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『プラットフォームの思想を知れば、これからの広告運用が見える』連載の趣旨
デジタル技術の進化により、年々増え続ける広告プラットフォーム。しかも各媒体でサイレントを含むアップデートが繰り返され、新機能を使いこなすことに手一杯になっている運用者の方も多いのではないだろうか。しかし、普段機能のひとつひとつに目を向けているとわからないものだが、それらはもっと根幹の部分にある「プラットフォームとしての思想」が反映された結果として、生み出された機能であるはずだ。
ユーザーベースドな広告運用が大事だと言われている今だからこそ、各プラットフォームの思想を理解し、これからの広告運用に向き合うためのマインドセットを再確認することが大事なのではないだろうか。同連載では、アタラ合同会社の清水が「どういう想いでプラットフォームが立ち上がり、その思想がサービスにどう反映されているのか」をテーマに連載を進める。
今回の話し手:CRITEO株式会社の小野良一さん
第1回目は、フェイスブックジャパンに対して、FacebookやInstagramの根幹を成す思想について伺った。
第2回目となる今回は、CRITEO株式会社にインタビューした。
話し手:
CRITEO株式会社
Commercial Director, Japan 小野良一さん
聞き手:アタラ合同会社
執行役員/シニアコンサルタント 清水一樹
編集:アタラ合同会社
井谷麻矢可
サラダ屋の一角で生まれたCriteoの思想
清水: Criteoは今や日本においても運用者にとって欠かすことのできないプラットフォームの一つですが、設立の成り立ちは知らない方が多いのではないかと思います。そもそも、どのような経緯で設立されたのでしょうか?
小野:Criteoで大手クライアント営業の日本統括を担当している、小野と申します。Criteoは、創業者であるJB リュデル(以下JB)と2人のエンジニアが2005年にフランスでスタートさせた企業です。創業のきっかけはかなりJB個人の体験に基づいていて、彼はもともと通信系のベンチャーを起業していたのですが、ビジネスが非常にうまくいったため、大手の企業にバイアウトしたのです。その後、サラダ屋を開店し、それも好調だったそうですが、そんな毎日を過ごすうちふと自問自答したそうです。「カボチャのスープを毎日注ぐことが、俺のやりたかったことなのか?」と。
清水:なるほど。本来のエンジニア魂に火がついたわけですね。
小野:そんな自問自答をしながら、お店のバックヤードでハリウッド映画を大量に観ていたそうです。観る映画はジャケットで決めていたそうですが、とにかくつまらない作品にばかり当たった時に、なんて時間の無駄なんだと感じたと。例えば自分の好みを登録し、これまでの視聴履歴を使ってリコメンドしてくれるツールがあれば、こんな無駄な時間は過ごさなくてよいのではないかと思ったそうです。
つまり、購買行動履歴に基づいたデータを使って、パーソナライズされた情報を活用しユーザーエクスペリエンスを上げていくというCriteoのビジネスの根幹を成す考え方は、この時の体験に基づいていると言えます。
清水: まさに、現在のCriteoの思想の始まりですね。
小野:その後、JBとエンジニア2人を加えた3人でテクノロジーを開発しました。ただ、その技術を使ってビジネスとして成功させるのには苦労したらしく、色々試した結果、この技術をもっとも有効活用できるであろう広告領域にフォーカスすることにしました。
キーワードはPerformance is Everything
清水:映画やサラダ屋がきっかけとは、かなりユニークですね。広告領域での事業を本格化させる前は、どのような事業をなさっていたのでしょうか?
小野:例えばECサイト上でのレコメンデーションや、映画レビューのレコメンデーションなどもプロトタイプ的に考案していたようですが、なかなかビジネス的にはスケールしなかったみたいです。設立から3年後にあたる2008年にようやく、広告領域でのビジネスをスタートさせました。
清水:日本に来られたのはいつ頃だったのでしょうか?
小野:日本オフィスの開設は2011年です。我々はたくさんのデータを使い、機械学習を通し顧客をよく理解した上でパーソナライズされた広告を配信します。広告主にとっては高い費用対効果を、ユーザーにとっては上質なユーザーエクスペリエンスを提供することで、結果的にビジネスの成長をお手伝いするというコンセプトで始まっており、お陰様で現在は、リターゲティング領域においてのマーケットリーダーになれていると思っています。
清水:まさに、日本に上陸された時からずっとリターゲティングを謳われているイメージがあります。
小野:創業当初の弊社のビジョンとして「Performance is Everything」という言葉が根底にあります。パフォーマンスには2つの側面があり、まずは広告主にとっては当然広告としての費用対効果を最大限にご提供してビジネスを成長させるという意味でのパフォーマンス。もう一つは、出すべき人に正しいタイミングで正しい広告を表示することで、ユーザーの生活を豊かにするという意味でのパフォーマンスです。「リターゲティング広告の企業」というイメージがあるかもしれませんが、リターゲティングはあくまで、2つのパフォーマンスを最大限に発揮させるための選択肢の一つと捉えています。
AIに寄り添い、データの量と質を上げる努力が最適化のカギ
清水:御社で一貫しているのは「Performance is Everything」というメッセージだということが理解できました。このメッセージを踏まえて、運用者がCriteoを運用する際に心がける点はありますか?
小野:まずお伝えしたいのは「データを活用しましょう」という事ですね。Criteoのパフォーマンスを最大化させる上で、非常に強力な武器となっているのは、我々の保有する「データ」と「AIエンジン」です。現在Criteoには20億人の月間アクティブユーザーがおり、Criteo広告が掲載される先のパブリッシャーが約4200社、広告主は2万社を超えています。広告主2万社の総流通額が80兆円以上であり、その規模感の購買に特化したデータを、我々は消費者行動データとして保有しています。
そして、そのデータとテクノロジーをかけ合わせることが、パフォーマンスを上げるためには非常に重要です。機械学習の予測精度を上げるためには、やはりAI エンジンにインプットさせるデータの量とバリエーションを増やす必要があります。
近年プライバシーに対する懸念やブラウザーから3rd Party Cookieを排除する動きが広まっていますが、弊社では以前からCookie以外の方法も用い、ユーザーのプライバシーを保護しながら広告の精度を高めるために必要なデータのみを分析し、業界屈指の技術でパーソナライズされた広告配信を行っています。
清水:御社の機械学習をより賢くするためのインプットデータの量と種類をもっと重視するべきだと。
小野:はい。運用者の方はとにかく入札額だけ決めていただければ、あとはもうAI エンジンがすべて自動で最適化してくれます。そのためあまりキャンペーンを細かく分けすぎず、一つのキャンペーンに対してデータの量と質を高めることに注力していただきたいです。その結果、運用者の方の予測するカスタマージャーニーを超える新たな発見や気付きもあると思います。
清水:管理画面のUIからも、その思想は感じ取れます。創業以来一貫して「Performance is Everything」をキーワードに、様々な広告メニューを考案されてきたと思うのですが、最近のアップデートにもその思想は反映されていそうですね。
小野:AIエンジンも日々進化しており、例えばROASやCPAなどのKPIを入れていただき、予算を設定していただくだけで、入札ですら自動で行えるようになっています。
清水:つまり、運用者の負担が少なくなる上に、パフォーマンスも落ちないと。
小野:運用者の方はCriteoのパフォーマンスだけをモニターしているわけではなく、オーガニックからのトラフィックやコンテンツなど、考えることはたくさんあります。今以上にハイレベルな戦略を策定する、あるいはポートフォリオを考える部分に時間を使っていただき、Criteo単体の運用はぜひ自動化していただきたいですね。
清水:本当に、仰るとおりですね。前回フェイスブックジャパンさんにもお話をお伺いした際にも感じたことですが、プラットフォーマーの方は皆さん一様に「機械学習に寄り添ってください」ということを仰っています。
例えばFacebookであれば、FacebookやInstagram上の興味関心データ、GoogleであればGoogleプロダクトのデータなどを機械学習に与えていると思います。御社の場合、広告以外のサービスでデータを蓄積しているわけではないと思いますが、どういう思想でユーザーをクラスタリングしているのでしょうか?
小野:広告主様のウェブサイトに数種類のタグを埋め込んでいただき、それによって120以上の購買シグナルを分析しています。例えばどのデバイスか、何を見て何と何を比較検討し、何をカートに入れ、最終的に買ったか買っていないのか、それはいつなのか、また、それはどこで表示されたのかなどです。
そういった120以上の購買シグナルデータを広告主様からいただき、シグナル同士をかけ合わせて分析し、どのオーディエンスにどういうクリエイティブで、かつどの程度の入札金額で、どのプレースメントで掲載するかをすべてAI エンジンが最適化してくれます。
清水:そのデータには、広告主とユーザーのマッチングの濃さがありますね。ちなみに、広告主のウェブサイトに貼るタグの種類は何種類あるのでしょうか?すべてのページに全種類のタグを貼るわけではないですよね?
小野:トップページ、検索結果ページ、商品詳細ページ、カート、コンバージョンポイントに貼るタグの5種類があります。それぞれの階層に分けてタグを貼り、それによってユーザーの興味関心具合を測ることができます。例えばカートで離脱した人と、トップページで離脱した人ではコンバージョンへの道のりの長さがまったく異なります。我々はそこも、データとして分析しているのです。
清水:すごく興味深い話です。広告主側はファネルに応じたタグを貼るのであれば、その上で各階層のコンテンツのあり方も見直す必要がありそうですね。コンテンツマーケティングをすればするほど、Criteoさんにとっても良いデータを食べさせられると思います。
小野:そうですね。ディスプレイ広告には、オーディエンスに何を、どういうクリエイティブフォーマットで、いくらで入札して表示するか、といった変数があり、そこを我々はテクノロジーで行うわけですが、ランディングページのコンテンツはお客様でコントロールできる範囲なので、そこもやはりすごく重要な要素だと思います。
新ビジョン「Open Internet」を掲げ、フルファネルでソリューションを展開
清水:2019年の年始に実施されたイベントでは、「Open Internet」という新しいビジョンを掲げていらっしゃいました。これには、どのような想いが込められているのでしょうか?
※参考リンク
小野:少し弊社内のお話をすると、実は2016年に社長がJBからEric Eichmannに変わったのですが、2018年4月にまたJBが復帰しました。現在マーケットはものすごい勢いで変化しており、我々はこれまでずっとリターゲティングのマーケティングリーダーとして成長してきたものの、今後はマルチプロダクト・フルファネルで製品を開発し、お客様の要望によりお応えできる体制づくりが必要だと感じていました。そこでCriteoの価値を一番理解している創業者に、取締会が復帰を命じたというわけです。
2018年4月にJBが復帰した際、彼は社員に対して、Criteoは転換期に来ているということを伝えました。新しい戦略のもと、転換していく必要があると。そこで「Open Internet」という新たなビジョンが掲げられました。もともとインターネットはオープンな、開かれた世界でしたが、昨今、一部のグローバルプラットフォーマーが市場を独占しつつあります。でもやはり市場って、様々なプレイヤーがいて初めて健全性が保たれるし、多様性も出てきます。ユーザーにとっても、選択肢がたくさんあるほうが嬉しいですよね。
だからこそ我々がこの膨大なデータとAIテクノロジーを皆さんにうまく利活用していただき、ユーザーにとっての選択肢を増やすお手伝いがしたい。そこで「Open Internet」という新ビジョンが掲げられました。「Performance is Everything」に加えて、どう「Open Internet」に貢献していけるのかが今非常に重要なトピックスとなっています。
清水:「Criteo Customer Acquisition」などのリターゲティング以外の製品にもそういった思想が反映されているのでしょうか。
小野:そうですね。リターゲティングって、結局一度サイトに訪れた方の再訪問を促し、最終的に購買に繋げるという仕組みなので、当然パフォーマンスは良くなります。だから運用者の方は、そこに予算を寄せてしまう。
でもそれは焼き畑農業と同じで、刈り取りばかりをしているとビジネスがスケールしていきません。やはり種まきも必要であり、リターゲティングの対象となる、興味関心を持ちサイトを訪れるユーザーを増やす必要があります。そのためのソリューションを、Criteoはこれまで出していませんでした。
現在、満を持してフルファネルで商品を展開していますが、その中でもConsideration(検討層)、つまりファネルの真ん中の部分にあたる商材に今注力しています。より購買につながりそうなユーザーをきちんとスコアリングし、おそらく次に興味関心を持って購買につながるのはこの人だろう、という方を予測・抽出して優先的に広告を配信するという商品ですが、そこにはリターゲティングで培ったエンジンや技術、データが役に立っています。
各ファネルでKPIを分けることを意識する
清水:Consideration(検討層)向けの商品を使って成果を上げるためには、どういう形で向き合えばよいのでしょうか。
小野:カスタマージャーニーには認知、検討、購買の3つのステージがありますが、大事なのはそれぞれのステージでKPIや評価軸を一緒にしないことだと思います。CriteoのリターゲティングでCPAが非常に良かったため、同じ評価軸をConsideration(検討層)にも当てはめてみたらCPAが高かった。やはりリターゲティングに予算を寄せよう、といった動きは恐らく結構ありがちだと思いますが、これをやってはいけない。
清水:ナンセンスですが、目先のCPAだけを追っていると陥りがちな思考なのかもしれませんね。
小野:それをやっていると結局すべて刈り取り尽くしてしまい、お客様が減りますし、Google アナリティクスの新規セッション率もどんどん下がるでしょうね。だからこそミッドファネルのお客様に対する評価軸は、例えばCost Per Visitであったり、バウンスレートの低さ、サイト滞在時間の長さなどに設定していただき、とにかく興味関心を持つ人をたくさん集めることに徹底すべきです。その後、リターゲティングで刈り取っていく。
このマーケティングのシナリオ設計を、あたらめて皆さんに考えていただき、ポートフォリオを組んでいただくのが良いのではないかと思います。
清水:検討層においても無差別に当てても意味がないので、そこは良質なユーザーを連れてくることをCriteoさんのエンジンが担保しているということですね。ちなみに、クリエイティブもリターゲティングの場合と変わってくるのでしょうか。
小野:リターゲティング向けのクリエイティブでは、商品数や商品情報をいかに訴求力高くユーザーにアプローチできるかといった点が主軸となっていました。Consideration(検討層)向けでは、弊社クリエイティブチームが作成したブランド要素とダイナミック要素(商品情報)を融合させたオリジナルのフォーマットを推奨しています。これまで皆さんが弊社に持たれているような商品を分割したバナーのイメージとは異なり、ブランドイメージを守りながら、かつ弊社の強みであるレコメンド商品が表示可能となる魅力的な構成のクリエイティブパターンが続々とリリースされています。
清水: Criteoを運用する上でのクリエイティブの捉え方、考え方のコツはありますか。
小野:クリエイティブは人が関与できる領域だと考えており、そこはまだまだ改善の余地があると思っています。Consideration向けのクリエイティブは「検討層」をターゲットとしているため、商品だけでなく「ブランドイメージ」も同時に訴求できるデザインを選択することが重要となってきます。リターゲティング向けとConsideration(検討層)向けのクリエイティブは異なるものであることを認識いただき、現在も増加中である新しいクリエイティブフォーマットを、ぜひご活用いただければと思います。
ダイナミックな進化を遂げるCriteo。その根幹には2つのビジョン
清水:「Open Internet」を掲げられて以降、フルファネル化を含めてCriteoの進化が止まらないという印象を受けています。2019年10月には、管理画面の使い勝手にも大きな変化がありましたよね。
小野:はい、フルファネル化に次ぐ大きなピボットとして、管理画面上でセルフサービス機能を強化するという動きがあります。これまでは、運用者の方が何か細かい変更をしたくても、すべてCriteo経由で依頼する必要がありました。今回のセルフサービス機能強化によりユーザービリティを上げるだけでなく、PDCAを速く回せるようになりますので、よりパフォーマンスの向上につながると思います。
例えばタグの発火数が確認できたり、フィードの取り込みができているか、あるいはカラムのマッピングや、計測パラメータの変更などを自身で行うことができます。
清水:Criteo側にデータを送るスピードも速くなりますよね。
小野:Criteoがやらずに運用者の方の責任範囲でやっていただけることが増えたということは、我々側は社内に蓄積しているデータをきちんと分析し、クライアントに対してのインサイトといった付加価値の高いご提案ができるようにならなくてはいけないという覚悟も、一方であります。
清水:今後、動画領域などへの進出はお考えでしょうか?
小野:認知層において動画は欠かせないフォーマットだということは我々自身も認識していますが、フルファネルで一気通貫で最適化できるソリューション群を目指す我々としては、どうしても最初にコンバージョンの部分、そして今はConsiderationの部分に注力しています。今後、Awarenessの部分をどう市場にリリースしていくかを考える中で、動画も開発ロードマップの中に入っています。
清水:アプリ領域における進化も止まりません。2019年11月にはインストール向け広告商品もローンチされましたね。
※参考リンク
小野:アプリも非常に重要なテーマだとJBも考えています。リエンゲージメントやリターゲティングを促すソリューションはこれまでもありましたが、インストール向けのソリューションはこれまで持っていませんでした。そこで2018年11月にアメリカのManage.comというアプリインストールに特化した企業を買収し、フルファネル・フルデバイスでのソリューション提供が可能になりました。
また、昨年10月には公正性と透明性をもってアプリ内広告在庫へアクセスし、収益の確保を可能にするアプリパブリッシャー向けプロダクト「App Bidding SDK(アプリ・ビディング SDK)」もリリースしました。リアルタイム入札で且つ幅広い実装方法に対応している為、アプリパブリッシャー様からの引き合いも増えてきてます。
清水:時代の変化にあわせてダイナミックに変化を遂げるCriteoの進化の背景には、「Performance is Everything」「Open Internet」という2つの思想の柱があるということがよく理解できました。本日はありがとうございました。