前編ではBIツールそれぞれの特徴と、導入する際に気を付けたいポイントを紹介した。しかし、いざ導入してはみたものの、なかなか定着せずに結局活用しきれていないといった話もちらほらと耳にする。
前編:
せっかく高い目的意識を持ってBIツールを導入するのだから、ぜひ組織に根付かせて積極活用してきたいもの。後編となる同記事では、数多くの企業のBIツール導入支援に携わってきた弊社CEO 杉原監修のもと、BIツール導入によるメリットと、組織に定着させるためのコツ、そして、よりプロアクティブに活用するために個々人が身につけておくべきスキルについて紹介したい。
監修:アタラ合同会社 CEO 杉原剛
文:アタラ合同会社 マーケティングチーム 井谷麻矢可
目次
BIツールを導入するとどんないいことがある?
BIツールを導入する利点は細かいものも含めば無数にあるが、その中でも以下の2つは、特にBIツールだからこそ実現できる・BIツール特有の大きなメリットだと言える。
メリット1:データの属人化を防げる
例えばエクセルでレポートを作成するとなると、単純な計算式や貼り付けのミス、担当者ごとに使用する指標や関数が異なる、人が忖度する余地があるなどで、同じローデータから集計しても結果として出てくる数字は担当者ごとに異なるといった事態が往々にしてある。
BIツールならばローデータがそのまま可視化されるため、データのありのままの姿が画面上に見えてくる。全員が同じデータを共通言語として共有・分析できるのは、BIツールの大きなメリットのひとつだ。
メリット2:データ間のシナジーを簡単に生み出せる
マーケティングアクションに関わるデータは、単一指標だけで見ても意味を成さない場合が多い。例えばあるキャンペーンにおいてGoogle 広告経由の売上が15%伸びたとして、「15%増」という数字だけを見ると良いことのように思えるが、市場や競合が同時期に30%伸びていたら、それはまったく良いことではなくなる。
このように、ある状況やイベント、情報、データを関連したものと掛け合わせ、一緒に見ることで初めて自らの立ち位置を明確化できるのだが、BIツールを使えばとても簡単にこれらデータの掛け合わせが行える。BIツールは特に「目標比」「過去比」「市場/競合比」を見るのに強いとされている。
BIツール定着化のためのポイント
「BIツールのメリットは理解できるけど、組織に根付かず活用しきれなかった」という事態を防ぐためには、導入段階から定着化を考えておく必要がある。定着化のためのポイントを、以下に挙げてみた。
ポイント1:まずは味方を増やそう
とにもかくにも、まずは組織内で「この手のツールが好き!」という人間を一人でも多く見つけ出し、BIツール導入・活用に協力してくれる味方を増やすことが先決である。その際、現場からボトムアップ型で推進するだけでなく経営者層にも協力を仰ぎ、トップダウン型で普及させていくことも定着化を促進するひとつの手だろう。
ポイント2:ワークフローやコミュニケーションフローに組み込む
どのように活用すれば良いかをメンバーに明示することも、定着化の重要なポイントだ。利用方法を各々の裁量に任せていると、「全社的に導入したにもかかわらず、結局BIツールに興味のある一部の人しか活用していない」という事態になりえる。
そうした事態を防ぐためのおすすめの方法は、ワークフローやコミュニケーションフローに可視化されたカードを組み込んでしまうことだ。例えば、エクセルレポートでの週次報告や月次報告をBIツールに切り替える、会議で毎回話し合うトピックスは可視化してモニタリングすることをルール化するなどの方法がある。
ちなみに弊社では、Unyoo.jpの投稿数やページビュー数などのデータを可視化し、編集会議の際にはそれを確認しながら今後の編集方針を決定している。
ただBIツールでダッシュボード化しただけでは「ふ~ん」と見過ごされてしまうところだが、一度ワークフローの中に組み込んでしまえば、確実に必要性が感じられるためしっかりと定着する、ということを、筆者自身も身をもって体感しているところだ。
ポイント3:データの民主化
加えて定着化に必要不可欠なのが、データの民主化を推進することだ。データの民主化とは、一部の人や部署にしかわからないデータをなくし、皆が共有可能な状態にすることを指す。
先ほど、可視化の大きなメリットとして「データの掛け合わせによるデータ間のシナジー醸成」を挙げたが、共有可能なデータが増えれば増えるほど、このシナジーは生まれやすくなる。しかし企業規模が大きくなればなるほど、データの民主化を阻む要因も増える。
これらの要因によりデータの欠損ができるとデータ間のシナジーが生まれにくく、BIツールで可視化できないばかりか、企業のデータ資産が機能不全を起こしてしまう。
対策としては、ここでも経営者層の協力を仰いで「データの見える化推進」を人事評価の基準に組み込んでもらったり、データの例外処理をなくす、ローデータを柔軟に活用できるシステム・ファイル・体制・ポリシーを作るなどの方法がある。
BIツールを駆使するために身につけるべきスキル
BIツールを定着させたあかつきには、組織のメンバーにガンガン使いこなしてもらいたいもの。またBIツール導入企業が増える中、使いこなせる人材のニーズは今後高まり続けるだろう。ではBIツールを使いこなすために、マーケター個々人に求められるスキル、身につけておくと今後役立つ能力とはどんなものだろうか。
データの正規化スキル
マーケティングデータは特に正規化の問題が生じやすい。Google、Facebookなど媒体別に単体で分析する場合もそうだが、横断的に評価する際に正規化問題でつまずくことが多々ある。
例えばGoogle 広告やYahoo!スポンサードサーチにはインプレッションシェア指標があるが、Facebook広告にはない。その場合、どの指標とどの指標を合わせるのかをきちんと定義づけしておかないと、きちんとした評価が下せない。今後も新しい指標が出てくる中、データを正規化できる人材は強い。
※2018年12月時点の対照表
RDB、SQLの基本的な概念の理解と操作スキル
RDB(Relational Database:関係データベース)、SQLに関してはマーケターに開発者レベルの知識が求められるわけではなく、基本的な概念を理解し、データベースを使ったことがある、SQLでデータを引っ張ってきたことがある程度の知識があれば十分だ。しかし基本的な概念や操作方法をまったく理解していないと、ETL(データ抽出や加工・入出力)機能を使うのに苦労する。
KPI・KGIの設計
KPI(組織・担当者目標)、KGI(会社目標)から重要成功要因(Critical Success Factor)となる指標を探っていくマネジメント法は、カード化したデータを簡単にドリルダウンさせることができるBIツールが得意とする手法でもある。KPI・KGIの設計ができると、BIツールの構築が一気にやりやすくなる。これは決して経営者層だけに求められるスキルではなく、現場でも必要な能力だ。
現状データに満足しないチャレンジ精神・柔軟性
例えばGoogle 広告などの広告指標のようにAPI接続で取得できるものもあれば、Big Queryを噛ませる必要のあるもの、CSVやエクセルで手動ダウンロードする必要があるものなど、データの取得方法には様々な種類があり、仕様によっては一筋縄ではいかない場合も多い。
しかし、取得困難なデータがビジネスを評価する上で重要だった場合、すぐに諦めてしまうのはもったいない。例えば、RPA(ロボットを使ったプロセスのオートメーション)を使ってデータ化したものを自動でアップロードしたり、「IFTTT(イフト:IF This Then That)」のような、複数のウェブサービスを容易に連携させられるツールを使うなど、あらゆる可能性を模索してデータを取得・連携し、自分で新たに指標を作るくらいのチャレンジ精神や柔軟性を持つことが重要だ。
BIツール導入に適切なタイミングはない
BIツールの導入から定着、活用に必要なスキルまでを整理してきたが、これらがすべて揃ってからでないとBIツールは導入できないのかというと、そんなことはまったくない。むしろ、すべての条件が完璧に揃うのを待っていたらいつまでたってもBIツールが導入できず、可視化はどんどん遠ざかっていくだろう。
現実的には、BIツール導入プロジェクトが立ち上がることでデータ整備の現状や課題、欠損が浮き彫りになり、実際にやらなければならないことがわかってくるパターンが圧倒的に多い。
BIツールはスパイラル型にブラッシュアップされていくもの。まずは可視化できる部分から着手し、とにかく進めてみる。そうして試行錯誤しながら自社の環境や条件に最適化していくことが、BIツール導入・定着化の最大のポイントといえるかもしれない。
以下の記事では、BIツールを導入・活用している3社の事例についてレポートしている。3社3様のユニークな使い方が紹介されているので、ぜひ参考にしていただきたい。