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広告運用に真剣に向き合おうとしている人へのヒント
2017年までアタラに在籍していたrinobligeの和泉さんからの寄稿です。※本コラムは、noteで執筆された「広告運用にこの春から向き合う人へ」をUnyoo.jp向けに一部リライトした内容となります。
3年くらい前に、『結果を出せる広告運用者になるために意識した4つのこと』と題したコラムを書いた。
改めて読み読み返してみると恥ずかしくなってしまうけど、(凄く手前味噌だが…)今でも読む意味は少しはあるなと思える内容だと思っている。
ただ同時に、2019年4月から広告運用を始めた人が読むには、前提となる背景や知識の説明が抜けていたり、説明不足が否めない箇所が多分にあるなとも感じた。(まぁ…当時の僕の執筆能力が低かったという結論に至るのだが…)
3年くらい前のコラムなので仕方ないと思わなくもないが、広告運用に真剣に向き合おうとしている人が読んだ時、少しでもヒントになればと思い2019年版を書いてみようと思う。
はじめに
『努力し続ける気概のある人だけが辿りつける地点がある』
最初に書くと身も蓋もない言葉かもしれないけれども、魔法の杖のように広告運用が上手になる方法はない。簡単に広告運用が上手になる方法があるなら、僕が教えて欲しい!と切実に思う。
僕が広告運用の1年生に伝えることの一つに、「『何をやったら成果をだせるのか』『どう運用したらいいか』『どんな本を読んだらいいのか』という質問をする人には、広告運用は向いていないかもしれないよ」ということがある。
僕自身も、未だに広告運用の正解はわからない。施策が成果に結びつくこともあれば、結びつかないこともある。とにかく、考えながら、手を動かし、走り続けて10数年やってきた。
会社によって期間は違うと思うけれども、これから数ヶ月間〜1年間くらい、独り立ちに向けた助走期間として広告運用をOJTに入っていくと思う。そして、この助走期間を経れば、先輩と同じように、君の頭だけで考え、手を動かしながら広告運用をしなければならないという事実が待っている。
だから、可能な限り初期段階から先輩と同じように、君の頭だけで考え、手を動かしながら広告運用をしなければならないという事実と向き合い、広告運用に取り組む覚悟を決めて欲しい。
覚悟を決めた後は、先輩が「頭の中にある情報」と「広告プラットフォームの状況」と「配信結果(レポート)」から、どのように手がかりを見つけ、課題と定義し、課題解決をするための最適解を導き出したのかを「リバースエンジニアリングすること」を意識して欲しい。
少し具体的に書くと、たくさんの情報の中から、どのように手がかりを見つけ出し、(見つけ出した手がかりを)どのように処理し課題と定義し、課題を解決するための最適解をどのように導いたのかを言語化(メモなど)し、その後実際に自分で手を動かして再現してみせるという作業を繰り返すことだ。
再現性の高さを意識する
広告運用が上手な人に共通するスキルの一つに『再現性が高さ』がある。
僕が出会ってきた広告運用が上手な人たちは、広告主さんの業種や予算規模に関わらず、必ず一定の成果を出す。中には、まるで魔法のように成果を出す人もいた。
広告運用が上手な人たちと話す中で知った共通項の一つに、『自分の型(法則)』に従って運用している、ということがある。僕の解釈だけれども、広告運用が上手な人たちは思うような結果が出なかった時、『自分の中にある型(法則)』と現状を照らし合わせ、差分(何が違うのか)を見つけ出し、成果が出るように改善箇所を見つけることが可能なのだと思う。
そして、ただ好き勝手に『自分の型(法則)』を作っている訳ではなく、大前提となるルールを基に『自分の型(法則)』<を作っているように感じた。なぜなら、広告運用が上手な人たちの間で交わされる会話には、何かしらの前提知識やルールが明確にあるように感じたからだ。
だから、広告運用が上手な人たちが成果を出すために使っている、前提知識やルールを早い段階で理解し、自由自在にルールを操れるようになることが、広告運用が上手になる早道だと思う。
頭の中に入れておくべき前提知識とルール
ルールを知る必要性があるのは、『自分の型(法則)』を作るためだけではない。広告運用はゲーム性が高く、ルールを知らずに運用することは致命傷になりかねない。しかし、実際に広告運用に使えないと覚える意味がない。正しく理解し、ルールをもとに正しくを運用できることが大切だ。
そこで、広告運用の根本的なルールの一つである『セカンドプライスオークション』から紐解いてみようと思う。
広告運用は『セカンドプライスオークション』が採用されていることが多い、と座学研修やOJTで先輩から教わると思います。(まだ教わっていない人は、先輩や上司に質問してください!先輩や上司が答えてあげてくださいね!)
『セカンドプライスオークション』って何?
当然、最初はこの疑問にぶつかることになる。
(ちょっと強引な例えなので実際にはあり得ないのですが、極端な例えの方が理解しやすいと思うのであえて)
例えば、あるサイトに広告枠が1つあるとする。この広告枠のあるWEBサイトに掲載されている記事の質が高く人気があり、毎日多くの人が閲覧している。このサイトに広告を出せば、多くの人に商品を知ってもらい買ってもらう可能性が高いだろうと多くの広告主さんは考える。ただ、このWEBサイトを運営している会社さんは広告をたくさん出すことはしたくない。なので広告枠は1つしか設定していないとする。
そうすると、1つしかない広告枠を多くの広告主さんが取り合うことになる。同時に、WEBサイトを運営している会社さんとしては、広告枠に最も高いお金を出してくれる広告主さんの広告を出して利益を得たいと思う。
このように、1つしかない広告枠を多くの広告主さんが競い合って、最も高いお金を払った広告主さんが広告を掲載できる仕組みをオークションと言う。
ここまでは何となく理解できる人が多いと思う。
次に、じゃあ『セカンドプライスオークション』って何?という疑問が湧いてくるだろう。
そこで、『セカンドプライスオークション』を「セカンド」と「プライス」に分解すると理解しやすくなる。つまり、「セカンド=2番目」と「プライス=価格」なので『2番目の価格』という意味だ。
少し硬い説明を引用すると、『最も高い金額で入札した者を勝者とする際に、勝者自身の入札額ではなく、全体で二番目に高い入札額(競合者がない場合には売り手側の提示した最低金額)を支払わせるという仕組み』のことだ。
セカンドプライス・オークションとは|金融経済用語集www.ifinance.ne.jp
『セカンドプライスオークション』を調べると『ファーストプライスオークション(最も高い金額を入札した者を勝者とする際に、勝者自身の入札額を支払う)』という方法に出会う。
『セカンドプライスオークション』より『ファーストプライスオークション』を採用した方が、WEBサイトを運営している会社さんとしては、利益が最大化するように思うかもしれない。ではなぜ、セカンドプライスオークションを広告運用ではルールにしているのだろうか?
広告運用では、広告枠に広告を出すことを競っている他の広告主さんの入札金額は、わからない。この状況では、相手の入札を予想する必要がある。また、広告主さんとしては可能な限り安い値段で広告を出稿したいけれども、必要以上に高い金額を入札すると損をしてしまうと考えてしまう。
こういう状況になると、どうしても人間心理として安く入札してしまうが、広告枠が安く買われてしまうとWEBサイトを運営している会社さんの収益が悪化してしまい質の高い記事を出せなくなったり、(極端な例ですが)閉鎖しなくてはならなくなるかもしれない。そうすると、広告主さんとしても商品を買ってもらうための手段がなくなってしまうし、WEBサイトを利用している人も高い質の記事を読めなくなってしまう。
つまり、広告主さん・WEBサイトを運営している会社さん、WEBサイトを利用している人たち、3者にとって最も最適な(オークションに参加する他社の入札金額を気にせずに、自社が適切だと思う金額を入札すればよい)状況を維持する仕組みとして、セカンドプライスオークションを採用している、と僕は理解している。
学術的には「セカンドプライスオークションは耐戦略性を満たす」などと説明できるが、ゲーム理論の専門家になる訳ではないので、これくらいの理解で困ることはないと思う。(僕自身ゲーム理論を専門的に学んでいないが、何とかなっている)
広告の品質という仕組み
しかし、セカンドプライスオークションを単純に適用してしまうと、結局は『高いお金を出せるお金持ちの広告主が勝つ』という状況になってしまう。そこで、導入されたのが『広告ランク』という仕組みだ。
広告ランクは、入札金額×広告の品質
つまり、オークションの入札金額だけで勝負を決めるのではなく『広告の品質』という指標を組み合わせてオークションの勝者を決める。『広告の品質』という指標を入札金額と掛け合わせることで、お金だけを出せば広告が掲載できるという状況を防いでくれる仕組みになっている。
なので、広告運用では『広告の品質』が高くなるように考える必要がある。
ただ、広告の品質の詳細な内容は、広告プラットフォーム(Google 広告やYahoo!プロモーション広告など)毎に異なっており、さらに詳細は非公開になっている。大枠での方針や(広告プラットフォームの思想に基づいた)考え方はヘルプに記載されているので、ちゃんと確認し大枠は覚えておこう。
そして、各広告プラットフォームの広告の品質の考え方は、運用の学習を進める上での貴重な情報源にもなる。しっかりと読み込んで、理解が難しい部分は先輩に質問しながら、実際の広告運用で体感してみてほしい。
先輩も答えられないような疑問が出てきたら、各広告プラットフォームの担当者と会った時に質問をして疑問を必ず解決しよう!
※注意※
ファーストプライスオークション導入が進んできているが、ファーストプライスオークションが話題になってきた文脈(背景)を理解しなければ理解は難しく、説明が複雑になるため、ここではセカンドプライスオークションの説明のみを紹介する。基本的な運用ができるようになってから、自ら調べたり、広告運用経験の長い先輩に質問してほしい。まずは、必要最小限のルールを活かして、自由自在に操れるようになることのほうが優先度が高いと僕は思う。
ルールを使ってリバースエンジニアリングをしてみる
ここまで『セカンドプライスオークション』と『広告の品質』について説明をしてきた。そこで、この前提知識とルールを使ってリバースエンジニアリングを実際にやってみたい。
前提条件は:
・Google 広告の検索連動型広告で
・獲得につながっていたキーワードの平均クリック単価が急上昇していた
・クリック単価が急上昇する直前に入札変更はしていない
・平均掲載順位に変化はない
・キーワードの品質スコアに変化はない
確認できる情報源は、
・掲載結果レポート
追加情報として、
・課金クリック単価を導く公式=オークションの結果1つ下になった広告の広告ランク÷自分の広告の品質+1円
掲載結果のレポートから、獲得につながっていたキーワードの平均クリック単価は確認できる。
※注意点:『品質スコア』≠『広告の品質』だが、広告運用者が得られる情報は品質スコアだけなので、『品質スコア』を『広告の品質』の近似値として利用する。
追加情報で得た課金クリック単価を導く公式『オークションの結果1つ下になった広告の広告ランク÷自分の広告の品質+1円』を、(平均クリック単価-1円)×自分の品質スコアに式変形すると1つ下に掲載されている広告の広告ランクが導きだせる。
上の画像のように、平均クリック単価が51円。 キーワードの品質スコアが7とすると、
(51円-1円)×7=350
なので、1つ下に掲載されている広告の算出した広告ランクは350であることがわかった。
広告ランクによって掲載順位は決まるので、1つ下に掲載されているキーワードの広告ランクが、自分が運用しているキーワードの広告ランクを超えない限り、掲載順位に変化はない(詳細は下記のヘルプ参照)。抽出できるレポートから、平均掲載順位に変化はない。
同時に、自分が運用しているキーワードの広告ランクは700だと認識できる。
自分の広告ランク:100×7=700
と計算ができる。ここまでをまとめると、
・自分の広告ランク:100×7=700
・1つ下の広告の算出した広告ランク:(51円-1円)×7=350
と2つの情報を導きだせた。
ここから考えることは、例えば1つ下に掲載されている広告が入札金額を上げて、広告ランクが660になれば
660÷7+1=95になる。
つまり、自分では何も変更していないにも関わらず、44円も平均クリック単価が急上昇してしまう可能性がある。このように、セカンドプライスオークションと広告の品質、この2つの仕組みを組み合わせて作られたクリック課金の式から、平均クリック単価が上昇した現象をリバースエンジニアリングし、正しい対策を打つことが可能になる。『外部要因で平均クリック単価が上昇しました』と短絡的に考えても何も改善しない。自分が適切な入札金額を設定していれは問題はなくなる。
もちろん、僕が広告運用に携わり始めた時と2019年現在は大きく違っていて、機械学習を使った運用が主流になっているので、上記のような例は少くなったと思う。けれども、予算規模が小さなアカウントを運用することが多い大都市地域以外で広告運用に向き合い始めた人は覚えておくと良いと思う。
僕も東京ではない場所で広告運用に向き合い始めた。予算規模が小さなアカウントは、いっぱいいっぱい考え抜いて広告プランニングやアカウント設計、運用調整をすることが必須で大変なことも多いと思う。ただ、最初から大規模な予算のアカウントを運用するよりも深い学びの経験になると、僕は確信している。だから予算規模が小さなアカウントで経験を積んで成果を出せるようになれば、予算規模が大きなアカウント特有の注意点を知れば比較的スムーズに運用ができる。予算規模の小さなアカウントでたくさんの経験を積むことは決して無駄にはならないので、上記で挙げたリバースエンジニアリングなどを駆使して、頑張って欲しいなと思う。
何を大切にして広告運用をしていくのか
そして、何よりも注意しないとダメなことは、『広告の品質』をHack(ハック)すること(広告に注意を引くことだけを考えて、クリックを誘引するような施策)に注力してしまうことだと思う。過去にはGoogleの品質スコアHackを競い合うような時代もあったけれども、『広告の品質』はあくまで結果指標で品質スコアHackが広告運用の主な仕事ではない。
僕らがやる仕事は、『広告主さんの商品を買って欲しい人に伝えるべき情報は何か?どう表現すれば伝わるのか?を考え抜き、ユーザーにとって不快にならない表現に変換する広告クリエイティブを作成すること』だと思う。
広告プラットフォームの立場になって考えても、適切な言葉や表現に変換された広告クリエイティブは、ユーザーの支持を得る可能性が高く、『広告の品質』を著しく低く評価することはない。
そして、2019年現在。インターネット広告は決して社会から良い評価を受けていない。色々な問題を抱えているが、その一つとして、気分を害するような広告クリエイティブが掲載されていることが挙げられる。広告プラットフォームでも審査基準を厳しくしたり、画像の機械学習などを使って可能な限り気分を害するような広告クリエイティブが掲載されない状況を作る努力を重ねているし、これからも続けていくと思う。
しかし、入稿されないクリエイティブは広告プラットフォームで審査されることはないし、掲載されることもない。(理想論なので笑われるかもしれないが)広告運用に関わる人全員が気分を害するような広告クリエイティブを入稿しないという志をもって入稿すべきだと思う。
この春から広告運用に向き合う人たちだからこそ、経験者が麻痺してしまっている部分を率直に指摘して欲しい。そして、僕ら広告運用の経験者たちは、そういった純粋な意見を真摯に受け止めインターネット広告の品格を上げることを改めて意識すべきだと思う。
なぜなら、これから未来へむけて社会は大きく変化していく。スマートフォンやパソコンで情報を得ることが中心の生活から変わっていく未来へ進むはずだ。具体的には、自動車の窓や冷蔵庫に広告が掲載できるようになっていくと予測されている。
ソサエティ5.0のような社会へ進む中で、気分を害するような広告クリエイティブは企業の致命傷になってしまうはず。だからこそ、未来のインターネット広告運用を見据え、広告クリエイティブを考える習慣をつけた方がいいと思う。
そのヒントは、過去に広告という業界を作り上げてきてくださった人たちが共有してくれている。インターネット広告に携わっている人たちも、今まで積み上げられてきた過去の広告の知見をしっかりと学び、インターネット広告に取り入れた方がいいと思う。
そして、このように変化していく兆しがある2019年に広告運用に向き合うことになった人たちには、僕らが築いてきた広告運用のナレッジを踏襲するだけではなく、新しい社会へ向けた新しい広告運用を切り開く中心的な立場になって欲しいと願っている。
僕ら広告運用の先輩たちも、一緒に楽しく新しい広告運用を切り開くサポートをしたいと思う。もちろん、所属している組織や立場は違うかもしれないが、一緒に楽しく未来の広告運用を開拓していければ良いと思う。
最後に
広告運用の世界へようこそ!正しい努力をすれば必ず成長につながる素敵な職種です。頑張ってくださいね!