2018年6月、GoogleはDoubleClick Digital MarketingとGoogle アナリティクス 360 スイートを組み合わせて、1つのプラットフォームでさまざまなデータを管理する「Google マーケティング プラットフォーム」への統合を発表しました。これまでデータの活用を推進するプラットフォームとして導入が進んでいたGoogle アナリティクス 360 スイートは、今では計画から測定や最適化までをサポートするGoogle マーケティング プラットフォームの一員として位置づけられ、Google アナリティクスを活用するためには付随するサービスへの理解も必要です。
そこで同記事では、『徹底活用 Google アナリティクス』を出版されたNRIネットコム株式会社の神崎健太さん、坂本祐さん、齋藤圭祐さん、山川俊哉さんに、書籍の内容を深堀りするとともに、Google アナリティクスを中心としたGoogle マーケティング プラットフォームの活用について伺います。
話し手:NRIネットコム株式会社
神崎健太さん、坂本祐さん、齋藤圭祐さん、山川俊哉さん
聞き手:
アタラ合同会社 コンサルタント 大友 直人
目次
これ一冊でGoogle マーケティング プラットフォームを使う業務の9割カバー
大友:まずは、皆さまの自己紹介とご経歴について教えてください。
坂本:Google マーケティング プラットフォームのテクニカルチームのマネージャーを務める坂本です。2003年に大学院を卒業し、NRIネットコムに入社後、主にウェブシステムの開発・運用に携わってきましたが、5~6年前からGoogle アナリティクスを中心としたデジタルマーケティング関連システムの導入や運用サポートを行っています。
齋藤:齋藤と申します。Google アナリティクスの導入、技術的な支援やデータ活用の支援を行っています。入社当初はウェブアプリやウェブサイトの開発を行っていましたが、入社2年目からはマーケティング業界でGoogle アナリティクスを使ったお客さまの基盤構築を行っています。
神崎:神崎と申します。2014年よりGoogle マーケティング プラットフォームのサポートチームに入り、コンサルティングとテクニカルサポートを担当しています。また、アナリティクスアソシエーション(a2i)にてGoogle アナリティクスに関する講座の講師をするといった活動も幅広く行っています。
山川:山川と申します。私は他の3名とはチームが異なり、営業をしながらコンサルティングも行うチームに所属しています。Google アナリティクス以外にもウェブ広告の運用やデジタルマーケティングプラットフォームの導入などを行っています。
大友:ありがとうございます。御社の概要についても教えていただけますか。
山川:NRIネットコム株式会社は株式会社野村総合研究所の100%子会社です。1991年に設立し、従業員は380名弱おります。もともとは大阪で野村システムズ関西株式会社という社名で起業し、社員の9割がSEという構成です。基本的にはSIがメインのビジネスですが、2009年頃からデジタルマーケティング分野にも注力し、事業を拡大しています。
デジタルマーケティングに取り組む全ての方の助けになる一冊を
大友:本書『徹底活用 Google アナリティクス』は、Google アナリティクスを表題に掲げていますが、導入部分の「はじめに」では以下のように記載されています。
本書には、デジタルトランスフォーメーションの加速に有用な、Google社が提供する「Google マーケティング プラットフォーム」の利活用を読者自身で進めていけるよう、著者がこれまで培ってきたノウハウを詰め込んでいます。
文章からは、Google マーケティング プラットフォームの中でGoogle アナリティクスをどのように活用していくか、という意図を感じましたが、本書を執筆された経緯をお聞かせください。
神崎:弊社はビジネスにおいてGoogle アナリティクスとGoogle タグマネージャはもちろんのこと、Google オプティマイズやGoogle データポータルに関連するサービスも全てサポートさせていただいています。
市場に出回っている本はGoogle アナリティクスだけ、もしくはGoogle アナリティクスとGoogle タグマネージャだけといった内容が多いのですが、我々は上記に挙げたプロダクトを包括したGoogle マーケティング プラットフォームの本を出版できたら、デジタルマーケティングに取り組んでおられる全ての方の助けになるのではないかという思いがあり、本書を執筆しました。企画から丸1年ほどかけて、2019年10月に出版に至りました。
坂本:Google アナリティクスとGoogle タグマネージャ、Google データポータルなどは、知らない方からすると取っつきにくいイメージがあるかもしれません。最初はどうしても壁がありますが、本書で一通りの知識をつけていただければ、Google マーケティング プラットフォームを使う業務で必要な知識の大半はカバーできると考えています。
使い方は千差万別。紙の書籍ならではの不便さの解消にも工夫が
大友:読者はどのような方を想定されていますか。
坂本: 設定には関わらない、マーケティングの担当でGoogle アナリティクスで分析するだけの方はレポーティングの使い方のページだけを、Google タグマネージャでタグの設定をする方であればタグ設定のページだけを読む、という活用方法でも良いかなと思います。
情報システム部門などのGoogle アナリティクス導入に携わる方であれば、設定のページも併せて読んでいただきたいですが、自身の業務に不要な部分は読み飛ばしが可能な構成なので、どなたにも手に取っていただきやすいと考えています。
大友:構成やレイアウト面で気を配られた点はありますか。
神崎:弊社でサポートを行う際も、文章だけでは伝わらないことがあるので、操作や設定の画面キャプチャを豊富に盛り込むことで分かりやすくすることは心がけました。
坂本:例えばGoogle アナリティクスのセッション・ユーザーやGoogle タグマネージャのバージョン・ワークスペースといった、重要だが文章だと伝わりづらい概念はイラスト化や図式化しています。
大友:タグの導入や設計、イベントの設計など言葉の説明だけでは難しい部分も図式化されていて、分かりやすかったです。
山川:細かい所ですが、URLやQRコードを貼るなど「紙の書籍であるがゆえの不便さ」を感じさせない工夫が盛り込まれています。
ブログのヘルプに載っていない情報を体系立てて
大友:では、本書の内容について伺います。本書は基本(チャプター1~7)、活用(8~14)、ケーススタディ(15~18)、アペンディクスの大きく4部構成になっています。
基本編ではGoogle アナリティクスの基本的なレポートや設計の話など、実務に寄り添ったものが満載だと感じます。データ収集の仕組みやスコープの話などはさまざまなブログで目にする機会がありますが、本書ではとても易しく記載されていると思います。
神崎:おっしゃる通り、ウェブ上にはバラバラと記事はありますが、体系的にまとまったものはありません。そのため、体系的に・易しく・詳細な内容を、という部分は意識しました。
大友:具体的に、特に注力した部分はありますか。
神崎:弊社でお客さまのアカウント診断をする際に、Google アナリティクスのアカウント構成や初期設計がうまくいっておらず、要件通りの集計ができていないといったケースがよく見られたので、どのように設計するのがベストなのかを適切に伝えられるように工夫しました。
坂本:個々の用語や技術的な内容はGoogle アナリティクスのヘルプなどにも書かれていますが、設計のあるべき思想や実運用でのコツなどの情報はあまり見かけません。そのため、我々が業務で培った実践的な内容を入れることも意識しています。
大友:皆さんの経験が本書には詰まっているのですね。業務での経験が活きた具体例はありますか。
坂本:Googleアナリティクスには拡張 e コマースと呼ばれる、ECサイトにおける商品の購買プロセスを計測する機能があるのですが、過去実際にお客さまがこの機能で計測をした際、商品情報を細かく計測しすぎるとGoogle アナリティクスの制約によりデータが欠落してしまうという問題がありました。こういった制約の回避策の情報はヘルプにもあまり記載がないため、過去のノウハウを活かして、拡張 eコマースを計測する機能を紹介する章において、制約の詳細や回避策について丁寧に説明しました。
ただし、細かい内容を入れすぎると取っつきにくくなるため、バランスには悩みました。結果的に、本書に書かれている内容を実践していただければ、Google マーケティング プラットフォームとして基本的に必要な設定が一通りできるというバランス感になっています。
アップデートの激しいGoogle データポータルにも対応
大友:本書には他書にはない特徴的な部分がいくつかありますが、そのうちの一つが活用編においてGoogle データポータルについても触れられている点だと思います。アップデートが激しいGoogle データポータルについて細かく解説なさっている点に驚きました。執筆する際にご苦労されたのではないでしょうか。
神崎:一番困ったのはUIの更新ですね。本書執筆時にホーム画面が大きく変わったため、そこへの対応は大変でした。
大友:Google データポータルは、今では誰もが使えるようになっています。数あるBI/ダッシュボードツールの中でGoogle データポータルの立ち位置はどのあたりにあると思われますか?
神崎:基本的には分析というよりは定期的にデータを可視化するためのツールとして捉えています。実際に、詳細な分析はGoogle アナリティクスやBigQuery、あるいはTableauなどを使用するケースが多いです。
坂本:私としては、Google データポータルの活用方法には2つの側面があると思います。経営層の方はGoogle アナリティクスの使い方を覚える暇もないため、Google アナリティクスを使わなくても必要なデータが可視化できる「ダッシュボード」としての使い方が1つ。
また、Google アナリティクスで計測していないデータは、基本的にはGoogle アナリティクスのレポートでは見られません。対応策としてよくあるのがエクセルにデータをエクスポートし、他データと結合して見るという方法ですが、Google データポータルを使えばGoogle スプレッドシート等とコネクタで簡単に接続できますし、それをスプレッドシートに吐き出すこともできます。これが2つ目の使い方です。本書では2つの活用方法についても網羅しています。
大友: Google データポータルの他には、Google オプティマイズについても詳しく書かれています。執筆時に注意された点はありますか。
神崎:Google オプティマイズで皆さんがつまずかれるのはタグを埋めるところだと思うので、タグの埋め方についてはできるだけ丁寧に解説しました。
坂本:タグの埋め方が数パターンあり、それぞれにメリット・デメリットがあるため複雑なのですが、Google社が推奨する方法と非推奨の方法、両方に対応できるように解説しています。
大友:活用編ではさらに、Google アナリティクスとGoogle 広告を連携させる際のポイントについて書かれています。
神崎:それぞれを使っていてもリンクしていないケースがあるので、そこも含めて「リンクさせるとこんな良いことがある」といった点を提示しています。
フローレポートをGoogle データポータルで
大友:チャプター15~18はケーススタディの章になっています。基本的には成果の改善やコンバージョンを増やすためにはどうすればよいのかが目的に応じて書かれているのですが、私が気になったのはGoogle データポータルでフローレポートを作成する点です。サイト訪問から目標達成までの流れを可視化するフローレポートはボトルネックの発見にも役立ちますが、Google データポータルでも実施されているのですね。
山川: Google アナリティクスでも標準でフローレポートがありますが、見づらかったり、意図と異なるレポートになったりすることも多く、使いづらい印象です。Google データポータルを使ったフローレポートは実際にお客さまに使っていただいたことがあり、とても使いやすいので、ぜひ本紙に掲載したいと思っていました。同例のお客さまは電子書籍業界の方でしたが、EC系やメディアなどでも使えるため、応用の利く題材だと思います。
坂本:設定は少し手間ですが、計測するポイントを柔軟に設定できるため、かなり使える機能です。
大友:他のケーススタディも実際にビジネスで使われたものが多いのでしょうか。
山川:はい。例えば広告運用でコンバージョンを最適化する際に、「コンバージョンが足りない」といったお客さまがBtoBでは多くて。マイクロコンバージョンの設定などは、そこから着想を得ています。
大友:SEOについても書かれていますね。
山川:最近SEOは変動が激しく、メディア系のお客さまでビジネスにインパクトが大きい場合、被リンクというアプローチよりもクローラビリティの改善という話になってきます。そういった部分を意識してGoogle データポータルを使って分析する手法について書かせていただきました。
ウェブサイト上で発生する問題も網羅
大友:最終チャプターでは、ウェブサイトで発生する問題と、その対処法について書かれています。どういった意図で同テーマを入れられたのでしょうか。
齋藤:Google アナリティクスには、サイトの速度、ウェブページの読み込み速度といったサイトの良し悪しを判断してくれる機能、アラートをカスタマイズできる機能などもあるのですが、あまり注目を浴びていないという現状があります。例えばECサイトにおいて品切れが起こった際、アラートの機能を活用することでなるべく早く在庫切れを検知できれば、次のコンバージョンにつながります。そういった、なんとなく運用しているサイトの、特に改善すべき点はどこなのかを伝えたいという気持ちで書かせていただきました。
坂本:ウェブサイト側でシステムを実装して対応することもできますが、結構なコストがかかる場合があります。Google アナリティクスとGoogle タグマネージャを組み合わせて設定するだけで、コストをかけずに業務に役立つ機能が使えます。
大友:やはりGoogleアナリティクスをより活用するためにはGoogle タグマネージャやGoogle データポータルなどの知見も必要になりますね。
神崎:はい、Google アナリティクスのアカウント構成も大事ですが、例えばGoogle タグマネージャのコンテナ構成もすごく大切です。乱立させすぎるとそれぞれのタグがバッティングしたり、管理が行き届かなくなったりして、うまくいかなくなる場合があります。
機能として成熟したGoogle アナリティクスの未来
大友:Google マーケティング プラットフォームや「アプリ+ウェブ」版の登場など、Google アナリティクスも4~5年前と今とでは状況が変わってきています。業界の今後についてはどう思われますか。
山川:業界全体の今後という意味では、言わずもがなGDPRやCCPAといったCookieを規制する動きがあり、技術的には色々できるがやりづらくなる、という事象が日本でも広がっていくでしょう。弊社メンバーはGoogle アナリティクスだけでなくAmazon Web Services(AWS)も扱っていますが、クラウド関連のメインサービスを勉強しつつ、新しい技術をよりビジネスに活かせるような形で提供していきたいと考えています。
神崎:Google アナリティクスにおける今後の変化は大きく2つあると思っています。1つはアプリとウェブの統合です。これまではウェブだけ計測するお客さまも多かったのですが、昨今アプリの計測も始められるお客さまがどんどん増えています。「アプリ+ウェブ」版もできたことですし、今後は統合が進んでいくと思います。もう1つの変化が、データの収集から活用へのシフトです。Google アナリティクスをはじめとするデータの収集環境が成熟しているお客さまが、ここ1、2年でかなり増えてきていると実感しています。今後は機械学習などを利用したデータの活用の方向にどんどんシフトしていくのではないでしょうか。
坂本:Google アナリティクスは製品として成熟してきています。より高度な分析をされる方向けの機能を充実させていく一方で、AI、機械学習を活用とした自然言語でレポートに関する質問に答えてくれたり、データの特徴的な動きの気づきや、改善ポイントを教えてくれたりすることで、データ分析の専門家でなくともデータが活用できるようになるという方向になるかと思います。初級者と上級者それぞれが満足できる機能が広がっていくイメージです。
齋藤:お客さまのウェブサイトのデータ収集は現状でもできますが、今後を考えるとGoogle アナリティクスだけでなくCRMなど別の外部データを全て集められるデータのハブのようなものになっていくのかと思います。それを基点に、オンライン施策だけでなくどのようにオフライン施策を講じるのかや、収集したデータを利用しメルマガ配信するなどの施策の幅が広がりそうです。
大友:お話を伺い、Googleアナリティクスを活用してマーケティングからより良い結果を得るためには、Google マーケティング プラットフォームの各サービスへの理解も必要であることを改めて認識させられました。Google アナリティクスのみならず、Google マーケティング プラットフォームの一部のサービスを利用している方にとっても、本書は新たな視点と知見を与えてくれる書籍となっています。本日は貴重なお話をありがとうございました。
【書籍情報】
『徹底活用 Google アナリティクス』(SBクリエイティブ)
著者:神崎健太、坂本祐、齋藤圭祐、山川俊哉/発売日:2019年10月23日/価格:3,278円(書籍版)、2,950円(Kindle版)