※本記事は、クリエイティブ制作・量産化を実現するクラウドサービス「アドサイクル・クリエイティブメーカー」を開発・提供している株式会社エフォートサイエンス 代表取締役 村上和也さんよりご寄稿頂きました。
私は、システムインテグレータからWeb広告代理店に転職し、約10年ほど運用型広告の周りでお仕事をさせて頂き、その後、エフォートサイエンスを創業、開発を中心に業務を行なっております。
実は私が「クリエイティブを中心にテクノロジーでなんとかしたい」と考えたのは、私自身が運用時代に「やりきれなかった」と言う思いがあるからです。
私が思うに、運用のコントローラーは予算アロケーション(入札を含む)、ターゲティング、クリエイティブの大きく3つに分類されると考えています。
やりきれなかった理由は、私自身の力不足も当然ありますが、自動入札等もまだ充実していなかった当時は特に、上記3つのコントローラーのうちクリエイティブはどうしてもプライオリティが3番目になっていたからだと考えています。本記事ではこの部分にも触れつつ、そんなクリエイティブをどう取り扱っていくべきなのか、主張を述べさせて頂けますと幸いです。
運用型広告において、クリエイティブはますます重要に!
まず私は、運用型広告においてはクリエイティブがますます重要なコントローラーになると考えています。その理由を3つご紹介します。
1.唯一、広告主サイド(媒体サイドではなく)のコントローラーであるため
2.テクノロジーがカバーしきれていないため
3.競合他社もやりきれていないところであり、差が出るため
それでは、順に説明していきましょう。
1.唯一、広告主サイド(媒体サイドではない)のコントローラーであるため
上述の3つのコントローラーの中で、最適化を実行するためにキーとなるプレイヤーが媒体サイドであるものと、反対に広告主サイドであるコントローラーに分けられます。
そもそもなぜこの分類をすべきかなのですが、媒体サイドにあるコントローラーは、媒体側が最適化手法を用意していくことが当然効率的であり、GoogleやFacebookなどはその最適化に現時点で最も長けているため、広告出稿プラットフォームとしての強さを持っているのだと思います。ですから、当然競争力をあげる上でこれからも大きなアップデートを行ってくると考えられる、つまり、運用者が握る最適化への相対的な貢献度がどんどん下がってくると考えるからです。
では、早速それぞれのコントローラーを分類しましょう。
予算アロケーション・ターゲティングは、どちらかというと媒体サイドのコントローラーだと考えています。それには、「最適予測をするためのデータの多くが媒体サイドにて取得できる」こと、「数学的な処理による最適化が可能である」ことの2つの理由が挙げられます。
例えば、予算アロケーション。媒体側では極論、ミリ秒単位での全ログを保有しています。つまり、少し頑張れば、学習させて直近で予算効率の良いところに回していくことは可能です。広告主のKPIが媒体側で計測できていることが前提ですが。
ターゲティングにおいても、そのターゲットデータに関するあらゆる情報を掴み得るのは媒体です。管理画面で用意されているターゲティング設定は、その一部を媒体側がセレクトして提供しているものにすぎません。ですので媒体側でデータマイニングすれば、例えばこのアカウントのターゲティング設定は、もっと分割すべきだとか、統合すべきだとかが計算によって導き出せると考えます。
一部リターゲティングはこの域を抜けようとしていますが、まだCRMデータを取り込んだターゲティングというのは進んでおらず、媒体サイドのコントローラーだと考えます。
一方でクリエイティブはどうでしょうか。媒体側は、近年ここに苦しんでいるように思われます。なぜなら、クリエイティブは広告主サイドのコントローラーであり、広告主サイドの情報提供を受けなければ、改善に繋げにくいのです。ただ、情報提供する側の労力があり、なかなか十分な情報がない状態です。
一方で、媒体側のデータをベースに最適化はできないのかという疑問は残ると思います。そこを考えてみましょう。
例えば「食」と言うカテゴリにおいて、媒体は、「ヘルシー」と言うテーマがユーザーに受けているという情報をつかんだとします。Google、Facebookなら、当然こういうデータは瞬時につかむことができるでしょう。
では、このワードは全ての広告主に提案すべきでしょうか?答えは非常に難しいですが、広告主の判断を仰ぐならYes、自動でクリエイティブを作るならNoになります。
みなさんが理解しやすいテーマとして、これを「マクドナルド」と「モスバーガー」という有名企業のケースで考えると、両者にとって「ヘルシー」の受け取り方が異なるかもしれない、と想像できるのではないでしょうか。
つまり、クリエイティブとは、商品やサービスの一部なのです。
この場合、キープレイヤーは間違いなく広告主なのです。そしてその表現方法は多様であり、どんな言葉やセンテンスを使うか、どんなフォントで、どんな画像で伝えるかという、際限のないインプットになるため、機械学習が得意な「1->10」ではなく、ゼロイチによる創造をしなければならない領域です。私が、テクノロジーサイドの人間でありながらAIが自動で作るコピーやクリエイティブにまだ懐疑的な理由はここにあります。(もちろん、使い方次第です。AIが作る文章やクリエイティブに気づきを得ることは少なからず有効です)
従って、このクリエイティブ領域の最適化を担えるのは間違いなく、広告主、およびその代弁者である運用者なのです。その肩に、パフォーマンスが託されるのです。これがクリエイティブが重要になる1つ目の理由です。
2.テクノロジーがカバーしきれていないため
1.で述べたように、クリエイティブはテクノロジーがカバーしきれない領域ではありますが、だからといって媒体サイドも何もしていないわけではありません。広告主サイドが持つ情報をスムーズに取得するために、フィード型広告、レスポンシブディスプレイ広告やスマートディスプレイキャンペーン、動的検索広告のように、少ないインプットをもらえればなんとかするという機能の提供に努力されているものと考えます。
しかしこの部分は、まだまだ十分とは言えません。媒体サイドは各広告主共通の手法までしか用意できないのです。広告主ごとにカスタマイズすると、他の広告主にとって複雑性を増し、機能としても一部でしか使われないという非効率性を生み出してしまうリスクが高いからです。だからテクノロジーは、まだまだクリエイティブをカバーしきれていないといえます。
一方、予算アロケーションの点では、1.で数学的処理が可能と説明しましたが、近年は自動入札機能が普及し、サードパーティを含め中小規模の広告主であっても多様な選択肢を取れるようになりました。ターゲティングにおいては、類似属性のターゲティングや、媒体側が用意したセグメントに応じて配信できるように、どんどんテクノロジーが進んでいます。
3.競合他社もやりきれていないところであり、差が出るため
冒頭で私は「クリエイティブは3番目のプライオリティ」と記載しました。それは、裏を返せば予算アロケーションやターゲティングが1、2番目にあるということです。
まず予算アロケーションは、特に自動入札が一般的でなかった時代には必須業務でした。これをしなければ予算が全然使えなかったり、または使いすぎたりしてしまいます。予算設定などによりセーブできたとしても、一部の非効率なターゲットに膨大な予算が使われ続けるようなことがあれば、委託者は許しません。
次にターゲティング。検索連動型広告で考えると、ユーザーが検索するワードは常に変わります。その一部で、新しく・超効率的なワードが出現した時、出稿しないと如実に機会損失を食らってしまいます。逆に除外設定ができていなければ、非効率なワードに出し続けることになり、こちらもダメージが大きい。
クエリレポートや検索ワード分析ツールを利用するとすぐにわかって対処できるため、これらを放置することはできません。
では、クリエイティブはどうでしょうか。クリエイティブは変数が多すぎるので、最高なものを決めることはできません。つまり、最悪なものを探して潰すことしか現状できないのです。
そうすると、クリエイティブにおいて十分に施策が実施できている状態か否かは誰にもわからないため、きちんとA/Bテストをして、最悪なクリエイティブの配信を避けられているかどうかをチェックすることになります。しかしA/Bテストの集計・評価は大変で、非常に地味な作業かつ時間がかかってしまいます。
時間のない中で施策を実施するとしたら、効果の見える確率とスピードから、予算アロケーションとターゲティングに寄ってしまうのは当然のことといえないでしょうか。
このようにまだ多くの運用者が、かつての私のように前述した「予算アロケーション>ターゲティング>クリエイティブ」という流れに流されているのではないかと考えています。
言い換えれば、いかに能動的にクリエイティブに手をかけるかが他社との差を生むと言えます。
特に代理店のように運用を受託する場合、ここが腕の見せどころとなる場面が今後どんどん増えていくでしょう。
最近は動画フォーマットへの拡大という点が先進的に見えるかもしれませんが、大事なのはその中身であり、どんなコンテンツをどういうフォーマットで、どのテクノロジーを利用して伝えられるようにするか、という戦略あるいは戦術が非常に重要だと思います。
したがって、運用者やマーケターがいかにそのテクノロジーを活用するか(あるいはしないか)が重要になってくると考えます。例えば、手作業で時間をかけるべきクリエイティブと、テクノロジーで量産するクリエイティブ
の目的、質、作り方、配信先をいかに戦略的に決定していくかという点ではまだまだスタンダードがなく、これから発展する領域だと思います。
今は、テクノロジーを使わないという選択肢は非常に簡単です。しかし、今後その方法では、時代の流れに取り残されていくかもしれません。この点をマネジメントするには、運用者視点、クリエイティブ視点に加え、テクノロジー視点が求められ、それは思った以上に簡単なことではないでしょう。だからこそ、これを実現できる運用者の価値は、非常に高くなるのではないでしょうか。
きちんと、A/Bテストやっていますか?
これまで、クリエイティブが重要という話をしてきました。しかしただ「いいもの」を大量に作ればいいのかというと、そういうわけではありません。急速に1to1マーケティングに近づく昨今、「いいもの」という机上の理論は通用しません。机上の理論をパフォーマンスに繋げるため必要になるのが、「A/Bテスト」です。
ここで、「A/Bテスト」の目的を整理しておきましょう。A/Bテストの目的は以下2点と考えます。
1.最悪のクリエイティブを避ける取り組みのため
上述の通り、クリエイティブ分野においてはいいものが理論で導き出しづらいため、“最高”のクリエイティブを探すのは不可能に近いといえます。できることは、常にわかる範囲での最悪のクリエイティブを避けていくことです。
これを繰り返し続けることで、“最高”のクリエイティブに近づいて行くはずです。そのために、A/Bテストできちんとクリエイティブを評価し、ナレッジを蓄積していく必要があります。その労力は非常に大変なものにはなりますが、大変だからこそ、きちんとやれば競合他社との差が生まれてくるのです。
A/Bテストで何がよかったか・悪かったかをあぶり出すことは非常に重要なのであり、この取り組みは永続的に続けざるを得ません。
2.媒体の仕組みに任せすぎて、コントロール不能に陥らないため
媒体はクリエイティブの最適化を重要視し、様々な「小さな労力でクリエイティブを最適化できる」仕組みを用意しています。例えば複数の広告を1つの広告グループに設定しておけば、勝手に最適なローテーションを実行し、良いものにインプレッションを割り当ててくれるという優れものです。
この機能は確かに有効です。しかしその悪影響として、何が良いと評価されたのか、わからなくなると言うことは考えておくべきでしょう。例えて言うなら、船に乗って、漕ぐよりも楽なので、なんとなく流れに身を任せていたら、漂流して、どこにいるかわからなくなってしまう、と言う状態に近いかもしれません。
このような状態に陥ると、次の施策が打てなくなります。媒体が変わった時、媒体の機能あるいはアルゴリズムが急に変わった時、市況が変わった時、どうすればよいかそこから探し始めることになります。
媒体の機能は決して否定しません。その機能も努力の結晶ですし、何よりも活用の価値があります。ですが、その中においても適切に抗って、データを分析し、ナレッジのあぶり出しをしておく必要があるのです。このため、A/Bテストは欠かせません。
前述の通り、クリエイティブは商品やサービスの一部です。その商品やサービスの一部のクオリティを、第三者に預けてばかりの状態は、広告主にとって良いことではありません。
統計学を少し理解して、正しいA/Bテストを
クリエイティブは重要、A/Bテストも必要ということを説明させて頂きました。ここでA/Bテストの進め方について少し私の考え方をご紹介できればと思います。
統計学なき、A/Bテストは存在しない、と言ったら言い過ぎでしょうか。
しかし、私はA/Bテストを行う際、統計学を理解することは非常に重要と考えています。こういってA/Bテストのハードルを上げてしまうことも避けたいのですが、重要なことなので記載します。(なお、私は統計学の専門家ではありません。独学で統計学を学んでいるため、独自の解釈や説明がある場合がありますのでご注意ください。正しく理解されたい方は専門書等をご参照ください。)
もちろん、完全に学問として理解すべきとは決して思っていません。その概要をつかむだけで良いのです。統計学を2割理解するイメージでいいのです。ここでは非常にコンパクトに、そのエッセンスを紹介できればと思います。
その前に、なぜ統計学を理解する必要があるかの理由を説明します。
統計(データ)は嘘をつく
「統計(データ)は嘘をつく」とは、なにも数字(データ)が騙してくるわけではありません。実際に見える数字、なんとなく感じる数字、この2つの数字の意味に乖離が生まれるということ、つまり正確には見る人が騙されにいっているということです。
数字は、視覚的情報ではありません。だから見えているものを、右脳が直感したことをそのまま理解につなげてはいけないのです。例えば、広告Aのクリック率が10%、広告Bが5%だと「差がある」と直感してしまいます。これが視覚的、右脳的解釈であり、危険なのです。実際は、インプレッションが20でクリックが2の場合と、同じインプレッションでクリックが1の場合の比較かもしれないのです。当然こんな数字だと見落とさないと思いますが、もう少し多い、それらしいボリュームだと、本当に頭のいい人ですら騙されてしまうのです。
嘘に騙されてミスリードしてはいけない
目に見える数字に騙されにいった結果、ミスリードしてしまうということが起きます。誤った情報に誤った情報を重ねると、もう収集がつきません。漂流した船でいうと、西だと思って東に行き、南だと思って北にいくと例えられます。もはや、遭難です。
そうやって遭難しないためのコンパスに相当するのが、統計学の「統計有意差検定」です。「統計有意差検定」とは、その差が誤差か否(=差がある)かを統計学的に(数学的に)評価する手法です。この方法を使うと、表面的なデータの嘘をより適切に見破ることが可能です。
ただ、「統計有意差検定」の計算式を覚えれば終わりかというとそうではなく、分析前にデータが分析できる状態になっているかどうかを確認することも欠かせません。
統計用語で言うと「正規分布」しているかどうかです。この用語の概要理解は難しくないので、少しご辛抱ください。「正規分布」とは、統計学の基本となる考え方であり、「データが集まれば、こういうバラツキが生まれる」という汎用的なグラフのことです。
実際に見てみましょう。正規分布とは、図1のような釣り鐘状のグラフです。自然摂理的に、データが多く集まると正規分布するということが、統計学が処理できる前提にあります。例えば、身長のデータを取る時に、100人、200人のデータを蓄積し、ヒストグラム(例えば、5cmごとに当てはまるところにチェックしてそれぞれのレンジの合計数をグラフにするなど)にしていくと、どんどんこの釣り鐘状に近づいていくという考えです。この辺りはなんとなくイメージいただけるのではないでしょうか。
しかし、実は私はここで既に嘘をついています。上述の身長データは正規分布しないかもしれないのです。その理由はわかりますでしょうか。
図1:正規分布のグラフ(引用元:http://kabblog.net/1623/)
説明しましょう。例えば、本当に無作為に身長の分布をとってみると、どうなるでしょうか?おそらく綺麗な釣り鐘状にはならないのです。2つの山ができるでしょう。(図2参照)
その理由は、性別の存在です。男性と女性で明らかに差があるので、この2つのデータを混ぜてしまうと、図2のようにラクダのコブのような山ができ、綺麗な正規分布にならないのです。こういう状態で、検定をかけてしまうと、正しい評価になりません。
図2:2つ山がある分布のイメージ
運用型広告でいうと、異なるターゲットを悪意なく集計してしまうことで、この状態が起きることがあります。そうすると、いくら統計的有意差分析を行っても、その差は信頼できないものとなってしまいます。もちろん完全排除は難しいですが、できる限りここに配慮する必要があります。
ありがちなところでいうと、「同じ広告同士のテストだから別の広告グループ、あるいは別の媒体と合算して集計する」というのは、ともするとやりたくなる方法ですが、非常に注意が必要なのです。もちろん傾向値を見たり、ヒントを探したりするために集計して差を見ることも必要ですし、完全なる正規分布を追い求めてばかりいて、何もできないのもよくありません。ただ、少し立ち止まって考えればわかる誤差は、外していかなければならないのです。これが2割理解しようといった意味です。
以上、今回は、クリエイティブの重要性から、そのためのA/Bテストの重要性、そしてそのための統計学の重要性を簡単に説明させていただきました。
もちろん、A/Bテストを行う中ではこれ以外にも様々な課題があります。そういったことに対して私はテクノロジーの側面から向き合っていきたいと考えていますし、これをお読みの運用者の皆様は、運用の側面から向き合われていくことと思います。
その先、皆様とどこかで合流し、その課題向き合いを、ご一緒できることを楽しみにしております。