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拡大する音声広告市場
2019年2月にAdobeが発表した内容によると、米国の18歳以上の消費者1000人以上を対象にした調査の中で、その三分の一以上が「スマートスピーカーの音声広告は、テレビ、印刷、ソーシャル、オンラインの広告よりも邪魔にならず魅力的」と回答しており、スマートスピーカーの普及に伴い、音声広告も拡大する可能性が垣間見えます。
また2019年6月にIABとPwCが発表したデータによると、Podcastの音声広告市場は、2015年から2018年にかけて急速に拡大し、2021年になってもその勢いは続くと予測を立てています。
今回は、日本市場で音声広告を含むプログラマティック広告を提供しているスポティファイジャパン株式会社(以下、Spotify)の石井様、金井様に、現在の日本の音声広告市場についてお話を伺いました。
今回の話し手:スポティファイジャパン株式会社 石井恵子さんと金井葉子さん
話し手:
スポティファイジャパン株式会社
ビジネスマーケティングマネージャー 石井恵子さん
オートメーションリード 金井葉子さん
聞き手:
アタラ合同会社 荒木智陽
音楽サービスとしてのSpotify
荒木:最初に自己紹介をお願いします。
石井:Spotifyの石井と申します。Spotifyではマーケティングチームに所属し、企業向けのビジネスマーケティング活動全体に携わっています。その前は、航空券をはじめ、旅の比較検索サービスを提供するオンライントラベル企業でのマーケティングや、ソーシャルメディア企業で現在と同様のビジネスマーケティングを担当。それ以前もIT企業に勤め、オンラインサービスのプロダクトマネージャーなどしておりました。音楽業界は、Spotifyが初めてです。
金井:Spotifyの金井と申します。Spotifyに入る前まではエージェンシーにおりました。エージェンシーで営業をしていた中で、ATL(above the line:マス広告など)からデジタル、BTL領域(below the line:セールスプロモーション施策など)まで全部を担当していました。デジタルエージェンシー時代に海外のアドテク企業とのM&Aを担当した際にデジタルに特化したのをきっかけに、アドテクって面白いなと思い、今に至ります。パブリッシャー側に来たのはSpotifyが初めてです。
荒木:ありがとうございます。Spotifyのサービスについてお教えいただけますでしょうか。
石井:まずはSpotifyのミッションについてお話しします。SpotifyはCEOのダニエル・エクが2008年にスウェーデンで始めたサービスです。当時は著作権的に違法な音楽ファイルの共有などが横行していた時代で、「音楽と音楽ファンをつなげると同時にアーティストを支援する」という思いから、アーティストが音楽活動や作品に対して正当な評価を受けて、対価が支払われるという音楽業界全体の環境、エコシステムを目指したのが始まりです。
次に、数字で見るSpotifyです。こちらに世界最大の音楽ストリーミングネットワークとありますが、全世界でユーザー数が2億1700万人、79か国で展開しています。
また、Spotifyにはフリーのプランと有料のプランがあります。どちらのプランでも5,000万曲を超える楽曲、30億のプレイリストを聴くことができ、フル尺で再生できます。フリープランでは、シャッフル再生など多少の制約と、音楽を聴いている間に広告が挿入されます。企業の広告サポートによってユーザーは音楽を聴くことができますし、アーティストに対しては収益が還元されるという仕組みです。
アーティストを支援することに関連して一つお話したいのが、「Spotify for Artists」というサービスです。Spotify上で音楽を配信しているアーティストには、有名なアーティストからインディーズでデビューしたばかりの新人までいますが、彼らは自分の楽曲が、どこの誰にどんな形で聞かれているかというデータを見ることができます。
イギリスのコールドプレイというアーティストは世界ツアーをする時に、「Spotify for Artists」のデータをもとに、どこの国でどんな曲がよく聞かれているのかチェックしています。各地でライブを開催する時に、その都市での聴取傾向を参照しセットリストを変更しているそうです。
4年連続で成長する世界の音楽市場
荒木:ストリーミングサービスが普及したことで、音楽市場にはどのような変化が起こっているのでしょうか?
石井:ストリーミングが出てきたことにより、世界の音楽市場も2015年から4年連続で成長傾向にあり、2018年は前年比9.7%と過去最大の売り上げを記録しています。
最大の音楽市場であるUSでは、前年比12%で三年連続の二桁成長を遂げており、サブスクリプションの音楽サービスがこの成長を支えています。アメリカではストリーミングからの売り上げが前年比30%増、音楽収益全体の75%を占めるまでに成長を遂げています。
また日本市場で注目すべきは、2018年にストリーミングがダウンロードの売り上げを超えたということです。ストリーミングの売り上げではサブスクリプション、いわゆる定額料金型と、その広告収入型というのがあり、どちらも非常に伸びています。広告収入に関しては約4倍の伸びです。これが2月にレコード協会から発表されて、音楽業界ではかなり大きなニュースになりました。
そして2018年上半期の世界の音声広告市場は、前年同期比30%以上の伸びとなっており、音声広告市場が非常に期待されている状況です。
音声広告など、Spotifyのプログラマティック広告
荒木:続いて、Spotifyの音声広告などのプログラマティック広告についてお話を伺えますか。
石井:音声広告はラジオと何が違うの?とおっしゃる方も多くいらっしゃいますし、日本では音声広告市場がまだ成熟していない状況なので、音声広告イコールラジオ広告と解釈されるケースもまだまだ多いと思います。
しかしSpotifyでは、ストリーミングサービスなので、聴取データを分析し、例えば、どのタイミングで誰に対してメッセージを届けたいのかを細かくターゲティングして、ユーザーとブランドコミュニケーションをとることが可能です。
また、ある調査によると日本では85%以上が音楽を聴く時にヘッドホンを利用しているという結果がでています(Nielsen Media Lab Study, 2017)。Spotifyには3D音声広告というものがあるのですが、ヘッドホンの場合は、左右で違ったバイノーラルな音声で、より立体的な音声のクリエイティブを体験していただくことができます。
3D音声広告を活用していただくと、例えば飲料や飲食などのシズル感のあるものや、車の音などを臨場感のある音で、表現することができます。
荒木:音声広告のクリエイティブを作成するためには、予算や手間がかかるイメージがあるのですが。
石井:音声広告は皆さんが想像しているよりもはるかに、動画に比べて低コスト・短期間での製作が可能です。
音声広告の効果ですが、グローバルの事例として、ブランド想起は24%UP、広告の理解は28%UP、関心購買は2倍という数字が出ています。
Spotifyのプログラマティック広告は、日本では2018年の8月にローンチしています。ローンチ後も順調に推移しており、ブランド数も半年で二倍に増加しています。
現状のSpotifyのプロマティック広告は、売り上げの約70%がビデオ広告です。スタートして間もないということもありますが、成長率としては非常に高いです。広告全体に占めるプログラマティックの売り上げは現在15%ほどです。現在更に成長しているので、今年後半には30%を達成する見込みです。Spotifyの中でも先行するオーストラリアの実績では、50%を超えているので、今後の成長が期待できると言えます。
荒木:ありがとうございます。プログラマティック広告の成長率が著しいという事ですが、どのような理由があるのでしょうか。
金井:プログラマティック広告においてはターゲティングを気にされる方が多いと思うのですが、Spotifyのプログラマティック広告で推奨しているのは、弊社のファーストパーティデータ(Spotifyへの初回登録時に入力するデータ)を基にした、デモグラフィックのターゲティングを選択することです。
Spotifyならではのターゲティングという点で申しますと、今ユーザーがどんな音楽を聴いているかをベースとしたリアルタイムのモーメントをとらえたターゲティングが可能です。具体的には2タイプあります。一つがプレイリストカテゴリーターゲティングというものです。プレイリストをカテゴライズして、どんなモーメントでユーザーが音楽を聞いているかを類推し、日常の活動、習慣、気分、季節的なイベントなどの狙いたいモーメントに沿った音楽を楽しんでいるユーザーにリーチすることができます。例えば、スポーツブランドが、Spotifyユーザーかつスポーツに関心の高い層を狙いたいという場合には、プレイリストスポーツカテゴリターゲティングを使用する、といった具合です。
もう一つはジャンルターゲティングというもので、普段どんなジャンルの曲を聴くのか、今まさにどんな音楽を聴いているかでターゲティングできるものです。Hip-Hop、Rock、などいろいろあるジャンルの中から、ブランドと親和性の高い音楽ジャンルを選択して広告を配信することができます。
最近あった事例ですと、あるアパレルメーカーさんが、超有名R&Bアーティストとコラボしました。そのアーティストの音楽を聴いているような人にアプローチするために、実際にR&Bを聴いているユーザーに対して、ターゲティングをされていました。
音声広告と動画広告の異なる傾向
荒木:動画広告や音声広告を活用されている広告主の違いや傾向はありますか。
金井:明らかな違いはありませんが、動画広告をある程度やりつくされて、新しい形でのブランドメッセージのコミュニケーションを求めている広告主が、音声広告に対して非常に興味関心が高い状態にあります。
特に消費財、飲料メーカー、エンターテイメント系のクライアント(音楽関連、映画配給、映像配信事業等)は、音での訴求力の強さに、非常に興味を持たれています。
荒木:動画広告と音声広告の違いについてですが、どういった目的で配信されるケースが多いのでしょうか。
石井:ブランド広告なので、コンバージョンというよりはブランドリフトの調査をする形でブランド認知がどれだけ上がったか、好意度がどれだけ上がったかを測られる場合が多いです。
Spotifyを利用している情報感度の高いアーリーアダプター的な人たちに、何が刺さるのかを試してみるという場合も多いです。
荒木:音声広告を作った経験がない広告主が多いと思うのですが、広告主と貴社ではどちらが広告を作るケースが多いのでしょうか。
石井:今までは、大手広告主であればテレビCMを作った際の音声を抜き出して作成する場合もありますし、グローバルの企業ですとグローバルの知見を利用して作られる場合もあります。まだまだ、どうやって作っていくのかという入り口の部分に課題があると感じています。
そこで私たちの試みとして、音声広告市場を広げていくためにマーケターの方やクリエイターの方と、音声広告を一緒に作っていく、考えていくワークショップを計画しています。
日本における音声広告市場の伸びしろ
荒木:アメリカでは日本と違いPodcastが人気なこともあり、ユーザー自体が音声広告に馴染みがあると思います。今後日本での音声広告の伸びについて、動画広告と比較してどう思われますか。
石井:前述した通り、世界の音声広告市場は伸びていますし、国内においてもイベントなどで音声広告のお話をさせていただいた際に多くの方が新しい広告のスタイルとして、非常に興味を示してくださっています。話している私の方でも驚くくらい、日本でも音声広告への関心度は高まってきていると感じています。実際、日本人がヘッドホンをして音楽を聴く時間は長いですし、スマートスピーカーの流れに合わせて音楽に接する時間も非常に伸びているなと思います。
音声広告市場はこれからだという期待値もあると思うのですが、広告に携わっている方はビジュアルの広告をある程度やりつくしてきた感があると思います。そのため、新しい広告を求めている方が非常に多いです。
荒木:最後に今後のSpotifyのプログラマティック広告の今後の方針を伺えますか。
石井:現在は、市場開拓フェーズにあると思っています。プログラマティックも始まり、音声広告も非常に伸びてはいますが、まだまだ伸びしろがあります。音声広告の認知度の低さがまず一番の課題だと思っているので、Spotify for ブランド(Spotifyのオンラインサイト)を、充実させてそちらにも集客をしていきたいと考えています。
金井:日本のプログラマティック市場においては音声広告は産声を上げたばかりで、動画広告はやっと定着してきたかなというところです。日本において音声広告を扱う媒体はまだまだ少なく、日本でプログラマティックの音声広告をローンチしたのは弊社が初めてだと思います。最近になって、音声広告を提供する他のメディアもプログラマティックでの広告配信を開始し、様々な配信プラットフォームが音声広告の配信を強化している動きがあるので、他の音声メディアやプラットフォーマーと一緒に音声広告市場を盛り上げていきたいなと思っています。そうすることで日本のプログラマティック広告市場全体の成長にもつながっていくことを期待しています。
荒木:オーディオ広告は、日本ではこれからの広告ということもあり、話を聞ける機会が少ない広告だと思います。今回オーディオ広告に取り組んでいる貴社の話を通して、とても勉強になりました。今後の音声広告市場の動向もとても楽しみです。本日はありがとうございました。