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Instagram広告を最大限活用するための5つの考え方を中の人に聞く
今や国内の月間アクティブアカウント数がFacebook を上回る規模になり、ショッピング機能を始めとするコマース機能も拡充されSNSという枠を超えた巨大プラットフォームへと変貌を遂げているInstagramですが、効果的に活用できている広告主はまだ限られているのが実態です。
今回の話し手:フェイスブック ジャパン 竹林明日美さん
今回は、Instagram広告のポテンシャルを最大限引き出すために、今日からすぐに取り組める5つのTipsをまとめた「POWER5」について、フェイスブック ジャパンの竹林明日美さんにお話を伺いました。
話し手:
フェイスブック ジャパン
クライアントソリューションズマネージャーリード 竹林明日美さん
聞き手:
アタラ合同会社
チーフコンサルタント 中川雄大
POWER5とはなにか
中川:ではまず、自己紹介をお願いします。
竹林:フェイスブック ジャパンの竹林です。クライアントソリューションマネージャーチームという部署で、消費財メーカーを中心としたクライアントのリードを担当しています。
中川:クライアントソリューションマネージャーチームとはどのような部署なのでしょうか?
竹林:広告主様向けに、FacebookやInstagramの広告ソリューションをどう使えばよいのかというプロダクトミックスをコンサルティングするチームです。営業というよりは、プロダクトのプロフェッショナルが在籍しており、プロダクトとソリューションの角度からクライアントに提案するのが主な業務です。
中川:ありがとうございます。早速ですが本日は、6月27日に開催された「Instagram D2C Summit 2019」において解説されていた 「POWER5」についてお伺いしたいと思います。私の認識では、Googleで言うhagakureやGORINのようにアカウントを最適化させるための考え方だと思っているのですが。
竹林: 「POWER5」についてご説明する前に、改めてInstagramがどのようにうビジネスに貢献できるのかという点についてお話させてください。
まずひとつ目に利用者数の伸びが挙げられます。現在Instagramの月間アクティブアカウントは3300万を超えており、半年で400万アカウントが増加といったように 非常に速いペースで利用者が増えています。
次に、利用者の5人に1人は起床後すぐにInstagramにログインしていたり、4人に1人が毎日ハッシュタグで情報を検索するなど、利用者が非常にアクティブに接触している点にも注目していただきたいです。そして、利用者の8割が何らかのビジネスアカウントをフォローしています。
つまり、利用者が多いだけでなく、アクティブで質の高い利用者がコミュニティ内でビジネスと深く繋がっているプラットフォームだといえます。これは、マーケティングという観点からみても、非常に有用だと思います。
そして、企業がInstagramをマーケティング活用する中で、特にダイレクトレスポンス系の広告運用において弊社プラットフォームの強みを最大限活用するためのティップスをまとめたのがPOWER5です。
具体的には、新たなソリューションということではなく、FacebookやInstagramのマシンラーニング(機械学習)を活用し、広告を効果的に運用するための考え方をまとめたものです。手動だとPDCAを回すにあたり継続して非常に大きな労力がかかりますが、POWER5の概念を駆使して広告運用を自動化していくことで、運用にかかる人的リソースを機械に任せることができるようになります。そうすれば人は、もっと上流の戦略面や、クリエイティブの使い方などにリソースを割けるようになる、というアイデアが根底にあります。
中川:毎日手作業で最適化を続けるのは現実的ではないですよね。そこは機械学習に任せて最適化するのが良いと。私がFacebookに在籍していた頃は、広告セットとキャンペーンを細かく分けて、それぞれに広告を入稿する…という一連の流れが正義とされているところがあったので、時代の流れを感じました。
竹林:いまだにその当時の、「ターゲティングが強い」というイメージだけが先行してしまっているため、細分化したがる方は多いです。そうするとやはり人がずっと管理する必要があり、リソースが足りなくなります。FacebookとInstagramのアルゴリズムは非常に優秀で、当時からさらに進化しているため、現在では人の手で設定するより、機械に任せたほうがより精度の高いターゲティングを行うことができます。そのマシンラーニングをより効率的に、効果を最大限に引き出すためのポイントをPOWER5としてまとめています。
すべてのイベントの実装
中川:まず大前提としてやるべきは、すべてのイベントの実装ですね。これは、これまでも何度かインタビューさせていただく中で、貴社の皆さんがおっしゃっていることだと思います。
※参考
竹林:はい。これは非常に基本的なことなので、ここをしっかりやっていただかないと、そのあといくら頑張っても厳しいところがあると思います。まずはしっかりとシグナルを貯められる状態に持っていくことが大事です。しかし、そもそもそこができていない方も多くいらっしゃいます。基本であり必須事項だからこそ、「POWER5」の構成要素にも入っています。
運用が難しいし、労力の割にパフォーマンスが伸びないとおっしゃる方は、実は簡略化できるところに労力を割いているケースが多い気がしますが、この考え方が浸透することでパフォーマンスが意外と簡単に出ると感じていただけると思います。
詳細マッチングの導入
中川:次に、詳細マッチングについて伺いたいと思います。
竹林:そもそもなぜ詳細マッチングの導入が必要なのかというと、FacebookやInstagramでは広告をタップした後に両方ともアプリ内ブラウザが開きます。しかし、そこで開いたからといって、Facebookにログインしていなかったり、セッションが切れていた場合はcookieが違うためユーザーを同一人物と識別できません。
それを可能にするのが詳細マッチングです。例えば楽天ID等でログインしていると、Facebookにログインしていなくとも、Eメールアドレスや名前等のキーをもとにFacebookのアカウントとのマッチングが可能になります。つまり、詳細マッチングを入れれば入れるほど一致率が上がり、IDで個人特定が可能になります。するとどんどんターゲティングやリコメンドの精度も上がるわけです。
中川:そもそもここを、ただトラッキングの精度があがる機能だと勘違いしている人も多そうです。
竹林:例えばモバイルのSafariでFacebookにログインしているという方は非常に珍しいので、そういった部分をもっとマッチングさせて活用させられないかというアイデアから始まった機能です。トラッキングの精度も上がりますが、ターゲティングやリコメンデーションにも使えるのです。
中川:自動だけでなく手動詳細マッチング機能もありますが、手動を使ったほうが良いのは、例えばどんな方々でしょうか?
竹林:私たちとしては手動と自動両方を全員に使っていただきたいと考えています。自動にはリミテーションがいくつかありますし、自動と手動を両方実装して頂くほうが圧倒的にマッチ率も上がります。
中川:自動詳細マッチングの中でも、実装できるパラメータは全て入れておいたほうがよいということでしょうか?
竹林:そうですね。個人情報の観点から入れられないクライアントも多いかとは思いますが、そのようなケースを除いて、出来る限り入れておいたほうが最終的なマッチ率は上がります。
中川:個人情報といっても、ハッシュ化されて暗号化された信号が送られるだけですよね。
竹林:おっしゃる通り、データとして受け取ってマッチングはさせますが、ハッシュ化された情報なのでセキュリティ上の心配もいりません。
シンプルなアカウント構成
中川:続いて、シンプルなアカウント構成についてです。以前から推奨されていることは存じていますが、POWER5で訴えかける必要があるということは、アカウントの簡素化を阻害している要因があるということなのでしょうか?
竹林:先程おっしゃっていた「細かく分けたほうがいいであろう」という神話が根強く残っているということが大きいかと思います。
中川:極限までセグメントを細分化したとしても、そこに当てはまる人の中にも当然差異はあるはずです。それを全て人が管理するのは無理がある。だからこそ極力広告セットを広げた状態で、マシンに学習させ最適化にお任せするということですよね。
竹林:はい。機械は利用者のシグナルをリアルタイムで拾ってきているため、より効果的に速いスピードでPDCAを回してくれます。だから出来る限り広告セットを少なく・シンプルにして、機械学習を進めて頂くのがサステイナブルだと思います。
中川:逆に、シンプルな構成がマッチしない例はありますか?
竹林:基本的にはないですが、何かしらテストをしたい場合は分けていただいたほうが良いです。マシンラーニングには、最初に50コンバージョンが溜まった方に寄るという特徴があります。1つの広告セットにクリエイティブをたくさん入れて、良く出たものを良しとする方法もありますが、何度か見るうちに好きになるクリエイティブもあると思うので、それをきっちりと検証するのであれば、環境も合わせてテストをするのが良いと思います。数日間で良し悪しを判断するのはもったいないので、全く異なる戦略のクリエイティブがある場合は、分けてテストするのが確実です。
中川:ダイナミッククリエイティブについてですが、個人的には「What to say」をクリエイティブ単位で、「How to say」を広告セット単位で分けるのが自動化との一番良い付き合い方だと考えているのですが、他に良い考え方はありますか?
竹林:ダイナミッククリエイティブは少し複雑な部分があるため、よく分からずに使うと効率が悪くなる場合もあります。おっしゃる通り、全くメッセージが異なるものを異なるアセットに入れるのも効率悪化の要因の一つですし、クリエイティブの入れすぎもよく見かける失敗例です。マシンは画像・テキスト・CTAの最良の組み合わせを見つけるために、全てのパターンを試していくプロセスをとります。しかしアセット数が多すぎると試す組み合わせのパターンが増え、効率が悪化する場合もあります。
中川:例えばユーザー分析にかなりの時間をかけている広告主の方がクリエイティブを出し分けたいという状況になった場合、どういった設定が良いと思われますか?
竹林:検証が目的ならばABテストが良いです。しかしある程度仮説を持って臨まないと、もともと100人いるオーディエンスを50人ずつに分けて稼働するため、各広告セットのCPMは上昇する傾向にあり、結果としてCPAが上がることが予想されます。関係者全員がそのキャンペーンの目的は検証であることを同意してテストを実施していただく必要があります。
中川:検証と同時に結果を出すことは難しい、ということを理解する必要がありますね。また、アカウント構成を考える際にビジターとノンビジターを一つの広告セットに入れたほうが良いのでしょうか?アルゴリズムに学習させ、出すクリエイティブを最適化するという意味では統合すべきかと思うのですが、一方で一般的にはビジターとノンビジターでは見込みのCVRは変わるかと思います。コスト効率としては分けたほうが良いのかとも思うのですが。
竹林:結論としては、ケースバイケースです。リターゲティングの数がどの程度溜まっているのかによっても、クリエイティブによっても、ブランドの立ち位置によっても違ってきます。FacebookやInstagramは現在のシグナルだけでなく、ヒストリカルシグナルも溜めているので、その広告主あるいはページがどの程度のスコアを持っているのかにもよります。
そのため一概には言えませんが、リターゲティングユーザーが何十万人もいるメガECサイトと、ローンチ直後のスタートアップECサイトでは同じ結果は出ません。マシンラーニングは数あるユーザーからある程度絞り、その中で良いユーザーを見つけて拡張していくという動きをしているので、あまりにも広いターゲティングの中ではどこに当てれば良いのかわからないという状態に陥ります。逆に100人ほどしかいないとフレキシビリティや動きが出なくなってしまいます。バランスが大事だということです。
2つの自動最適化
中川:2つの自動最適化とは、プレースメントを分けてはいけないというのと、キャンペーン予算最適化を使うべきという2つ の最適化を指していたと思います。キャンペーンの入札戦略には5種類(最小単価(自動入札)、入札価格上限、平均目標達成単価上限、ターゲット単価、最小ROASによるバリューへの最適化、最高値)ありますが、これらにはどういった違いがあるのでしょうか?
竹林:通常はデイリー単位で目標CPAに沿うように運用されますが、平均目標達成単価上限はキャンペーン運用中に徐々にCPAが目標に近づくような形でペーシングされるものです。1日あたりのCPAの運用はできず、全体を通して平均のCPAが目標に近づく形のものです。
最小単価は最大入札価格を上限として目標CPAよりも少し低めの設定をしてもらいます。多少のブレでオーバーすることがあるため、少し低めに設定したほうが、最終的に目標値で落ち着きます。
中川:自動配置については、明らかなローライトがある場合がありますが、そういった際はどうすれば良いのでしょうか。
竹林:そのまま運用するのが良いと思います。ダメだった場合を学習する意味もありますが、それは一番安く買えるタイミングで一番安く出せるとことに出しているだけなので、それを抜いたからといって効率が悪化することはあっても良くなることはありません。
場所で買っているのではなく、人でターゲティングしているので、どこで当てるかはさほど重要ではなく、誰に当てるかのほうが大事なのです。どうしてもプレースメントにより伝わり方が違うと思われる方は、プレースメントごとにクリエイティブを変え、プレースメントアセットカスタマイゼーションで別々に入れられることをおすすめします。
ダイナミック広告
中川:最後にダイナミック広告についてですが、ダイナミック広告自体は他のプラットフォームでもメニューとして存在しますが、他媒体との明らかな違いはやはり「人ベース」にこだわっていらっしゃる点でしょうか。
竹林:そうですね。他プラットフォームは多くがcookieベースなので、予想外のものが出てくることもありかと思いますが、Facebookにおいてそれがないのは、やはり人ベースだからだと思います。ただ、FacebookやInstagramは、アプリ内ブラウザが開くことで一度セッションが切れ、その後購入されるパターンが非常に多いです。つまり、ターゲティング精度が良く、ユーザーに刺さる広告を配信し、ユーザーの動きのトリガーになっているのに、最終的な評価に繋がりにくいというのが、私たちの悩みです。運用者の方にはFacebookのダイナミック広告が他とは違うリコメンデーションエンジンを持っていて、精度の高いターゲティングを行っているという点を理解していただけたらと思っています。
中川:今回お話いただいたことは、断片的に知識として持っている運用者の方もいらっしゃると思いますが、「POWER5」として体系化されたことでより整理され、理解されやすくなったのではないかと思います。本日は、貴重なお話をありがとうございました!