Googleにおけるユーザーの検索履歴をYouTube動画広告でターゲティングとして活用できるカスタムインテントオーディエンスや、Call-to-Action(CTA)をカスタマイズでき、入札戦略は目標コンバージョン単価が自動的に設定されるTrueViewアクションキャンペーンなど、ダイレクトレスポンスに活用しやすい動画広告商品が2018年に入って次々とリリースされました。
これに伴い、ダイレクトレスポンスを目的とした動画キャンペーンの成功事例も徐々に公開されてきています。例えば、オンライン高級アウトレットをグローバルに展開するYooxは、TrueViewアクションキャンペーンで数千件のコンバージョンを獲得、数十万ドルの売り上げを達成したとのことです。
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そこで今回、動画マーケティング、動画メディアの2つのサービスを展開している株式会社Viibarの鈴木雄翔さんに、KPIの設定含めた動画キャンペーンの設計ポイントや、ダイレクトレスポンスを目的とした動画キャンペーンの成功事例について株式会社Viibar マーケティング事業部 アドオペレーションズユニットマネージャーの 鈴木雄翔さんにお話を伺いました。
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話し手:
株式会社Viibar
マーケティング事業部 アドオペレーションズユニットマネージャー 鈴木雄翔
聞き手:アタラ合同会社 高瀬優
※このインタビューは2018年8月に実施されました。
目次
動画でしか実現できないコミュニケーションを
高瀬:鈴木さんの自己紹介と、御社の事業内容をご説明ください。
鈴木:株式会社Viibar マーケティング事業部アドオペレーションズユニットでマネージャーをしている鈴木と申します。現在3社目で、これまでネット専業の広告代理店に在籍しており、主にダイレクトレスポンス目的の広告運用を行ってきました。動画広告の可能性を追求すべくViibarへ昨年ジョインし、経験者として広告運用組織の立ち上げを行ってきました。
Viibarは2013年にスタートし、「動画の世界を変える。動画で世界を変える。」をミッションに掲げ、動画マーケティング、動画メディアの2つのサービスを展開しています。動画マーケティングでは、ブランドが抱えるビジネス課題を解決するために、動画を軸としたソリューションを戦略立案から制作、広告配信から検証までワンストップで提供しています。
動画メディアでは、自社メディア「bouncy(バウンシー)」の運営や、放送局・ネット企業・新聞社などパートナーの動画メディアを開発・運営しています。また、クリエイティブ制作業務を効率化する「Vync」というプロダクトも展開しています。
高瀬:広告運用組織立ち上げのため入社されたとのことですが、現在広告運用担当は何名いらっしゃいますか?
鈴木:現在7名です。(2018年8月時点)
高瀬:鈴木さんが入られてから順調に運用者の数が増えていますね。
鈴木:紆余曲折ありつつも、なんとか拡大できています。
高瀬:以前は動画に特化せずに、運用型広告全般を運用されていたと思うのですが、そこから動画広告の可能性を追求されるようになったのはなぜでしょうか?
鈴木:動画でもバナー広告でも言える話ですが、やはりクリエイティブによってパフォーマンスが大きく変わることを身に染みて感じてきました。クリエイティブ制作がより近い環境に身を置いて、より早い改善サイクルで広告運用がしたいという気持ちが大きかったですね。また、クリエイティブに対しての見識を自分なりに深めたかったというのもあります。
高瀬:クリエイティブといってもバナーもありますが、その中でも特に動画に可能性を感じられたということでしょうか?
鈴木:はい、動画でしか実現できないコミュニケーションや目指せる成果があることがわかっていたからです。バナー広告と比較しても、コンバージョンひとつひとつの価値も動画によって高められると考えています。また、これまでWeb領域でしか広告運用をしていなかったので、マスやOOHの広告にも携わりたかったという思いもありました。運用型広告の知識を活かして、どうマルチチャネルで施策設計できるか、どんな価値や成果を出せるのかチャレンジしてみたかったのが大きいです。
高瀬:どうしても運用型広告だと、Webやアプリの世界の中では色々できても、そこから外に出てしまったらできないことが多いのも事実ですよね。御社のアドオペレーションズユニットは、動画以外に検索やディスプレイ広告などもやっていらっしゃるのですか?
鈴木:はい、動画を軸にしていますが、検索やディスプレイも含めフルファネルで対応しています。動画広告はマーケティングや広告における一手段でしかないですし、動画視聴RLSAなど検索と絡められる施策もありますし。
高瀬:とはいえ、クライアントさんから依頼があるときの入り口は動画でしょうか?
鈴木:基本は動画ですが、やはり動画だけでマーケティングコミュニケーションの設計は難しいので、他と絡めて全体最適化を目指すべきだと考えています。ですので、動画だけに留めることはせず、可能性があれば施策を広げていく姿勢で臨んでいます。
高瀬:動画広告だけでやれることも増えてきてはいるものの、それだけでユーザーとのコミュニケーションが完結することは多くないですよね。入口は動画ですが、結果的にフルファネルで施策を実施するケースは多いですか?
鈴木:まだ多くはないですが、引き合いは増えています。立ち上げ当初はリソース面で難しかったですが、メンバーが増えて幅広く対応できるようにもなってきていますね。
高瀬:クライアントとしてもワンストップで見てもらえる安心感があると思いますし、効率的に進められそうですね。
鈴木:深く入り込んでクライアントと付き合えたほうが色々なデータをいただけますし、よりビジネスに突っ込んだ関係性を築けます。社内のストラテジックプランナーやクリエイティブ組織の人間とも、メディアプランニングや広告運用に携わる人間として連携し、クリエイティブ企画にも入り込んでいます。
成果を可視化しネクストアクションに繋げる
高瀬:マクロミルとデジタルインファクトによる動画広告市場の動向に関する業界アンケート調査によれば、動画広告を有効活用するうえで重視すべきKPIは「視聴回数」という回答が最も多く全体の48.3%、これに「視聴者数(リーチ)」が42.0%と続き、「クリック」や「コンバージョン」を大きく上回るとのことです。
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一方で、広告プラットフォームのプロダクトアップデートにより、商品の購入やサービス利用者の獲得を目的としたキャンペーンにおいても動画を活用しやすい環境が整いつつあると思うのですが、ダイレクトレスポンス目的で動画広告を運用されるケースは増えてきているでしょうか?
鈴木:はい、動画にダイレクトレスポンス目的の要素を求められ、期待されることが多くなってきています。当初、広告媒体やリサーチ会社と連携したブランドリフト調査を指標化していましたが、その結果を基にビジネスへの貢献度をクライアントに伝えることは難しく、なかなか次のアクションへの意思決定に繋げられないという課題がありました。クライアントとしても、動画広告接触による成果指標アクションを定量的に証明できて、ビジネスに直結する施策を望まれるケースが増えていますね。
高瀬:次のアクションに繋げることが難しいというのは非常に共感できます。実際にユーザーとしてYouTubeを利用した際に、全く同じTrueViewインストリーム広告が1日3回以上、2週間配信され続けたことがあって、これだけ同じ広告を見れば広告想起やブランド認知がリフトするのは当然だと感じました。
鈴木:生活者はWebやアプリだけでなくマスやOOHでも広告に触れる機会はあるので、例えばブランドリフト調査を実施した同時期に競合がどういったマーケティングコミュニケーションをしているかによっても結果にバイアスがかかってしまいますね。
高瀬:こういった課題がある中で、御社ではどのようにして成果を可視化しネクストアクションに繋げることを心掛けているのでしょうか?
鈴木:やはり視聴回数やリーチといった指標を求められることは多いですが、そこはくみ取りつつも、本来の目的をヒアリングしたうえでKPIとして設定すべき指標は何なのか?を突き詰めて設計します。例えば、ブランド名のサーチリフト、弊社設計・制作のうえでのLP内アクションやコンバージョンを成果指標とします。クリエイティブに関しても成果を可視化できる設計で、課題解決を目指してどう検証サイクルを組んで、いかにビジネス貢献に繋げられるかをテーマにしています。
平均CPCが高い業界での成功事例
高瀬:Googleにおけるユーザーの検索履歴をYouTube動画広告でターゲティングとして活用できるカスタムインテントオーディエンスや、Call-to-Action(CTA)をカスタマイズでき入札戦略は目標コンバージョン単価が自動的に設定されるTrueViewアクションキャンペーンなど、ダイレクトレスポンスに活用しやすい広告商品も充実してきています。
例えば、オンライン高級アウトレットをグローバルに展開するYooxは、TrueViewアクションキャンペーンで数千件のコンバージョンを獲得、数十万ドルの売り上げを達成したとのことです。御社が関わられた案件で、ダイレクトレスポンスの成功事例はありますか?
鈴木:もっとも成功例が多くパフォーマンスが高いのは、YouTube動画広告のTrueViewアクションキャンペーンとカスタムインテントオーディエンスを利用した広告施策です。主に顕在層であろうユーザーの過去7日間のGoogle検索クエリを指定し、その検索クエリのジャンルやユーザーの課題に合わせた動画広告を制作してアプローチする方法です。結果的にクリックスルーコンバージョンベースでも優れたパフォーマンスとなりました。
高瀬:クリックスルーでしっかりとパフォーマンスが出せるのは素晴らしいですね。
鈴木:そもそもGoogle 広告の動画キャンペーンでは、現在のレポート仕様上、「コンバージョン」データはクリックスルーだけでなく、視聴 (30秒以上の動画視聴もしくは30秒未満の動画は完全視聴) スルーも含んでいます。そのためGoogle 広告のレポート上で切り分けはできないのですが、Googleアナリティクスのマルチチャネルレポートなどで見てもしっかりと貢献していることがわかりました。
※2018年10月より、TrueViewアクションキャンペーンにおいて動画広告が10秒間以上視聴されてから3日以内にコンバージョンが発生すると、ウェブサイトコンバージョンとしてカウントされるようになりました。
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高瀬:ユーザーの検索クエリをジャンルごとに分けて、それに応じたクリエイティブを制作するというのはYooxの事例と同じです。それが綺麗にはまったかたちですね。
鈴木:クリエイティブに関しては、たとえば冒頭やテキスト訴求部分を変えるだけでも成果の違いが見られます。配信しながら各クリエイティブのいい部分を反映して、次の検証に繋げることができます。
高瀬:ちなみにどういった業界で成功事例は多いでしょうか?
鈴木:検索広告のCPCが高騰していて、そもそもCPAが高い業界や商材で特に価値を高く感じていただけていますね。例えば、金融や美容関連などでしょうか。
高瀬:CPAが多少高くなっても許容できる業界では、検索広告のCPCは高騰しているケースが多いですよね。そこに対して検索広告で真っ向勝負するのではなく、YouTube動画広告のTrueViewアクションキャンペーンとカスタムインテントオーディエンスでアプローチするのはスマートですね。やはりYouTube動画広告を中心にキャンペーンを展開するケースがほとんどでしょうか?
鈴木:はい。元々弊社がYouTube広告向けの動画を比較的多く制作していたこともあり、YouTubeが中心ですね。ですが、YouTube動画広告で顕在層をターゲットにダイレクトレスポンス目的の施策を実施することで、色々な気付きやデータが得られます。勝ちパターンも絞り込めるので、そのうえでFacebookやストーリーズ含めたInstagram、YDN、Twitterなどに横展開していくというやり方が多いです。
動画がユーザーに与えるインパクトの大きさ
高瀬:クリエイティブについてもお伺いします。ブランディングとダイレクトレスポンスではクリエイティブの方向性も違ってくると思いますが、ダイレクトレスポンス向けのクリエイティブを制作するうえでのポイントがあれば教えてください。
鈴木:カスタムインテントオーディエンスにフォーカスして話をすると、顕在層の方に届ける前提で、インフォマーシャル寄りな動画のパフォーマンスが良い傾向にあります。一方で、インフォマーシャルとはいっても冗長な内容ではユーザーも飽きてしまうようで、動きやアクションを盛り込んで、聴覚的にも楽しんでもらえるようなクリエイティブになるよう工夫しています。
あっという間に見終えてしまうような展開構成やスピード感も大事です。実利訴求やハウツーなども、動画でフローを表すことで難しさを払拭することができますね。
高瀬:なるほど。フリークエンシーに関してはいかがでしょうか?
鈴木:動画はバナーよりもユーザーに与えるインパクトがいい意味でも悪い意味でも大きいです。悪い意味での例をあげれば、同じクリエイティブの過剰な接触による広告忌避はバナーよりも大きくなってしまいます。そのため、フリークエンシーのコントロールは非常に大事で、1つの動画広告が集中して配信されないように、そもそも1つのクリエイティブで展開することは少なく、通常1ターゲティングあたり2つ以上のクリエイティブで広告配信しています。
高瀬:ブランディング目的の施策についてもフリークエンシーの考え方は同じでしょうか?
鈴木:目的がブランディングの場合でも、ソーシャルリスニングなどで反応も確かめつつ、フリークエンシーが過剰にならないようにすごくセンシティブに設計しています。また、クリエイティブ制作前に定性調査としてアンケートを実施し、クリエイティブ企画に活かすこともしています。質問内容は、動画を視聴した際の印象や商品の特徴について理解できたかどうか、などです。
高瀬:事前のアンケート結果をクリエイティブ制作に活かすことができれば、広告配信時にユーザーにネガティブな印象を与えるリスクも軽減できますね。
店舗での体験価値を伝える動画が有効
高瀬:来店コンバージョンを目的とした動画広告の事例があれば教えてください。
鈴木:YouTube動画広告を視聴した人が、Googleマイビジネスに登録した店舗に来店すると、来店コンバージョンとして計測が可能です。基本的には各店舗や、店舗の沿線駅の半径指定によるターゲティングを行い、指定地域ごとの来店パフォーマンスの検証や、店舗ごとにどういう商品ジャンルの相性が良いなどの、訴求内容がいいかなどの検証を行います。
高瀬:実際の結果はいかがだったでしょうか?
鈴木:来店レポートを基にしたみなしでのROASで評価いただけています。正確な売上貢献の可視化に関しては技術的に難しくまだまだこれからですが、あるクライアントからはチラシの代替としてデジタルでの成果改善に向けて取り組めていることで価値を感じていただけています。
高瀬:来店を促すクリエイティブというのも、ブランディングやウェブサイトコンバージョンを目的としたクリエイティブとはまた違ったポイントがありそうですね。
鈴木:最初は安易にキャンペーン訴求の動画で訴求していましたが、店舗での体験価値を伝える動画を制作して訴求したところ、こちらの動画の方が来店率が高まったのは意外でした。
高瀬:動画の長さはどのくらいでしょうか?
鈴木:ウェブサイトコンバージョンでも来店目的でも、15~30秒尺くらいが多いです。
高瀬:ウェブサイトコンバージョンだとインフォマーシャルなクリエイティブが有効だと仰っていましたが、それについても15~30秒ぐらいの長さでしょうか?
鈴木:そうですね。カスタムインテントオーディエンスでいうと、そもそも顕在層のユーザー総数が多くないので、多くの場合フリークエンシーが高くなってしまいます。クリエイティブのパターンを複数用意しても、動画が長ければやはりブランド忌避が強まってしまうため、ネガティブな影響を避ける意味でも短尺を意識しています。
短期的な成果と長期的なエンゲージメントの両立
高瀬:クライアントが動画広告を配信したいとなった際に、KPIの設定含めたキャンペーン設計やクリエイティブ制作で行き詰まってしまうケースがあるかと思います。これらの課題を乗り越える方法はあるでしょうか?
鈴木:どういうものを作っていいのかわからないまま、動画制作コストが高いから踏み切れないという方は多いと思います。ですので、まずはバナー広告で訴求のテストを行い、一番パフォーマンスがよかったものや要素を動画広告に組み入れて制作するのがいいでしょうね。
高瀬:バナー広告であれば定常的に行っている施策の中でも試せますね。
鈴木:ダイレクトレスポンスの場合、バナーも動画広告も同様に、しっかりとユーザーを理解し競合社の攻め方も把握したうえで、自社の強みをクリエイティブに反映することが重要です。動画は制作コストが増すからこそ、入念な下準備をした企画が大事です。もちろん、これまで築き上げてきたブランド資産をいかに活かせるかも肝ですね。
高瀬:広告のフォーマットは違えど、訴求ポイントの洗い出しといった根本的な部分は変わらないですよね。KPIの設定含めたキャンペーン設計に関してはいかがでしょうか?
鈴木:基本的に、意思決定に繋げられる定量成果で施策評価ができる設計をすることが重要です。可視化できない施策設計は行わない。また、広告忌避の意味だけでなく動画がユーザーに与えるインパクトは大きいので、マーケティング活動における動画広告の意義をしっかりと定義することが大事です。動画に何を期待するのか、他の施策との連動の中でどういう立ち位置にするのか。
動画広告を、他の広告やWebサイト、店舗があれば店舗と切り離して考えてはいけないと思います。商品がコモディティ化するスピードが早まっていく中、動画によっていかにエンゲージメントの醸成を狙うかなど、ブランド体験まで鑑みた施策設計スキルが運用者に求められていくと思います。
高瀬:仰る通り、ダイレクトレスポンスの視点で短期的に成果を出すだけでなく、長期的な視点でユーザーとのエンゲージメントを醸成するために広告でできることも考え施策を立案・実施していくことが、これからの運用者には求められていくかもしれませんね。本日はどうもありがとうございました!