聞き手:アタラ合同会社 CEO 杉原剛
杉原:今回、『世界基準で学べるエッセンシャル・デジタルマーケティング』を出版された遠藤さんですが、本の紹介に入る前に、まずはご自身の自己紹介をお願いします。
遠藤:遠藤結万と申します。もともと大学時代は人間科学部という学部で心理学や統計を専攻していました。その後2013年に新卒でGoogleに入社し、Google AdWords(現Google 広告)のセールスや、分析、ツール作成などを行っていました。SMB、中小企業向けのセールスで、小さなところでは九州の歯医者さんや東北の小さな部品工場、大きなところでは新興のネットベンチャーなど、約1年半の在籍期間中に、幅広い業種をクオーターに300社ほど担当していました。
杉原:その後独立されたと。
遠藤:2014年12月に会社を設立して、今年で4年目になります。もともと何かサービスを作りたいなと思っていて、Googleで勉強させてもらったのち、貯金を切り崩しながらサービスを作っていました。もともとあまり技術畑ではなかったため技術的に足りない部分もあり、時間をかけながらプログラマー向けのサービスなどを作ってみたのですがあまりヒットせず、現在マーケティングに戻ってきた、という感じです。
杉原:もともとはマーケティングではない分野のツールを作っていらっしゃったんですね。
遠藤:はい。2、3回ピボットしてもあまりうまくいかず、やはり一番得意な分野へ原点回帰しようとマーケティングに戻ってきました。現在は主にコンサルティングや企業の戦略設計を行っており、加えてマーケティングツールを作っています。
打ち手にとどまらない、マーケティングの基礎を学ぶ
杉原:そういう意味では模索しながら事業を展開していらっしゃる中で、書籍出版の話が持ち上がったのでしょうか。
遠藤:やはりマーケティングに困っている会社様が多く、何とかしてほしいという声をおかげ様でたくさんいただくのですが、すべての会社様にお応えすることもできず…。そもそも企業規模が小さすぎる場合などは、弊社では合わない場合もあります。
これはSMBをやっていた時も感じていたのですが、細かなリスティングの知識やSEOの知識は持っていても、全体観がない方というのはとても多いです。打ち手をそもそも間違えたりするケースも多いと思います。SEOをやればいいと言っても、実は全然そういったモデルではなく、広告をやったほうがいいケースもあります。それを解決するためには何か必要なのではないかと思っていたところ、たまたま繋がりがあった企業さんとお話しているうちに、「それだったら本を出しましょう」ということになり、技術評論社さんから出版させていただくことになりました。
杉原:そういう経緯があったのですね。では、どちらかというと中小企業向けの本になるのでしょうか?
遠藤:個人的にはそう思っていますが、やはり全体観をフォローした書籍はあまりないので、その意味では色々な方に読んでいただきたいと思っています。そもそも何をやっていいのかだとか、予算組みやバジェットアロケーションはとても難しいと思うのですが、10人規模の企業ではそういったCMOが一番重要だと思います。そこが分からないと広告代理店に予算を握られてしまい、うまくいっているのかわからないというケースも多かったりします。
杉原:では、書籍の内容を教えていただけますか。
遠藤:全体的なデジタルマーケティングとは何かといった概念的な部分から、例えば広告や検索エンジン、ソーシャルメディアなどいわゆる今デジタルマーケティングと言われる範疇で必要な手法を一通り解説しています。
私自身がスタートアップを作り、起業し、製品を作りながら売ってきたという経験も活きています。例えば「どういう製品が本当にニーズがあるのか」というのは一般的なデジタルマーケティングではあまり話題にならない点で、どちらかというと「あるものをどう売っていくのか」の話になりがちだと思います。その部分までも、突っ込んで書くことを意識しました。
例えばこれまでのマーケティングの手法では、作ったものやサービスがあり、それを広告にすることがメインだったと思います。しかし、クラウドファンディングでは作る前にマーケティングを行ったり、そもそもニーズがあるかをデジタルで調査できるなど、マーケティング手法も変化してきています。
いわゆるデジタルの中での製品設計の在り方、マーケティングは広範囲にわたると思います。リサーチから始まり、最後にリリースしてから分析していくまですべてがマーケティングだと思うので、その際にどのような知識が必要なのかについて詳細に記述しました。
杉原:それらに加え、それぞれの施策について掘り下げてもいらっしゃいますね。それぞれの施策を詳しく解説する本はこれまでもありましたが、今おっしゃっていただいたような自社製品のサービスやそもそもの考え方、実際にマーケティング施策に落とし込む前にどうとらえるかという考え方は、意外と抜けているケースが多いように思います。
遠藤:おっしゃる通りで、私もGoogle時代に合計2000社くらい見ましたが、中にはどう頑張ってもネット広告には合わない商材だったり、「YouTube広告がやりたい」と言われても業態的にYouTubeは合わないなどのケースもありました。それはやはり手法をよく理解していないからであり、そもそもの相性をご存じならば出てこないような発想が出てきてしまいことにひとつの問題があると考えています。
杉原:私も中小企業や中小店舗に対して集客アドバイスをすることがありますが、食べログの所有権を得て基本情報を充実させたり、Googleマイビジネスへの掲載なども施策ありますね。
とあるワインビストロの例ですが、やはりレストランはローカルビジネスなので、何千枚となっている名刺をデータ化して、季節や周年のはがきを出す提案などを行いました。顧客を固定化してリピーター化したのが効きました。必ずしもデジタルが必須ではなく。デジタル、ノンデジタルを問わず、どのマーケティングスタイルがいいのかを見極めるためにもまずは己を知る必要があると思います。
遠藤:おっしゃる通りだと思います。ご相談いただいたケースでも、実はファックスが一番良いのではないかという場合が結構あります。
杉原:そうですね。SMBは特にそういうことが多い気がします。
遠藤:やはり目先の顧客単価でCPAなどに追われている方が多いかと思うのですが、実は来店率や再訪率、LTVのほうが本当に見なければいけない数値だと思います。そういう意味ではデジタルは広告で見られがちだと思いますが。例えばLINEも最近すごく増えてきています。メールマガジンも昔からありますが、再訪を促す仕組みにおいてデジタルが普及してく中で、そっちのほうが実は比重が大きいとも思っています。
広告となるとやはり予算をどう取るかという話になると思いますが、LINE@を使う、Twitterで何かできるか、DMで何をするか、などの選択肢もあります。
杉原:広告一辺倒になりがちですが、LINE@のような施策や、オーガニック施策で中小企業がやれることはたくさんある。要は、知らないことが多い。
そして、全体としてそれをどうとらえて位置付ければいいかが意外と抜け落ちている。そういう部分まで網羅した書籍は初めてだと思います。
遠藤:逆にどこで売れるのかわからないということを編集者の方とも話していたのですが、意外と基礎的な部分を学びたい方はいらっしゃるということなので、良かったのかなというふうに思っています。地方の方などにも読んでいただけると一番嬉しいですね。
杉原:お問い合わせも多いかと思います。問い合わせを受けて、コンサルティングをするケースも多いのでしょうか。
遠藤:そうですね。あとはコミュニティを作らせていただいて、フリーのマーケターの方がいらっしゃったり、2~3名規模の企業、副業メインのマーケターの方なども結構いらっしゃいます。そういう方を集めてギルドのようなものを作っており、そこにご紹介したり、得意分野の異なる方々とプロジェクトを組んで私がディレクションを行う、といったケースも結構増えてきています。
AI代理店、「AirCMO」をリリース
杉原:開発中のツールについてのお話お聞かせていただけますか。
遠藤:ツール名は「AirCMO」と言います。マーケティングをインハウスで実現するためのクラウドソーシングと発注プラットフォームです。
杉原:どういう方に使ってもらいたいですか?
遠藤:先程申し上げたように、本来LINE@やHubSpotなど、様々なツールが有るわけですが、導入しようとしても、なかなか運用できる人材がいないのが現状です。弊社は、SaaSやWeb広告をオペレーターとワーカー付きでご提供することで、代理店モデルではないインハウスのマーケティング運用を実現しようと考えております。
※実際の管理画面
遠藤:将来的には、AI化やRPAなどによって、APIからデータを抜き出し、自動でご提案をしたり、改善をしていくようにしていきたいと思っています。より一部についてはすでに実装しているものもあります。
杉原:自動でなされる提案はどういったものなのでしょうか。
遠藤:すごくわかりやすい例で言うと、「このキーワードが悪い」「もっとポテンシャルのあるキーワードなのに、出せていない」といったことをバックエンドで解析し、提案します。
杉原:システム的に最適化の提案を作るということですか?
遠藤:最初のうちはある程度人力も必要です。最初は人が見ながら稼働させ、データが溜まってきたら自動化する流れを予定しています。
杉原:人力の場合、クオリティをどう担保するかが課題ですね。
遠藤:現在マニュアルを作成しているところですが、感覚的なものが必要な部分では経験がものを言うため、経験がないとでいない部分に関してはAIができるようにしていきたいです。サービスは最低限に絞り、チャットのサポートと、ルーチン化出来る作業のみに絞っています。もう少ししたら、もうちょっと重要なことも提案できるようにする予定です。
杉原:タグラインで言うと何になるのでしょうか?
遠藤:「AI代理店」です。
杉原:SMBでAI代理店、それは大事ですね。最後に、ターゲットとしている中小企業に向けて、メッセージを頂戴できますか。
遠藤:マーケティングって、実は中小企業のほうが面白いと思います。特にブランディングという手法はよく使われますが、本当は中小企業のほうが絶対にやりやすいと思います。大企業のブランディングはかなり予算を使わなければいけませんが、中小企業で地場でやっていらっしゃる方は、すこしブランドを作れば絶対に勝てます。そこも含めてブランドと、どうやってお客様のLTVを上げていくかを考えぬけば、もっと戦えると思っています。
また、今後も色々と書籍を執筆したいと考えています。マーケティングがやはりどんどんインハウス化していくと思います。その中でもプロフェッショナルのニーズは絶対に途切れないと思うので、そこをうまく両立できるようなパートナーさんと組みながら、やっていきたいと思っています。
杉原:遠藤さん、ありがとうございました。