※本記事は、Criteo株式会社 国内セールス部門統括 コマーシャルディレクター 小野良一さんよりご寄稿頂きました。
目次
Eコマース企業と広告企業の境目は薄れていく
消費者と企業の接点としての広告ー。それはテレビや新聞、インターネットなど消費者が触れるメディアとともに進化を遂げてきました。平成から新たな元号を迎える2019年、広告の主戦場であるインターネットに焦点を当て、Criteoの「アドテクノロジー2019」のレポートにおける考察を踏まえてこれからの広告についてお話したいと思います。
インターネットで「バナー広告」が世界で初めてお目見えしたのは1994年。米国の通信会社であるAT&Tなどがキャンペーンを展開したことが広告の歴史に刻まれています。それから25年が経った今日、あらためて振り返ってみると、広告の世界では絶えず新陳代謝が起こり、加速度的に進化を遂げてきたことがわかります。
アドテクノロジー(アドテク)と言われる多彩なデバイスに対応するインターネット広告を支える技術が、その精度を高めていくことによって、広告主は新たな顧客とつながるチャンスを広げることができるようになりました。
チャンスが広がったのは広告主だけではありません。Eコマース大手のアリババが時に広告企業と称されることがありますが、その理由は、収益の6割が広告収益だからです。Amazonの広告ビジネスも飛躍的に成長しており、J.P. Morganによると2019年の成長率は55%になると予測されています。このように、Eコマース企業が広告事業に力を入れる傾向は今後、目立ってくると考えられます。
(参考記事:Is There Anything It Can’t Do? Amazon’s Ad Business to Grow at 55% a Year)
一方で、プライバシーの保護と透明性に対する社会的な注目が高まってきており、セキュリティが複雑に絡み合うアドテクは逆風にさらされている業界とも言えます。弊社でも、GDPRやデータの扱いについてお客様やメディアからも問い合わせを受けることがあります。「氏名や住所、電話番号、年齢、性別、eメールアドレスといったセンシティブな個人情報を持たずして、一人一人の興味関心に合わせた精度の高い広告を表示する」とお答えしているのですが、その仕組みの裏側は企業のノウハウとあってつまびらかにお伝えすることができないので、その説明にはいつも悩まされます。
さて、広告の手法も、ここ数年で随分変わりました。消費者のニーズを深く理解して、商品やコンテンツに関するストーリーを伝えることに重きをおいた広告展開は今後ますます増えてくるでしょう。「商品を売り込む」ためではなく、消費者を楽しませ、価値ある情報を提供し、自分ごと化してもらえるような広告が、より消費者に受け容れられる時代になり、こうした潮流がアドテクの進化・発展に貢献していくことになりそうです。消費者の購買パターンを捉え、アプローチがダイレクトに響くEコマース企業の動向は今後も注目です。
消費者に“煩わしさ”を感じさせない広告の“おもてなし”に勝機
ポップアップ広告が普及した90年代以降は、1998年にGoogle、2004年にはFacebookというネットの巨人が台頭し、またたく間にインターネットサービスが人々の暮らしの中に浸透していきました。情報でつながる社会が育つにつれ、消費者が広告に触れる機会も加速度的に増えました。
閲覧者の区別なく表示されるバナー広告に煩わしさを覚えつつも、「無料=広告が表示される」ことが広く浸透してきたと言えます。インターネット上での行動履歴は何かしら数値で効果測定ができることから “アドテクの精度”が求められ、つきつめるとアドテク業界は「パーソナライゼーション」に向かうことになるのです。これは、アドテク業界が追い続ける永遠のテーマとも言えます。
来店のお出迎えからお見送りまで気持ちよくお買い物を楽しんでもらうような、店頭ならではの“おもてなし”の舞台をインターネットやデバイスに置き換えるとすると、どんなコミュニケーションをデザインすればいいのか。これを考えていくことで、広告の“煩わしさ”が解消され、アドテクらしい“おもてなし”が醸成されていくのだと思います。
いまやインターネット人口は35億人を超えており、広告支出の40.2%がデジタル広告に費やされているという報告があります。こうした背景において、現役のマーケターが考える「パーソナライゼーション」について紐解くべく、Criteoでは、調査会社のEuromonitor Internationalの協力を得て、アジア太平洋地域(インド、台湾、オーストラリア、ベトナム、インドネシア、日本、韓国)のマーケター517人を対象にアンケート調査を実施しました。その結果から考察を紹介したいと思います。
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当社の調べによれば、アジア太平洋地域では2020年までに24億人がインターネットを利用するようになり、その47%以上が2台以上のデバイスを持つことになることが予測されます。家ではパソコン、外出時はスマホといった具合に、買い物客が使い分けるすべてのデバイスを、横断的かつ包囲的にリーチするチャネルとして捉えれば、アジア太平洋地域のマーケターが近い将来、予算の9割近く(87%)をデジタル広告キャンペーンに投じることになるだろうと見込むのは、自然なことと言えます。
日本を含むアジア太平洋地域における2014年から2017年の広告支出額の傾向を見ると、2017年にオンライン広告が広告支出チャネルのトップに躍り出ました。テレビは依然として重要な広告チャネルではあるものの、成長は緩やかです。今後もデジタルマーケティングは消費者とのタッチポイントになるデバイスが増えるとともに重要性を増すでしょう。
2017年のマーケティング予算配分を見ると、「有料ディスプレイ広告」が17%と最も多く、そのうち38%が一度はサイトに訪れたことのある消費者に絞ってリーチする「リターゲティング」が目的であったことがわかりました。ソーシャルメディア広告への支出が伸び、テレビや紙媒体、ラジオを含む従来型のマーケティングと並ぶ13%を占めました。
この他、コンテンツマーケティング、SEO、Eメールマーケティング、検索広告、アフィリエイトマーケティング、ランディングページなど、マーケティングの手段は多岐に渡ります。弊社でも、「認知」、「検討」、「コンバージョン」というカスタマージャーニーの各フェーズに見合ったゴール設定とソリューションを提案しています。
例を挙げると、「認知」のフェーズであれば、どれだけ多くのターゲット消費者にリーチできて、そこからどれだけの閲覧数が得られるか。「検討」のフェーズになると、実際に訪問者した人に対するアプローチが必要です。そして、「コンバージョン」のフェーズでは、どういう経路が売り上げに結びつきやすいかなどを分析し、精度に反映させていきます。こうした各フェーズにおいて最大化を図っていくのです。
ここでは、経営の観点から投資対効果の評価になりやすい「コンバージョン」、そして、コンバージョンの質を上げる「リエンゲージメント」について触れたいと思います。「コンバージョン=購入」の小売業者に焦点をあてていきます。
データ孤立化を解消しキャンペーンを統合していく
コンバージョンは、即座に発生することもあれば、数ヵ月もの時間を要することもあります。そのため、コンバージョンに至る経路を完全に把握することは難しいと言われます。Webサイトへのトラフィックの測定とは異なり、コンバージョンキャンペーンの成果は、数値だけを見ればいいというものではありません。
上の図が示すように、認知、検討、コンバージョンそれぞれにパフォーマンスを評価する指標があり、どの段階もコンバージョンに貢献するポテンシャルがあるのです。それらの相乗効果による成果は、どの手法がベストなROIをもたらしたのかを計測するのはなかなか難しいものです。
こうした現状に対し、アジア太平洋地域のマーケターが、コンバージョンキャンペーンを実施する際に直面する3つの課題が明らかになりました。
1つ目は、様々な手段とソリューションを掛け合わせてキャンペーンを実施しているため、それぞれに提供される断片的なデータを統合するのは限界があること。2つ目に、いくつかのキャンペーンの相互作用は無視できず、明確な投資利益率(ROI)の解析は困難であること。3つ目に、実店舗とオンラインでの買い物客のデータをどう紐づけるか、といった課題です。
アジア太平洋地域では、コンバージョンキャンペーンに利用するチャネルのトップはソーシャルメディアマーケティングで、全体の52%を占めています。また、有料ディスプレイ広告と検索エンジン最適化(SEO)もそれほど差がなく、有料ディスプレイ広告が44%、SEOが43%の割合で選ばれています。
下の図に、コンバージョン測定の指標のトップ10位を挙げています。新規収益、新規訪問者率、新規顧客率といった「新規」が重要視されているものの、唯一絶対のものはないということがお分かりいただけると思います。
どうすればキャンペーンごとに独立したデータを統合できるか、どうすれば精度の高いROIの測定ができるようなキャンペーンを設計できるかー。広告予算の振り分けを最適化するには、分析ありきの設計をすることもプランニングでは必要不可欠と言えます。
スマホを制する者がリエンゲージメントを制する
リエンゲージメントは「コンバージョン」の次の段階であり、すでにブランドや商品に馴染みのある顧客をブランドアドボケイト(熱狂的ファン)やロイヤルカスタマーに転換し得る重要なマーケティング施策です。
今回の調査では、スマホを活用した「アプリリエンゲージメント」と「アプリユーザーの活性化」、そして、「リピート購入」の3つのキャンペーンに絞りました。その結果、効果測定の指標になる「既存顧客への販売率」が60~70%、「新規顧客への販売率」が5~20%であるという回答が得られ、リピーターへの販売によって得られる利益が最大3分の2を占めるブランドも存在することがわかりました。
アジア太平洋地域のアプリユーザーは顧客ロイヤルティが高く、またアプリの利用期間が長ければ長いほど、利益を生む傾向があるため、マーケターにとって消費者とのリエンゲージメントは成功の鍵と言えるわけです。実際に、75%が顧客と再びつながるためのターゲティングキャンペーンを利用していると回答しています。
彼らが直面するリエンゲージメントキャンペーンに関する課題を見ていくと、「アプリエンゲージメント」においては、顧客にリーチできる経路や分析に必要なデータが限られていること、顧客のアプリに対するエンゲージメントが低いことが挙げられました。「アプリユーザの活性化」においては、文字通り、いかに休眠ユーザーを活性化するか、「リピート購入」においては、顧客にリーチする経路やデータが限られていることのほか、CRMとの統合が不完全、などが挙げられました。
このような課題に対して、魅力的な割引オファーをするとか、心をつかむ広告コピーを考えるとか、広告の効果比較テストなどを通じて戦略を練るといったアイデアが挙がりました。例えば、魅力的な割引オファーを実施した成功例として、オンライン旅行代理店のExpedia Japanは、モバイルやデスクトップ向けサイトでは提供されない、アプリユーザー限定の最大40%割引を適用することによって、モバイル閲覧者のアプリダウンロードと利用を活性化することに成功しています。
魅力的な割引オファーの他にも、最適なタイミング・場所で見込み客をターゲティングすること、パーソナライズド広告を提供することがアプリユーザーの活性化には重要であるという回答がありました。リピート購入キャンペーンにおいても同じことが言え、さらにはパーソナライズされた広告の提供も重要視されていることが分かりました。
回答者の69%が、「認知」「検討」「コンバージョン」の各段階でキャンペーンを実施しています。その経験から、各キャンペーン独自のデータの孤立化を解消し、かつ、相互作用、相乗効果を生むようキャンペーンを統合することが、消費者にとっての購買体験の向上につながり、広告主にとってはROIの最大化、社内予算の合理化につながると、彼らは考えているわけです。各段階の顧客に対し、リーチするデバイスの特性を最大限に活かすとともに、ウェブやアプリで展開するあらゆるマーケティング手法において、メッセージングに一貫性を持たせることは非常に重要です。
まずは、消費者との接点となるこうしたインフラが構築できているかの見直しをしてみると、キャンペーンを設計するにあたってのヒントが得られるかもしれません。
ウェブやアプリ、デバイスを使い分ける時代の“おもてなし”を
ここまでの調査で明らかなのは「データの有効活用」に課題があり、これがパーソナライゼーションに欠かせないものであることも分かります。パーソナライズド広告の効果を否定するマーケターはいません。時代の流れから、デジタルマーケティングの市場はますます拡大し、それとともに、パーソナライゼーションの技術も一層洗練されていくはずです。
実際に、億単位の会員数を抱えるEコマースやSNS大手は、膨大なデータを活用し、買い物客1人ひとりの各タッチポイントに合わせて、広告をパーソナライズすることに成功しています。Criteoも、「オープンなインターネット」を掲げている通り、会員を抱え込める大手にしかできないと考えられてきたデータの規模かつ、個人情報を持たずとも個人に合わせたターゲティングを可能にし、新規やポテンシャル顧客にリーチできるサービスを提供しています。
世の中には数多くの選択肢があるので、自社のアセットを補完するデータソリューションを活用して、顧客がウェブやアプリ、デバイスを使い分ける時代に即したオンラインでの “おもてなし”をデザインしてみてはいかがでしょうか。