムを自社開発し、営業チームの営業活動データや電話やメール、LINEでのコミュニケーション履歴、イベント出席履歴といったオフラインデータを一つのシステムに蓄積できる仕組みを構築しています。SEM系データも同様につなぎこんでおり、現在は広告であれば、出稿キーワード単位での営業利益が分かる仕組みまで完成しており、それをベースに広告運用やデジタル施策の運用改善を行っています。現在、これらのデータは管理画面上で見る形ですが、今後はダッシュボード化して可視化できるようにしたいですね。
松原:SEM系データのつなぎこみの仕組みで言えば、社内のCRMシステムにGoogle アナリティクスのオプトインデータを送る仕組みを作り、それをGoogle 広告に戻しています。Google 広告から弊社のCRMシステムで売上が発生するまでのトラッキングはCookieベースでつながっているので、我々はキーワードをクリックするだけで、同サービスに登録してくれた人が何ヶ月後に売上につながったかの値までを見られる仕組みです。
ただし、CRMシステムは全事業部で一律化されているわけではなく事業部ごとに内製で置かれており作り方が異なるため、全事業で適用できているわけではないという。そこがインハウスの重さであり課題でもあると藤本さんは語る。
藤本:こうした課題に直面したこともあり、社内のルールや技術、ツール統一化の話題が最近、出始めています。とはいえ事業ごとの最適化フィットによるメリットも捨てがたいという思想もあるので、現状は別々で動かしつつ、マトリックス型の組織編成をうまく活用して共有は怠らないようにしたいと考えています。
徹底した「インハウス主義」の経営方針
ここまで、組織編成や人材教育、データ活用の面での同社の取り組みを伺ってきた。これらは全て「インハウス主義」の思想に基づいて、仕組み化されたものだと言える。実際に内製化プロジェクトが始まって7年を経た同社だが、インハウス化して良かったのはどのような点なのだろうか。
松原:恐らくコストパフォーマンスの面やナレッジ蓄積面を挙げられる企業さんが多いと思うのですが、私が明らかにメリットだと感じるのは色々なことをスキップできるチート感や速度感だと思います。例えば職種間での情報共有においても、外部の人が関わる場合仕様書を起こして何らかのメディアを介して伝える必要があるのに対し、社内であればミーティングで済んでしまいます。ドキュメントに残らないというデメリットはありますが、理解している人が集まるので検討から決定までのスピードが速く、継続的に集まるため大幅に認識がずれることもありません。
藤本:広告運用を例に挙げると、外部委託した場合コンバージョン数やCPA至上主義に陥りがちですが、運用のやり方によっては、結局CPAが高くても利益が最大化される運用方法が絶対にあります。サービスに愛着を持ち、事業の成長にコミットできるのは、やはり自社の人間なのではないかと思っていて。自分の運用しているアカウントであれば、コンバージョンしたユーザーがきちんと良い転職ができたのかまで気になるじゃないですか(笑)。
松原:インハウス化と外部委託で一番異なるのは、「利益で動く目線になるか」だと思います。運用型広告やアフィリエイト、CRM、SEOなど色々な要素がメッシュで重なり合い、事業やプロダクトができている、という感覚の実感はインハウスならではです。自分たちが一部で貢献しているとなると、自然と利益ベースで考えられるようになり、メンバーから各チャネルへの予算のアロケーション提案が出てきたりします。そういう目線で事業を俯瞰できるのはインハウスならではだと思います。
だからこそ弊社は予算の組み方もすごくフラットです。通常、事業予算の組み方って、売上に対して広告費何%を割り当てるといった感じだと思うのですが、弊社の場合、各チャネルの流入状況から考えて集客とマーケティングでどの程度のパフォーマンスが出せるのかを概算し、セールスサイドの予算と合わせて事業予算としています。
インハウスカルチャーは、「人」がすべて。組織の強さがマーケティングの強さにつながる
創業以来、黒字経営を守り続け、今もなお成長し続けるレバレジーズ。同社のマーケティング活動を下支えしているのは、徹底した「インハウス主義」と、それを強固に支える組織体制である。同社がインハウス主義を続ける背景には、「メンバーの成長と質の担保」があるのだと藤本さんは語る。
藤本:インハウスが成功する理由は、やはり「人材採用」です。採用要件はスキルが高い人という意味ではなく、失敗してもそこから学べたり、自分で考えて施策を打てたりするといった、自発的な努力でしっかり前に進める人。そういう人がいる組織が、会社の成長のためには不可欠だと思います。小手先のスキルではなく、そういった志向性を持つ人はインハウス化された組織においては重要ですし、向いています。そして、そういった人が集まる組織は強いと思います。
松原:インハウス化は経営としての勝ち方の方法論であって、インハウス主義が成立するのは限定的な状況だと思っています。例えばスタートアップ企業がいきなりインハウスをやると言っても、自分たちのビジネスがどうなるかも分からない中でマーケターを採用するのはかなりリスキーな話です。そう考えると、外部委託した方がローリスクな場合もある。
また、経営層の理解の差もあると思います。弊社の場合、代表が第三者配信の概念も分かるし、アトリビューション分析も理解しているなど、デジタルマーケティングに対する造詣が深いというのも影響していると思います。デジタルマーケティングを広く視野に入れた経営判断の中で、インハウス化という勝ち方を選んだのではないでしょうか。
さまざまな勝ち方がある中で、インハウス文化を最適解として取り入れた同社。自社に完璧にフィットするように作られてきたインハウスカルチャーは、その組織に所属するメンバー一人ひとりが築き上げてきたものであり、他社が簡単に真似できるものではない。ここまで積み上げてきた独自性こそが、組織を強固たらしめているのではないだろうか。インハウスの強さは、組織のカルチャーの強さに比例すると藤本さんは結んだ。
レバレジーズ株式会社にとってのインハウスとは?
インハウスとは、組織の強さであり、カルチャーである
藤本さん、松原さん、どうもありがとうございました!
同連載はまだまだ続きますので、次回もお楽しみに!
※過去の連載※