※本記事は、adjust株式会社カントリーマネージャーの佐々直紀さんよりご寄稿頂きました。
モバイル業界はマルチタッチアトリビューションに移行していますが、その限界が見え始めた今、真のソリューションはどうあるべきかという点について考察します。
モバイル業界はマルチタッチアトリビューションにシフトし始めています。マーケティング効果を測定する真のソリューションは、どうあるべきなのでしょうか?
マーケティング効果を測定する手法の1つ「マルチタッチアトリビューション」が、最近モバイル業界でも注目されています。起点(ファーストタッチ)アトリビューションや終点(ラストタッチ)アトリビューションといった従来のモデルを越えて、広告との関係をより包括的に理解することが求められています。
マルチタッチアトリビューションの核心は、ラストクリックだけに報酬を提供するのではなく、広告のインプレションやクリック、コンバージョンなど、ユーザージャーニー全体に向けて貢献度を割り振ることにあります。コンバージョンを促した広告キャンペーンを特定し、インストールに関係する全てのキャンペーンにクレジットを提供するのが目的ですが、そのデータ分析はとても複雑で、仕組みを完全に把握している人は存在しません。
今回は、マルチタッチにおける問題点と、真の解決策はどうあるべきかという点についてお話しします。
※この記事をお読みになる前に、マルチタッチアトリビューションについて解説したこちらのコンテンツも合わせてご覧ください。
目次
モバイルにおけるマルチタッチアトリビューションとは?
Webの世界では、マルチタッチアトリビューションは既に確立された分析法で、広告キャンペーンに対して、貢献度をバランス良く割り当てることができます。
しかし、次の場合はどうでしょうか。例えば、あるユーザーが新製品のバナーやビデオを見た後、それをGoogleで検索してAdwordsの広告をクリックしたと仮定します。マルチタッチでなければ、ユーザーに製品を紹介したビデオ側は一切評価されず、Googleが販売の貢献度を100%獲得します。
モバイル上でユーザー獲得を実施する場合はどうでしょうか。
例えば、Apple Search AdsはGoogleのSearch Adsと同じように機能するため、貢献度を過大評価しないようにすることは理論的と言えます。また、インタースティシャル広告(ページコンテンツ等の間に表示される広告)を見たユーザーや、Instant Apps広告(インストールせずに試せるアプリ)を利用したユーザーが、最終的にコンバージョンに至るまでに別のバナーをクリックしたかどうかを把握することも大切です。
論理的には、前に別の広告にも接触しているユーザーのクリック率 (CTR) の方が高いと考えます。App Storeのランディングページからダウンロードボタンがクリックされるまでのコンバージョン率は、アプリページのコンテンツとユーザーの特性に左右されます。
ここまでは納得できる内容だと思いますが、それでは、マルチタッチの何が問題なのでしょうか。
問題1:インストールに対する過大評価
マルチタッチの最初の問題は、一連の広告によって獲得したコンバージョンイベントを、どうやって定義するかという点にあります。
現在モバイル業界で認識されているマルチタッチのコンバージョンは、アプリのインストールを目的としています。しかしユーザーの本来の意図は、フライトを予約したり靴を買ったりすることであり、その手段であるアプリのインストールではないはずです。
問題2: 広告配信の全てが把握できない
上で述べた例のように、広告「A」を見たユーザーグループは、広告「A」のアップリフト効果*により、広告「B」もクリックする可能性が高いと考えられます。しかし、計測プロバイダーの多くは、ごく一部のインプレッションしか分析していないという問題があります。例えば、アドネットワークの中には、第三者である計測プロバイダーに対して最後のエンゲージメント情報しか共有しなかったり、あるいは、大量のクリックデータを送信している場合もあります。スプーフィングされたなりすましのエンゲージメントが含まれている可能性もありますが、クリックを認証するシステムは、ごく最近まで存在しませんでした。
言い換えると、インプレションからコンバージョンに至るすべての広告配信プロセスが目に見えるWebとは違って、モバイルには不完全で歪んだデータサンプルしかないということです。これでは信頼できるデータを得ることはできません。
ちなみに、Adjustの「クリック認証」は、マルチタッチの可能性を大きく広げるものです。クリック前に存在したインプレッションを確認することにより、エンゲージメントが同じ端末に由来するものかどうかを認証します。アトリビューションの正確性が高まり、スプーフィングされたエンゲージメントに対して無駄になっていた広告費も削減されます。Adjustが提唱するこの新しい基準を、全ての業界のマーケターに導入いただけることを期待しています。
*アップリフト (uplift) は英語で「持ち上げる」という意味です。「アップリフト効果がある」とは、条件「X」の時、事象「Y」が起こる確立が高いことを示します。消費者に及ぼす増分的な影響をモデル化したのは「アップリフトモデル」と呼ばれ、マーケティングの最適化などに使用されます。
問題3:アシストインストールは機能しない
マルチタッチアトリビューションは、広告がコンバージョン率の押し上げに貢献したかどうかを判断するために設計されました。しかし、これには当然複雑な仕組みが必要となります。その代わりに登場したのが「アシストインストール」です。アシストインストールは、ユーザーが最終クリックを行うまでのすべてのタッチポイントを評価します。
アシストインストールは、アトリビューション数を大幅に増加させて実質的にインストール単価(CPI)を下げるため、媒体には好まれます。さらに都合の良いことに、1つのインストールで多くのアシストインストールが生成されます。
しかしそれが意味するのは、アップリフト効果があろうがなかろうが、大量のクリックを送信する媒体を過大評価する、誇張された数字にすぎません。
問題4:アドフラウド(最大の問題)
Adjustは、クリックスパムを検出・排除する唯一のアトリビューションプロバイダーです。また、繰り返し送られる割合が高いクリックや、クリックとインストールの間に相関性のないクリックは、今日頻繁に確認されているアドフラウドの手法です。
しかし、マルチタッチアトリビューションとクリックスパムの組み合わせは、火に油を注ぐようなものです。
エンゲージメントが本当にユーザーのコンバージョンを高めているのかを、数学的なモデルを使って判断しない限り、不正行為や偽のクリックは、猛烈な勢いでアシストインストールを始めてしまいます。例えば、過去数日間に偽のクリックを10回行い、5分前に正当なクリックを1回行ったとします。 マルチタッチアトリビューションを用いた場合、1回の正当なクリックにだけ評価が与えられるのではなく、偽のクリックにも多数のアシストインストールによる報酬が割り当てられることになります。
Adjustのディストリビューションモデルでは、ユーザーに影響を与えなかったエンゲージメントと偽のクリックやインプレッションを完全に区別しています。
一方、アドフラウドの判定基準として一般的に用いられている「クリックからインストールまでの時間」は、クリックにより発火したアシストインストールを計測対象とみなしません。シンプルな指標では、実際に何が起っているのかを理解するのは、ほぼ不可能と言えます。
アトリビューション企業が実際に貢献したクリックを判断することができない限り、マルチタッチで得をするのは不正業者だということです。
問題5: わずかなコールバック
最後に、以前の記事で説明したアトリビューションモデルの場合のように、Adjustがアトリビューションのほんの一部を正しく割り当てた場合でも、パートナー側ではその情報を有効活用することができませんでした。媒体は、「1未満のコンバージョン」を評価の対象として受け入れることができません。
アトリビューション計測会社が、媒体に対してどの程度の割合で関与したかを通知するわけではありません。彼らは依然としてコンバージョンの全額を請求するでしょう。
こうした状況(またテクノロジー)に変化がみられるまでには、時間を要するでしょう。
解決策は?
ここまで読んでくださった方は、「どうしてマルチタッチアトリビューションがここまで広まったのか?」あるいは「それを有効活用する手段はあるのか?」などの疑問をお持ちになったのではないかと思います。
最初の質問については、文中で既にお答えしたとおりです。それは「媒体がより大きな成果を上げるためには、いかに多くのユーザークリックを請求するかにかかっているから」です。
2番目の質問に対しては、声を大にして「あります」と言いたいところですが、実際にそのプロセスは複雑です。モバイル業界は、広告配信に関するより多くの情報とインプレッションの共有を行うよう、媒体に要請することが必要です。そして、クリックスパムを抑制することができる本当のアップリフトモデルを開発する必要があります。開発するまでには長い道のりですが、価値のある結果を生むと弊社では考えています。