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モバイル業界でも問題になっているアドフラウドの対策をわかりやすく解説
モバイルアプリのマーケティングに欠かせないのが効果計測プラットフォーム。アプリがどのくらいインストールされたのか、チュートリアルの突破数や会員登録数、休眠期間などのデータを分析するには広告効果計測プラットフォームを導入する必要があります。
またアドフラウド(広告不正)はモバイル業界でも問題になっており、各企業が対策をしているもののいたちごっこの状態が続いています。そこで今回は、モバイルアプリ向け効果計測プラットフォームの中でも日本でも導入実績が多く、アドフラウド対策に注力されているAdjustに、アドフラウド対策について非技術者にもわかりやすいよう噛み砕いて解説いただきました。
今回の話し手:adjust株式会社の佐々直紀さん
話し手:
adjust株式会社
日本カントリーマネージャー 佐々直紀さん
聞き手:
アタラ合同会社
チーフコンサルタント 浅田梨沙
アドフラウドの危機的な状況を業界全体で考えていくべき
浅田:まずは自己紹介とAdjustの特徴についてお話しいただけますか。
佐々:Adjust 日本のカントリーマネージャーをしております佐々です。大学卒業後はSIer、ネットサービス系の会社を経て外資企業の日本法人立ち上げを3社ほど担当しました。Adjustに入る前は2016年からTUNEでモバイル計測を業務の主軸に置くようになり、Adjustには2年半前から参画しています。
Adjustの特徴としては、モバイルアプリの計測プラットフォームの中でもどのインストールソース(流入元)が効果の良いユーザーを連れてきたかを正確に比較できるようなプラットフォームです。特に今重視しているのがアドフラウド対策です。
我々のビジョンとしては、モバイルマーケターさんにできるだけ多くの種類のデータを正確に届けるということを軸に置いています。業界内で取得できるデータの種類がもっとも豊富である以外にも、クラウドを使わない自社サーバーで運用しているので、お客さまのサーバーにデータが届くまでリトライを続けるといったこともしっかりやっています。そういった積み重ねでお客さまの環境に必要な分析データがきちんと揃うんですね。
クラウドサービスを使っていると、通信量やデータの蓄積量に制限がかかってしまったり、データ量に応じてコストが高くなってしまいます。他社だと比較的やりづらいと思いますが、Adjustはずっと自社サーバーにこだわっているので、きちんとさまざまなデータが採れる点がポイントです。そこで問題になるのがアドフラウドです。フラウドを放っておくと、正確なデータではなくなります。フラウドは10%から30%くらい混ざっているのでまずそれを除去し、きれいな正確なデータで分析しましょうというのがベースとしてあります。
浅田:フラウドが10%から30%混ざっているというのは日本でも同程度あるのでしょうか。
佐々:日本でもあります。さらにいろんな種類のアドフラウドがあって、どんどん進化しています。Adjustでもフラウド対策チームが本社にあるので、先回りしていかに除去するかということをやっています。
日本でアドフラウド防止の導入実績がもっとも多いのは、Adjustだと思います。そこに着目するのが早かったっていうこともありますし、日本では一番AdjustのSDKが多く使われているので、そこで使っていただいているお客さんも多いですね。Adjustではトライアルを用意しているので、まずは試していただいて導入費と実際削減できる広告費を比べていただくと、削減効果のほうが大きいことがわかるので、そのまま導入していただくことが多いです。
浅田:なるほど。フラウドを除去する設定はどのように確認できるのでしょうか。
佐々:設定がアクティブになれば、その瞬間からリアルタイムにレポートで確認ができるようになります。レポートではどういう種類のアドフラウドがどのネットワークでどれぐらい発生したかが見られるので、そのデータを基にネットワークの予算配分や強化判断をしていただくイメージです。
浅田:見られる単位はネットワークごとですか?
佐々:ネットワーク以外にも、アドグループ、キャンペーン、クリエイティブ単位でも確認できます。フラウド判定されたものはネットワーク側にもコールバックすることができますので、インベントリを調査してフラウドの発生しているネットワークや媒体は配信を制御いただくこともあります。
浅田:そうすると手動でフィルタリングしていくことも可能だし、Adjustさんのルールでフィルターしていただくというのも両方起きているということですよね。
佐々:そうです。ただリアルタイムで自動ではじくということが重要で、アドフラウドってあとから事後対策をしてもあまり意味がないんですよ。一度インストールとして認めてしまうとその情報がネットワークに伝わり、請求されてしまう。それをあとから返金交渉して取り戻すって結構大変なんですよね。なのでそもそもインストールとして認められないように、リアルタイムで止めちゃいます。この自動化ができる点が魅力としてとらえていただいているのではないかと。
そのほかにもローデータを見ていただいて、これはフラウドじゃないかというやり取りをさせていただくこともあります。
※参考
浅田:フラウドがあるのは分かっているけど、どれくらいの規模なのか把握できないしチェックする工数を当てられず見逃してしまっていることが結構あるのではないかと感じています。でもAdjustであれば簡単に確認できるので、フィルタリングすることが業界への貢献にもなるのかなと。
佐々:そうですね。この問題は深刻ですが、マーケットにまだ十分に浸透していません。日本では大丈夫じゃないかと思っている方が多い。一部の国では、大麻とかコカイン以上にアドフラウドが蔓延している、犯罪組織への収入源になってるというニュースもあります。実はそれくらい危機的な状況なので、放置していくと、モバイルに携わる人全員に悪影響があり、誰も広告を信じなくなるみたいなことにもなりかねないので、業界全体で考えていかなきゃならないと思いますね。微量たりとも不正業者に流さないという観点はCSR的にも必要なポイントだと思います。そこを今、一生懸命啓蒙しているところです。
フィンガープリント計測を使うのであればリスクに備える必要がある
浅田:フラウド対策の一環として、フィンガープリント計測がデフォルトでオフ設定に変わりましたよね。事業主にとって影響はないのでしょうか。
※参考
一部のプラットフォームでは基本的にデバイスマッチングをしているのですが、そのデータが採れない場合はフィンガープリントを使っています。そのケースって海外は日本よりもちょっと少ないんですね。日本ではまだウェブ系の在庫が配信先として多く、ウェブ…いわゆるモバイルウェブの場合は広告IDが取れないので、その場合はフィンガープリントで計測しています。
しかしこの仕組がアドフラウドに悪用されているということがありまして、例えばクリックスパムをやる場合に、広告IDをしっかり飛ばしてしまうと見破られてしまうので、フィンガープリントっていうちょっと曖昧なテクノロジーの隙を突いてきて、うまくランダムにアトリビューションとして判定させちゃうという発想があるんです。
このような悪用が多くなってきたということと、フィンガープリンティングでの計測というのはわりと古いテクノロジーなので、もう我々としてはデフォルトではオフにしてしまって、ユーザーさんが必要な時はそういうリスクがあるっていうことを知ってもらった上でオンにしていただくという、そのプロセスこそが大事かなと考えています。
浅田:必要な時というのはどのような場合でしょうか。
佐々:単純に言うとウェブ広告、モバイルウェブですね。アプリではなくモバイルウェブ広告に関しては、それをクリックしたときにネットワーク側から広告IDは飛びません。そうすると、我々がクリックしたときの広告IDと、アプリをインストールし終わって起動したときの広告IDを参照します。そこでユーザーのマッチングを行うのですが、ユーザーがクリックした広告に紐付けていくんですけど、モバイルウェブの広告の場合はその広告IDがないので、IPアドレスだったり、ユーザーエージェントだったり、OSのバージョンとかデバイスタイプとか、そういうので類推をしてユーザー特定をするんですね。
例えばモバイルアプリの中の広告であれば、それをタップしたときに広告IDというのが我々も取得できるのでマッチングができるんですけど、日本だとまだウェブ系の在庫がすごく多い点に注意しなければなりません。
ユーザーさんからネットワーク側にその設定が必要かどうかって確認をしていただくこともありますし、もっと前提として広告がどういうところにどういうふうに出ているのかも一緒に確認していただくと、よりこのアドフラウドの出やすい環境を抑えることができると思いますね。
浅田:そうすると、いわゆるアプリインストール広告の場合は広告IDでマッチングできるから特に問題はない。モバイルウェブの面に出しているときはフィンガープリントがオフになっていることで少し精度が落ちる可能性はあるが、類推して紐付けてはいるということですね。
佐々:はい。そしてもちろんフィンガープリント計測自体をオンすれば、今までと同じように計測はできます。日本だとiOSで20%くらい、Androidだと15%ぐらいがフィンガープリントで計測されています。それもネットワークによって変わってくる場合もあるので、ちゃんとクリック時に広告IDがAdjustに飛んでるかどうかという点で判断していただくといいと思います。
浅田:なるほど、ここでもネットワークごとに確認する必要があるんですね。
それで影響がほとんどないのであれば気にしなくても良いし、結構フィンガープリントに頼る必要がある場合はオンにする判断もあると。
佐々:そうですね。フラウドにちょっと注意をしつつという感じです。そのときにAdjustのアドフラウド防止に入っていればより安心ですね。
浅田:フィルタリングもするし、レポートを見て除外すれば良い。
佐々:そうです。無防備な上でフィンガープリントをやみくもに全部オンにしていくっていうのはやめたほうがいいっていう感じですね。
浅田:理解できました。計測つながりではWeb SDKというものもリリースされましたね。
※参考
佐々:Web SDKはクロスデバイス計測を可能にするものです。モバイルウェブやデスクトップウェブのユーザーデータを統合したいというニーズは昔からありました。以前からベータ版では提供していましたが、現在は正式にリリースしています。
例えば、スマホの場合は広告IDと共に、サービス独自のユーザーIDをサーバに格納します。ユーザーIDとデスクトップウェブ上での検索や購入というイベント情報を一緒に引き渡すことによって、同一ユーザーがPCで商品を閲覧して、最後スマホで購入したというようなデータを繋げられるようになります。今後ウェブからアプリにシフトしてくる、特にEコマース、不動産、旅行業界の方に多く活用いただけるんじゃないかなと思います。
浅田:そうすると、クロスデバイスアトリビューションが可能になる?
佐々:なりますね。流入元も送れますので。AnalyticsやBIに繋げるよう、ローデータを提供しています。Adjustは取得できるデータの種類も多いですし、データ分析が大好きな方に特に気に入っていただくこと多いです。データドリブンな方のためのプラットフォームですし、そのデータドリブンな方のためにそのデータを守るっていう意味でアドフラウドを頑張ってやっています。
アプリとユーザーを育てていくのに必要なことは
浅田:Adjustさんの強みや取り組んでらっしゃることについて理解できた上で、今度はアプリマーケティングの考え方についてお伺いできればと思います。昔はアプリといえばとりあえずインストール広告でしょ、でインストール単価(CPI)がどうこうで終わっていたこともありましたが、近年はエンゲージメント、LTVが大事だよねという考え方が根付いてきたように思っています。
佐々:そうですね、私が日頃お話ししている方々は、インストールだけじゃなくてやっぱりその先のLTVも見られています。アプリとか業界によってKPIはばらばらですが、ゲームだと1ユーザー当たりの売り上げをどう増やしていくかとか、ニュース系アプリだと7日間継続して使っていただくユーザーがどれくらいいるか、いわゆる継続日数で見たりなどがあります。
つまり、インストールだけで見ていると、その先がほとんどアンインストールされちゃっている場合だとかっていうのも見えなくなってしまいます。ただ単にCPIが安ければいいという観点になっちゃうと、アドフラウドの標的にもなりやすいです。
インストールのあと、ユーザーがどうなったらいいかをちゃんとイベント設計して見ていく。Adjustではアプリ内イベントを無制限に作っていただけるので、例えばEコマース系のアプリであれば、お気に入りに入れた、検索した、カートに入れた、購入したとか、そういうファンクションを計測地点に設定することができます。そうすると、ユーザーがそこに到達した場合にイベント情報として発火しますので、Adjustのレポート上にもその件数が表示されますし、そのタイミングでまたローデータを飛ばすっていうこともできます。
インストール数目標というのもあっていいとは思うんですけど、それだけじゃ事業は成り立たないはずです。ウェブで言うところの最初のページビューがインストールみたいなもので、結局その先のアクション、コンバージョンを重視しますよね。同じ発想を持たないと駄目ですね。
浅田:インストールはページビューのようなもの、分かりやすいです。
佐々:休眠ユーザーの考え方もプランニングの上で重要なポイントです。Adjustでは休眠ユーザーの定義はデフォルトで7日間ですが、これは7日間アプリを起動しなかった人が休眠ユーザーとされます。たとえば休眠ユーザーが広告をタップしてアプリを起動した場合、その媒体がリエンゲージメントに貢献したと評価されるのですが、もし休眠設定がない場合、インストールした直後にまた別の広告から起動したのだとしてもリエンゲージメント扱いになってしまいます。そうすると新規インストール系の目的で出稿した媒体と、リエンゲージメント目的の媒体での効果が見づらくなってしまいますよね。
休眠期間を経たユーザーが戻ってきたときにきちんとリエンゲージメント広告を評価できるようになれば、そのあとのLTVを見るときにも便利です。例えば再インストールユーザーのLTVが高いという傾向がありますが、確かに再インストールするモチベーションがあるということは、初回インストールよりもバリューが高かったりします。
こういうことをきちんと評価するためには、新規ユーザーと戻ってきたユーザーを区別することが重要で、そのために休眠の期間定義も変更できるという点がAdjustのユニークなところです。インストールフェーズよりも先の、ユーザーを育てていくフェーズ、アプリを育てていくフェーズになったときにとても有効だと思います。
今後の展望
浅田:今後の展望、方向性をお聞かせいただけますか。
佐々:やはりマーケターに正確なデータをできるだけ豊富に提供しようという点と、アドフラウドが軸になります。最近ですとクリックバリデーションという取り組みについてリリースしましたが、インプレッションとクリックを紐付けて、クリックのデータにはその手前に正常なインプレッションがあるはずでしょうということをしっかりやっていきます。クリックしてないのにクリックとみなされたり、ボットによるクリック、クリックスパムが横行しているので、はじかなきゃいけないと。これはネットワークごとに仕様の違いもあり、ビューアブルでないところに表示されたバナーでクリックカウントされていたり、酷いケースだとなにも表示されていないのにクリックとしてみなされているみたいなことがあるんです。
そういったものを防ぐためにも、このクリックバリデーションというのは効いてくるでしょうと。これはちょっとネットワークさんを巻き込んでやってかなきゃいけない問題なので、アドフラウド防止連合(CAAF)を中心に呼び掛けながら進めています。年内にも環境が整って、この媒体は安心していただけるというのが分かるようになるはずです。
※参考
もう1つはUnbotifyという企業を買収しまして、これはスマホの傾き、タップした圧力、スライドするスピードといったものを検知して、本当に人間がクリックしたものかどうかを検出するテクノロジーを専門としています。この技術をAdjustに統合していって、より不正がしづらい環境を作っていきます。
アドフラウドはほとんど例外なく10%ぐらいはやられてしまっています。広告費に1億円掛けてたら1,000万円は無駄になってしまっているので、しっかり取り組んでいく必要があります。インターネット広告の信頼性ってどうなんだろうという話になっちゃうと、市場も育たないですし、業界全体自体が衰退していきかねないので、しっかりやっていきたいですね。
浅田:本日は貴重なお話、ありがとうございました!